↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/188

1-13-4-6 masquerade この普通の世界

「マコ。あの瓦礫(がれき)。頭が転(ころ)がっているビルの角(かど)まで小走りで走り抜けるからね」

「え?!転(ころ)がっている頭の角(かど)に?え?!」

「頭(あたま)の角(かど)じゃなくて、ビルの角(かど)ね。自分の頭なら気にするべきだけど、他人の頭なんだから、気にしない。じゃ、3丁度(ちょうど)で行くからね、良い?」

「え?!あ?!で・でも他人の頭でも」

「ごちゃごちゃ言わない。3丁度(ちょうど)だからね、行くよ?」

「え?!わ・分(わか)った」

「オーケー。1.2.3! 走れ!走れ!走れ!」

 でもさっきまで無かった頭が、なんで角(かど)に転(ころ)がっているんだろう?ああ、さっき2階を吹き飛ばしたときに飛んできたのか。そんな恨(うら)めしそうな眼で此方(こちら)を睨(にら)まれても、吹き飛ばされたのは貴方(あなた)の自業自得(じごうじとく)でしょうに。


 結局のところ、私達は撤退中(てったいちゅう)の仲間達に追いつけなかった。目の前に広がっている惨状(さんじょう)からすれば、追いつかなくて良かったかもしれない。

 どうやら予想以上のVOAが出現して、ギリギリ揚陸艇(ようりくてい)の周囲のみの安全を確保出来ているだけの様だ。それに伴(ともな)い、おこぼれに与(あずか)ろうとしていた野盗(やとう)の奴等(やつら)が逃げ遅れ、大惨事(だいさんじ)になっていたみたい。

 成程(なるほど)ね、私達が何度も遭遇(そうぐう)した野盗(やとう)は、VOAから命からがら逃げている途中だったのか。途中で美味(おい)しい獲物(えもの)を見つけたので襲ってきた訳だ。

 まぁ、そこで私に返(かえ)り討(う)ちにされてるんだから、世話(せわ)が無いけどね。


「っか、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

「マコ、後少しだから頑張って」

「わかっ、はぁっ!はぁっ!った!」

 あと50m。わかるけどさ、大通りってのは横道や、瓦礫(がれき)が多いのよ?VOAが突然襲って来るかもしれないのよ?馬鹿じゃないの!大通りの向こうを回収ポイントにするなんて!

「そこに居るの沙羅(さら)か?」

「トシ?回収ポイントに居るの?」

「おうよ。生き残ってたか。ラスト50mは、VOAだらけだぞ」

「勘弁(かんべん)して……バディ初心者で、ガチガチで、走らせるだけで精一杯なのに」

 何なの!今日の揚陸艇(ようりくて)の班の奴等(やつら)は!馬鹿じゃないの?!何で!防衛線を崩壊(ほうかい)させてんのよ?!

「いちかばちかで援護(えんご)するから走れ。それしかない」

「だよねぇ。じゃぁ3で走るで?」

「だな、準備いいか?」

「ちょっと待って、バディに説明するから待って!」

「マコ、回収ポイントに居る仲間が援護してくれる。私が走れって言ったら、走って。良いね」

 大丈夫(だいじょうぶ)、大丈夫(だいじょうぶ)。この娘(こ)は、大丈夫(だいじょうぶ)。銃を撃てという訳じゃない。ただ走れと言われて走るだけなら、この娘(こ)は大丈夫(だいじょうぶ)。

「トシ?準備完了、いつでもどうぞ」

「よし、やるぞ、1.2.3!」

「走れ!マコっ!走れ!」

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!)

 後40m。たった10m移動しただけなのに、何でこんなに長い距離に感じるの?聞いてないよ!

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!)

 横道の1匹は倒した!マコは?!よし、ちゃんと前を走ってる!

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!)

 馬鹿じゃないの!掠(かす)ってる!掠(かす)ってるから!トシかぁ?!それともコウジかぁ?!後でとっちめてやるぅ!

 瓦礫(がれき)が……!マコ巧(うま)い!飛び越えた!やれば、出来るじゃん!行け!行け!行け!そのまま走れマコ!次の瓦礫(がれき)も……っと、瓦礫(がれき)と廃車の間(あいだ)ぁっ!

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!)

 2匹撃破ぁ!後30m、揚陸艇(ようりくてい)の入口が見えたあぁ!

「マコ、走って!あと少しだから頑張(がんば)って走っ!?しまっ!上ぇぇぇ!」

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!)

 上からVOAが降ってくる、間に合わない、VOAの穿腕(せんわん)がマコにっ!

「うがぁっ!」

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 このVOAぁつ!死ねっ!死ねっ!死ねぇぇっ!この糞野郎(くそやろう)!死ねぇぇっ!

「しっかりして、マコ!目を閉じちゃ駄目、タンク(医療カプセル)に連れて行くから頑張って、マコ!左肩を刺されただけだから、しっかりして!」


(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 痛みと麻酔(ますい)で少し朦朧(もうろう)とし始めているマコの右腋(みぎわき)に左手を差し込み掬(すく)い上げる、右手に持った銃で周囲の障害を排除する。

 手負(てお)いで動きが悪くなった途端(とたん)に、何処(どこ)に潜(ひそ)んでいたのか、野盗(野盗)の奴等(やつら)が此方(こちら)に、にじり寄ってくる。

 畜生(ちくしょう)っ!何でこの場所に野盗(やとう)の奴等(やつら)が居るのよっ?!揚陸艇(ようりくてい)の奴等(やつら)は何をやってんのよ!ちゃんと仕事しなさいよっ!

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 こんのぉっ!邪魔(じゃま)ぁっ!此方(こちら)が手負(てお)いだと知って襲って来てる?!何時(いつ)もは馬鹿なのに、こんな時だけ頭が良くなんないでよ!野盗(やとう)のくせに!銃をっ!此方(こちら)に向けるんじゃないよっ!

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)


「援護(えんご)!援護(えんご)!何やってんだ!ちゃんと援護(えんご)しろ!」

 仲間が私達を助け様と叫んでる。必死になって私達の周りを撃ってる。でも……遠いなぁ。たった30mも無いのに、揚陸艇(ようりくてい)の入口が、何光年(なんこうねん)も先に見える。

 この娘(こ)を置いていけば……私だけなら確実に助かる。だから?おいていける訳がないじゃない。そんなみっともない事が出来る訳がない。

 それに約束したんだ。マコを死なせないで連れて還(かえ)るんだ。約束したんだ。連れて還(かえ)ってあげるって約束したんだ。こんな屑(くず)見たいな私との約束を信じてくれたこの娘(こ)を、連れて還(かえ)ってあげるんだ。

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 でも無理……かな。世の中、限界というはある。VOAだけじゃなくて、何が彼等(かれら)の意欲を刺激(しげき)したのかわからないけれど、野盗(やとう)の方々からも絶賛攻撃(ぜっさんこうげき)を受けている。怪我(けが)をしたマコを抱(かか)えたまま、奴等(やつら)に反撃しながら揚陸艇(ようりくてい)まで走るのは無理。何処(どこ)かで私も被弾(ひだん)して、マコとふたりで身動(みうご)きがとれなくなる。

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 慈悲(じひ)の一発(いっぱつ)が頭をよぎる。集(たか)られて、蹂躙(じゅうりん)され、そして結局最後は奴等(やつら)に殺されるくらいなら、私が殺してあげるのが慈悲(じひ)というもの。

 自分自身(じぶんじしん)への慈悲(じひ)の一発(いっぱつ)は、この手榴弾(しゅりゅうだん)で良いかな?怖くない、ちょっと爆発させるだけだ。

 トシが此方(こちら)に走って来るのが見えた。あんた馬鹿だねぇ、何やってんの?


 トシに抱(かか)えられたマコと共(とも)に駆け込んだ離床中(りしょうちゅう)の揚陸艇(ようりくてい)の中でホットしていると、本当は私達は見捨てられるところだったと聞いた。

 揚陸艇(ようりくてい)至近にまでVOAとの戦闘が拡大したお陰で、狼狽(ろうばい)したパイロットが、私達を見捨てて離床(りしょう)しようとした。 

 その動きに気付いたコウジが、パイロットに銃を突き付けてお話しをして離床(りしょう)を遅らせてもらったらしい。うん、お話しって大事だよね。

 でもさ、パイロットの野郎は、将来(しょうらい)、何処(どこ)かで見捨てられるだろうな。でも、自業自得(じごうじとく)だから同情はしない。戦場で仲間を見捨てる奴は、必ず何処(どこ)かで見捨てられるんだから。


 今夜は、他の降下班(こうかはん)も酷(ひど)かったらしい。海嘯(かいしょう)の様にVOAが各所で現れ、何処(どこ)の降下場所も阿鼻叫喚(あびきょうかん)だったとの事だ。

 本部では緊急の会議が開催され、喧々諤々(けんけんがくがく)、その原因は何かと今も論争(ろんそう)しているらしい。どうでも良い、私には関係ない。私は此処(ここ)に来て、VOAを倒す。時には襲ってくる野盗(やとう)も排除するけど、それは副業の様な物。

 副業……か、時々(ときどき)この副業が実は本業なのではないかと思う事がある。もしかして、私は人を殺すのが楽しいのかもしれない。ふと、そう思う時がある

 馬鹿らしい。人は疲(つか)れていると碌(ろく)な事を考えなくなると言う。疲(つか)れているんだろうな。そう、私は疲(つか)れている。それだけの事。


 最近、作戦後に帰宅するのが辛(つら)い。帰宅した時に家族に心配そうな目で此方(こちら)を見られるのが辛(つら)い。隔離地域(かくりちいき)のVOA掃討任務(そうとうにんむ)から帰還後(きかんご)、無表情(むひょうじょう)で家に戻って来る私を、何も言わずに迎(むか)え入れてくれる家族の優しが辛(つら)い。

 黙り込み、何も言わぬ私から、何があったのかを無理に聞き出そうとはせず、ただ、そっと見守ってくれている家族の姿を見るのが辛(つら)い。

 人は演技をしているのではない限り、自分がどんな顔をしているのか分からない。知るためには人に聞くか、人が教えてくれなければ分からない。

 後日(ごじつ)に読んだ母の日記に、何時(いつ)も泣き出しそうな哀(かな)しそうな顔をして帰って来るのに、何も言わないあの娘(こ)が不憫(ふびん)で辛(つら)いと書いてあり、どんな顔をして帰宅していたのかを知った。

 母さん……、私は哀(かな)しくて、泣きだしそうで黙っていたんじゃない。怖くて黙っていたんじゃない。ただ単に……自分の隠(かく)された姿を家族に知られたらどうしようと、それが怖かっただけ。


 環境(かんきょう)が人を造ると言う。人は生存の為に自分を変え、環境に適合する。でも、本来(ほんらい)の姿で生きられる場所を見つけ出し、自(みずか)ら、その場所に赴(おもむ)く事もある。

 普通の世界に生きている家族に、私の様な異物が混じり込んでいる事が知られてしまうのが怖かった。何時(いつ)知られてしまうのかと、ただただそれが怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。