↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/188

1-13-4-26 masquerade Something Blue(サムシング・ブルー)

 革命(かくめい)論者(ろんじゃ)気取(きど)りの者達は、世間(せけん)一般(いっぱん)に違法(いほう)な行動であっても、政府の誤(あやま)った行動を正(ただ)し、矯正(きょうせい)するための行動は違法(いほう)ではないと異口(いく)同音(どうおん)の戯言(ざれごと)を吐(は)く。

 何故(なぜ)こうも独善的(どくぜんてき)且(か)つ、利己的(りこてき)な思考(しこう)回路(かいろ)なのだろう。彼等(かれら)の様(よう)な犯罪者を見て、何時(いつ)も思う。そんな事(こと)を考えるだけ、時間の無駄(むだ)なのかもしれない。

 犯罪者と同じような性向(せいこう)であっても、犯罪者に堕(お)ちなかった人も多い。だから犯罪者となった原因(げんいん)等(など)は考えるだけ無駄(むだ)、誰かがそんな事(こと)を言っていたっけ。


 本音(ほんね)を言えば、馬鹿(ばか)の相手(あいて)をするのが面倒(めんどう)でやりたくない。私の様(よう)な除隊(じょたい)準備中の者にやらせるな。正規(せいき)兵(へい)が突入(とつにゅう)して片(かた)づければ良いのにと思う。けれど、大人(おとな)の事情(じじょう)がそれを許(ゆる)してくれない。

 正規(せいき)兵(へい)が突入(とつにゅう)すると、狼狽(ろうばい)したテロリストが人質(ひとじち)を殺す可能性が大きくなる。それでは元(もと)も子(こ)もない。本部は、ひとりでも人質(ひとじち)が殺されては駄目(だめ)だと言う。

 人の苦労(くろう)を全(まった)く考えていない、高尚(こうしょう)且(か)つ、有難(ありがた)迷惑(めいわく)な御(ご)命令(めいれい)に応(こた)えるために、ホテル内部に不運にも居合(いあ)わせた私達が、えっちらおっちらと1階から5階までテロリスト達を倒しながら上(のぼ)らないといけない。


 似(に)たような事(こと)を幾度(いくど)となく行(おこな)ってきた私ならば、テロリスト達を倒しながら上(のぼ)るのは簡単(かんたん)だろうと思われては困(こま)る。テロリスト達のご要望(ようぼう)で、私達が闘(たたか)う姿は、ホテル内の監視カメラを通して世界中にリアルタイムで配信される。

 テロリスト達は言う。我々は配信(はいしん)を活用(かつよう)しない。貴様(きさま)ら悪逆(あくぎゃく)非道(ひどう)な政府と異なり、正義(せいぎ)の使途(しと)である我々は卑怯(ひきょうな)行(おこな)いはしない、正々(せいせい)堂々(どうどう)と闘(たたか)うと言う。だからお前達(まえたち)政府の狗(いぬ)も使うなと言う。


 私はテロリスト達の言う事(こと)を、ひと欠片(かけら)も信じていない。テロリスト達はリアルタイム配信を活用して、此方(こちら)の一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)を把握(はあく)するだろう。ただでさえ二桁(ふたけた)の敵に対して、此方(こちら)は三浦中尉と私だけ。そして相手に行動が筒抜(つつぬ)けになっている私達が、勝てる訳(わけ)がない。冷静(れいせい)に考えれば分かる。映画やドラマじゃないんだから、幸運(こううん)に恵(めぐ)まれたとしても、どちらかは確実に死ぬ。

 とりあえずは、この部屋から出る寸前(すんぜん)に三浦中尉の足に一発(いっぱつ)撃(う)ち込んで、身動(みうご)き取れない様(よう)にしないといけないかな。三浦中尉の妹さん達には、トラウマ物の光景(こうけい)を見せつけるので悪いとは思うけど、それが最適解(さいてきかい)。未来がある三浦中尉は置いていく。テロリスト達を排除(はいじょ)した後、時(とき)を置かず私は狂(くる)うだろう。そして処分(しょぶん)される。だから、死ぬのは、未来の無い私だけで十分(じゅうぶん)。


 今頃(いまごろ)は、古巣の第9課は報復(ほうふく)対象(たいしょう)を見極(みきわ)め様としているんだろうな。見極(みきわ)めたら張り付いて、仮に人質が殺されれば、即時(そくじ)に報復(ほうふく)する体制(たいせい)になってるだろう。私が戦死したら、本部が止めたとしても、何時(いつ)か必ず報復してくれるだろう。仇(かたき)を取ってもらえるだけでも十分(じゅうぶん)かな。

 哀(かな)しくないと言えば、嘘になる。死ぬのが怖(こわ)くない訳(わけ)じゃない。彼を置いていきたくない。彼と幸せな未来を共(とも)に歩きたかった。でも叶(かな)わない未来を思い続けるのは無駄(むだ)でしかない。現実は厳(きび)しい。それが世(よ)の理(ことわり)。

 せめて、みっともない姿だけは見せない様(よう)にしよう。ああ、そうだこの部屋から出る時は、彼や、三浦中尉と妹さん達が出られない様(よう)にロックしないと。


 行くにあたっては準備をしないといけない。世(よ)の中の人が誤解(ごかい)している事がある。調整(ちょうせい)体(たい)は、一般人より強いかもしれないけれど無敵(むてき)じゃない。

 私が調整(ちょうせい)体(たい)であり、普通(ふつう)人(じん)ではないのは動かし様(よう)のない事実。とは言え、調整(ちょうせい)体(たい)の中でも最弱(さいじゃく)のタイプ。人より治癒(ちゆ)とか、反応速度が何倍も速く、若干(じゃっかん)目が良いだけ。それ以外は、普通人と変わらない。

 長い経験で痛(いた)みを我慢(がまん)する事を憶(おぼ)えたけれども、撃たれたり、刺(さ)されたりすれば、当たり前の様(よう)に痛いし、当たり所が悪ければ死ぬ。だから此処(ここ)の備品(びひん)の戦闘(せんとう)服(ふく)を着用する。簡易(かんい)ボディーアーマーは、自殺(じさつ)願望(がんぼう)が在る訳(わけ)じゃないので着用(ちゃくよう)する。


 本来なら更(さら)に情報入手や連携(れんけい)のために、前面投影型のフェイスガードを被(かぶ)るのだけど、テロリスト達から着用(ちゃくよう)を拒否(きょひ)されたので被(かぶ)れない。

 自分達はリアルタイム配信で私達の行動を把握(はあく)するのに、此方(こちら)の情報(じょうほう)連携は妨害(ぼうがい)する。やっぱり、屑(くず)は屑(くず)ね。

 フェイスガードが無いと、全世界に自分の顔を晒(さら)す事(こと)になる。それは困(こま)るので、ストールを顔に巻いて鼻から下を隠(かく)す事(こと)にした。三浦中尉は、幅広(はばひろ)の包帯(ほうたい)を顔に巻いている。何(なん)だか、私達の方(ほう)が危(あぶ)ない人間に見えて少し可笑(おか)しい。


 三浦中尉はどうかとして、私の顔は世間様(せけんさま)にある程度(ていど)ばれている。ストールで顔を隠したといえ、ネットワーク上での集団(しゅうだん)解析(かいせき)に掛かれば、小(こ)一時間(いちじかん)程(ほど)で冷酷(れいこく)非道(ひどう)の女性兵士が私だと判明(はんめい)するんだろうな。

 私のこれからの行動を理由にして、彼は世間様(せけんさま)や、ファンの人達から非難(ひなん)されるだろうな。彼が私の元(もと)から去って行くであろう未来よりも、彼が非難を浴(あ)びると思う方が辛(つら)い。私の本当の姿を見られるより辛(つら)い。

 けれどそんな事を思っても現実からは逃げられない。考えても無駄(むだ)な事を、くどくどと考え続けても仕方(しかた)ない。私は、今ここで私が出来る事をやり、やるべき事を行うだけ。その結果、何かを失ったとしても、それが私の運命。何も失いたくはないけれど、世の中そんなに都合(つごう)の良いものじゃない。そんな事は知りすぎる程(ほど)に知っている。悔(くや)しいけれど、それが現実。

 過去からは逃げられない。逃げたと思っても過去は追いかけてくる。逃げ切ったと思っても、誰かが見たくない過去を連(つ)れてやってくる。本当に嫌になる。嗚呼(ああ)、零(こぼ)したくないのに溜息(ためいき)が零(こぼ)れ出る。


「監視システムへの介入(かいにゅう)準備完了」

 闘(たたか)いは、相手を騙(だま)し、陥(おとしい)れ、出し抜いた者が勝つ。卑怯(ひきょう)と言われようが、勝たなければ意味がない。負けてしまえば、それで終わり。相手より少し狡猾(こうかつ)で卑怯(ひきょう)な者が勝つ、それが世(よ)の常(つね)。

 私達もテロリスト達も双方(そうほう)共(とも)に卑怯(ひきょう)者(もの)だが、私達の方が少し狡猾(こうかつ)だった。いや、単純にテロリスト達が馬鹿(ばか)だけなのかもしれない。

 テロリスト達は、監視(かんし)カメラ映像(えいぞう)をリアルタイムで得ていたが、ホテル内の監視(かんし)カメラだけから得(え)ていた。それもホテルの監視(かんし)システム経由で。そして、信じられない事(こと)にテロリスト達は、私達もホテルのシステムに入れる可能性を全(まった)く考慮(こうりょ)していなかった。

 余りにテロリスト達の映像ラインに容易(たやす)く介入(かいにゅう)出来たので、罠(わな)ではないかと疑い、確認に無駄(むだ)な時間を浪費してしまった。それ程(ほど)までに、テロリスト達は何も考えずにホテルのシステムをただ利用していた。

 システムに入れたのであれば、監視カメラシステムを遮断(しゃだん)してしまえば良いと思われるかもしれない、遮断(しゃだん)は出来ない。そんな事(こと)をしてしまえば、狼狽(ろうばい)したテロリスト達が人質(ひとじち)を殺す危険性が増(ま)すだけ。

 そこで私達はカメラの映像の時間をずらす事にした。戦闘開始時から徐々(じょじょ)に配信を遅らせていき、30分程(ふんほど)経過(けいか)する頃にはリアルタイムとの間(あいだ)に数分の遅延(ちえん)が生(しょう)じる様(よう)に介入(かいにゅう)した。これで、少しは勝てるかもしれないし、三浦中尉に一発(いっぱつ)撃(う)ちこまなくて済むかもしれない。


「できれば、目を閉(と)じ、耳を塞(ふさ)いでいろ」

 三浦中尉が妹さん達に、壁一面(かべいちめん)の監視(かんし)モニタ画面を見る必要がないと言っている。うん、それは大事(だいじ)な助言(じょげん)だと思う。問題は、世界(せかい)中(じゅう)のお茶の間(ま)に対して、その助言(じょげん)を行(おこな)う人が居ないという事(こと)。

 後(あと)もう少しすれば、世(よ)のお子様を持つ親御(おやご)さん達が確実に卒倒(そっとう)するであろう、R指定映画も真(ま)っ青(さお)、血(ち)飛沫(しぶき)飛び散る阿鼻(あび)叫喚(きょうかん)のバイオレンスアクションが世界(せかい)中(じゅう)にモザイク無しでリアルタイム配信(はいしん)される。

 主人公(しゅじんこう)は、自称(じしょう)正義(せいぎ)の使途(しと)のテロリスト達と、冷酷(れいこく)無常(むじょう)の謎(なぞ)の男女(だんじょ)。デッドオアアライブ、敗者(はいしゃ)には鉛玉(なまりだま)を、勝者(しょうしゃ)には非難の石礫(いしつぶて)を。


「本当に……嫌になる」

 何が彼等(かれら)をして、そこまで私達(ARIS)に勝利出来ると信じているのか分からないけれど、私達が勝とうが負けようが、彼等テロリストvsARISの姿を世界中に配信すれば、最終的には人質は誰も殺害されず、無傷(むきず)で解放(かいほう)されるのだから文句(もんく)は言わない。まぁ、あんなテロリスト達に殺(や)られる気は毛頭(もうとう)無いし、あんな奴等(やつら)は、ひとり残らず殺すつもりだから、問題ないけど。

 そこまで考えた時、自分が元に戻っていくのに気づいた。このホテルで戦死するのだろうと諦(あきら)めていた自分は何処(どこ)かに消え去り。あれだけ戻りたくなくて眼を逸(そ)らしていた昔の自分に戻っていくのに気づいた。


 因果(いんが)応報(おうほう)、自業(じごう)自得(じとく)、予定(よてい)調和(ちょうわ)、当然(とうぜん)の帰結(きけつ)、今の状態を言い表すにはどの言葉(ことば)が相応(ふさわ)しいんだろう。ほんの少し前までの怯(おび)えていた私は何処(どこ)かに消え去り、殺戮(さつりく)機械(きかい)に戻った私が此処(ここ)に居る。

 訓練の賜物(たまもの)?血肉(ちにく)に沁(し)み込んだ経験値(けいけんち)?これが終われば、彼は私の元(もと)を去り、そして私は狂い、そして昔の仲間達に始末(しまつ)される側になるんだろう。

 私が何をしたというのだろう。普通に生きたいだけなのに……いや違う、そう思うこと自体(じたい)が思い上がりも甚(はなは)だしいよね。もう……どうでも良いや。私は為(な)すべき事を為(な)すだけ。どうせその道しかないのだから、その道を歩くしかない。


「お姉ちゃんが必ず助けるから」

 何(なん)でこうも、世(よ)の中は上手(うま)くいかないんだろう。出発前に監視カメラで各階(かくかい)のテロリスト達と人質(ひとじち)の状況を確認していた。歩き回るテロリスト達と、うつ伏(ぶ)せで後頭部(こうとうぶ)に両手を置いている人質(ひとじち)達。今のところパニックになっている人質(ひとじち)は居ない。そんな風に監視カメラで確認しながら、最後の5階で二人(ふたり)並(なら)んでうつ伏(ぶ)せになっている女性達が居た。

 妙(みょう)に気になって、認識システムで再確認してみれば、私達の要員でそれも医官(いかん)。そして映し出された情報は会う事(こと)が叶(かな)わぬ妹達の情報が表示されていた。何故(なぜ)貴女(あなた)達が此処(ここ)に居るの、ねぇ。


 ああ……死ねない。5階に行くまで死ねない。5階からあの娘達(こたち)を逃がすまでは死ねない。殺してやる、ひとり残らず殺してやる。あの娘達(こたち)を人質(ひとじち)にしたテロリスト達は、ひとり残らず生きて帰さない。命乞(いのちご)いをしても殺してやる。

 ああ……駄目(だめ)、駄目(だめ)、駄目(だめ)、駄目(だめ)!昔に戻ったら駄目(だめ)!昔の私に戻らずにあの娘達(こたち)を助けて、死神に戻らずに彼を助けないと。

 ああ……駄目(だめ)。死神に戻らないとあの娘達(こたち)も、彼も助けられない。嫌(いや)だ、死神に戻りたくない。あんな世界に戻りたくない。闇(やみ)の世界に帰りたくない。光の世界で生きたい。でも、助けるためには、死神に戻らないといけない。


 狂(くる)いそう。もう何もかもを滅茶(めちゃ)苦茶(くちゃ)にしてやりたい。目に映る人達を誰(だれ)も彼(かれ)も殺してやりたい。平和に何も考えず生きている人達を殺してやりたい。お前達の平和は、私達の様な死神が守ってきたんだぞと、現実を突きつけてやりたい。私だって!こんな無責任で、冷酷(れいこく)無常(むじょう)の私だって幸せになりたい!

 ああ……駄目(だめ)、まだ狂(くる)っては駄目(だめ)。あなたの薬指(くすりゆび)に何が見える?彼がくれた蒼(あお)い指輪(ゆびわ)が見えるよね。だから駄目(だめ)、まだ狂(くる)っては駄目(だめ)。妹達と彼が安全になるまで狂(くる)っては駄目(だめ)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。