1-9-5)こっちを見るな
先進国と言われる国家が、易々と排外主義を実行する訳にもいかない。しかしこのままでは世界から孤立する。ARISの本部がある我国は孤立しても生きていけるが、孤立して生きていきたいとは思わない。
封鎖の向こう側の大陸国家ですら、半島出身者を半島に強制送還し始めた。半島出身者の半島への追放が、世界の潮流になっている。それが正しいとは決して思わない。唾棄すべき所業だと思う。
しかし、我が国もその潮流に乗らざるえを得ない時が来る。その時はあと僅かでやってくる。生き残りの為には、他国等はどうでも良いのだから。
素直な意見を言えば、半島出身者の半島への追放は、その根底はアジア系に対する差別意識があると思っている。正直、これが欧米地域であれば、こうはならなかっただろう。
この時代、人種差別等とは何とも時代遅れだと思う人も居るだろう。しかし、この時代であっても人種差別はある。欧米や中東地域では人種差別は世間に当たり前の様に存在する。根源は余りに深く、どれだけ教育をしても無くならない。
故に欧米では法で規制し取り締まるが、法を根拠に取り締まりを行うだけでも欧米は未だマシだ。中東地域に至っては、法律があったとしても、その法律は、有名無実であり何の役にも立たない。未だ法律で厳しく取り締まる欧米の方がマシだ。
アジア系はどちらの地域でも差別をされる側、被差別者に分類される。法の秩序よりも、賄賂が幅を利かせる彼等が、我々アジア系に優越感を持つとは、何たる皮肉かとも思う。
世界は人種差別で溢れ、そしてアジア系はそのカーストの中では下の方に属する。これは覆しようの無い事実。だから、出血熱騒動の時、その元となった大陸と半島出身者への風当たりは殊更に強かったが、驚くに値はしなかった。
今までの世界なら、次に来るのはアジア系全般への風当たりが強くなっただろう。しかし、今回はそうはならなかった。理由は単純で、VOAに対して圧倒的に対抗できるARISの本拠地が我国にあったからだ。
VOAを今までの兵器で倒すのは、非常に困難だった。VOAによる被害を可能な限り小さくするには、ARISの強力が不可欠だった。そして、ARISの本部は弧状列島の我国にあり、我国はアジアにある。
下手にアジア系全般に差別意識が向いて、我国が臍を曲げ、緊急援助を断られでもしたら大変だ。一度VOAが出現すれば、街は破壊され、大量の死傷者が出る。人種差別と生き残りならば、天秤は生き残りの方に傾く。当然の帰結と言える。
その様な状況で、アジア系全般への差別を一身に受けた大陸と半島出身者ではあったが、ここで外交力の差が、その後の明暗を分ける事になった。
封鎖の内側の大陸国家の外敵は半島国家であり、封鎖の外側の国々の外敵は大陸国家と半島国家だった。双方で共通する外敵は半島国家であり、当然の帰結として双方から忌避されるのは半島国家になった。
大変な状況であるのは理解している。国境は封鎖され、行き来は制限されている。しかし世界から完全に断絶したとまでは言えない。それに最後は隣国に声を掛ければ、喜んで我国を助けにくる筈だ。それで何もかも解決する。彼等半島国家は、本気でその様に信じていた。
この彼等の誤った認識は、我々の失態の結果であり、反省点だ。我々は彼等に優しかった。何を言われても助けてやった。
彼等の文化から見れば、目下の我々が、目上の彼等に媚び諂っている様に見えたのだろう。この点を矯正しなかったのが我々の失態だ。
彼等が我々に対して、意味不明の優越感を示したとしても、敢えてそれを間違いだと指摘して訂正しなかった。彼等が我々の物を彼等の物だと言い張っても、鷹揚な態度で済ませていた。
例え彼等に嫌悪感を覚えたとしても、その感情を表に出す事はしなかった。思えば、ちゃんと感情を表しておくべきだった。
我々の立場から見れば、彼等は大陸国家との干渉地域であり、彼等が共産主義陣営に完全に組み込まれてしまうと、我国の存亡の危機となる。絶対に阻止しなければならない。故に、我々は彼等の我儘に付き合っていただけなのだ。
だからあの時までは、彼等を母国に有無を言わさず強制送還する事は、他国と比較して著しく低調だった。
ゴブリン変異種への変化の噂は、VOAの出現とは異なる恐怖を世間にばら撒いた。いつ何時、隣人が意思の疎通がが不可能な魔物、ゴブリンに変化するかもしれない。誰が、どんな条件で変化するのか、喧々諤々の議論が巻き起こった。
尤もその議論の殆どがマスメディアの報道を基にしたもので、その報道も世間に広まった噂話と大差なく、何の役にも立たない、ただ単に人の恐怖を更に煽るだけの中身でしかなかった。
噂話と言う物は、広がるにつれて話しが変質し、誇張されていく。我々はそれを十分理解していた。だから、それはそれ、これはこれの立場だったのだ。
彼等が何を思ってあの大使館事件を起こしたのか。事件後、我国の彼等(彼ら)に対する感情は坂道を転げ落ちる様に悪化し、誰も彼等を庇わなくなった。自業自得と言えばそれまでだが、何故、最悪の瞬間に、最悪な行動をするのだろう。
不運が重なり、残念な結果になってしまった。申し訳ないとは思っている。許してくれ。謝罪の全てが、反吐が出る程に心の込もらぬ上辺だけの言葉でしかない。
誰も彼もが、自分達が同じ目に合わなかった事に胸を撫で下ろした。力が在る国は、力が在るありがたみを噛み締め、力がある国の庇護下の国はその庇護を選んだ自分達の選択の正しさに安堵した。
力があると過信し、敵味方の陣営の間で、どっちつかずの蝙蝠の様に生きていた国は、双方の陣営から共通の外敵とされ見捨てられた。
初めの頃は、世界から見捨てられ、母国は世界の塵捨て場となった民族を憐れむ者も居たし、助けようとする者も居た。しかしその手の者達も同じく塵捨て場に追いやられていくと、誰も居なくなった。
母国に居る者達は、牢獄と化した母国から脱出すら出来ない。幸運にも国外に居た者達も、有無を言わさず過酷な生存環境となった母国へと追いやられた。
心情的には、彼等が我々を恨む気持ちは理解も出来る。でも、誰も助けはしない。当たり前だ。手を差し伸べて、その手を掴まれ、同じ地獄に墜とされては堪ったものではない。
誰だって貧乏籤を引きたくない。道連れにされたくない。だから、誰もがその目に映っていない様に振る舞い。その目に映らない様にするために、より一層に彼等を追い立てた。
言葉や文化が異なっても、暗黙のというものはある。出来レースだった。何処を、誰を犠牲にするのか、誰もが知っていた。
後世の歴史家たちは、いつ終わるとも知れない長く葛藤と苦汁に満ちた議論が行われたとでも言うのだろうか。そんな物は何処にもない。ただ単に、利己的に自分達の民族が生き残るために、他の民族を差し出しただけだ。
将来、我々のこの行動は人類最大の汚点と言われるだろう。だが、それが何の問題だと言うのだ。他国の民が地獄に堕ちようと、自国が地獄に堕ちないのであればそれで良い。
結果論になるが、人類は不毛な絶滅戦争を回避した。その結果、列強種族に侵略もされなかった。人類は生き延びたのだ。それで良しとするべきだ。
なぜ、君達を私達が助けないといけないのだ?別の誰かを頼ってくれ。私達の方を見るなよ。




