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1-13-3-2 魔物達

一部修正と並び変えです。

 魔物に魅入られた私達夫婦の生活は、激変してしまった。Abyss Coreによる変異にも色々ある。私の様に全てが変ってしまうのは同じ変異のなかでも若干珍しい。

 私達だけではなく、担当女医さんもエライ事になっている。未だに国内で発生する変異に対応できる数少ない医師として、ARISが運営する病院に勤務している。

 成果だけを奪われ、砂を噛むような思いをした人間はARISにも多い。ある医師が所属する医療機関だけ、ARIS関係の医療許可、申請が下りない。そんな爆弾の様な医師やそれを指導した上層部を雇用する医療機関は居ない。成果を奪おうとした医師や上層部は、伝聞だがそういうことらしい。


 医者達の騒ぎを他所に私達はエルフィン、巷ではそう呼ばれだしているらしい変異種となった。夫婦揃ってと言うので既に珍しい所に、更に私はその中でも稀有な性別変更種。男性から女性に変異してしまった。

 あの診断から暫くして、私達の体は急速に変異していった。若返り、スタイルが変化していくのは、夫婦共に同じだった。私の場合はスタイルが変わるという範疇から著しく逸脱した結果になったのだけれど。


 変異は大抵、寝ている間に終わっていた。昼間も変異しているが、夜の変異に比べれば小さな変化だけだった。

 変異には短期間で終わるもの、何日もかかるものがあった。

 短期間で終わったものの例では、体毛の変化、ムダ毛、所謂脛やら、腕やら、腋毛そして陰毛が無くなった。

 寝間着を脱いだ瞬間に、毛の塊が落ちたとき焦りはしたが、動揺まではしなかった。

 女性への変異が進むにつれて、髭の生える量が激減し、髭剃りの頻度が減っていた事を単純に喜んでいた私と違い、女性のプロである妻曰く、ムダ毛確認との処理を定期的に行う必要が無くなった事を非常に喜んでいた。

 下の毛が無いというのは妙にスースーして、妙に卑猥に見えて、慣れるまで少し時間がかかったが、ただそれだけの事だった。


 変異が長かった例としては、顔が小さくなり、顎の形も小さく変わり、その結果、歯が抜け、そして新しい歯が生えてきた。

 朝、上半身を起こそうとすると眩暈(めまい)が酷く、思わず枕に手を突いたとき、硬い異物を手のひらに感じた。ふと手元を見ると歯が散乱していた。ふらつく体を動かし、鏡を見れば口の中の歯が殆ど抜けていた。顔つきも変わっていたのだろうが、歯が抜けたという衝撃の方が大きかった。全てが生え変わるまで10日程かかったが、正直生きた心地がしなかった。

 顔つきが変わり、歯も生え変わった後に、今度は妻が同じ様になった。妻の場合は、私という先行事例があるので余り動揺はしていなかった。


 妻は徐々に若返るだけ、私は若返りもそうだが、刻一刻と女性型に変異が進んでいった。胸が膨らみ始めた時は、女性化は本当だったなと、諦めに似た感情を持った。

 胸の場合と異なり、刻一刻と生涯の友、男性生殖器が物理的に小さくなっていくのは、覚悟していたとはいえ正直堪えた。

 更に、男性生殖器が小さくなるだけではなく、女性生殖器が形成され始めた時は、来るものが来たと思った。


 男性生殖器が消滅して2・3日の間、明らかに、もう女性生殖器しかないのだと頭では理解していたが、私はそれを認める事が出来なかった。

 意を決して風呂場確認した時、女性生殖器のみしかない自分と、自分でそれを触った時の感触と、陰部が触られているという感覚に現実を突きつけられ、声にならない悲鳴をあげていた。


 翌日、妻と共に何時もの女医さんの診察を受けた。結果は分り切ったもので、男性生殖器の完全消滅と、女性生殖器のみの存在を再確認しただけだった。あの日診察結果を聞いた後、私はどうやって家に帰ったのか覚えていない。ただ妻がずっと手を握っていてくれたことだけを覚えている。

 あの晩、妻は私を一晩中抱きしめていてくれた。

 あの時、妻が寄り添ってくれていたからか、元々素養があったのか、何とかこの変異を受け止められたのだと思う。


「ふふっ。あの日、貴女ったら目に涙を浮かべて震えていたんですよ?本当に可愛らしかった。お布団の中で思わず抱きしめたら、ぎゅーぅと、フルフル震えながら、しがみ着いてくるんですもの。もう可愛いったら」

 ああ、一生言われ続けられる黒歴史を作ってしまった……。


 先生からも診断書を貰っていたので、会社に復帰するのは簡単だったが、夫婦揃って早期退職する事にした。金銭面の不安を宝くじが消してくれていたからこそ出来た事なのは理解している。

 けれど、あのまま居たとしても、やはり直ぐに退職する事になっていただろう。男性社員から見られるというのに、私が耐えられなくなってきていたからだ。

 妻は妻で、若い体に戻った事で不倫の誘いを匂わされることが多くなり、辟易していたらしい。元男性として、言い寄ってきた男性陣を庇う訳ではないが、最近の嫁は若さと色気が同居している様なオーラを出している。思わず言い寄ってしまう気持ちも分からないではない。


 あれやこれやとあったけれど、早期退職を機会に、エルフィンになる前の私達を知らない、しがらみや噂から逃れるために郊外に転居した。

 何故か誰も買わず、値段だけが下がっていた中古住宅を購入する事ができたので、大きな湯舟と広い洗い場が自慢のお風呂の5LDKにリフォームした。前の持ち主が首でも吊ったのかと思ったが、そんなこともなく。不動産仲介業者曰く、何年かに1回、こんな案件がでてしまうらしい。売り手は堪ったものではないけれど、買手の私達夫婦にとっては宝くじ当選に引き続き、幸運な結果だった。

 転居してきたこの場所は、前の場所の様にひそひそとこちらを窺う様に話す人達は、無くなりはしないが少ない。話しかけられはするが、大変だろうけど頑張ってと言うものが多い。

 言い方は悪いが、低所得層が居ないわけでは無いけれど、ある一定状の所得層がある地域、マナーの存在する地域に越してきて良かったと実感している。


「女性型に変異した事で、精神が引っ張られる可能性があります。恐らく脳の構造等も変わっていると思うので、可能性としては有り得ると思っておいて下さい」

 姿形が変ろうとも精神構造まで変わるとは思えなかった。一種の性同一性障害の様なものと思えば、精神が早々引っ張られるなんてことは起きないだろう。これだけは、どうも納得出来なかった。


「なぁ、今日先生があんなことを言っていたけど、結局嘘だったな。今こんな姿で2人して寝転がっているんだから」

「何を言い出すかと思えば……。今はそうかもしれないけど、将来は分からないでしょう?」

「まぁ、それはそうだけどね。ふたり共とんでもなく、そそる体つきに代わってしまったけれど、精神が早々変わるとは思えないけどねぇ? ところで、ここまで男女で感覚が違うのか……。これは大変だなぁ」

「ふふふ……。夜は始まったばかり。一杯教えてあげましょう。そうそう、戸建てとはいえ、余り声をだしたらご近所中に聞こえてしまうから、さっきみたいにちゃんと我慢してね」

 妻としてから二十数年、なぁ?お前そんなに押しの強い女だったけ?


「貴方、いくら休みとは言え9時近くだから起きて、起きないとまた始めるわよ?」

「や、やめ……」

「あら?ちょっとおびえて隠す姿が可愛い。うふふ。お勉強しましょう、ね?」

 最近は昼夜蹂躙されている様な気がするのは、気のせいなのだろうか?


 女性として、精神はどうかとして肉体は女性として生きていく私を妻なりに気遣ってくれていたのだろうと思うが、私生活での私達は、前以上に密着した生活をしていた。

 強がっては居たが、私の精神状態は不安定だったそうだ。

 休日に2人で出歩くと、私の行動は何かに怯える様でそして、異様に男性の視線を怖がっていたらしい。

 このままでは、駄目だと思った妻は、先ずは私と居る時間を増やさないといけないと思い、必要以上に密着した生活を心がけたらしい。

 密着してくれていなかったら、私は持たなかったかもしれない。妻にはこの後一生頭が上がらない。ああ、考えてみれば男性時代も頭が上がらなかったのだから何も変わっていなかったか。


 時間は掛かったが、妻による蹂躙という名前の強制リハビリにより、立ち振る舞いだけでも少し粗雑な女性程度には振る舞えるように、少しは自分ひとりでも歩き回る様になった頃、家の近所の公園で気になる子供達を見かけた。春の終わりとは言え、まだ夕方からは肌寒い日が続いている夕方遅くの公園、その滑り台の下のトンネル見たいな場所に、幼稚園の年長組くらいと年少位の姉妹が寄り添って座り込んでいた。


 気にして見てみれば、2日に1度程度の頻度であの子達が居る事に気付いた。ネットで聞く、放置子というやつかもしれない。下手に声を掛けて、家にたむろされても困ると声を掛けなかった。

 晴天が妙に続いた5月も半ば、久方ぶりの雨で冷え切り、肌寒いその日の夕方、あの子達を見かけた。何時もならどうせ放置子と忘れてしまうのに、その日の夜、妻の横でウツラウツラし始めた頃、小さなお姉ちゃんが小さな妹を抱き抱える様にしていた小さな背中を思い出し、思わずコンビニに買い物に行くと嘘をついて公園を見に行ってしまった。あの子達の姿は無かった。


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