1-3a てのひらにお星さま
(♪ポーン)「Valkenの部屋です」
「やぁ、アズ」
「やっときたかアズ、大丈夫だったか?」
「やぁ ヴァル、ヴェル。 酷い目にあったよ、なんなの、あのロビー?」
「ヴェルは、ログインを監視しているから、返事無理」
「ロビーは、パニック状態というか、殺気立っていただろ?」
「すごかったよ、あれ何?」
「みんな、ログイン直後に、同じ様に集られて大パニックさ」
まぁ、2次元のモニター越しの筈が、3D映画並みの迫力で欲に塗れた群衆が迫ってきたらパニックにもなるよ。下手なホラー映画よりも怖かった。画面から執念というか、溢れ出る狂気を感じた。
「なので、今は誰かがログインしたら、即時に救出する体制になっております」
ああ、だからログインして僅かな時間で、直ぐにウィスパーコールが来たのか。
もしコールが無かったら……、まぁパニック状態になって即座にログオフしてだだろうな。仮想世界であっても、持つべきものは友人だ。
「あっ……!皐月は!?」
「皐月なら、既にアズの部屋で寛いでいるよ」
あいつは、何故に、何時もながら自分の部屋ではなく、私の部屋で寛ぐのだ。
「アズは、ログインが遅い方……」
あれぇ?出遅れていたのは、私だけ?!何か今日、みんなログイン早くないか?
「……分に説明開始します」
「説明を受けた人は、ありさのチームルームに移動して下さい」
「後が詰まるから、早く移動してー」
何か、ターミナルゲートみたいになっとるな、この部屋……。
「そろそろ、満杯だから別の部屋を探さないと」
「小型拠点はすぐに一杯になるので、せめて中型以上、出来れば大型拠点」
「この部屋に来ている奴等の大型拠点は、既に満杯だし……」
「大型拠点を持っている人間なんて……」
居ますけどね此処に……。ルームグッズをあれこれ置いて、チーム拠点をほんわか、くつろぎの空間化している、ソロでチームルームを保有している変わり者が。ええ、立候補はしませんけどね。
「アズ、チームルームに避難させて良いか?あと、ルームにロックかけてないよね?」
「私のチームルーム? いいけど?メンバーか、同盟チームのメンバー以外は入れないんじゃぁ?」
「いや、それが入れるんだ、チームロビーか、ルーム前の広場までだけどね」
「へー、アップデートしたんだー、運営、頑張っているのな」
「入れそうにない場合は、アズのチームルームに移動して」
「初めての人は、Azulか、機動歩兵というチーム名で検索して移動して」
「はいはい。後が詰まるから、移動が先、質問は後」
おおー、ヴァルは凄いわ。きびきび手際良く指示を出してる。あいつ何かその手の職業なのかな?
「ところでアズ、キャラの手先が、蒼く発光しているのには、気づいているよね?」
「え?!」
「……気づいて、いなかったんかーいっ!」
「アズらしいと言えば、アズらしい」
「基本、アホの子だからなぁ、アズは」
「五月蠅いよ。おお!光っちょる!何ぞこれは?」
「それでねアズ、リアル世界で、自分の手のひらを見て」
アズ、驚くだろうなぁ……。私も驚いたからなぁ。
リアル世界で、手のひらを見る?
……何か居る、いや、光っている。瞬きせずに画面を見過ぎた残像だな、これは。ちょいと目薬を差すか。
さて、もう一度、じっと手を見てみよう。ああ……働けど働けど我が暮らし楽に、ではなくて、……左の手のひらが、おかしいよな、やっぱり。
手のひらで、100円玉大のお星さまが、蒼色に発光しながら居住権を主張していらっしゃるのは、気のせいじゃないよなぁ……。
「あ、うごいた」
「やあ、アズお帰り」
「結構、短めで帰ってきたな」
「あの……、手のひらに蒼いお星様が、いらっしゃるんですが?」
「それねー、ログインすると出るのよー」
「キャラの手先も蒼色に発光する、超ありがた迷惑な仕様です」
「ログインしたら光る?」
「そう、ログインしたら、お星さまが光りだすのよ」
何て言うトラップ!?ログインすると手のひらに現れるとは、孔明の罠か。
しかしまた、これは綺麗に光るっているなー。向こう側が透けている……という訳でもないのか。どうやって光っているんだろうか?
それよりも、明日の通勤の時とか、会社の中で、どうするんよこれ?このままって訳にはいかないし……、包帯でも巻いて誤魔化すしかないよな。
「お金持ち、宇宙船持ちの印が手のひらにあったろう?」
「なんのこっちゃい?」
「ひとりの馬鹿がTVで自慢げに公開してくれたおかげで、手のひらの蒼いお星さまは、その目印になってしまったのよ」
「ちょっと、ニュース検索してくる」
「いてらー」
「馬鹿か、こいつは。何をしてくれているんだ……」
検索するまでもなく、TVモードに変えた画面、目立ちたがりのドヤ顔のアホが映っていた。
目立ちたがり屋というのは、いつどこでも現れる。そりゃそうなんだろうが、モザイク無しでインタビューを受けているこいつは……、脳みそあるのか!?
ああもう!ご丁寧に昨日のメールのコピーまで出してからに……。なぁにが「登録者」だ!中二病かお前は!手のひらの蒼い星を得意げに見せびらかせているんじゃないよっ!お前のにやけた顔、気持ち悪いんだよ!
そりゃそうでしょうよ!一夜明けたら、目印付のお金持ち、宇宙船持ちが大量発生したんだもんね!そりゃぁニュースになるでしょうよ!このアホのお陰で!
別にね、TVに出るなとは言わないよ、言わないけれどね。TVに出た後で、当人がどうなろうが、自己責任だけどね。与える影響っていうものを考えようよ!
ああ、そうか、考えられないから、TVにモザイク無しで出たんだよね。どう見ても、友人が多いタイプには見えないからね君は。
今まで目立たたなかった自分が、一気にスターになれる瞬間だもんね。ドヤ顔にもなるよね。
お前みたいな、与える影響を予測できない社会性のない奴は、誰とも喋るな。息だけしていろ!いや、息もするんじゃねぇっ!
ああもうっ!この星は絶対隠さないと!包帯あったよな……。居間の棚だったよな、救急箱は。
「ちょいと、ごめんよー」
「なに?お父さん?」
「ちょっと、包帯をね」
「包帯?どうしたの?怪我でもした!?」
「いや、手が荒れちゃってね、お風呂の後に薬塗って、包帯巻いておこうと思って。保湿クリームってこれかな?」
あの野郎……。もしあいつが近くに居たら、あのニヤついたドヤ顔を広辞苑で、それも、角の部分がピンポイントヒットする様にして、フルスイングで殴りつけてやる。
「おかえり アズ 大丈夫か?」
「何なんだ、あの脳みそのない物体は!あいつのキャラクター名分かるか?ブラックリストに入れるから教えろ!」
「まぁまぁ、あの脂ぎった子ブタは後で締めるにしても、世間には既に知れ渡ってしまった事実は覆せない。
特に、1クレジット=100円の換算レートでの資産化と、家族の母船への優先退避権利のことがピックアップされて、大々的に報道されているから、世間は大混乱だろうね」
「空の宇宙船については、余り報道されてないのか?」
「今の所、お空に一杯いる宇宙船については、画像が不鮮明な事もあって、ちょっとだけしか報道されてない」
個人の資産が増えるよりも、経済、軍事プレゼンスを崩壊させかねない、宇宙船の方が重要なニュースと思うのだけど。
この国のニュースは、バラエティと余り変わらないものな。仕方ないとはいえ、流石にそれはないんじゃぁないか?大丈夫か?!この国の報道は。
いや、今更か……。終わってたものなぁこの国の報道、特にTVは。
「容姿が変る事は、少しだけ報道されている。けれど、メインはやっぱりお金の話だね。さもしいというか、野次馬根性これ極まれり、というか」
「そりゃ、手のひらに燦然と蒼く輝く目印付の宝くじ当選者が、大量発生だからね」
まぁ、望遠で無理矢理とった不鮮明な宇宙船の映像より、身近な、お金の話の方がインパクトあるから、そりゃぁ、お金の方を報道するよね。
「親戚が増えるというか、いきなり増えたぞ……聞いた事もない親戚が……」
「死んだ母が、生き返りました」
「なんじゃ、そりゃ!?」
「私なんて、生き別れの母親が出てきた。親も知らない、生き別れの母親が」
「着信制限の設定をしていなかったから、顔も名前も思い出せない親友からの借金申し込みの電話が、一気にかかってきたよ」
「キャラの手も蒼く光るので、即対象者とばれるので、おかげでロビーは、阿鼻叫喚になっているんだよね」
「明日から、大変だ……」
会社の人間に、境界の彼方で遊んでいるって言わなくて良かった。ばれていたら今頃、私の電話も鳴りまくっていたんだろうな。
2018/11/7:編集ミスの修正と改行位置を直しました。(改行位置難しい…)
2018/12/9:文の体裁を直しました。
2018/12/16 文の修正に伴い長くなったため、その1とその2に分割しました。