1-13-3-3 魔物達の巣
一部修正と並び変えです。
翌日の夕方、あの子達を見かけなかった。頭からあの子達の寄り添った姿が消えなかった。思わず妻にこぼしたら、妻も気にしていたらしい。
「一昨日居て、昨日居なかったのなら、今日の夕方は居るかもしれないね」
「でも、放置子だったら、入り浸られたりして良くないでしょう?」
「そうね、でもどうせ私達2人だけでしょう?子供2人程度なら何とかなりますよ、本当に放置子だったら児童相談所に連絡して終わりするつもり」
「それは、そうだけど……。あの子達だけじゃなくなったり、親が集ってきたらどうする?今の私は女性だから力がないよ?」
「その時は、警察に『女性2人しかいないんです!』って連絡したら、飛んできますから」
「それはそうだけど……」
「貴女も私も気になるというのは、何かのお告げじゃないかと思うの。宝くじにあたったのも、今私達がこの姿になったのも、何かそのためじゃなかったのかって思うの」
「そんな無茶苦茶な……」
「ええ、分かっているわ。気にしていて、見に行きたい理由を言っているだけって。だけどこの前もあの子達を見ている変な人が居て、声を掛けたら逃げて行ったの」
「ちょっと、ちょっと……。そんなこと聞いたら余計にほって置けないじゃないか」
結局、心配でソワソワする心に負けて見に行くことにした。
昔の姿なら、怪しい老年男性が幼女に声をかける事案が発生とSNS等で発信されるだろうが、今のこの姿だとその恐れはない。よし、行くぞ!
「……やっ!」
って誰だあのお姉ちゃんの手を掴んでいる男!
「貴方!何をしているの!」
お・お前そんなに怖い声出せたっけ?
「ぼ・ぼくは!この子達の親です!こ・公園で一緒に遊んだので帰るところです!」
「嘘言いなさい!貴方この子達の親にしては若いじゃない!それにこの前声を掛けたら逃げた人よね!貴方!」
「ち・ちがっ」
「まぁまぁ、とりあえず昨日なんで逃げたの?」
「だ・だから……」
「あっ!待て!」
逃げ足早いなぁ……。それよりも、私が何も言えない中、マシンガンの様にあの若い男を問い詰めていた嫁こわー。まぁ逃げても無駄だけどねぇ動画撮ったし。後で警察に渡そう。
あー…。駄目だ。お姉ちゃん必死で泣くのを我慢している。そりゃ怖かったよねぇ。でも、自分が泣いたら妹が泣くかと思っているのかぁ……
「貴女達大丈夫?怪我はない?変な人は何処かに行っちゃたからね?ほら大丈夫だからね?一緒に居たげるからね?」
おお!嫁!凄いな。ちゃんとしゃがんで目線を合わせて……凄いフォローだ。
ああっと!このままではお姉ちゃんが決壊する……えーと、えーと……同じ様に目線を合わすためにしゃがんで、でもって、えーと……
「あ、このチョコ食べない?皆で食べると美味しいよ?」
「ちょこ?」
「そう、チョコレート、はい、二人とも一緒にどうぞー」
「たべていいの?」
「そ、一緒に食べようね?一緒なら良いでしょ?」
「でも……知らない人から貰っちゃ駄目だって……」
「じゃぁ、お姉ちゃん達と一緒に4人で食べようか?それなら大丈夫でしょ?」
チョコを食べさせていると、嫁が何時の間に用意していたのか、ひざ掛けで2人をぐるぐる巻きにしていた。今日は5月半ばとは思えない3月初旬並みの肌寒さ、風邪を引かせたら駄目だしね。
「暖かい?」
「ちゃい」
おおっ!コクって頷いて可愛いねぇ。
流石というべきか、私の修行が足りないのか。嫁が少しずつ聞き出した内容は、胸糞の悪い話だった。
お母さんのお友達の男との人が来るときは、ここでお母さんが呼びに来るまで待ってないといけない。絶対に家に帰ってきたら駄目って言われている。
前の別のお友達の男の人の時に帰ったら、物凄く怒られて、暫く夕飯を抜きにされた、だから帰らない。
正直、この話を聞いた時、怒鳴り声を上げそうになった。子供達を怖がらせてはいけないと、必死に我慢した。嫁の視線に促されてそっと子供達から離れ、警察に電話したが、声を荒げないで落ち着いて電話するのが大変だった。
勝手な想像だけど、この子達曰く、お友達の男の人といる母親は、どうせ今頃盛っているだけだろう。なんで、こんなかわいい子供達を家から掘り出して、男と盛る方を優先するかなぁ……
サイレンを鳴らさないパトカーが婦警さんを乗せて現れ、子供達を引き取っていった。傍目には若い女性2人が子供を保護している姿なので、余り変な疑いはかけられなかった。
翌日近所の人達との井戸端会議で聞いたが、あの後、少し離れたアパートに別のパトカーと救急車が集まりだし何やら騒がしくなっていたらしい。
1週間位経った頃、あの時の婦警さんが我が家をパトロールの途中という名目で訪問してきた。内緒ですけどと、あの子達とあの子達の母親の事を教えてくれた。あの子達は幸いなことに、病気も障害も無かったとのことで、それを聞いたとき、本当にほっとした。あの子達の母親は、あの晩知人の男性と共にセックスドラッグに手を出した結果、ふたり揃って逝ってしまっていたらしい。恐らく心不全か何かじゃないかとの事だった。薬物ってのは、怖いものだ。
屑とはいえ、母親が死んでしまったので、親戚を探しているが、今の所あの子達には親戚は居ないらしい。
あの子達は施設に送られるけれど、ふたり揃って引き取られることは先ずないので、将来はバラバラになってしまうのでしょう。だけど、凄く遠い親戚や、引き取っても良いという知人が居れば別ですが、とこちらを強く見ながら話し、そして、また何かあれば連絡を下さいと、名刺を置いて帰っていった。
「なぁ……」
「ええ、私達には顔も名前も覚えていない、小さな姉妹を残して急逝した仲の良い知人が居たみたいですねぇ」
「ところで、仮の話なんだが、あの子達には私達を何と呼ばせればよいのだろうか?ふたり共女性だからねぇ?」
「そうね……仮の話ですけど、私がお母さん、貴女がママでどうかしら?」
安直過ぎる。もっと調べるべきだと言われるのはごもっともだ。私達も馬鹿ではない、直ぐには引き取りはしなかった。一応慣らし期間として、1か月一緒に暮らしてみてどんな子達なのかを確認した。
施設を疑うわけじゃないが、私たち自身があの子達を病院につれていき、検査もした。
夫婦2人で毎日淫靡な日々を暮らすのもありだが、少しばかり手のかかる、少し目を話すと心配で、苦労の絶えない小さな家族が増えるのも、また面白いと思っただけだ。なに、一寸した気まぐれだ。宝くじの幸運を少し分ける人間が欲しかっただけだ。
宝くじの当選は天の恵みだったと心底感謝している。
天の恵み?いや実は、魔物の罠だったのかもしれない。
あの日私達は魔物に魅入られた。
新しい我が家は、一寸目を話すことが出来ない、手のかかる、心配ばかりさせられる小さな魔物達の巣になってしまった。
刺激的な新しい人生。
ふむ、それもまた悪くはない。
「まぁ~まぁ~っ!みんなで、おふろのじかんだよって、おかぁーさんがよんでるぅ~!」
「はい、はい。今行くから一寸待ってね?」
「はい、は、いっかいだけなんだよ!」
ん?夜はどうしているのかって?それは非常に愚問だと思う。
淫靡な世界に目覚めてしまった、おさるさんの私達が我慢できるわけもないでしょう?子供達が寝静まってから、一番遠い部屋で声を押し殺して……。
毎夜、中々にスリリングな世界が続いている。
人生とは中々に思う様にいかず、不自由なものだ。
けれど、またそれも楽しいものだ。




