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1-9C ゴブリナ変異

「死亡率の高い地域、異形の生物の目撃数と民族に偏重がある」

 数値は高い傾向はあるが、それも統計の取り方によって変わるレベル。疾病(しっぺい)の民族的偏向性を主張するには、論拠が(とぼ)しすぎた。

 いつもなら、酔っ払いだってそこまで酷い話はしないと、一瞬で馬鹿にされ笑い飛ばされる与太話(よたばなし)。そう、いつもの日常であったならば。


「みなさんも知っている様に、変異には色々な形があります。発現当初は、迫害を受けた人々の自殺も後を絶たなかったと言われます。今ではテラン(地球人)で変異する約6割の方が変異を受け入れているという数値もあります」

「6割もですか?」

「まぁ、統計上の数字ですから、本当かどうかはわかりませんよ?さて、気配を消すのに長けたエルフィン。鬼人の如く屈強な戦士のアントゥラリー。頑強で位置感覚に優れたドワニー。翼の生えるフェザリー。肺と(えら)を使い分けるマリナー。そして、変異していないテラン(地球人)の、テラン(地球人)6種と言われていますね」

「あれ?6種?テラン(地球人)の変異は7種ではなくて?」

「残りの一種をテラン(地球人)は、テラン(地球人)として認めていません。主に正の感情で変異してしまう6種とは異なり、治療が義務付けられ、治療が失敗すれば隔離しかない治療必須の、異常なまでの負の感情から変異してしまうゴブリン変異種型ですね」

「初期にテラ(地球)に現れた変異種は、この画像の様な、体毛が殆ど抜け落ち猫背のような前かがみの姿勢になり、腕の長さが少し伸び、言語を介さなくなるゴブリン変異種型いわゆる、ゴブリナが主流でした」


「保護区とか、封鎖星域に居る変異種と同じに見えるのですが?」

「ええ、その保護区に居るゴブリナはその子孫になります。最近では、手の長さがそれほど長くないゴブリナも生まれている様ですね。

 さて、テラ(地球)で、最初に確認されたのはゴブリナです。次に発見されたのは、マリナーでした。日本の港湾間近での船舶火災横転事故時に、湾岸から海に飛び込み、人命救助を行った女性が実況中継されたのが始まりになります。

 その後、火災を起こした船舶会社のある米国を筆頭に、各国が確保しようと圧力をかけてきましたが、連合が保護しました。

 次にフェザリーが発見され連合が保護し… と、ゴブリナの増加と並行して、徐々にその保護される人達も増加していきました」

テラ(地球)で変異種の子孫が多いのは、それも理由があるんですか?」

「そうかもしれませんね。とは言え変異してしまった人達が、軋轢(あつれき)なく受け入れられていたか?というと、そうでもありません。

「初めの頃は、日本を含め世界中が異物を見るがごとく警戒していましたし、迫害を受けた例も多かったとあります。

 ただしそれも日本でのフェザリー等をゴブリナとは区別し、人類として受け入れる層の劇的な増加がトリガーとなり、その警戒感を無くしていきました。

 なぜか出回り始めた保護後の動画や写真が、劇的な増加の起爆剤になったとも言われています」

 そんな御大層なものじゃなくて、萌えだの何だのとあの民族は毎度なんでもなし崩し的に……おほん

「萌え?ってあの萌え?」


「……忘れなさい。さて話を戻します。みなさんが知っている様に、ゴブリナは同種での繁殖を気が向いたらいつでもどこでも行うほど、繁殖本能が強い種です」

「あー……記録映像で見た事ある~」

「あの映像は未だかわいい方ですよ?本当に街中であろうが何であろうが、やりたいと思った瞬間に行います。雌が雄を、雄が雌を、親子であろうが、幼体だろうが何であろうが同種異性であれば関係なく襲い交尾を始めますからね」

「本……当に、同種だけしか襲わないんでしょうか?」

「生殖という意味では、他種族であるテラン(地球人)6種や、他星種を襲わないですね。()()()、捕食という意味で、子供や女性を襲う事例は今も昔もあります。

 この後、フィールド観察の際は、近くにゴブリナが居る場合は注意を(おこた)らない様にして下さい」

「襲われた事が、あるんですか?!」

「その場合でも警備のARISが横に居ますから大丈夫ですよ?

 それよりも目の前で交尾を初めても動揺しないでくださいね?交尾を邪魔すると威嚇してきますが、滅多に襲ってきません。

 さて、このいきなり現れたゴブリナは、テラン(地球人)の理解の範疇(はんちゅう)を超えた事態でした。当然、ゴブリナが良く見せる威嚇(いかく)行動は見掛け倒しで、通常は襲ってこない事も知りません。

 何も知らない当時のテラン(地球人)にとって、ゴブリナはただ人に似た、いつ人を襲うかもわからない異形の生物でした」

「えー。変異しただけなのに」

「そうですね。変異しただけです。ですが当時のテラン(地球人)はそれを知りません。ゴブリナの発生数がある程度を越えたところで、これが人が変異したものだとテラン(地球人)はやっと気づきました。

 とは言え、意思の疎通が全く出来ないゴブリナは他の6種と異なり保護というよりは隔離対象であったようですね。

 さて、変異がある一定数を超えたところで、これはVOAが持ってきた疾病(しっぺい)か寄生生物が原因じゃないのか?VOAが媒介する疾病(しっぺい)ならVOAが最初に現れた場所は隔離するべきじゃないのか?変異体は隔離場所に送るべきじゃないのか?とテラン(地球人)は考えだしました」

「変異は疾病(しっぺい)や寄生生物じゃ……あっ!そうだ疾病(しっぺい)と思っていたんだ!」

「はい、その通りです。さて、VOAが媒介するのは分かったけれど、発症するトリガーが不明の疾病(しっぺい)。このまま疾病(しっぺい)が拡散し続けた場合、テラン(地球人)存亡の危機であると思い込むまで、時間はかかりませんでした。その危機感たるや、対立していた陣営が手を取り合い、原因調査を行うまで追い詰められていました」


 ふむ。信じていない顔をしていますね。そりゃそうでしょう。あのテラン(地球人)、異常なまでに(あきら)めが悪く、守ると決めたら死ぬまで闘い続ける狂戦士(バーサーカー)大凡(おおよそ)(おび)えるという言葉が全く似合わない種族と思われていますらね。

「あのテラン(地球人)が?テラン(地球人)(おび)えたの?!」

「ええ、おかしく見えるかも知れませんが、あのテラン(地球人)が滅亡に(おび)えたのです。変異するテラン(地球人)の数は増える一方だったからです」

「怯えるテラン(地球人)って、見てみたいような……」

「まぁ、その気持ちはわかります。ところでこの種族の滅亡に(おび)えたテラン(地球人)という言葉は後でキーワードになるから忘れないで下さい。

 さて、増加するゴブリナですが、その大部分が休戦地域での発症でした。この休戦地域での変異数の増加スピードは、テラ(地球)の中でも突出したものでした」


「一地域だけの突出?」

「思い出して下さい。Abyss Coreの近隣で異常なまでに正か負の感情が多いと、ゴブリナに変異する確率が跳ね上がります。ここで、休戦地域の民族は他の地域と異なり、異常なまでの負の感情、(ねた)みや(ひが)みの感情が強いことでテラン(地球人)の中でも有名でした。

 その様な地域ですから、ゴブリナ変異が異常増加するのは当然の結果ですが、当時のテラン(地球人)にとっては、変異も死亡も全て原因不明の疾病(しっぺい)が原因と思われていました。

 テラン(地球人)にとって休戦地域とは、原因不明の疾病(しっぺい)が爆発的に感染拡大している地域と認識されていきました」


「でもテラ(地球)全体で、ゴブリナや他の変異は発生したんですよね?」

「今は全て破壊されてありませんが、当時のテラ(地球)は、Abyss Coreが点在していましたから、変異も当然、テラ(地球)全域でした。しかし、それが次のトリガーになってしまいました」

「次のトリガー?」

テラ(地球)全域で発生するゴブリナ。テラン(地球人)の誰もが人からゴブリナ等への変異の原因を掴めていませんでした。

 各国指導層は勿論、一般市民の中で不安が増加していくにつれ、テラン(地球人)の誰が、どの国で言いだされ始めたのかは不明ですが、変異、特にゴブリナに変異する人種に偏りがあるという話が出回り始めました」

「人種?テラン(地球人)の中の区分ですよね?我々で言うと氏族の違いという感じですか?」

「そんな感じですね。ここで、ゴブリナへの変異は社会における負の感情の蓄積であって、人種は関係ありません。しかし当時のテラ(地球)では、それは人種による偏りであるとされました。

 ここでテラン(地球人)の生き残るためなら何でもするテラン(地球人)の恐ろしさ、負の部分が(あらわ)になりました」

テラン(地球人)の負の部分ですか?」

「原因究明の糸口すら見つからない状況が長期化し、社会不安は限界に近づいていました。社会不安の高まりは、成果を出せていない指導層の糾弾(きゅうだん)勿論(もちろん)、社会システムそのものが瓦解(がかい)すら視野に入ってきていました。

 各地域の指導層は、市民の不安増加を是が非でも抑え込む必要があったのです」


「優秀な我が国の防疫(ぼうえき)体制によって、この原因不明の疾病(しっぺい)は抑え込まれている。我が国が崩壊寸前というのは、我々を(ねた)んだ悪辣(あくらつ)な日本の陰謀だ」

 分断国家の意味不明な弁明、それも自国ではなく、隣国を悪者にして、あたかも自分達は被害者の様に振る舞うその国家国民が一体となった行動は、理解の範疇(はんちゅう)を越えていた。

 ただでさえ異形の化物VOAとの闘いで余裕が無いところに、この原因不明の疾病(しっぺい)で疲れ切っていた人々にとって、分断国家民族を生温かく見守る余裕は欠片(かけら)もなかった。

 それよりも、その異様な行動が自分達の失態、最近(ちまた)(ささや)かれ始めたこの疾病(しっぺい)は分断国家のせい、分断国家民族だけの疾病(しっぺい)ではないのか?そんな根も葉もない噂が野火の様に広がるのを助けるだけだった。


 我儘(わがまま)な子供の様な国家、民族を相手にする余裕など世界に残っていなかった。

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