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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
三章 潜伏勇者編
113/365

30 勇者は騎士たちにスパルタ教育している場合ではなかった…


「――ちょ、騎士様!?」


 エリノアがギョッとしている。

 と、髭の騎士が物干し竿に隊服をかけながら……キョトンと振り返った。


「ん? どうした」

「あの、私の目がおかしいんでしょうか……お預けしたその隊服……なんだか穴がすごく大きくなっているような……」

「ほぉ……お前すごいな、いちいち穴の大きさなど記憶してるのか? ははは」


 すごいすごいとエリノアの髪をぐりぐりまぜてくる髭面騎士に頭を揺らされながら……娘は目を剥く。


「ちょ、おだてても誤魔化されませ……あ! こっちの隊服は洗ったはずなのに……どうして泥だらけなんですか!?」


 よく見れば、干竿の上の隊服にはいくつか土汚れがついているものがあった。エリノアがせっせと洗い、手伝ってくれるという騎士たちに託したものだ。それを発見したエリノアに、騎士はのんびりと言う。


「ああ……確か干す時に何回か落としたか……?」

「そうだったっけ? ま、大丈夫だ、俺たち泥くらい気にしねぇよ」にこり

「あ、洗う意味……」


 騎士たちのペカーっとお日様のような微笑みに……エリノアは――がくっと肩を落とす。……気持ちは……手伝ってくれようという気持ちだけはありがたい、ありがたいのだが……清潔感! ……と、エリノア撃沈。

 しかし、ここで怒ってはいけないとエリノア。


「だってね……どう考えても騎士様たちは褒められて伸びるタイプ(というか、叱られても全然気にしないタイプ……)ですものね……将来の騎士様方のお嫁様のためにも……ここはわたくしめがふんばって最低限の洗濯技術と少々のレディファースト精神を……」

「? 何言ってるんだ? 俺たちすでに妻帯者だぞ」

「子もいる」

「……」


 下の子供はまだ一歳、女の子♪ と……嬉しそうに指を一本立てる騎士の顔に……

 次の瞬間、エリノアは鬼顔でスパルタ教育に方向転換した。


「そんなデリカシーのないことでは奥様方がさぞお困りでしょう!? 落とした洗濯物はそのまま干してはなりません! というか洗濯物は落としてはなりません! 奥様が懇切丁寧にお洗いになったものを汚すなんてことしたら罰が当たりますよ!? お子様がいるなら衛生面にももっと気をつけて――!!」

「お、ぉおお……」


 お嬢ちゃまに嫌われたら嫌でしょう!? と……

 迫力の増したエリノアの顔に、騎士二人ははじめて威圧されたのだった……


 そんなこんなで――泥のついた洗濯物を渋々回収していた騎士が、ふいに、それよりさぁ、と怪訝そうな声を上げる。エリノアは傍の水場で受け取った隊服の泥を落としていた。すでに一度洗った隊服は臭いも消えていて、他の使用人たちに迷惑をかけるようなことはなさそうだった。

 騎士の声に顔を上げると、騎士は訝しげな視線を洗い場の端へ向けていた。


「……え?」

「さっきお前が脱衣を強要してた男とその隣に今いるあいつ……誰だ? 騎士……?」

「いや……見たことねぇな……王宮(ここ)にいるってことは……どっかの賓客の私兵? ……それとも新兵か?」

「ぅ……っ」


 彼らが見ているのが、テオティルとヴォルフガングのことだと気がついたエリノアはグッと喉に息をつめる。

 ヴォルフガングの服を洗った後で早々にテオティルを家に返そうと思っていたのだが……その彼が大人しくエリノアを待っているものだから……短い時間とはいえ、つい泥汚れのほうに気を取られてしまった。

 騎士たちは彼らをよく見ようと、並んで眉の上に手をあて目を細めている。エリノアは慌てて彼らの前に立ち、その視線を遮った。


「そ、そんなことより泥……泥を落とさないと! いや、もうわたくしめだけでも大丈夫です! 騎士様はお可愛い盛りのお嬢様の元へお帰りください!」

「いや、俺どうせ今夜は勤務で隊舎詰めだし。それに俺たちお前に近寄る男は要報告で……しっかり探っておかないと……」

「……へ……?」


 ヴォルフガングたちを見ながらポロリともらした騎士に、エリノアが首を捻る。いつの間にかブレアの派閥内部で情報共有されているらしいエリノア。が……彼女がその事実に気がつく前に……いきなり騎士の頭に拳が打ち下ろされる。ゴインといい音に、騎士が地面に沈む。


「ひ!?」

「ばか野郎! 余計なこと言うな! それは極秘(?)だ!」

「あ……すまんすまん」

「ちょ……大丈夫ですか!? い、今かなり痛そうな音が……」


 エリノアは慌てたが……同僚に拳で思い切り殴られた騎士は、ケロリとした顔で起き上がり、空々しい笑いを浮かべてそっぽを向く。


「ははは大丈夫大丈夫、これくらいなんでもないなんでもない」

「ははは、すまんすまん、さーて……では仕事を続けようか……? 我らが細君のためにこのくらいのボロ布くらいは洗えるようになっておかねばなぁー」

「え、えぇ……はぁ……ボロ布(それ)あなた方の隊服ですけどね……」


 話を誤魔化そうとしたが、なぜか反対に何かを誤魔化されてしまったエリノア。

 娘は腑に落ちなさそうな顔をしているが、ひとまず騎士たちの注意が、ヴォルフガングたちから逸れてくれたことにはホッとしていた。

 とにかく彼らの隙を見て、さっさとテオティルを家に帰そう。


 と……

 そう、思っていたエリノアだったのだが……



「………………すまん……」

「え!?」


 沈痛な面持ちで頭を下げる白髪の大男の言葉に……エリノアは愕然として。持っていた桶を取り落とす。


「テオが……いなくなった!?」


 しおしおとうなだれる男の隣には、いたはずの銀の髪の青年の姿はない。


「すまん……たった今までそこに大人しく座っていたんだが……急に王宮内の気配が気になるとかなんとか言い出して……突然姿が消えた」

「け、気配……?」


 エリノアは青ざめた顔で王宮の建物を見上げる。


「う、うそでしょ……今、ここで……? テオが……?」


 王命により、官も兵も、皆が総出で聖剣と勇者を捜索しているこの王宮で――その聖剣が迷子とは――

 エリノアは思わず呟く。


「………………もしここでテオが捕まったら……あの子物凄く素直だから、正直に色々話しちゃいそうよね……勇者とか、聖剣とか……そして、気のせいじゃなかったら、あの子物凄く目立つよね……? 髪とか目とか容姿とか……」


 少々動揺し言葉を上ずらせながらエリノアがそう問うと……拳で額を押さえた褐色の肌の男から、「………………すまん」と、沈み込んだ声が返ってきて……くらっとくるエリノア。

 エリノアは、頭を抱えた。


 ――テ……テオぉおおおお……っ!!


 勇者の声なき叫び、再び……





お読みいただきありがとうございます。


いろいろ和気あいあいと、ほのぼの?とさせた過ぎて…ブレアもリードも出てこない(^^;)

いえ、はいちゃんと出します!じりじり終盤に向かって進んでます、じりじりですが…

頑張ります!

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