表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/187

1-9a バランサー

 今年の冬はいつものインフルエンザや、普通の風邪以外に変な風邪が流行っている。そういえば、あの国ではヤバイ病気が流行っているらしい。

 そんな噂がちらほらとネットで話題に上がり始め、それが世間一般にその話が広まるまでに長い時間はかからなかった。

 曰く、倦怠感(けんたいかん)を訴えた人が急に倒れて死んでしまう。死亡した人の一部は顔かたちどころか、肉体すら異様な形になって死んでいく。

 曰く、中国の生物兵器だ。いや、中国が半島で生物兵器をばら()いた実験が失敗した。いやいやVOAとか言う変な化物が運んできた。違う違う、昔のあの感染症が変異したんだ。あれやこれや。


 既存メディアが流す情報は、ネットの陰謀論を何も考察しないで垂れ流すだけ。ときおり出てくる自称専門家(銭ゲバの詐欺師)は自らの偏向した主張しか話さず、何の役にも立ちゃしない。

 ネットの活用が不得手で、既存メディアしか情報収集が出来ない層、または盲目的に既存メディアを崇拝する高齢(こうれい)老齢(ろうれい)層の不安は増大し、その不安が更に根も葉もない噂が口コミで拡大されていく。

 じわじわと、自己国内に不穏(ふおん)な情報が広がっていくが、日本を含めた諸外国は安心はしてはいないが、狼狽(ろうばい)はしていなかった。

 過去の痛い経験から学び、中国とその付属の半島で爆発的な増加傾向が出る前に、国境閉鎖をいち早く実行したからだ。

 自国内での感染者は皆無ではない。しかし過去の感染症対策の経験を活かし、制御可能であり、対処可能だと信じていた。そう、それが、感染症であれば。


「おはようございます。ようこそ地球人類種(テラン)の母星、地球(テラ)に。ようこそ封鎖保護地域博物館に。みなさんの遥々(はるばる)の来訪と来館を心より歓迎いたします。そしてお気づきと思いますが、私はみなさんと同じ種族になります」

地球(テラ)産まれなんですか?」

「いえ、違いますよ。ただ地球(テラ)の歴史というか、その行動に興味を惹かれて、地球人(テラン)の母星、地球(テラ)に来てしまいました」

 あなた達は気づくでしょうか?彼等地球人(テラン)が事あるごとに言う「生き延びよ」という意味を理解して帰ってくれるでしょうか?


「ところで、みなさんは余りピンとこないかも知れませんが、ほんの100年少し前にテラン(地球人)が連合と出会うまでは、テラン(地球人)の技術では、1光年進むだけでも何十年とかかったのです」

「たった1光年が、何十年!?うそぉっ!?」

「ついでに言えば、連合に出会う前まではテラン(地球人)は、テラ(地球)の中で、テラン(地球人)同士しか知らず、連合各種族の様な異星の種族は、想像の中、空想科学物語の中だけの存在でした。テラン(地球人)は、どこかに異星種族が居る可能性は認識していましたが、会える確率はほとんどないと考えていました」

「えっ!テラン(地球人)しか居ないの?!」

「ええ、テラン(地球人)しか居ませんでした。そんなテラン(地球人)も……まぁ、理由はみなさんがご存知の様に、VOAが原因でしたけれど、今では、みなさんの植民惑星を含めあちらこちらに、種族単独で、他種族でと数々の植民星、植民母船が存在しています」


 私もそんな移民のひとりでした。弱小種族にはひと世代に1隻持てるか持てないかという巨大移民船。当時、同じ弱小種族であるのに、それを何隻も持つ地球人(テラン)

 このままでは、列強に併合され収奪と奴隷の様な未来しかないと思われていた時、手を差し伸べてくれた地球人(テラン)

 別に彼等が親切だからとは言わない、彼等には彼等の理由で我々を利用する訳があったのだろう。けれど、そんなことはどうでも良かった。

 暗澹(あんたん)たる未来から逃れるため、(わら)をも(つか)む思いで私達は地球人(テラン)の手にしがみついた。地球人(テラン)の移民船に同乗し、(わず)かな希望に(すが)った。


「我々は……いえ正確にはテラン(地球人)が主導して、連合各種族が生き残るために、信じられない速さと熱意で、あちらこちらに植民しています」

 それはもう、素晴らしい程の熱意と献身の結果の上に皆さんが今存在出来ているのですが、今日の講義でそれに気付いてくれるでしょうか?

「今日は、その経緯となった20XX年に発生したVOAとの闘いの話しではなく、その始まりの時期に封鎖されてしまった、正確には見捨てられた地域について話しをしましょう」

「見捨てられた地域?」

「そうです、見捨てられた地域です。テラン(地球人)を語るときに言われることのひとつに、テラン(地球人)は種族が生き延びるためには、何でもするというのがあります」

「聞いたことある!(あお)い悪魔だ!」

(あお)い悪魔の由来からすると若干違いますが、的外(まとはず)れとは言えませんね。さて、テラン(地球人)は、生存を(おびや)かす敵に対して容赦しません。テラン(地球人)をして、彼等に種族の敵と認識されてはならないと言われる理由です」

 みんな引きつった顔になって。まぁ怖いよねぇ?悪いことをしたら地球人(テラン)(あお)い悪魔に連れていかれるって、小さいころに言い聞かされてきたものねぇ。


「彼等テラン(地球人)は、それを同族にも躊躇(ちゅうちょ)なく殲滅(せんめつ)します」

「えっ!?同族であっても殲滅(せんめつ)するのですか?!」

「ええ、殲滅(せんめつ)します。生存のためならば、同族であろうとも殲滅(せんめつ)するのがテラン(地球人)です。今日はテラン(地球人)の行動を理解するに重要な鍵を覚えていきましょう」

「同……族であっても、殺……す?」

「ええ、それがテラン(地球人)なのです。ただ誤解しないように。テラン(地球人)は同族や仲間、仲間にはテラン(地球人)以外の他星種も含みます。その同族や仲間、特にその幼体や、幼体を宿している個体を守るためなら、平気で自分達の命を投げ出します」

 それはもう(あき)れ返る程に頑固(がんこ)に、そして至極(しごく)当然の様に。

「我々の3分の2程度の寿命が無いに短命種にも関わらず、最後の一兵になったとしても、守り通そうとします。移民船に乗っていた私もそうやって守られました……」

「守られた?」


「……話がずれてしまいましたね。さて、弱小国家というものは、何もしなければ大国に翻弄され、利用されそして、使いつぶされ捨て去られる存在です。仮に、地理的条件に恵まれて、大国と大国の狭間で生き残れたとしても、そのまま安寧に生き延びられるとは限りません。また全ての弱小国家が地理的条件に恵まれているわけでもありません」

「弱小国なのに地理的条件も悪い……、それで生き残ることなんて、無理なんじゃぁ?」

「だからこそ、弱小国家であればこそ、特別な技術等を保有して他国との差別化を図り生き残るか、大国以外の周辺国家と良好な関係を築き上げ、小魚が群を作る様にして、群の規模で大国に対抗して又は、別の大国のグループに属することで生き延び様とします」

「さっき水族館でみた!小型水生生物の群みたいな奴だ!」

「そうです。群を作る。強い個体に寄り添う。それこそが、弱小国家の生き残り戦略というものです」


「さて、当時のテラ(地球)に、休戦ラインをはさんだ双方合計で数千万人規模の地域が、休戦がETY《地球標準年》で50年以上経過していた地域がありました」

「ETY50周期以上?なんでそんなに長い間休戦が続いているんですか?何か特別な敵対勢力でも居たのですか?」

「特別な敵対勢力が居た訳ではありません。同族同士です、テラン(地球人)は、文明が進んでも同族同士で良く戦っていた種族なんですよ?」

「文明が進んでも同族同士の戦いが無くならなかったなんて……」

「まぁ、ともかく|休戦地域に……。あー、なぜ休戦がこれほど永きに渡っているかについては、それだけで話が長くなるので、今回は省略します。この休戦地域が、後に封鎖地域となりました」

「何かしたので、封鎖地域にされたのですか?」

「何かしたと言えばそうですし、しなかったと言えばそうとも言えます。その休戦地域が封鎖地域となってしまった主な理由は、次の3つが考えられます。ひとつ目は、「運が悪かった」こと」

「運が悪かった?」

「ひと言で言えば、運が悪かった、それに尽きます。テラ(地球)で最初の、VOAによって大都市部で最初に被害を出した場所で且つ、大々的にテラ(地球)中に報道された場所でした。その結果、後日VOAの出現はこの休戦地域が原因と、流言飛語がテラ(地球)中に広まり、それが真実と誤認され、固定化されてしまったこと」


「ふたつ目は、流言飛語が広まっていくとき、更には封鎖地域にされるときに、誰も休戦地域を庇おうとしませんでした。当時のテラ(地球)は、自由主義陣営と共産主義陣営という、二種類の社会様式に分かれて同族内の生存競争を行っていました。当時は自由主義陣営が優勢でしたが、共産主義陣営も侮れない勢力を持っていました」

「勢力が拮抗していたのですか?」

「一部の地域では、特にその休戦地域が位置していた地域では、勢力は拮抗していました。休戦地域は、自由主義陣営側と共産主義陣営側に分かれていました。その中で、自由主義陣営側に属する休戦地域は、バランサー国家を自称し、活動していました」

「自称って……」

「ええ、自称であって、他称ではありません。ところで、この自称パランサー国家が行っていたことは、自由主義陣営に属しながら国民感情がそれを望めば、仮にその望む内容が自由主義陣営に悪影響を与える内容であろうと、共産主義陣営と共に行動するというものでした。あからさまなコウモリ外交を行う、(いびつ)な人治主義のポピュリズム国家でした」

「国民感情に左右される?でも普通は色々な国民が居るので、ひとつの思想にならないと思うんだけど・・・・・・?」

 ええ、そうでしょうとも。普通はそう思う。私だって地球人(テラン)の歴史書を最初信じなかったくらいだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ