表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/187

1-13-4-11 masquerade セーフティルーム

 少しかがんだ姿勢で、銃床じゅうしょうの短い小銃しょうじゅうかまえ、暗闇くらやみの室内を移動する集団。防犯カメラが生きていれば、出会であ者達ものたち問答無用もんどうむようで射殺して移動する、どうみてもマトモじゃない集団が撮影さつえいされているはず

 防犯カメラは殺してあるので、撮影さつえいされている可能性は低いけれど、仮に撮影さつえいされていたとしても、反対に有象無象うぞうむぞうの馬鹿達への警告けいこくになる。手遅ておくれかもしれないけど、その画像を見て恐怖にふるえ、今からでも精々(せいぜい)大人おとなしくしていなさい。


(パシュッ!パシュッ!パシュッ!)

 何故なぜ薬莢やっきょうき出す実体弾じったいだんの銃を使っているんだ?薬莢やっきょうなんてき出さない何時いつものエネルギー弾の銃はどうした?

 その理由はふたつ。ひとつ目の理由は、あんなので人を撃ったら駄目だめだから。対VOA用の銃で人を撃った結果は悲惨ひさん一言ひとこと。当たり所が悪ければ、体格たいかくの良い成人男性であっても、あちらこちらが吹き飛ぶ。

 ふたつ目の理由は、未成年者を含む家族全員の抹殺まっさつが目的の今回の任務で、流石さすがにあからさまに我々(ARIS)襲撃しゅうげきした証拠を残すのは少しばかり外聞がいぶんが悪い。例え対VOA用より小口径しょうこうけいでも、実体弾じったいだんと異なる弾痕だんこんから私達(ARIS)が撃ったとぐにばれる。


 エネルギー弾の銃を携帯けいたいしていない訳じゃない。今回の任務にもちいている実体弾じったいだんの小銃のたまが無くなった時のために、エネルギー弾のハンドガンを携帯けいたいしている。

 これでもかと身につけた弾帯だんたいに入れた弾倉だんそうが無くなるほどたまを消費する事態がしょうじる事はないとは思うので、ハンドガンを使う機会は無いと思うけど。

 もちいる銃だけではなく、装束しょうぞくも異なる。私達(ARIS)の戦闘時の姿として普通の人達が思い浮かべるのは装甲服アーマー姿の私達(ARIS)だろうが、私達は装甲服アーマーを着用しない。フェイスガード、部分装甲、戦闘服、全てが艶消つやけしの黒で統一された姿。正義の味方の衣装からは程遠ほどとよそおい。どう見ても暗殺者にしか見えない。


 薬莢やっきょうを残すのには意味がある。どんな手段、どんな方法であれ、私達はかなら報復ほうふくする。えて薬莢やっきょうを残すことで、今から処分する馬鹿者達をもちいて、その他大勢たおおぜいの馬鹿予備軍の心に私達からの警告けいこくと私達への恐怖をきざみ込める。

 確かに私達(ARIS)が犯人だと言える確実な証拠は無い。薬莢やっきょうが残された事で、他の犯罪組織のうらみをかった可能性も否定できない。でも、状況証拠的じょうきょうしょうこてき私達(ARIS)である可能性が最も高い。一線いっせんえるな、えたら最後、巻き添えが出ようとも我々(ARIS)復讐ふくしゅうするという、メッセージである事が濃厚のうこう

 かわいた笑いが出る。私達がやっている行動は犯罪組織はんざいそしきやストリートギャングのそれと変わりがない。何が、我等われら無辜むこたみたてだか。


 今から行う内容からして、私達は正義の味方じゃない。普通の人が思い浮かべる私達(ARIS)は、は無辜むこたみ守護者しゅごしゃ私達(ARIS)の敵はVOAであり、人ではない。

 たとえ人の場合でも、対象たいしょうになるのは者達ものたちは、男女問だんじょとわず卑劣ひれつな犯罪者達であり、普通の人達は含まれない。

 普通の世界では通じる常識じょうしきも、私が今いる世界では通じない。婦女子ふじょしであろうと、対象となれば処理する。そこに同情どうじょうとか、憐憫れんびんじょうは無い。淡々(たんたん)と、粛々(しゅくしゅく)と処理する。

 手をよごした事のない清廉潔白せいれんけっぱく人達ひとたちは、私達を悪逆非道あくぎゃくひどう冷酷無常れいこくむじょうと非難する。貴方達あなたたちがやらないよごれ仕事を私達が行っているだけ、文句を言われる筋合すじあいはないと反論したいけど、反論するだけ時間の無駄むだだから、反論はしない。綺麗きれいな世界から、汚れた私達を放題ほうだいののしり、溜飲りゅういんげれば良い。

 でもひとつだけ言っておきたい。私達は無闇むやみやたらに殺しまわってはいない。たとえば、処理作業中に、人身売買じんしんばいばい拉致らち監禁かんきんされている被害者は、殺さずに保護して救助している。私達にだってそれくらいの良心りょうしんはある。

 今回はその手の被害者の存在は確認されていない。だから何も考えずに処理が行えるので楽。


「何だ、おま……」

(パシュッ!パシュッ!パシュッ!)

 深夜の見回り前に何か飲み物でもと思って台所に居た所、突然の停電て暗闇くらやみになり戸惑とまどっていた警護けいごの男を問答無用もんどうむようで射殺した。

 殺したあとで思う事ではないけれど、戸惑とまどう前に警戒けいかいしようよ。本当に、こいつ等大丈夫?とてもプロとは思えない。

「(1班は右、2班は左、3班は正面しょうめんに)」

 ハンドサインで各々(おのおの)の方向にかれ、さらに屋内に進み始めたけれど、流石さすが先程さきほど男が倒れた音は聞かれたはず


 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 世の中、都合の良い事は続かない。少しまともな警護けいごが居たおかげで、次の部屋で警護けいご銃撃戦じゅうげきせんになった。その結果、発砲音はっぽうおんが屋内にひびき渡り、静かに進んで行く意味が無くなってしまった。そしてそれは、ご近所様きんじょさまにも、騒動そうどうが起きている事がばれた事を意味する。

 私達の存在が相手側に知られたからといって、音を立てて相手側に自分の居場所いばしょを教える気もない。無言むごんで音を立てず、静かに移動する事に変わりはない。 

「2はん。1階ダイニング横、パニックルーム。クリア。対人感知装置たいじんかんちそうちを設置」

 出会う者達を射殺しながら移動を続けているけれど、誰も優先抹殺ゆうせんまっさつ対象たいしょうを発見していない。1階のダイニング横のパニックルームは開放状態かいほうじょうたいで、誰も居なかった。

 外の班から、奴等やつらが外に逃げ出して来たとの連絡もない。この屋内おくないに居るのは確かなのだけど、何処どこ奴等やつらは居るのだろう。2階のパニックルームに奴等やつらは居るのだろうか。


 2階のパニックルームへの道程どうていで出会うのは、警護けいご者達ものたちか、運悪く今夜こんや此処ここに居た使用人ばかり。とりあえず彼等を処理して歩みを進めているけれど、いまだに優先抹殺ゆうせんまっさつ対象たいしょうが見つからない。

 侵入開始しんにゅうかいしから15分が経過けいかしてしまった。後15分で撤収てっしゅうしなければならない。2班と3班からは各々(おのおの)1階と地下の処理が終わったとの連絡が入った。私達2班は残すところ、このパニックルームだけ。

 2班と3班は発火装置の設置も開始している。あせりは禁物きんもつだけれど、少し急がなければ。

「1ぱん2階主寝室パニックルーム閉鎖状態。とびらにレーザー切断装置設置中」

 このパニックルームに居なかったどうしよう?警護けいごと使用人達を殺しただけになっちゃうじゃん。

 そうなったら、富裕層ふゆうそう不在時ふざいじ豪邸ごうていに火災が発生。不運にも居合わせた使用人や警護けいご者達ものたち焼死しょうしというニュースが出来るだけ。だけどそれは、半年もかけて準備した作戦が無駄になって、また最初から作戦の練り直しなったことを意味する。

 ある意味、地獄の再来。いやだ、いやだ、それだけは勘弁かんべんして欲しい。だから、良い子だから優先抹殺ゆうせんまっさつ対象たいしょうちゃん、出ておいで。


「大丈夫!大丈夫だ!このパニックルームは特注だ!」

 何なんだ奴等やつら!、いきなり停電になったと思えば、1階で警護けいご奴等やつら発砲音はっぽうおん悲鳴ひめいが聞こえてきた。偶然ぐうぜん警護主任けいごしゅにんが2階に来ていて、追われる様に妻と子供共々(ともども)にパニックルームに押し込まれた。

 独立電源を用いた監視カメラと通信で状況把握じょうきょうはあくを行おうとしたが、カメラの画像は見えるものの、通信は妨害されて使えやしない。畜生ちくしょう!何が通信妨害にも強い最新型だ?!あの会社の野郎やろう!明日になったおぼえてろっ!

「ま・まま!」

「大丈夫。大丈夫だから。お父さんも言っていたでしょ?このパニックルームは特注だから、絶対に入ってこれないから大丈夫」

 ああ、大丈夫だとも。だけどあの黒づくめの奴等やつらとびらに付けようとしている、小さなとびらの様な物は、何なんだ?


「切断装置起動。熱に注意!5,4,3,2,起動」

 映画じゃ、溶接機を持って来て長い時間を掛けて切断するのだろうが、突入用に開発されたレーザ切断機を使えば、一瞬で窓枠まどわくの様に切断せつだんし、引き抜ける。

 切断過程せつだんかていで、内側に火災が発生する可能性もあるが、どうでも良い。切断時せつだんじの火災で焼け死ぬか、私達に射殺されるか、早いか遅いかの違いだけ。

 正直に言えば、内部火災が発生して焼死しょうしか、有毒ガスで窒息死ちっそくし百歩譲ひゃっぽゆずって昏倒こんとうしていてくれると非常にらくなので、助かるんだけどな。

「切断部分を引き抜く!切断部分の落下に注意!バックドラフトに注意!」

 さてさて、中には誰か居るのかな?優先抹殺ゆうせんまっさつ対象たいしょうが居ると、お仕事も終わるので助かるんだけどなぁ。


めろ!撃つな!撃つな!出ていく!出ていくから撃つな!女子供おんなこどもも居るんだ!撃たないでくれ!」

 バックドラフトでき出すほのおも無いので、パニックルーム内は燃えていない。中に入り確認するのもありだけど、どうせ抹殺まっさつするんだから、穴から手榴弾しゅりゅうだんほうり込もうとしたら、声が聞こえた。嗚呼ああ……何て面倒めんどうな、生きてるのね。声が聞こえる前に投げ込めばよかった。

 冷静れいせいに考えてみれば、手榴弾しゅりゅうだんでぐちゃぐちゃになった死体を確認せずに、綺麗きれいな生きている状態で、優先抹殺対象ゆうせんまっさつたいしょういなかを確認出来るのだから、手榴弾しゅりゅうだんほうり込まないで良かった。

 貴方達あなたたちが、”全員”出てきたら、もし中にだ誰かが居てもこまるので、けた穴から手榴弾しゅりゅうだんほうり込む。だから、この手にもった手榴弾しゅりゅうだん無駄むだにならないけどね。


 開けた穴から外に出て来て、私達の前でひざまずき、何か言いたそうにして、おそおそる私達を見上げる貴方達あなたたちは、どうしたらこの場から逃げ出せるのかを考えている。

 貴方達あなたたちを見つめる私達から目をらしたい。私達に見つめられて心臓は早鐘はやがねの様に激しく鼓動こどうし、どんなに荒い呼吸を繰り返しても息苦いきぐるしい。はげしい運動をしたわけでもないのに、汗が噴き出て来る。のどが馬鹿みたいにかわいて何か飲みたい。

 私達が怖いよね。でも、私達が貴方達あなたたちをデータベースでチェックするあいだ大人おとなしくしていてね。お願いだから、夫婦に長男、長女が全てそろっていてね。全員が身代みがわりでしたとかは勘弁かんべんしてね。まぁ身代みがわりだろうが本物だろうが、私にはどうでも良いんだけどね。

 だから、そんなにおびえた目で此方こちらを見上げなくても大丈夫だいじょうぶ。私達は日がのぼる前に此処ここから立ち去る。私達が立ち去る時には、激しい鼓動こどうも身体の震えもおさまるから安心して。あと少しだけ辛抱しんぼうしてくれたら終わるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ