表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/187

1-13-4-5 masquerade 朱い花畑

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!)

「前方クリア!」

はぐれるな!よそ見をするな!新人はバディのけつから離れるな!」

 新人が多い今日、現地人を気にせずVOAだけを相手にしていれば良いというのは、本当に楽だなどと思っていたのが良くなかった。瓦礫がれき隙間すきま、車の影にいた奴等やつらに気付くのが遅れた。

 普通の生活なら、少し気づくのが遅れても致命的ちめいてきな結果が訪れる事は少ない。けれど、此処ここではそうはいかない。気づいた時には何処どこで手に入れたのか分からない対戦車ミサイルが発射寸前。流石さすがに対戦車ミサイルの直撃を受けたら、装甲服アーマーを着ていても無事では済まない。

「ミサッ!イルッ!」

 戦場で困るのは下手へたな奴が撃つ武器。命中精度の悪い武器。何処どこに飛んでくるかわからないから。目の前で発射された対戦車ミサイルが、それ。下手へたすぎ、何処どこに向けて撃ってるのよ。何で空に向かって撃つのよ。ねぇ、放物線ほうぶつせんって知ってる?放物線ほうぶつせんの先には誰も居ないよ?!って馬鹿ぁあっ!何でマコがそこに居るの!

「マコっ!伏せてっ!」

 あ……しゃがんだ。


孤立こりつした者は、回収ポイントに各自で移動せよ。孤立こりつした者は、回収ポイントに各自で移動せよ」

 何てありがたいご連絡。要するにはぐれた馬鹿は、自分で頑張がんばれという事。そして私達は今、忘れ去られた存在になっている。端的たんてきに言えば、仲間からはぐれてる。要するにはぐれた馬鹿とは、私達の事だったりする。

 ど下手へたな対戦車ミサイルの発射で開始されたVOAと奴等やつら私達(ARIS)どもえの大乱戦の結果、至近距離しきんきょりの地面に着弾したミサイルの爆風で、漫画まんがの様に綺麗きれいに吹き飛ばされたマコ。吹き飛んだ彼女を瓦礫がれきの影に引きり込み、生死の確認をしていた私は取り残された。


「マコ!生きてる?!怪我けがは?!」

 とりあえず身体の欠損けっそんもないみたい。手足てあしも変な方向に曲がっていない。あの至近距離しきんきょりの爆発で目立った損傷が無いって、装甲服アーマーって偉大だわぁ。

「っぅうぅ。怪我けがはないみたい。けど……」

「けど?」

「位置シグナルがこわれたみたい。通信は沙羅さらと話せているから大丈夫みたいだけど……どうしよう」

 ああ畜生ちくしょう、10秒前に装甲服アーマーに感謝したのは撤回てっかい。また面倒な部分が壊れてくれた、一瞬いっしゅんでもマコから目が離せなくなった。位置シグナルが出ていない新人をこんな場所で見失ったら、5分後にはマコは死ぬ。

 良いのか悪いのか、戦場音楽は私達の進行方向、回収ポイントに向かう方向から聞こえる。そこまで仲間達から遠く離れてしまった訳じゃない。上手うまく追いつけられれば仲間と合流できる。

 下手へたに追いつけば、武装現地人の方々(かたがた)がVOAの死体から食料、武器や防具の材料をぎ取ろうとむらがっている只中ただなかに飛び込む事になる。

 此方こちらも武装しているとはいえ、女性兵士ふたりだけで野盗やとう方々(かたがた)衆人環視しゅうじんかんしの中を通り抜けるのは、流石さすがに避けたい。ああ……上手うまく追いつけると良いなぁ。

 後は移動中に、このがパニックになって明後日あさっての方向に走り出さないのをいのるだけ。お願いだから、パニックにならないでよ?

「じゃぁ、行くよ。私の左肩に置いた右手を絶対・・に離さない事。分かった?」

「う・うん」

「あと、無闇むやみやたらに悲鳴を上げない事、VOAや現地人を引き寄せるから」

「わ・分かった」


 瓦礫がれきが散乱する道路を、ふたりだけで移動している。最近は、装甲服アーマーの形から女性兵士と推測すいそくされない様にマントを羽織はおるのが流行はやり。残念ながら、今日の私達はマントを羽織はおっていない。だから姿形すがたかたちから、ふたりとも女性兵士とバレバレ。

 少しかがんだ姿勢で持った銃を、上下左右じょうげさゆうにゆっくりと動かし歩く。マコは私の後ろ、左手で銃をきかかえる様に持ち、周りをうかがいながら、でも決して私の左肩掛けた右手を離さない様にして、私の動きに追随ついずいする。

 れた奴等やつらなら、ぐに気付く。どう見ても後ろに密着しているのは新人で、前に居る古参こさんは、その世話せわ手一杯ていっぱい。襲っても機敏きびんな反撃を喰らう事はない。ねらい目の獲物えもの。おたのしみも待っている女性兵士。楽しい未来を想像して、したなめずりしている奴等やつらの姿が目に浮かぶ。


(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 れたとはいえ、私達は人型ひとがたの対象を撃つ事に躊躇ちゅうちょする。そりゃそうよ。ほんの少し前まで私達は、銃なんてさわった事もない一般人だったんだから。

 少し間違えば彼等かれらに成っていたのは、私達。ほんの少し、運命の歯車はぐるまが違うだけで彼等かれらはこの隔離地域かくりちいきに押し込められ、出る事を許されない。普通であれば、憐憫れんびんじょうや、罪悪感ざいあくかんおぼえない訳がない。

 その躊躇ちゅうちょ発砲はっぽうを遅らせる。此処ここでは致命的ちめいてき。その一瞬いっしゅん生死せいし境目さかいめ奴等やつらられてジ・エンド。

 残念ざんねんだったね、こわれた私、普通じゃない私に躊躇ちゅうちょはない。木の棒であろうと武器を向けてきた者は撃つ。なぜ私達に武器を向けたのか?そんな事は相手を撃ってから考える事にしている。それがこの場所で私が学んだ、生きてかえ唯一ゆいいつの方法。


(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 御免ごめんね、君達は生きたいだけ。こんなくそったれな場所から、逃げたいだけだって知っている。でもね、私も生きたい。こんなくそったれな場所から、このを家にかえしてあげないといけない。

「VOA?!」

「大丈夫、もう倒したから、怖かったら下を向いてるか、私の背中をずっと見ているだけで良いから。分かった?」

 マコには銃把(じゅうは)にぎらせていない。下手ににぎらせていて矢鱈やたらと発砲されても困る。だから小銃を左手でく様に持たせてる。同士打どうしうちなんて御免ごめんだもの。

 それで良い。下を向いていなさい。こんな狂った場所の事を知るのはもう少し後で良い。どうせ知る事になる。知ってしまうのはけられない。だけど今日じゃなくて良い、せめて、もう少し後で良い。


(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 回覧板かいらんばんでも回ったのか、やたらと野盗やとう奴等やつら遭遇そうぐうする。そりゃ孤立こりつした女性兵士がふたり、片方が新人となれば、かもが来たといさんで襲ってくる。

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 ふざけんな、お前等まえら美味おいしい獲物えものになる気はさらさらない。死ね!この馬鹿野郎!車の影から狙ってるのなんて、丸分まるわかりだ馬鹿!

「またVOA?!」

「ん、またVOA。今日はちょっと多いけど、大丈夫」

 対VOA様の銃で人を撃てば、撃たれた者ははじけ飛ぶ。あたりは、元人体もとじんたい組成物そせいぶついろどられる。だけど自分が撃たれるよりマシ、マコが撃たれるよりはもっとマシ。

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 本当は駄目だめだけれども、マコがまわりをまともに見まわしていなので助かる。それに夜で助かった。これが昼間だったら、想像するだけで嫌になる。撃たれて粉微塵こなみじんになる人体と、それらがりなす朱い花畑。そんな光景をマコが見たら、恐らくマコは嘔吐おうとして動けなくなる。

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 かえったら、この首都警邏しゅとけいらに行ける様に知人に頼んでみよう。貴女あなた此処ここに来ちゃ駄目だめだ、こんなくそったれな場所に来ては駄目だめだよ。

 くそっ……たれか、何時いつからか悪い言葉を平気で使う様になった。此処ここに来る前は、使う事も聞くことすらもまれきたない言葉を、今は普通に使う。言葉使いが悪くなっているのが家族にばれたら、後が面倒。家にかえったら、思わず口走くちばしらない様に注意しなきゃ。


(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 ああ……嫌になる。今日は嫌になる位に野盗やとうが多い。何時いつもの何倍の奴等やつら此処ここに居るのよ?!何で今日はこんなにも奴等やつらがVOAより多い訳?何人を吹き飛ばしたか、かりゃしない。でも、そろそろマコにVOAを撃ってるんじゃないって、バレるよねぇ……。

 ほら、あのくずれたビルのかどを左折すれば、回収ポイントまで数十すうじゅうm。なのに、そのむかのビルの2階に大きな頭が2・3個。ビル前の焼け落ちたバスの下に小さな頭が3・4個。大きいのが小さいのをおとりに使おうという魂胆こんたんだろうな。

 何て嫌らしい場所で、待ちせしているんだか。此方こちらから先に仕掛しかけないと、面倒めんどうこの上ない事にしかならない。だからと言って、小さな頭達あたまたちまで撃ちたい訳じゃない。私は殺人鬼さつじんきじゃない。私だって好きで撃ってる訳じゃない。小さな頭達あたまたちが、逃げてくれると良いんだけどな。

 大きな奴等やつらを撃つのに躊躇ちゅうちょはない。あいつ等屑共くずどもは、矜持きょうじも何も持ち合わせていない単なるくず


(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!ヒュッ、ヒュッ!)

 ビル2階の壁の一部いちぶくずれるほどに少し撃ち込み過ぎたけど、壁も中の野盗やとう綺麗きれいに吹き飛んだから、良いや。さてとバスの下の小さな頭達あたまたちは……未だ居るし。

(ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!)

 ほらほら、逃げろぉ!逃げないと、もっと撃つぞぉ?

「さ!・沙羅さらさんっ!あれ!?こ!・子供ですっ!」

「ん。分かってる」

 だから、ねらってはずしてるでしょうに。微妙びみょう至近距離しきんきょりに撃ち込んで、追い立ててるだけだから。あんなのに当てたら、大人おとなみたいに吹き飛ぶじゃ済まないよ。粉微塵こなみじんだよ。流石さすがにそれは、夢見ゆめみが悪いからけるよ。ま、武器を向けて来たら、当てるけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ