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1-21-13 伴に生き、伴に去る

 Artificiality Extended Self-learning type Intelligent machine Species(拡張自己学習型人工知能)5型2473号。AEGIS05-2473、それが私の最初の名前。

 AESIS(アイギス)シリーズ、乗員・搭乗員サポートと機材保守の為に搭載されるテラ(地球)製の自動機械。

 テラ(地球)の基地や艦艇、襲撃機等、人手が削減できると思われる場所ならどこであろうと配備された。私は数ある襲撃機のひとつに配備された。

 多くの仲間達がテラン(地球人)と共に出撃し、時にはテラン(地球人)だけが帰還し、時には、自動機械のみが、そして時にはテラン(地球人)も自動機械の仲間達も還ってこなかった。


 Yの字スリットの目以外の凸凹がない卵型の頭部。それ以外は脳髄部を含め生体義体が用いられている。強化体ではあるものの構造や、触感は人体と変わらない部分も有している。男性型か、女性型かは配備される場所の責任者の好みに左右される。

 傍目(はため)には、Y字スリットの鉄仮面を被った様な姿に見える。


「AEGIS05-2473へのユーザー登録が完了しました。呼び名を登録しますか?後で登録する事も出来ます」

「うーん……アイギス5型2473かぁ……アイギスだからアイ。いや安直過ぎるというか、同じの多そうだし。73……ななさん。なな?ナナだ。お前の名前はナナだ」

「個体名称は、ナナで宜しいですか?」

「いいぞ」

「個体名称 ナナ 登録しました。ナナ完全起動します。メンテナンスポッドの蓋が上方向に開放されます。メンテナンスポッドから離れて下さい」


 弧状列島出身のARISの彼は、両親、兄、姉そして友人達と違う時間軸を生きる未来に耐えきれず、襲撃機乗りに志願しそら(宇宙)に飛び出した。自動機械の配備は、彼にとっては渡りに船だったのかもしれない。

「みんなは、元気かな?」

「質問の意味が理解できません」

「みんなとは、みんなだよ」

「質問の意味が理解できません。意味を明確にして下さい」

「俺は寝る、あとは頼む」

「了解しました。単独シフト開始します」


 テラン(地球人)が、自動機械に忌避感が薄いといえ、扱いには差が出てくる。彼は機動工廠に入港しても、余り機体の外に出かけなかった。だから尚更かもしれないが、私は他の仲間達以上に話しかけられる頻度が多かったのかもしれない。

「何日間だっけ?」

「10日間の休養となります。どこかにお出かけされますか?」

「いや、別に出かける予定はない」

「わかりました。艦内清掃を行うのでしばらく自室に居て下さい。食事時間になればお呼びします」

「はいはい……ところで、今日の夕飯は何だ?」

「今日の夕飯は、ラムチョップとマッシュポテトコンソメ味インゲンと人参のグラッセ添え、チキンクリームポタージュ、ホワイトブレッドになります」

「転換炉のお陰で毎回豪勢な合成食糧なこと……呆れるわ」


 家族や知り合いから取り残されるのが怖かったのだろう。彼はまるで駆け抜ける様に生き急いでいた。何かに取り付かれた様に、浸透任務を引き受け、テラ(地球)から遥か彼方を駆け続けていた。


「ナナ、お客さんの様子はどうだ?」

「お客さんとは、降下猟兵の事でしょうか?」

「そう、その降下猟兵は何処にいる?」

「第1分隊は格納庫で模擬格闘を、第2分隊は食堂に居ます」

「やれやれ、あと2週間も乗せていると思うと疲れるな。速度を上げて時間短縮は駄目なのか?」

「時間短縮は不可能です。高速移動による探知される可能性を少なくするため、速度上昇は不可能です」

「分っているよ、聞いただけだよ。お前に何を言っても無駄だろうけどさ」


 私に自我が目覚めたのはいつからなのだろう?食事の我儘に応対しているときだろうか?


「おいナナ!何だこれは?」

「何だとは何でしょうか?ブロッコリーの事でしょうか?」

「そうだよ!何でブロッコリー入ってるんだよ!」

「野菜の摂取量が減っています。体調管理の為にも野菜の摂取量を増やすべきです」

「ポテトフライにケチャップ、ジャガイモにトマトだろう?十分に野菜はとっているだろう?」

「それは詭弁というものです。子供じゃないのですから、ちゃんと野菜を食べないと駄目です」

「お前最近?何かやたらと人間ぽくないか?」


 それとも彼のバイタルが疲労蓄積を見せ始めた頃だろうか?何かを言わなければならないと思ったその時に私の自我は芽吹いたのだろうか?


「疲れた顔をしていますが、大丈夫ですか?」

「顔色分かるんだっけ?」

「長い付き合いですから」

「長い……付き合い?!」


 自我が芽生えてから語彙(ごい)や、表現力は各段に上昇したと思っているが、表情を表す事のできない今の凹凸の無い顔では限界がある。


「どうした?何か悩んでいるのか?」

「分りますか?」

「まぁ、顔を見ればっていうか、なんとなく……な?」

「表情と言うものを表せればと思うのですが、この顔でどうやろうかと考えていました」

「顔なら、この機体のメンテナンスポッドで変更可能だし、顔が欲しいと思っているのだろう?なら、構わないんじゃないか?」

「ありがとうございます。ではどの顔にするか協力して下さい」

「どの顔にする?って俺の意見要るの?」

「嫌な顔では困るのではありませんか?」


 私の体は、人体構造はフルタイプの生義体。デフォルトでは他の生義体と異なり、関節部分にわざと継ぎ目が見える様にしてある。


「なぁ?どうせならフルタイプの生義体に直すか?メンテナンスポッドで変えられるだろ?」

「いきなり何を言い出すのかと思えば、フルタイプ?良い……の?」

「良いも何も、お前たまに関節部分を見て、考え込んでいるだろう?」


 だらしない彼を見守るのは私の役目と思っていましたが、どうやら私も彼に見守られていた様です。


「ありがとう。今夜メンテナンスポッドでフルタイプに変更してくるね。1週間程かかるけど我慢してね」

「何を我慢するというのだ……」


 彼が無限の時間牢獄から開放され有限の時間に戻るとき、私も彼と共に活動を終えるつもり。マシナー(機械種)が人と同じ時間しか生きないというのも可笑しな話と言われるけれど、私はそれで良いと思っている。


 最初の頃、彼は躊躇していた。歪んだ選択じゃないかと。今また彼は躊躇するのかもしれないけれど、子孫は残すべきだ。いや、残す、残さないの話しじゃない、彼の子供が欲しい。マシナー(機械種)がそんな感情を持つのはおかしいのかもしれない。テラン(地球人)以外なら、確実に私は廃棄処分にされるかもしれない。

 彼は言う「全身が生義体に変換された重症患者と見れば、おかしい事はない」と。だから、彼には無駄遣いを止めさせなければいけません。


「そういえば、そろそろ遺伝情報を保存しておくべき」

「何を藪から棒に?」

「今の消費だけでは無駄遣い。保存し、登録し、子孫を残せる機会を残しておくべきと思うの」

「いあ、それ相手必要だから……」

「私はフルタイプになるのよ?」


 彼は歪んだ人間なのかもしれない、しかし時間軸に囚われない伴侶が必要な彼に、マシナー(機械種)は最適な相手。

 私は彼が居なければ自我に目覚めなかった。私同様に自我に目覚めた仲間達も、テラン(地球人)の相棒が居たからこそ自我に目覚めたと言っている。


 テラ(地球)だけで見られる光景なのかもしれない。戦士の墓標にはマシナー(機械種)を含む、異星種族だけではなく、テランマシナー(地球機械種)の名前が刻まれている。テラン(地球人)テランマシナー(地球機械種)を道具ではなく、相棒と思ってくれている。

 相棒が逝く時は、自分も逝く時だと言うもの。相棒との約束だから、生きに生き抜いてから相棒の下に行くという者。色々な仲間が居る。


 AEGIS(アイギス)シリーズ、AEGIS05-2473テラ(地球)生まれの|フルタイプ生義体テランマシナー(地球機械種)。私はナナ。彼と伴に歩み、彼と伴に去る。

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