1-13-3B Side Story 3 ボーナストラック
一部修正と並び変えです。
「今日はCUBEの皆さんがゲストで来ています。瑠璃さん、葉月さん、摩利さん、そして嶺さんです」
「「「こんにちわ~」」」
「嶺さんと言っても、リスナーの皆さんな余り馴染みが無いと思いますが、最初からCUBEのメンバーなんです。」
「そうです!私達のメンバーの名前が書いてあるものを見てもらうと分かりますけど、嶺の名前はちゃんと書いてあるんですよね」
「でも嶺さんが表に来るのは珍しいですよね、いつも裏というか、ブースの外に居ますけど、今日はこちらに来てもらっています。えーと、嶺さんの事を簡単に説明すると?」
「えーと、嶺は人見知りが激しいので、表に出たがらなくて。でも、私達の曲の歌詞は嶺が必ず作ってるんですよ?」
「歌詞は全部嶺さんだったんですか?ああ!それでブースの外でたまに唸ってたと聞いてましたけど、それ?!」
「え?!にゃ!ちょっと手直ししてるにゃけです!」
嶺……思い切り噛んでるから。でも、慌てる貴女をブースの窓越しとはいえ見られるなんて……なんて素晴らしい日なの!今日は!
「ところで、今日お持ちいただいたのがサードアルバムのジャケットですか?ボーナストラックが3曲も入ってるんですね!」
「そうなんです!前代未聞の3曲追加です」
「表紙の写真が、3人は正面を向いて立っていて、ひとりだけ後ろ向きの立ち姿ですが、後ろ向きなのは、嶺さん?」
「はい、でちょっとケースを裏返して、裏表紙を見てもらえます?」
「あぁ!裏表紙は嶺さんだけが正面を向いて、残りの3人が後ろ姿に」
「よーく、嶺の姿を見て下さい」
「ん?あれ?人差し指でシーッという仕草をしながら笑ってますねぇ」
「ちょっと!な……んで?何!?その裏表紙?!」
「騙したかいがありましたよぉ。それと中のジャケットも開いてもらえば、最後の見開きページにボーナス写真があるんですよ!」
「ボーナス写真? ちょっと開けてみましょうか。ん?これ嶺さん?」
「な……んで?」
「恥ずかしそうに、延びる筈のないミニスカートの裾を引っ張る嶺さんですか?」
「なぜ、私のそんな、写真がぁぁぁぁ?!」
嶺、そりゃ分からないよね。貴女に見せてたジャケット原稿はダミーだったんだから。
「今日は、ボーナストラックを全てオンエア!まずは、ドラマのエンディングでヒットした「ハイドレイジア」のボーナストラックバージョンからお送りしましょう」
嶺……貴女ね……オンエア中の、それも未だパーソナリティが喋っている最中のブースから脱走しようとしないの。
あら?口パクで「香さん助けて」とか言っているのかしら?ごめんね、口パク分からないから私。
「いやぁ、このアコースティックバージョンもなかなかですね、これ!」
「でしょう?私達もそう思ってるんです。このなんとも言えない、しっとり~とした感じが良いんです」
「何時ものCUBEの感じとは少し違って、何て言ったらいいのか、せつないというかなんというかの感じですね。ところで、これ私も誰が歌っているのか教えてもらっていなかったんですけど、リスナーの皆さん、これ誰が歌ってるか分かります? 瑠璃さんではないから、葉月さんでしょうか?それとも摩利さん?まぁ、私はスタジオに居るお陰で分っちゃったんですけどね」
「このバージョンを歌ってるのは、嶺なんですよ」
「(嶺、大人しくして)」
「(動くと、音が出ちゃうでしょ?放送に音が混じっちゃうから、大人しくして嶺)」
「(嶺。シュークリーム食べよう。ほらシュークリームだぞ~)」
「え~、思い切り聞こえちゃっているかもしれませんが、現在嶺さんは、スタジオから脱走しようとして、瑠璃さんと、葉月さんに抑え込まれています。今も私が喋っている最中にスタジオから脱走しようとしていますが、 嶺さん大丈夫ですか?」
「あ、ほっておいていいですから、ちゃっちゃと番組進めちゃって下さい」
「あはは、良いんですか?でも、歌わないと聞いていた嶺さん、しっかり歌えていますけど、なんで今まで表にでてこなかったんです?」
「アルバム作成中とか、瑠璃の変わりに結構歌ってるんですよ。けど、さっきも言ったように、人見知りが激しくて、今みたいに直ぐに逃げるんですよこの娘は」
「でも、本日発売のサードアルバムでは、歌も、そして写真もバーンっとでますから、もう逃げられませんねぇ」
「今日のことは、嶺だけが知らなかったんですよ、しっかりしている様で、たまに抜けてるんですよ嶺って」
「なるほどえねぇ。うちの番組からもサプライズがあります。このブース中の様子は時間差ですが、後で複数の動画配信サイトに公式投稿されます」
「みんなグルっ?!そ・それでっ!今日は私もメイクに付き合われたぁ?!」
嶺……、普通は異変に気づくから。貴女って、本気でお馬鹿よね……。
「なぜじゃぁ~、なぜなのじゃぁ~」
「そりゃ、こうなるよね、ならない方がおかしいからね嶺」
「掲示板やら、ついたーで拡散がぁぁ……動画配信サイトがぁ……。そうだ!香さん、著作権侵害とかいって、差止をぉっ!」
「え?いや、いい宣伝になるから、暫くほっておくことになったけど?」
「そんなぁぁっっ!ご慈悲を~」
その日の夜には、キャプチャーされた嶺の写真、動画配信サイトのまとめ動画が怒涛の勢いで拡散していた。ウルトラ童顔とはいえ、この容姿そして、初めて公開された鮮明かつ大写しの写真だからねぇ。そりゃ拡散するよねぇ。
騒ぎも1か月を過ぎると慣れるもの。嶺もだいぶ自分の立場を理解したというか、慣れたてきたというか。最初の頃の様に、ファンに囲まれて、文字通り半泣きになる事は、今はない。
とは言え、歌い出しは未だにひとりでは無理で、皆と一緒じゃないと歌い出せない。まぁ、追々慣れていくしょ。
「「「「拙い……非常に拙い」」」」
嶺が再起動して通常運行になりつつある今、3名プラス1名は緊急対策会議を開催したが、結論は出なかった。
「お代官様~お慈悲を~」
「ちょっと目を離してたら、またこんなものを買って!衝動買いは駄目って、言ったよね?!」
葉月が嶺に何やら懇願している。葉月、貴女の尊い犠牲は無駄にしないわ。骨は拾えないけど頑張って。
なに?嶺?私は何も買ってないわよ!え、いや、これはほら、あれ何て言うの?前のカバンがそのあの……手にもって見ていたら思わずというか、えーと。
「いつ売れなくなるかわかりません。それが芸能界」
「貯蓄大事、凄く大事」
「無駄遣いしなければ、その分で本当に欲しい物が買えます」
「貯まったら使えます。貯まるまで使えません」
「贅沢は素敵だぁ!しかしお金は有限だぁ!」
「欲しがりません、貯まるまではぁっ!」
「お金を使うなら、スタッフとかお仕事先の差し入れが先っ!」
嶺……あんた何歳?
嶺は、余り無駄使いというか衝動買いをしない。売れてきてギャラも大きいのに使わない。そして他のメンバーにも貯蓄を徹底させている。
定期預金しているミュージシャンとマネージャーって何だろう?そう、私も巻き添えを喰らっている。……考えていたら、なんか腹立ってきた。
なんで私まで、定期預金しなきゃならんのよ……。嶺許すまじ。
だけど嶺の教育のお陰か、CUBEのメンバーはお金の使い方が一般人と変わらない。下手すれば一般人より質素。
他のグループのマネージャーが悩まされる、急に売れ出した担当ミュージシャンやタレントの金遣いが荒くなっていく事で悩んだ事はない。その面で私は物凄く楽している。巻き添えくらってるけど。
お金遣いが荒くないからか、急にブランド物で固めたような姿になっているわけでもなく、そのお陰か、天狗になってないと思われているのだろう、スタッフや仕事関係での受けもよい。
そう思えば、私の仕事は他のマネージャーと比較したら格段に楽なんだな。嶺さまさま?いやまぁ、嶺はそこまで考えて……ない。
あの娘は単純に天狗になれない性格なだけ。そして皆で美味しくお菓子を食べたいだけ。そしてブランドに興味が全くないだけ。
「興味ないんです。あっても使わないし。下手すれば捨てるだだから」
そう言って、番組とかで貰ったブランド物の小物とか鞄を嶺は私にくれる。グループで分ければと聞いたら。
「グループで分けて、もし差がでたら揉めるでしょ?その点、香さんに上げる分には揉めないですから」
そう言われれば、貰うしかないでしょ?うん。役得じゃないよ?多分
嶺に悪癖が無い訳じゃない。雑貨屋さんに入ると嶺は出てこない。本当に嬉しそうにお店の中を歩き回り。真剣に何かを買おうと悩みだす。嶺を雑貨屋さんから引き離すのは本当に大変。
後はぬいぐるみ。フワフワ、モコモコのぬいぐるみが大好き。けれど何時も断腸の思いを顔に出しながら棚に戻して、買わない。結構見ていて面白い。
ぬいぐるみの事を指摘すると、嶺は必死に誤魔化してくる。
もらったぬいぐるみを抱きしめて、うへへとなっている姿をみんなに見られているのには、気づいていない。
インスタとかに上げられて、既に世間にその姿が拡散しているのに気づいていない。本当にわきが甘い。
嶺の効果も加わり、ダウンロードを含めたサードアルバムの売れ行きは絶好調。
それは大変嬉しいことだけど、そのお影で、うちの馬鹿課長とその腰巾着の同期の高科が、最近やたらと口をだしてくる。
口を出してくるだけならまだしも、嶺に対して煩く言ってくる。
「おい、佐野。あの嶺ってのは、邪魔というか、要らんだろ?」
「ですよねぇ?佐野さぁ、何で嶺って奴を放置してんだよ?」
「嶺はCUBEに必要ですし、嶺を追い出したら、CUBEも居なくなりますよ?」
「そこを上手いことやるのが、マネージャーの仕事だろうが」
「佐野さぁ、お前が出来ないんなら、俺が上手くやってやろうか?」
「いえ、CUBEのマネージャーは私です、統括部長よりもそう言われていますので、変なことしないでね高科」
「ちっ……」




