1-13-3A-6 星への道)誰も居ない
ランタンを見つけた。ポンチョを探し薄暗い店内を歩いている時に、幾種類かのランタンが置いてある棚が目に入った。
線の灯りの懐中電灯より、周りに広がる面の灯りのランタンがあれば、夜の部屋の中も絶対に過ごし易くなる。これは持って帰らないと。
でも、どれにしよう。燃料を入れる普通のランタン。えるいーでぃ?なんか乾電池で光る懐中電灯の変形のランタン?なんじゃろか?懐中電灯の親戚かな?
LEDランタンは、普通のランタンより軽いし、燃料も漏れないけど電池が必要。普通のランタンは、ランタン本体はどうかとして、燃料の缶が重い。
考えてみれば、室内で火のついたランタンを灯したまま、寝てしまうのは危なすぎる。室内はLEDランタンで決定。といって、燃料式のランタンを持ち帰らないのも勿体ない。よし、両方とも持って帰ろ。
さて、後は何かないかなと見まわせば、鉈やナイフが入ってる陳列棚をみつけた。こんな物を使う状態ならない事を祈るけれど、この変な世界では何が起きても不思議じゃない。だから、持っておくことに越したことはない。
そう言い訳しながらベルトで腰に吊るした鉈が妙に重い。
「もし、安全ならば高い場所から周囲を観察して、自分が今どのような状態の場所に居るのか、もう一度確認しなさい」
そろそろ、お店を出ようと思った時に棚にある双眼鏡を見たときに、お爺ちゃんが言っていた事を思い出した。水や食べ物を確保したら、周りをもう一度確認しろって。
そういえば、ここに来る途中にやたらと窓の多いオフィスビルが見えていた憶えがある。帰る途中に在るのか無いのかを、もう一度確認しておこう。
在ったら、中に入れるのかどうかを後日に確認に行こう。今日?今日は無しかな。そろそろ、体調が悪くなってもおかしくない。今日は早く帰らないと。だから実行するのは、3日か、4日後。こればっかりは仕方ない。さて、その前に、持ち帰る物に忘れ物は無いかを確認しないと。
そして、気付けば昨日と同じパターン。欲張りすぎて大量の荷物になってる。私には学習能力が無いのかも?でも、馬鹿じゃないから!
はぁ……この重い荷物をまた階段で運び上げる事を考えると、少しげんなりする。けれど、今日をがんばらないと後で困る。今日は、がんばりどころ。
予感通りと言うべきか、ホテルに戻って暫くすると、定期体調不良がいらしゃった。こうなったら、ゆっくりとするしかない。というか何もしたくないし。
なんだかんだとベットでゴロゴロして過ごし、3日目のお風呂の何て冷たく、でも何て気持ちの良かったことか。
言い訳しておけば、単にゴロゴロしていただけじゃない。家族に教えられた事を、うつらうつらしながら思い出していた。
「遭難したら動くな。助けに来た人間がお前を見失う。だが、沢に居るならば、直ぐに沢からでて高い場所に移動すること。雨が降ったら死ぬぞ。あと、動くなら高い場所に移動してから、周りを確認してから動くこと」
さて、今日はオフィスビル登頂の日。この場所がどんな場所なのか確認するために、出来るだけ上の階に登って周りを観察しなければ。
ビルに登るにあたっての注意事項はひとつだけ。屋上に出ない事。映画あるあるの、屋上にでたら階下に戻るドアが閉まっていて、挙句に鍵がかかってしまって中に戻れない。これは絶対に避けなけならない。
そんな馬鹿みたいな話は早々ない?そうかもしれないけれど、この場所に居るのは私だけ。誰かに助けを求める事が出来ない状態で、リスクは犯せない。屋上で中に入れないまま餓死とか、ひと思いに飛び降り自殺とか、笑えない。
窓も多いから、そこまで薄暗くはなく、屋内から窓越しでも十分に周りは観察できる筈。
「うん。どっちが北か南か分からないじゃん」
途中からは半ば意地になってた。このビルにも当然の様に電気は来ていなかったので、エレベータは使えない。LEDランタンを片手にビルの内階段を、えっちらおっちら登ってきた。
5階迄は余裕、10階迄は平気、15階で急に疲れだし、20階迄は意地で頑張った。子供だろうが、何だろうが疲れるものは、疲れる。はぁ、しんど。
周囲の観察の前に方向を確かめようと、窓越しに見える太陽に時計の短信を太陽に向け、短針と数字の12の間が南。この方法で南北を見つけ様とした時に、南北が分からない事に気づいた。
大体、私は北半球、南半球のどっちに居るの?この星の自転の向きは同じ?考えだしたら切りが無いので、とりあえず日本に居たときと同じとして東西南北を決めた。要は開き直っただけ。只でさえ変な場所に居るのに、ごちゃごちゃ考えたって何の意味も無い。
決めた方向、北北東の方向に例の光の柱が見える。よく観察しようとしたけど、長い開いた見ていると目がチカチカするので、諦めた。
南以外の方向全てに、東京に居たときには無かった高い岩山が連なっているのが見えた。因みに富士山は欠片もその中に無かった。
北西の方向の岩山に、街に向かって流れる滝が見える気がするけど、少し遠くなので確信は持てない。けどもし滝なら、お水は何とかなると言う事だ。
南側に岩山は無いけれど、植物が一切見えない乾燥した土地が広がり、その向こうに他の方向の岩山より緩やかで、ゴツゴツしていない低い小山が見える。
囲まれた岩山にめり込む様に存在するこの街は、この街の少し遠く離れた場所が崩れ落ちているのが見えることから、高台に在るんだと思う。
崩れ落ちている場所が見えるということは、私が居る場所はこの街の端の方なのかもしれない。
端の方ということは、いつここが崩れてもおかしくないということ。拠点を移動することも頭の片隅に入れておかないと。
ビルの上から周りを見まわして、分かった事はよっつ。
ひとつ、この街の外に脱出するのは無謀。南側以外を囲む峻険な岩山を越えるのは無理。となると南側しかないけれど、食料云々の前に水の確保が必要。今の私の能力で、あの乾いた大地を踏破出来るとは思えない。将来は出来る様になるのかもしれないけれど、今は我慢。
ふたつ、植物ひとつ見えない乾いた大地に食料があるとは思えない。食料は恐らくこの街の中でないと手に入れらない。
街の中で見つける保存食料が無くなる前に、じゃが芋とか、さつま芋を見つけないと。見つけられなかったら、将来は飢え死に一直線。
大丈夫、絶対に見つけられる。大丈夫、必ず見つけ出せる。
みっつ、誰も居ない。誰かが煮炊きしている煙ひとつ見えない。見つけられないだけなのかもしれない。未だ諦めちゃ駄目だ。これだけ大きな街なんだから、絶対に誰か居る。誰も居ないなんて在り得ない。
よっつ、助けの飛行機も、ヘリコプターも、船も何も見えない。きっと、別の場所を探しているからに違いない。助けは絶対にくる。私は見捨てられてない。
分かってる。盛大に現実逃避しているのは、自分でも分かってる。けどそれを認めたら心が折れて生きるのを諦めてしまうだろうから、絶対に認めない。
私は生きるんだ。生きて家族の下に還るんだ。絶対に還るんだ。




