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1-11-1 航宙艦)遥か彼方

 恒星間こうせいかん銀河間ぎんがかん航行こうこうする航宙こうちゅうかんが用いるのは、進行方向に対する連続的れんぞくてき局所きょくしょ空間くうかん歪曲わいきょく及びその重力変異による航法こうほうひらたく言えばワープ、それで飛び抜ける。

 ワープと言っても、我々がもちいてるワープは、連続加速を続けている航宙こうちゅうかんをイメージしてもらった方が良いかもしれない。

 昔のSFでえがかれていたような、宇宙空間に設置されたようなゲートや、一時的いちじてきに空間をゆがませ作り出した疑似的ぎじてきなゲート通過し、一気いっき空間くうかん超越ちょうえつを行い、一瞬でその場から消え去るタイプではない。


 我々(われわれ)探査たんさ艦隊かんたいは、毎時1000光年こうねんの速度を出すことも可能だ。だが、それは緊急きんきゅう出力しゅつりょくであって、通常つうじょう出力しゅつりょくじゃない。

 既知きち航路こうろではない、未知みちの250まん光年こうねんの場所におもむくと、そんな速度は出せないし、それなりに期間を要する。航路こうろの安全確認や、予定外のみちなどの結果、巡行じゅんこう速度そくどは、毎時まいじ200から300光年こうねん出ていれば良い方だ。


 あとで、目標もくひょう星系せいけい外縁がいえんに到着する。約250まん光年こうねん往路おうろ長旅ながたびあとわずかで終わる。長かったのは距離が理由なのか、艦内かんない徘徊はいかいするゾンビとした学者さん達のあそこに寄り道しろだの、到着とうちゃくしないのかなど連日れんじつ連夜れんやのご要望ようぼうえていたからなのか。まぁ、それもあとで終わる。

 そう言えば出航しゅっこう前に耳にした出力向上型の新型エンジンは完成してのだろうか。もし完成しているのなら、復路ふくろでランデブーしてでもエンジンを換装かんそうしなおしたい。というかお願いだ、持ってきてくれ。復路ふくろ何故なぜ帰るのだとか、寄り道しろだのと延々(えんえん)と言われると思うとえられない。


「VOAと戦っていた種族が居た模様もよう

 我々(われわれ)が地球からはる彼方かなたのこの星系せいけいまで来たのは、自身の学術的と言うよりは、個人的な趣味しゅみ衝動しょうどうに従いマシナー(機械種)を押し倒していたある学者(奇人)のせいだ。

 ではなくて、世界各国せかいかっこくがVOAとの生存せいぞん競争きょうそう狂奔きょうほんしていたころ、人類がVOAと戦い抜く情報を探査たんさするという崇高すうこう使命しめいかんき動かされ、寝食しんしょくを忘れ母船のマシナー(機械種)達の記録を調査していたある学者が、マシナー(機械種)達が本調査をしていない種族がVOAと戦っていた可能性があることを示す情報を再発見さいはっけんした。


 あれ?ときおり押し倒し……?まぁ良い、うちの艦でも良くあることだ、気にしたらけだ。他国たこくの艦ならだしも、我がうるわしき弧状こじょう列島れっとう出身者のこの艦は、多数のテラン(人類)男性と、同じく多数の女性型のせい擬態ぎたい多用たようがたマシナー(機械種)が搭乗している。そんなうちの艦で、そんなことを気にしても無駄むだだし、野暮やぼというものだ。


 再発見されたこの情報を、マシナー(機械種)達が無視むししていたのには理由がある。もしその方向にもVOAが居れば、 辺境へんきょうである地球のはるか向こう、辺境よりも向こう未知の辺境にもVOAが存在そんざいするとすれば、地球のある銀河の辺境へんきょう今頃いまごろVOAに蹂躙じゅうりんされている可能性が大きい。

 それどころか、辺境へんきょう方面ほうめんからVOAに浸食しんしょくされていき、いくつかの種族がすでほろびている可能性が大きい。

 しかし実際の所、つい最近まで地球にはVOAは存在そんざいしなかったし、マシナー(機械種)延々(えんえん)と調べてきたVOAの分布ぶんぷ傾向けいこうからも、地球ちきゅう近傍きんぼう星域せいいきはVOAの分布ぶんぷ限界げんかいてんに近い。だから地球ちきゅうよりはるか向こう側にもVOAが居たなどとは考えられなかった。


 可能性の話とするならば、地球ちきゅう星系せいけい近傍きんぼうではVOAの分布ぶんぷりつは低下したが、地球ちきゅうはさんではるか向こう側ではVOAの分布ぷんぶりつ上昇じょうしょうした。

 地球の向こう側のある文明と闘っていたVOAは地球ちきゅうがわには来なかった。だから、地球ちきゅうより内側うちがわの他の種族しゅぞくは、辺境へんきょうがわからVOAに浸食しんしょくされなかった。

 偶然ぐうぜん偶然ぐうぜんかさね合わせたよう状況じょうきょうが続かない限りり立たない仮説かせつであり、流石さすが仮説かせつだとしても無視むし出来る物と考えられた。


 そして、その情報は膨大ぼうだいな情報の海の中にうずもれ、テラン(人類)の学者がさい発見はっけんするまで誰にも見向みむきされなかった。他の種族がさい発見はっけんしたなら、先達せんだつと同じように可能性が低すぎるとして放置ほうちしただろう。

 しかし、わずかな可能性がにの問題に直結ちょっけつすること同族どうぞく同士どうしの血で血を洗う戦争でいやと言うほどみているテラン(人類)無視むししなかった。それどころか、可能性があるのであれば、それを調査するべきと声高こわだか主張しゅちょうした。


 マシナー(機械種)の経験からすれば、普通はその時点から調査の要否についての大議論が始まり、出発にいたるまでに年単位の時間がかかる。まぁ、我々(われわれ)テラン(人類)だって、普通はそうだ。生存の危機と思っていなければ。

 そうであっても、つめの先ほども有るか無いかの可能性なのに、わずか1か月後には遠征えんせいの準備を開始し、3か月後には出発する。相方あいかたいわく、テラン(人類)はイカレテいる種族らしい。お前……そのイカレテいる種族の相方あいかただぞ?


 準備期間3カ月の内、1か月は同行する学者達達の選別せんべつ大会たいかいだった。売り込み、推薦すいせんなどで、もう殺し合いが始まっても可笑おかしくない緊張きんちょう緩和かんわしたのは、公明こうめい正大せいだいちょう巨大きょだいあみだくじ。馬鹿ばかみたいな話、結局は単純たんじゅん一番いちばんだった。

 選別せんべつされた目を爛々(らんらん)と輝かせた奇人(学者達)、生存のためならはる彼方かなたへの突進とっしんいとわないテラン(人類)と、なぜか付き合うマシナー(機械種)各艦300人、総計600人は各々(おのおの)2隻の無人輸送船を引き連れた航宙こうちゅうかんユキカゼとメイスンに分乗ぶんじょう地球ちきゅうけんを出発した。

 途中とちゅう何か所かの星系せいけいに寄り道はしたが、約1年間の航行こうこうを続け、地球から約250まん光年こうねんのアンドロメダ銀河の伴銀河はんぎんが、くじら座矮小わいしょう銀河ぎんが星系せいけいに到着した。


 道中どうちゅうの1年間は、幸運と言って良いのか微妙びみょうだが何も起きなかった。毎日のVR訓練や、途中の星系せいけいへの寄り道が無ければ、非常に平穏へいおんな旅だった。今このときも地球でVOAと戦っている仲間達から見れば贅沢ぜいたくな話だし、射殺しゃさつもの贅沢ぜいたくな発言だが、平穏へいおん平穏へいおんだったのだ。そんな平穏へいおん日々(ひび)もやっと終わった。

 しかし地球を出て約2年後に帰還きかんか……、出て来るときは、各国かっこく必死ひっし大量たいりょう出現しゅつげんするVOAを駆除くじょしようと物狂ものぐるいで闘っていた地球はどうなっているのだろう。降下こうか同期どうきのあいつは元気だろうか。おれマシナー(機械種)伴侶はんりょしたと言ったらおどろくだろうか。いや、あいつことだ笑っておしまいだろうな。


 学者の先生達は、この星系せいけいに未発見種族の遺構いこうると確信している様で、くじら座(Cetus)方面の異星人なので、居たであろう異星人のことをセタシアン。この星系せいけいの事をセタシアン星系せいけいと言っている。

 個人的にはこの星系せいけいも、今まで寄り道してきた他の星系せいけい同様どうように何もないだろうと思う。仮に何かるとしても、何かしらの動植物どうしょくぶつ程度ていど生物せいぶつ汚染おせん防止ぼうしのためのドローン探査たんさを1・2か月程げつほどおこなう、平穏へいおん単調たんちょう日々(ひび)を過ごしたのちに地球に帰還きかんおそくても、2・3か月後には地球への帰還きかんにつけるだろう。


「この星は変だ」

 平穏へいおん日々(ひび)を過ごすのぞみは、ときを置かずしてもろくもくだった。マシナー(機械種)の記録も今から10万年周期も前の物だから、セタシアン達の遺構いこうほとんど無いのは理解りかいできる。地球では、人類の祖先そせんすら生まれてない時代。そんな時代の遺構いこうわずかであれ、風化ふうかせずに残っていただけで奇跡きせきだ。

 植物におおわれているのも理解できる。可笑おかしいのは、陸上りくじょうにも水中すいちゅうにも中型ちゅうがた以上の生物せいぶつが居ないこと食物しょくもつの関係で中型ちゅうがた以上の生物せいぶつ少ないのは理解できる。しかし一切いっさい居ないのはおかしい。

 この段階で我々(われわれ)警戒けいかいレベルを上げた。何故なぜなら中型ちゅうがた以上の生物せいぶつはVOAに駆逐くちくされた可能性があると考えたのだ。Core(コア)探査たんさ用の特殊とくしゅドローンを投入しVOAまたはCore(コア)探査たんさしたが、惑星わくせいじょうにVOAの姿は無かった。


「発達文明なら、星系内に何かあるかもしれない」

 思い返してみるなら、我々(われわれ)は少し意地いじになっていたのかもしれない。1年もけて此処ここまでやって来たのに、手ぶらで帰りたくなかった。

 違う、我々(われわれ)こわかった。セタシアンの遺構いこうよりも、VOAが居ない確証かくしょうが欲しかった。だから探査たんさ範囲はんい惑星わくせいじょうから星系せいけいないにまで拡大かくだいした。そして、らぬ行動はらぬ結果けっかを連れて来る。後悔こうかい先に立たずを身をって味わう事になった。

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