↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/188

1-9-5)こっちを見るな

 先進国と言われる国家が、易々(やすやす)と排外主義を実行する訳にもいかない。しかしこのままでは世界から孤立する。ARISの本部がある我国は孤立しても生きていけるが、孤立して生きていきたいとは思わない。

 封鎖の向こう側の大陸国家ですら、半島出身者を半島に強制送還し始めた。半島出身者の半島への追放が、世界の潮流になっている。それが正しいとは決して思わない。唾棄(だき)すべき所業(しょぎょう)だと思う。

 しかし、我が国もその潮流に乗らざるえを得ない時が来る。その時はあと僅(わず)かでやってくる。生き残りの為には、他国等はどうでも良いのだから。


 素直(すなお)な意見を言えば、半島出身者の半島への追放は、その根底はアジア系に対する差別意識があると思っている。正直(しょうじき)、これが欧米地域であれば、こうはならなかっただろう。

 この時代、人種差別等とは何とも時代遅れだと思う人も居るだろう。しかし、この時代であっても人種差別はある。欧米や中東地域では人種差別は世間(せけん)に当たり前の様に存在する。根源は余りに深く、どれだけ教育をしても無くならない。

 故に欧米では法で規制し取り締まるが、法を根拠に取り締まりを行うだけでも欧米は未(ま)だマシだ。中東地域に至(いた)っては、法律があったとしても、その法律は、有名(ゆうめい)無実(むじつ)であり何の役にも立たない。未(ま)だ法律で厳しく取り締まる欧米の方がマシだ。

 アジア系はどちらの地域でも差別をされる側、被差別者に分類される。法の秩序(ちつじょ)よりも、賄賂(わいろ)が幅を利(き)かせる彼等(かれら)が、我々アジア系に優越(ゆうえつ)感(かん)を持つとは、何たる皮肉(ひにく)かとも思う。


 世界は人種差別で溢(あふ)れ、そしてアジア系はそのカーストの中では下の方に属する。これは覆(くつがえ)しようの無い事実。だから、出血熱騒動の時、その元となった大陸と半島出身者への風当たりは殊更(ことさら)に強かったが、驚くに値(あたい)はしなかった。

 今までの世界なら、次に来るのはアジア系全般への風当たりが強くなっただろう。しかし、今回はそうはならなかった。理由は単純で、VOAに対して圧倒的に対抗できるARISの本拠地が我国にあったからだ。

 VOAを今までの兵器で倒すのは、非常に困難だった。VOAによる被害を可能な限り小さくするには、ARISの強力が不可欠だった。そして、ARISの本部は弧状列島の我国にあり、我国はアジアにある。

 下手にアジア系全般に差別意識が向いて、我国が臍(へそ)を曲げ、緊急援助を断られでもしたら大変だ。一度(ひとたび)VOAが出現すれば、街は破壊され、大量の死傷者が出る。人種差別と生き残りならば、天秤(てんびん)は生き残りの方に傾(かたむ)く。当然の帰結(きけつ)と言える。


 その様な状況で、アジア系全般への差別を一身(いっしん)に受けた大陸と半島出身者ではあったが、ここで外交力の差が、その後の明暗(めいあん)を分ける事になった。

 封鎖の内側の大陸国家の外敵(がいてき)は半島国家であり、封鎖の外側の国々の外敵は大陸国家と半島国家だった。双方で共通する外敵(がいてき)は半島国家であり、当然の帰結として双方から忌避(きひ)されるのは半島国家になった。


 大変な状況であるのは理解している。国境は封鎖され、行き来は制限されている。しかし世界から完全に断絶したとまでは言えない。それに最後は隣国に声を掛ければ、喜んで我国を助けにくる筈だ。それで何もかも解決する。彼等(かれら)半島国家は、本気でその様に信じていた。

 この彼等(かれら)の誤った認識は、我々の失態(しったい)の結果であり、反省点だ。我々は彼等(かれら)に優しかった。何を言われても助けてやった。

 彼等(かれら)の文化から見れば、目下(めした)の我々が、目上(めうえ)の彼等(かれら)に媚(こ)び諂(へつら)っている様に見えたのだろう。この点を矯正(きょうせい)しなかったのが我々の失態(しったい)だ。

 彼等(かれら)が我々に対して、意味不明の優越感を示したとしても、敢(あ)えてそれを間違いだと指摘して訂正しなかった。彼等(かれら)が我々の物を彼等(かれら)の物だと言い張っても、鷹揚(おうよう)な態度で済ませていた。

 例(たと)え彼等(かれら)に嫌悪感(けんおかん)を覚えたとしても、その感情を表に出す事はしなかった。思えば、ちゃんと感情を表しておくべきだった。

 我々の立場から見れば、彼等(かれら)は大陸国家との干渉(かんしょう)地域であり、彼等(かれら)が共産主義陣営に完全に組み込まれてしまうと、我国の存亡(そんぼう)の危機となる。絶対に阻止(そし)しなければならない。故(ゆえ)に、我々は彼等(かれら)の我儘(わがまま)に付き合っていただけなのだ。


 だからあの時までは、彼等(かれら)を母国に有無(うむ)を言わさず強制送還する事は、他国と比較して著(いちじる)しく低調だった。

 ゴブリン変異種への変化(へんげ)の噂(うわさ)は、VOAの出現とは異なる恐怖を世間(せけん)にばら撒いた。いつ何時(なんどき)、隣人が意思の疎通がが不可能な魔物、ゴブリンに変化(へんげ)するかもしれない。誰が、どんな条件で変化(へんげ)するのか、喧々(けんけん)諤々(がくがく)の議論が巻き起こった。

 尤(もっと)もその議論の殆どがマスメディアの報道を基(もと)にしたもので、その報道も世間(せけん)に広まった噂話(うわさばなし)と大差なく、何の役にも立たない、ただ単に人の恐怖を更に煽(あお)るだけの中身でしかなかった。

 噂話(うわさばなし)と言う物は、広がるにつれて話しが変質し、誇張(こちょう)されていく。我々はそれを十分理解していた。だから、それはそれ、これはこれの立場だったのだ。


 彼等(かれら)が何を思ってあの大使館事件を起こしたのか。事件後、我国の彼等(彼ら)に対する感情は坂道を転げ落ちる様に悪化し、誰も彼等(かれら)を庇(かば)わなくなった。自業(じごう)自得(じとく)と言えばそれまでだが、何故(なぜ)、最悪の瞬間に、最悪な行動をするのだろう。


 不運が重なり、残念な結果になってしまった。申し訳ないとは思っている。許してくれ。謝罪(しゃざい)の全(すべ)てが、反吐(へど)が出る程(ほど)に心の込もらぬ上辺(うわべ)だけの言葉(ことば)でしかない。

 誰も彼もが、自分達が同じ目に合わなかった事に胸を撫(な)で下(お)ろした。力が在(あ)る国は、力が在(あ)るありがたみを噛(か)み締め、力がある国の庇護下(ひごか)の国はその庇護(ひご)を選んだ自分達の選択の正しさに安堵(あんど)した。

 力があると過信し、敵味方の陣営の間で、どっちつかずの蝙蝠(こうもり)の様に生きていた国は、双方の陣営から共通の外敵(がいてき)とされ見捨てられた。


 初めの頃は、世界から見捨てられ、母国は世界の塵(ごみ)捨て場となった民族を憐(あわ)れむ者も居たし、助けようとする者も居た。しかしその手の者達も同じく塵(ごみ)捨て場に追いやられていくと、誰も居なくなった。

 母国に居る者達は、牢獄と化した母国から脱出すら出来ない。幸運にも国外に居た者達も、有無(うむ)を言わさず過酷(かこく)な生存環境となった母国へと追いやられた。

 心情的(しんじょうてき)には、彼等が我々を恨(うら)む気持ちは理解も出来る。でも、誰も助けはしない。当たり前だ。手を差し伸べて、その手を掴(つか)まれ、同じ地獄に墜(お)とされては堪(たま)ったものではない。

 誰だって貧乏(びんぼう)籤(くじ)を引きたくない。道連(みちず)れにされたくない。だから、誰もがその目に映っていない様に振る舞い。その目に映らない様にするために、より一層に彼等を追い立てた。


 言葉や文化が異なっても、暗黙のというものはある。出来レースだった。何処を、誰を犠牲にするのか、誰もが知っていた。

 後世の歴史家たちは、いつ終わるとも知れない長く葛藤(かっとう)と苦汁(くじゅう)に満ちた議論が行われたとでも言うのだろうか。そんな物は何処(どこ)にもない。ただ単に、利己的に自分達の民族が生き残るために、他の民族を差し出しただけだ。

 将来(しょうらい)、我々のこの行動は人類最大の汚点(おてん)と言われるだろう。だが、それが何の問題だと言うのだ。他国の民(たみ)が地獄に堕(お)ちようと、自国が地獄に堕(お)ちないのであればそれで良い。

 結果論になるが、人類は不毛な絶滅戦争を回避した。その結果、列強種族に侵略もされなかった。人類は生き延びたのだ。それで良しとするべきだ。

 

 なぜ、君達を私達が助けないといけないのだ?別の誰かを頼ってくれ。私達の方を見るなよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。