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1-13-3A-8 Side Story-2 乾きの大地)内海

 丘と言って良いのかは微妙だが、小さな山程度はあるなだらかな砂礫(されき)の丘があるため、乾きの大地を海側から一望(いちぼう)することは出来ない。乾きの大地を見る為には、数時間を掛けてこの丘を登らなければならない。

 え?崩れて水が出てくる場所から行けば良いじゃないか?駄目だな。あそこは元々崩れていて、土壌(どじょう)(もろ)い場所なんだが、そこを住処にする蜘蛛(くも)が居る。あれは洒落にならん。数体ならまだしも、それ以上の数で来れられたら俺達だって生き残れるか分からん。

 更にこの丘に来る前に、いの一番にあの場所を調べようと船で近づいている時に、山鳴りが聞こえた。山鳴りは山崩れの前兆だ。あそこは早晩(そうばん)(くず)れる。そんな危険な場所に居られる訳が無い。なので、この丘を越えるしかない訳だ。


「目の錯覚(さっかく)じゃないよな?」

「だよね……」

「いや……これはまた……」

「ありえないでしょ……」

 乾きの大地をから吹き付ける乾燥した風を避けるため、丘の(いただき)から少し下った場所に野営場所を設置し、さて踏み込む前に乾きの大地を見ておこうと、丘を登り切り、(いただき)から一望した風景は、記憶にある乾きの大地の風景じゃなかった。

 距離があるので望遠鏡を使っても朧気(おぼろげ)にしか見えないが、無かった(はず)の高台の上には巨大な街と、その高台から滝になって落ちる水が見えた。

 何よりも、乾きの大地の一部が湖になっていた。


「じゃぁ、(くじ)の結果を言うぞ、エフラとダフト、インナと俺の順で不寝番だ。」

「ヴィンス、疲れているだろうに、遅い方の順番ですまんな」

「気にするな、そこまで疲れちゃいない」

 発見に驚いた俺達は、今すぐ丘を降りて水辺を調べる事を考えたが、今から降りても、降りきるまえに夜になる。何が居るのかさっぱりわからない水辺の近くで野営なんてのはぞっとしない。

 恐らく変容してしまっているので、この丘の上だった安全じゃないかもしれないが、水辺の近くにに居るよりはマシな(はず)だ。

 水がなければ、遠目に見える高台の上の街までは、1日(いちにち)2日(ふつか)でに移動できただろうが、この水じゃぁ無理だ。丘の頂沿(いただきぞ)いに移動して、途中、丘から高台まで、水の上の街道の様になっている尾根沿(おねぞ)いにあの高台の入るしかない。やれやれ、それだけで、3・4日は掛かるな。

 とりあえず、今日は何時も以上に注意しながら、いつも通りにペアで不寝番をするだけだ。


「ヴィンス」

「ん……エフラ。あぁ交代の時間か」

「うん。よろしく」

「何か変わった事や、気になる事はあったか?」

「気になると言えば、ダフトも言っていたけど、あれだけの水があるのに土蛙(つちがえる)があの水の周りに見えない。あれは普通の水じゃないかも」

「わかった、注意しておく。朝になったら起こすから早く寝ろ」

 エフラとダフトはもう寝たか。さてはて相も変わらず虫の音も、鳥の鳴き声もし無い嫌な場所だよ此処は。しかし、水分にあれほど貪欲(どんよく)土蛙(つちがえる)が水の周りに居ないとはね。

 明日は移動しつつ、あの水の調査だな。俺は魔道双剣士だが、解析スキルを持っている。こんな所でそれが約に立つとはね。


 朝日が昇ると共に皆起き出し、何時もより早く出発準備が終わり移動を始めた。やはり皆、あの街や、水が気になるんだろう。そりゃそうさ、俺だっていつも以上に早く準備を終えてしまったからな。

「あれはどうみても、そうだよな」

「……ああ。近づく時は気を付けろよ」

「分かってる」

 少し高揚(こうよう)した気分で移動を始めたが、それも丘を降りきり、水辺(みずべ)の近くに、無数の土蛙(つちがえる)の死体を見つけるまでだった。

 ()ず、水に見えるものが実は毒であることを疑ったが、解析(かいせき)の結果は「海水」だった。何かの間違いだろうと何度も解析(かいせき)をし直したが、海水だった。

 何で、こんな内陸に海水が有るんだ?それもちょっとやそっとの量じゃない。見渡す限り広大な内海(ないかい)が出来ている。

 じゃぁ、土蛙(つちがえる)が死んでいる理由は何だ?周りに毒の空気でもあるのか?!と思い(あわ)てて解析(かいせき)したが、そんな物は無かった。

 じゃぁ何か別の何かが襲ったのか?とこれまた(あわ)てて魔道銃士のインナの気配(けはい)探知スキルで周りを探知したが、何も居なかった。

 となると、とりあえず死因を確認しない事には水辺にも近づけないので、土蛙(つちがえる)の死体を持ってくることにしたのだが、籤運(くじうん)が素晴らしく良い俺は、その光栄に(よく)することになった訳だ。

「余り気持ちの良い姿じゃないな、これは」

「ああ、焼け(ただ)れている様にも見えるな」

 持ち帰ってきた土蛙(つちがえる)の表面は何かで焼け爛れた様になっていた。しかし周りに毒物の類は一切なく、あるのは海水だけだ。何が土蛙(つちがえる)を殺したのだ?


「まさか海水が奴等には毒だったとはねぇ」

「でも、考えたら海辺(うみべ)の近くに居なかったんだよね、土蛙(つちがえる)って」

「だよなぁ」

「灯台下暗しってこの事だねぇ」

「……しかし。気持ち悪いな、この光景は」

「うん……光景もそうだけど、(にお)いもさ……」

「私……吐きそう」

「俺もだ……」

 エフラが海水を煮物に使おうと()んで来たのが事の始まりだった。俺が解析(かいせき)した結果、別段何の毒でもないので、利用しようとしただけだ。

 バケツにいれた海水をフヨフヨと浮かばせながら水辺(みずべ)から離れたこの岩場に戻ってきたときに、運が良いのか悪いのか、土蛙(つちがえる)とご対面した訳だ。

 何故かは分からないが、恐らく空腹だったのだろう。土蛙(つちがえる)はエフラから逃げるどころが襲おうと近づいて来た。

 まぁ、襲うといっても例の(ごと)緩慢(かんまん)な動きなのでどうとでもなるのだが、そこでエフラが、フヨフヨと浮かべていたバケツを土蛙(つちがえる)にぶつけるという謎の行動をしたのだ。結論を言えば、大正解だった。バケツの海水を()びた土蛙(つちがえる)は、海水に焼かれ、のたうち回った挙句に死んだ。

 のたうち周り死ぬ姿を見るのが正解かどうかという議論はさておき、皆その光景に呆然(ぼうぜん)として、何が起きたのか最初は理解出来なかった。土蛙(つちがえる)にとって海水は毒どころか、致死性の液体等と誰も知らなかったのだから、それは当然と言える。

 焼け(ただ)れて死ぬ土蛙(つちがえる)を見るというのは、余り何度も見たい光景ではないけれど、俺達は実験をすることにした。

 何匹もの土蛙(つちがえる)に濃度を変えた海水を掛ける実験を続けた結果、少し塩気がキツイな?と思える濃度で土蛙(つちがえる)を殺せはしないが撃退することが出来、海水を少し薄めた程度の濃度だと殺せることが分かった。

 まぁ、その結果、何とも言えない土蛙(つちがえる)が焼け(ただ)れた(にお)いが広がる、大虐殺の跡が目の前に広がっているわけだ。


「おい、そろそろ水辺から離れて岩場に行くぞ」

「おう」

「わかった」

 俺達は幸運であり、不幸な訳だ。この海水の脇である限り、あの鬱陶(うっとう)しくも馬鹿に出来ない土蛙(つちがえる)に襲われる心配は無い。しかし、この海水の中に何が居るか?どんな魔物が居るのか、俺達は全く分からない。そりゃそうだ、こんな内海があるなんて知ったのは、世界の中で俺達が始めてなんだから。

 おかげでインナの気配探知スキルを常時使いながら移動するしかない。しかしスキルの連続使用は精神的な疲れを伴う。今のインナの様に注意力が散漫(さんまん)になってしまうので、適度な休憩が必要だ。

 問題は、水辺から離れた岩場に行くと、海水は怖いが水分摂取に未練のある土蛙(ちちがえる)と遭遇する確率が()ね上がる。ま、水辺の(そば)にいて、訳の分からん何かに襲われるよりマシか。

 

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