1-13-3B Side Story 6 写真
一部修正と並び変えです。
深夜の街の中、疎らな車の流れを縫うようにバイクで駆け抜ける。
流れる景色と体に感じる風圧が、私に得も言われぬ解放感を与えてくれる。
街には、昼間の熱気がまだ其処彼処に残っている。熱帯夜特有の重く纏わりつく生暖かい空気。その中を駆け抜けていても、解放感は変わらない。
お台場にバイクで急行したあの日から、なし崩し的に表舞台に出る回数が増えた。こんな普通と言うよりは、ダサい私が出ても何も面白くないと思うけど、プロテクター装着して現れたのがTV的には美味しかったのかな?予告編に使われるは、拡散されるは。ま、いいけどさ。
個人的には堂々とバイクで移動できるからそれで良し。香さんには受けは悪いけど、夏の夜のバイクは気持ちが良い。それだけで十分というか、余り深く考えても仕方ないし。でも一応、空気は読んでる。
「貴女が交通事故起こしてないかとか、交通事故にあってないか?とか考えるときもある」
度々そんな風に愚痴られると、流石に毎回バイクともいかない。みんなに心配をかけ続けてまで乗る、そんな訳にもいかないしね。
「今日は収録が遅くなりそうなので」
時折、色々な理由をつけて嶺は電車やタクシーではなくて、バイクで移動することがある。
「なんでバイク使うの?」と聞いたことがある。かえって来た答えは嶺らしいというか、なんと言うか。
「局がタクシーを出してくれるってのは、凄い事だってのは分かってます。物凄い高待遇だってのも、ほんとう、重々承知してます。けど、タクシーって分かると、飲みに行こうって誘われるのが面倒で……。お酒は苦いだけで、何が美味しいのか分からないし、あと余り知らない人と食事しても美味しくないし……」
まぁ、あんた、本当にお酒に弱いからねぇ。飲みに行かれない方が、こちらとしても安心なので助かってはいるけど。
でも、お酒が美味しくないぃっ?!お酒は苦いだけだから大嫌いだぁ?ええい、このおこちゃまが!顔だけじゃなくて嗜好もおこちゃまか!
「香さん、最近ストレスで過食気味?あ、シュークリーム食べます?こっちがカスタードで、こっちが生クリームです。あっ!こっちはカスタードと生クリームのダブルです!」
あんた、相も変わらず幸せねぇ……。そのストレスの発生源は誰でしょうかねぇ?!ねぇっ!交通事故が心配なんですけどねっ!そこの能天気娘ぇっ!くっ……、このカスタード美味しいじゃない。
「今日はバイクなので」は魔法の言葉。
この世界に、どっぷり入り込んでしまった私が言うことではないけど、芸能界っていうのは変な世界。
偏見かもしれないけれど、芸能界なので綺麗な、それが天然物か工事済かは知らないけど、綺麗な女性が一杯居る。そして当然、売れているからモテると誤解している鬱陶しい勘違い野郎達、執拗に絡んでこようとする輩も一杯居る。男も女も、自己意識が高くて、自己アピール力の高い人達ばかり。
そうじゃない人達も居るけど、そこまで多くない。私たちは、未だ、どちらかと言えばそうじゃない人達のグループ。正直、収録後の食事だ、飲みだのお誘いを受けるのは面倒でしかない。
百歩譲って、他の娘達を誘うのは分かる。けど、なぜに私を誘おうと思うのか?解せぬ、解せぬで、ござりまする。
怖いんだよねぇ、一緒に行くっていう女性たちの目つきが、気持ち悪いんだよねぇ、目の奥に性欲を燃え滾らせたニチャァって感じの笑顔が。
「あの笑顔で見られたら、付いていくよねぇ!」ってアイドルグループの娘達が騒いでいたけど。あんた達……眼科行った方が良いよ?うああぁぁ!思い出すだけで鳥肌がぁぁっ!
「今日はバイクなのでお酒飲めないんですよ、なので帰ります。ごめんなさい」
そんな気持ち悪い奴等も、この魔法の言葉で撃退できる。大抵は……。いや?居るよ?それでも食いついてくる下半身馬鹿は。そんな馬鹿には。
「今日は疲れてて、バイクで帰るだけで精一杯でして、外食する元気はないです」
ここで、「今度また誘ってくださいね」とか社交辞令を言わないのがポイント。
んな社交辞令いって見なさいよ、延々誘ってくるは、じゃぁ連絡先教えてとか行って携帯の番号聞き出そうとしてくるは……被害甚大になるから。
されど芸能界、だから芸能界。
「送っていくから、バイク置いて行こうよ」
それでも誘ってくる全身が下心で構成された生物が居るのが芸能界。
「(はぁ……)バイク置いていく気ないんで」
冷たく答えることにしているんだけど……。それでも、まぁだ喰いついてくる、もうおまえ!風俗行けよ!って言いたくなるのが居る。大抵、私がひとりだけの時にそんな奴が来るんだけど、そんな奴は無視する事にしている。
「売れてきたからって、勘違いしてんじゃねぇよっ!」
振り切っても付いてくる馬鹿ほど、大抵、最後にこういう風に言う。
いやさぁ、その言われた言葉をね、そのまま瑠璃とか、香さんに後で報告してるんだけど。報告すると、なぜか皆でぺたぺた私の体を確認した後に、香さんや、瑠璃達がもの凄い勢いでスマホをいじり、あちらこちらに連絡を取り始める。
「マネージャーの連絡網を舐めるんじゃないよ、性欲タレントがぁ!地雷女だけとしか合コン出来ないようにしてやるわぁっ!このXXXXX、XXXX(自主規制)!」
こ~わ~い~で~す~。
「ねぇ?あのドアの脇に立ってるのって……」
TVで写される風景は、嘘八百で美化し過ぎ。田舎の子とかは、あれを見て東京は良いなぁとか思うのかなぁ?古くてもお洒落なアパート、煌びやかな街路、楽しいアフターファイブなんて早々無いんだけど。TVだけ見たら信じちゃうよねぇ。
嘘の姿ではなく、本当の街や人の姿を手軽に見る方法は、タクシーの窓越しでも見られないことはないけど、電車やバスそれか、少しでも街を歩くこと。
少し前と違って、自由に歩けることが少なくなってきている。表舞台にでる回数が増えたことで、私を知る人も増えてしまう。仕方のないこととは思うけど、表舞台に立つことで、少し自由を失った気分。
「だよね?あれCUBEの嶺だよね?」
「ねぇ?」
「うん。頼んでみる?」
「あの……。CUBEの嶺さんですよね?」
公共交通機関や、街路を歩いていれば、写真を一緒に撮って良いか?というお願いからは逃げられない。それはまあ、仕方ないことと割り切っている。所詮、私たちは客商売。声を掛けられるだけで幸せなのだと思うようにしている。
「写真……一緒に撮っちゃ駄目ですか?」
「ん?良いよ、でも車内だから騒がない様にね?」
人は慣れるいきものとは良く言ったもんだなぁって、最近よく思う。少し前なら、動揺して駄目だったろうけど、今じゃ、ちょっと記念撮影すれば満足してくるのだから、そこは我慢と思えるようにまで進化した。
入れ替わり立ち代わり何人も来てしまってキリが無くなるとか、まぁこれは途中下車とかして振り切るしかないけど、我慢は出来る。写真撮影に応じるのもファンサービス、CUBEの他のメンバーの迷惑になっちゃこまるからね。途中下車程度は我慢、我慢。たまにタクシー代が痛いけど、まぁ仕方ない。
いつも平穏無事というわけでもない。どの集団にも迷惑千万な屑というか、勘違い野郎は存在する。肩を抱いて写真を撮ろうとしてくる勘違い野郎は、我慢できない。なぜ肩を抱いて写真を撮れると思うのか?その精神構造が理解できない。大抵、優しく言っただけでは止めようとしない。肩に回そうとしてくる手を払いのけて拒絶する羽目になる。
「止めて下さい。あなたの彼女ではありません。気易く抱き寄せないで下さい」
ここまでしつこい勘違い野郎は、強く拒絶するとなぜか偉そうに逆切れかましてくるので、注意が必要。鬱陶しい奴等も居るけど、バスや電車、徒歩での移動は嫌いじゃない。それよりバイクに乗るのがちょっと楽しいだけ。




