1-13-3A-4 星への道)着替え
私にだって分る。伊達にSciFオタクと言われる私じゃない。ここは普通じゃない、ここは私が居た世界じゃない。子供の戯言云々じゃない。ここは私が居た世界とは違う、だって昼も夜も全く違う。
明るい時は、乾燥はしているけれど、暑くはないけれど寒くも無い丁度良い感じの気温。だけど太陽はどう見てもふたつある。大きいのと小さいのでふたつ。ああいうのを連星って言うんだったっけ。
暗くなると、私が知っている月より大きな月が霞で少し薄くなった蒼色の夜空に浮かび、さらに昼間よりは明るさが弱まった遠くの空から下に降りてきている光の柱が夜の街を照らしているお陰で漆黒の闇じゃなくて薄暗い。
それはそれで、助かるけれど、それが何だったの。あんな光の柱なんて、私の居た世界にはなかった。
誰か居ないかと走り回って探していたお陰で、薄暗くなってきているのに気づくのが遅れた。
ただでさえ薄暗い部屋の中が更に暗くなる中、これは拙いと慌てて探しても、碌なものを見つけられる訳が無い。何とかクラッカーと缶ジュースを手に入れてお店から出るので精一杯。
皆を探して走り回っていた時に、ベッドが有ったのを覚えていた駅舎の事務所の中に駆け込み、電気のスイッチを入れたけど電灯は点かなかった。
焦って見まわせば、入口の横の棚の上に大型の懐中電灯があるのが目に入り、それを掴んでベッドに入り込んだ。
外が薄暗い状態で本当に良かった。完璧な暗闇だったら、事務所にも辿り着けなかったし、懐中電灯だって見つけられなかった筈。
薄暗くなると此処まで寒くなるとは思っていなかったので、暖かい服なんて探していない。もし外が完璧な暗闇になってしまって事務所に辿り着けていなかったら、秋口の服装でしかない私は下手をしたら凍死していたかもしれない。
私は幸運にも事務所に辿り着けたし、懐中電灯がも見つけられたし、事務所のベッドには毛布があった。毛布に包まる事が出来たので、少し寒い程度で済んでいる。本当に助かった。
さぁ、クラッカーだけだけど、ご飯を食べよう。懐中電灯の灯りの中で食べるクラッカーは、なぜだか湿っていて、いつもより塩味が強く感じた。
「歯磨きの前に、お水探さないと……」
怠い。寒さのせいでうつらうつらとしか出来なくて、まともに寝てない。
ベッドの上で寒さに耐えながら丸まっていると、外が明るくなってきているのに気づいた。朝が来たんだと思った途端に、口の中の粘つきが気になりだした。
昨日は食べた後は、ベッドの上で寒さに耐えてまんじりともせずに夜が明けるのを待っていて、歯磨の事なんてすっかり頭から抜け落ちていた。
そりゃ歯磨きしていないんだもの、口の中も粘つくよね。
早く歯磨きをしなければと思った時に、お兄ぃが言っていたことを思い出した。
「生き残るために綺麗な飲める水を、先ず確保すること。人は水があれば、食べ物が無くても1週間程度は生きれる。けれど水が無いと、どれだけ食料があったとしても3日も持たない」
そうだ、先ずはお水の確保をしないといけない。街の中で探すときはどうするんだったけ?
家族は何て言っていたっけ?それを思い出そうと頭をフル回転させる。確か……お店もそうだけれど……。
確か大きな建物はお水のタンクが屋上にあって、そこからお水を配水しているから、何日かお水が使えるって言っていた。
駅舎の事務所の片隅にある流しを試してみると、お水が出た。だけど使えたのは良いけれどいつまでも使える訳じゃない筈。大事に使わなければ、駄目だ。後でどこかで水筒を探してお水を入れておかないと。
序でにコンロもあったので、コンロを試してみたけれど火は付かなかった。はぁ……、暖かいお湯は望み薄ね。でも、こんな状況なんだから、お水があるだけでも十分に有り難いと思わないと。
ガスが来ていないので、薄々そうは思っていたけれど電気も来ていなかった。そうなるとまた夜が来て、昨日の様に薄暗い程度なら良いけれど、暗闇になった身動きが取れなくなる。
幸いにも大型の懐中電灯はもう見つけてある。事務所の中を更に探すと電池色々種類があったので、懐中電灯の予備の分と、併せてウォークマン用の電池も持っておくことにした。
電気が来ていないので、当然TVが映る訳もないけれど、ラジオを見つけたのでスイッチを入れてみたけれど、どの周波数に回しても雑音しか出てこなかった。
せめてラジオ越しだけでも人の声とか音楽が聴ければと思ったけれど、それも無理みたい。はぁ……、音楽はこのウォークマンだけが頼り。本当、お兄ぃから強奪して使っていて良かった。
「何が要るか、書き出さないと……」
生存の為に緊急事態モードになり、子供らしさをかなぐり捨ててサバイバルに全てのリソースを割り振っている今の私は、自分自身でも傍から見て変だと思う。
けれど、そんな事どうでも良い。先ずは生き残る事を考えないと。いつか来るだろう救助隊をひとりで待たなければいけない。病気や怪我は命取り。救助されるまで、絶対に生き残るんだ。
私の今の所持品は、ショルダーバッグの中に、コンパスに、ルーペ。お兄ぃから貰ったアーミーナイフ、ハンカチ、生理用品、飴が5個、お財布、ペンとメモ帳、突き飛ばされた時に壊れてしまったのだろう、壊れた腕時計。お兄ぃのウォークマンにヘッドホン。
見つけた大型懐中電灯に予備の乾電池、ウォークマン用の予備の乾電池。
先ず要る物は、お水を入れる水筒、食べ物。後は防寒着。今の服装は、ハイウェストのデニムジャンパー、シャツ、ジーンズにスニーカー。これじゃ昨日みたいな寒い夜に耐えられない。凍え死んでしまう。食べ物の次に優先するのは防寒着。
その次は、怪我をしない様に軍手、雨に濡れて風邪をひかない様に雨具が欲しい。雨具は手がふさがるのは駄目だから、全身を覆える様なレインコートか何かが欲しいな。でもまずは、食べ物から探そう。
そうだ、何日此処に居るのか分からないけれど、記録を取っておかないと。今日は、ここに来て2日目。食べ物とを防寒着を探すのが最優先の日。
食べ物は、案外と簡単に見つける事ができた。灯台下暗し。地震とかの際の備蓄品があるかもとふと思いついて事務所の中を捜索してみたら、乾パンがなん箱も備蓄してあった。
これを食べ物と言ってしまって良いのかは分からないけれど、食べ物は食べ物。贅沢は言えない。贅沢は言えないけれど、乾パンは、口の中の水分を全て奪っていく食べ物なのが問題。お水が出て良かった。お水が無かったら食べられたものじゃない。
量だけを考えれば、これだけで半年は生きていける。栄養が偏って、死んでしまうかもしれないけれど。だから乾パン以外の食料も絶対に見つけないと。
でも乾パンを見つけたことで、兎にも角にも、防寒着や水筒を見つけるのに時間を割く事が出来る。私はこの街に詳しくない、使える時間が増えるのは良い事だもの。
「これも、持って行こう」
駅から離れない様に探してはいたけれど、街を知らない私が早々見つけることができる訳がない。結局、駅から少し離れたところまで来てしまった。
キャンプ用品やら、服の品揃えが豊富なお店を見つける事ができたのだから良しとしないと。
先ずは防寒着、上に羽織るジャンパーを見つけ、水筒を別の場所で見つけた時に気づいた。お鍋とか、ライターやマッチ、コップが要るんじゃないかと。
目に付いた物を取り敢えず籠の中に入れていく途中で更に気付いた。ショルダーバッグに入らないと。新しい鞄、例えばリュックが要ると気づいた
もうそうなると加速度的に必要な物は増えていき、お店の一角で見つけたリュックに、必要と思った服や靴下、寝袋等を付けたり、詰め込んだりしていた。
詰込みが終わった後に、ふと足元をみて思った。この場所で生き残るには今履いているスニーカーじゃ駄目なんじゃないかと思った。
見つけたトレッキングシューズに履き替え様とした時に気づいた。靴下を変えてない、シャツも変えてない。それどころか下着も変えてないって。
流石にこの店には下着は無かったけれど、少し手前のジーンズショップに下着が有ったのを思い出し、駅に戻る道すがら寄る事にした。
この店を出る前に、水道が出るかどうかを試してみた。この店でも出るので、もし駅で出なくなったらこの店に来よう。お水は在って困る物でも無い筈、取り敢えず見つけた水筒にお水を入れておこう。
「やっぱり試着室に行こう……」
下着だけを見繕うつもりだったけど、履いているのは生地の厚さがベラぺらのなんちゃってジーンズなのを思い出した。
また夜に震えるのは嫌なので、ちゃんとした生地の厚さのジーンズに履き替える事にした。
いざ新しい服を揃えて着替えようとした時に、お風呂にも入っていなくて体が汚れている事に気づいた。フロアを見回すと、タオルは売るほどあったので、洗面所で何本も濡れタオルを用意して体を拭くことにした。
誰も居ない事を良い事にフロアのど真ん中で服を脱ぎ、リュックに仕舞い、さて次は新しい下着をつける為に体を濡れタオルで拭こうと、着ている下着を脱ごうとした時に私は我に返った。
確かに今は誰も居ない。でも、それは見つけられなかっただけで居るかもしれない。濡れタオルで体を拭いている時に、誰か来たらオールヌードを見られるという事に気づいた。
今まで散々探し回っていた誰かが急に出てくる訳もないのに、急に恥ずかしさを覚えた私は、試着室で体を拭き、新しい下着、オーバーオールに履き替えた。
汚れたブラやパンツは、一度は捨てていこうと思った。けれど、この先、何が有る変わらない。申し訳ないけれど、お店のトイレで洗わせてもらった。
洗って濡れたパンツとブラは、リュックにひっかける様にぶら下げ、駅に戻った。誰が見ている訳でもないから良いよね?
ジーンズショップでチョコレートを見つけた。チョコレートってこんなに甘かったんだ。




