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1-13-3B-4 男の視線はバレバレである

一部修正と並び変えです。

 胸の成長がCとDの狭間(はざま)で落ち着いた頃、電車や会社で熱気を逃すために1・2番目のボタンを外したシャツの胸元をパタパタやっていると、視線が分かる様になった。

 私も元男だから気持ちは分る、分かるけれども、じっと見られると言うのは余り気持ちの良いものではないよ。

「女性はね、男性の視線が分るの。気を付けなさいよ」

 今なら入社した頃に、お姉さん連中に言われたこの言葉の意味が良く分る。分からない様にチラ見しているから大丈夫?むりむり、ばれているからね?


(れい)さん、スカートは未だ無理かな?」

「スカートは……ねぇ?ちょっとハードルが高いかなぁ?実際このブラだけでも、毎回悶絶しそうなのに」

「まぁ、スタイルは人それぞれだからよいけどね。ところで今度、5部の三枝さんと飲むんだっけ?」

「そうそう、あの美人の三枝(さえぐさ)さんが誘ってきてねぇ、おじさんの時代なら想像もつかないよね」

「まぁ、気を付けて、あの人男性より、女性だから」

「えっ……?!」

(れい)さんね、貴女気を付けないと。美醜で言えば美しい方なのよ?もう少し危機感というか、そういうのを持たないと駄目よ?」

「へーい」


 この時代、男性だけじゃなくて女性志向の女性が居るのを否定するわけじゃないけれど、それは見て楽しむのであって、自分が対象になるのは……まぁ悪くは無いけど、何か違う様な気がしている。

 コンサバティブ(保守的)と言われればお終いかもしれない。けれど、ただでさえ男性から女性に変異してしまったのに、性的嗜好(しこう)も変異させるのはどうかと思ってしまう。

 かといって、男性を愛せるか?男性といたせるかとなると、それはそれで、今は絶対無理。

 自分自身、やっと女性に慣れかけてきているのに、そこに他人との性行為という次のステップに行く余裕なんて全くない。

 そりゃ、男時代は女の子同士があんなことや、こんなことや、ぐちょぐちょ、ねちょねちょの漫画を読んだことあるよ?だからといって、それを自分自身が実行する勇気は流石にないよ。


 それでふと思ったんだけど、小説やアニメでは、性転換した主人公がすぐさま同性とか異性とやらかしているけど、あれは嘘。女性に変化しちゃったら幼馴染の少年が気になって、うっふん?いやぁ無理でしょう~それは。


「慣れてくるもんだなぁ……」

 週に1・2回スカート、ロングスカートを履くようになった。切っ掛けは、罰ゲームみたいなもの。お昼の同僚との会話で何故か、アミダくじになって何故か、週に1回はスカートを履いている。

 最初は抵抗感があったけど、慣れれば、というより開き直りに近いけれど、どうにかなるもんね。流石にミニスカートまでは、無理だけど。


「おはようございます。(れい)さん。それで……あの……」

「なに?高市?」

「あ……いや、別に良いです」

 バレバレだよ、高市。貴方、最近私を良く見ているよね。話しているときも、ときおり胸元や、スカートから見える脚に注がれているは知っている。

 私も元男だから視線が動いてしまう気持ちは分らないでもないけど、でもえねぇ高市、無いから、貴方とは無いから。


 手前味噌だけど、おじさん時代と違って、女性に変異が完了した後の容姿は、私が男だったらお近づきになりたいって思う程度には良いからねぇ。

 だからといって、私が男性と付き合う?高市は無いとして、私が誰か男と? うーん……暫くは無いかな。


 でもまぁ、高市は未だ可愛い方。2部に居る、同期の井下なんて露骨なお誘いを飽きもせず……、本当にあの野郎は……。

「美味しいオムライスを食べさせる店があるんだけど、今夜行かない?」

 なぁにが美味しいオムライスよ。その店、カクテルの種類が多くて有名でしょうに。下心バレバレな目つきで誘われてもねぇ。

 そりゃぁ今は女性だよ?だけど、元男の同期を誘いに来る?それも毎日……その情熱に感動しそう、感動しないけど。

 でもねぇ、知ってはいたけど本当に女ならば何でも良いのね……君。女好きをで有名で、女好きを(こじ)らせ過ぎて独身なんだよね、あいつ。

 あいつと、する?……無いわー、それは絶対無いわー。

 一寸待ってよ……独身だった男の時代の私……同類にされてなかったよね?今度みんなに聞いておこう。


 下心満載の視線や誘いを受けても、それをネタにしていたそんな風に呑気にしていたのも、あの日が来てしまうまでだった。

 手、脚、陰部に毛が無い私は、ムダ毛処理をしないで良い。そして女性だから男性時代に義務だった毎日の髭剃りからも解放され、ああ、何て幸せなの……なんて思っていたのは、月1回の神様の登場まででした。

 世の中、早々上手い話は無いということ。女性初心者の私には、今ひとつピンと来ないけれど、世の女性と比べれば非常に軽いらしい。だから、それに対する諸々が面倒云々(うんぬん)等と文句を言うのは、万死に当たると言われた。


 初めて自分だけで生理用品を買いに行った時は、それこそ清水の舞台から飛び降りる気分そのものだったなぁ……。昼用に夜用、個人の好み、肌に合う、合わない、エトセトラ、エトセトラ。

 何故、ドラックストアにあんなに多くの種類が、それこそ、ひと棚占領する勢いで売っているのか理解しましたとも。お陰で私の試行錯誤は未だ終わらない。


 ところで、生理が来るということは、妊娠出来るということ。これ自体は女性の体に為りつつある時から覚悟していたので、最初は驚いたけどそれだけ……。

 いえ、正直に言います。血の気が引きました。絶叫しそうになりました。物凄く驚きました。

 初めて血が出てみ?切れ痔とかそんなレベルじゃない量の血が出てみ?驚くよ?普通!


 その頃からかな?妙に人の視線が気になる様に、いや、視線が分る様になったのは。自画自賛じゃないけど、今の私の容姿は少し童顔だけど美人寄り。

 スタイルは、胸は巨乳じゃないけれどそれなりに。男なら、私を目で追ってしまうのは仕方ないと思う。

 女性からは……勝ち誇った目で見られる。ええ……どうせファッションセンスは貴女達からみれば、ダサいですよ……。


 私も元男だから、どんな風に見られているのか想像は付いている。普通に綺麗だなって見ている視線、彼女に出来れば良いなぁと言う視線、そしてすえた匂いすら感じる性欲だけの邪なる視線。

 そんな視線で見られていても、周りからもう少し警戒感を持って行動しないと駄目と言われても、男はねぇ仕方ないんだよぉ……程度にしか思ってなかった。


「(どうしよう……。なんであの時、相手を見ちゃったんだろう……)」

「ねぇねぇ、一緒に俺らと行こうよー」

 買い物帰り、駅まで歩いているときに声を掛けられた時に迂闊にも反応してしまったのが運の尽き、延々とチャラい恰好の男達が纏わりついて離れない。


「すみませ~ん、か~の~じょ~」

 こんな馬鹿な言葉に反応してしまい、チャラい男と目が合った瞬間、性欲と悪意が混じった視線を浴びた。

 その瞬間、今まで覚えた事のない恐怖が襲ってきて、一瞬足がすくんでしまった。それがいけなかったのだろう、相手をする為に立ち止まろうとしたのと誤解されたのか、延々と私の横で男達が何かを言って離れてくれない。

 一瞬立ち止まった時、ねっとりとした上から下まで舐め回す様な視線浴びたとき、身の危険というのを始めて感じた。

「もう男の人じゃないんだから、夜は気をつけないと駄目よ?」

 職場の同僚女性のこの言葉の意味、その意味が本当に分かった。


「(絶対に付いて行っちゃ駄目!連れて行かれそうになったら抵抗しないと駄目!)」

 心の中で必死に繰り返し、リュックのベルトをぎゅっと握りしめて駅まで必死に歩いた。視線を合わせない様に無視して歩く私の何が気に入ったのか、男達は私の横で何かを延々と喋りながら付きまとい、離れてくれない。

 駅までがやけに遠くて、脚も思う様に動かなくて、何故だか知らないけど目がぼやけ始めた時、ギターを背負った()達が男達と私の間に割り込んできた。


「もーっ!どうしてはぐれるの!駄目じゃない、もーっ!」

「え……っ?!(誰?この()達??)」

「ほらー、行くよー」

「あ?ごめんねぇー、この()私達の連れなのよぉー。これからスタジオで練習なんでじゃぁ~ねぇ~」

「ほらー、もう!あんたは手をつながないとどこか行くから駄目ね!(ほら、早く。あいつら付いてくるから話合わせて)」

「ご・ごめーん、道に迷ってー」

「ほーんと、あんたは方向音痴だよねぇ」

「ちょっと早いからスタバ行かない~?」

「ほら~、いくよ~」

 手を引っ張られているせいか少しマシに歩けるようになると、膝が笑ってるから脚が思う様に動かないんだって気づいて、そりゃ歩き難かった筈だよって思った。

 男の時代だったら感じなかったのに、女性になったからこんなにも怖かったのか、こんなにも弱くなってしまったのかと、不安がこみ上げてきて、また視界がぼやけてきた。

 ぼやけた視界のまま、思わず手を握っている()を見たら、にこっと笑いながら、握っている手を少しだけきゅっと強く握り直されて、ぼやけが余計に酷くなった。

「もうちょっとでスタバだから頑張って。スタバの中までは追いかけてこないから、もう大丈夫だからね。後で駅まで付き合ってあげるから」

 ちょっとだけ不本意な理由で、(こぼ)れる筈の無かった涙が(こぼ)れて、ぼやけた視界がなおった。


 この時助けてくれたのは、瑠璃(るり)葉月(はづき)そして摩利(まり)。この偶然の出会いが、私の人生の方向性を少し変えてしまうなんて、この時、知る(よし)もなかった。

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