1-21-10 スレクラ(軌道港)
ブックマークありがとうございます。
ところで、花粉症が収まるGWが早く来ないかと祈る日々です。
「星系外縁衛星からのカメラ映像来ました!ぼやけて見難いですけど、あのボヤっとした光の部分が多分テラの艦隊の推進光だと思います」
「よっしゃー、開戦の瞬間を撮れるぅ!スクープだぁっ!アナウンサー準備終わった?カメラテスト早く!」
スレクラ第1軌道港共同支局。ひどく消極的な理由、列強種族のスレクラに睨まれると後々面倒という理由で設立された、大中小報道機関合同のスレクラ支局。
アリバイ作りの為に駐在していた私達に、テランがスレクラに宣戦布告したから緊急退避しろと連絡艇が飛び込んできたのはついさっき。
慌てて皆で船に飛び乗り軌道港から出航したが、スレクラの艦隊はとてもあと僅かで開戦とは思えない程にゆっくりと準備をしている。
「支局に残したカメラはちゃんと動いてる?わかった。回線切られないうちに撮り溜めしておこうか?」
「時間はあるからな。そろそろ星系外縁だから、減速を開始するだろう。で、開戦は2時間後くらいか?」
支局全員が乗れるような大型の連絡艇が来てから、支局内は大騒ぎになった。いつもは難癖をつけられるのでやらないが、脱出するなら別と窓から外を見る方向でカメラを張り付け、死に物狂いで軌道港から離れた。
生存の為なら同族すら見捨てるテランが、軌道港に何もしないわけがない。軌道港に残ったり、その傍に居たりするのは自殺行為だと思ったのだ。
私達の船が軌道港から十分離れた頃にやっとスレクラ管制局から、開戦警告がだされた。これが列強の余裕というものなのだろうか?
カメラに映る軌道港から、漸く出航していく1隻目の駆逐艦を見ながら、もう少し軌道港から離れた方が良いかもしれないと、ふと思った。
「ジェットコースターじゃないんだから……」
この世界では、重力制御により体感する重力加速度、Gが軽減されるのが当たり前だが、体感するGが全て無くなる訳ではない。
例えば、列強の艦船や小型攻撃機であれば体感するGは瞬発的に3Gに行くか行かないか程度、戦列艦ともなれば最大2Gが常識だ。
3G以上となると、短時間でも失神する者が多発して、作戦継続不可能となる。訓練すればどうとなるものでもなかった。更に列強の艦船は船体設計が標準設計なので、テランの軍艦並みの機動を行えば、構造体が折れてしまうのが関の山だった。余裕ある艦内空間、馬鹿みたいな大きさが足枷となっていた。しかし誰も問題にしなかった。何故なら他の種族も同じだからだ。
そんな世界に3G当たり前の巡航艦や駆逐艦、襲撃機に至っては4G,時には5G,6G当たり前で突っ込んでくる。対応出来る訳がなかった。改造種族、対G装備の概念の有無と言うのを差し引いても、テランは非常識だった。
「減速していないみたい?え?減速しなければどうやって本星域のスレクラの艦隊と闘う気だ?速度が速すぎたら旋回時のGに船も乗員も耐えられないぞ?」
「そうは言ってもな……これ見てみなよ。偏移からの推測値だけど減速してないだろう?このままの速度だとあと15分で到着するぞ?」
近づいてくるテラの艦隊から分離して、加速しながら近づいてくる突撃艇の映像を見ながらみんな無言になっていった。なぜ減速しないのかが分からなかった。
無言で見つめていた画面の中で推進光が薄くなった時、やっと減速するのかと思い、推進光が薄くなった画面を見ていると、再び明るい推進光の点が見て、そしてその光の点が花の様に広がっていった。
この時私達は襲撃機というのを知らなかった、私達は光の点は突撃艇の推進光だと思っていた。スレクラの一線級の戦列艦に、突撃艇では分が悪すぎる。攻撃してきたのは良いが、テランは一方的に殲滅されるのではないかと思っていた。
「定点回頭完了、減速噴射まで5,4,3,2,1、噴射」
「んげっ!」
「くぅっ!蛙が潰れた時みたいな声を出すな~」
「噴射終了まで、5、4、3、2、1、終了」
「はひー、はひー、何が訓練した4Gより緩いです?同じじゃない~!」
「また来るぞー、10秒で来るぞー」
「誰だぁ~こんな馬鹿なこと考えた奴は~」
「何も噴射してないのにぃ~、何が噴射だぁ!」
「巡航艦や、駆逐艦は良いなぁ~、もうちょっと緩いらしいよ?」
「減速噴射開始まで、5,4,3,2,1、噴射」
「ふんがぁ~!」
定点回頭で180度回転、前後を入れ替えたら全力噴射で減速。テランの対G能力を目一杯使った減速方法だった。
花の様に固まっていた襲撃機の推進光は、花が散る様に外側から分離を始めていった。この状態で撃てば撃墜出来るじゃないかという意見もあるだろうが、ワープ推進面に打ち込んでも、空間変異で相手に攻撃は届かない。敵側からすれば黙って見ているしかないのだ。後に死の花と呼ばれる、テラ襲撃機の強襲パターンが、連合各種族にお目見えした瞬間だった。
「撮ってる?!」
「撮ってるよっ!何だあの速さと、旋回! 来るぞ!スレクラの戦列艦、ちゃんと撮ってるな?!」
「撮ってるぞ!最後の1隻がやっと出航したところだ!遅いんだよ!」
「撃った!巡航艦や、駆逐艦が撃った!え?!弾いてる?なんでぇ?!」
一方向からの砲撃の艦隊戦か、小型機相手しか経験のない巡航艦や駆逐艦は、その機動、多方向からの襲撃に翻弄されまともな攻撃すら出来ていなかった。
「あの巡航艦を撮って!2隻で戦列艦を護衛している奴!さっきテラの突撃艇を1隻撃沈した!今また1艇沈めた?!」
スレクラが防戦一方というわけでもない。テラの突撃艇も撃沈されていた。しかし恐らくは、戦列艦並のジェネレーター出力を持つ突撃艇に、スレクラの巡航艦や駆逐艦は少しずつ破局の袋小路に追い込まれていた。
「1艇沈められたのに、突撃艇が突撃を止めないぞ?何で突っ込めるんだ?!普通ならシールドの過負荷を恐れて退避するだろう!?」
「知らねえよっ!放送的には美味しい画像だけどなっ!理解出来ねぇ!テランってのは、恐怖心がないのか?!」
「おい!そっちのカメラ映像には映ってるか?反対側からくるぞ!」
画面には、いつも見慣れた曲線軌道を描いて回頭するスレクラの戦闘艦や攻撃機に対して、ときおり鋭角的な角度で回頭するテランの突撃艇。
着弾で煌めくシールドを纏い、巡航艦や駆逐艦からの反撃を跳ね除け、掻い潜るやたらと防御力の高いテラン突撃艇。突進するテランの突撃艇を、隊列を組んで迎え撃つスレクラ戦列艦に巡航艦。
転んでもただは起きぬと、合同支局から避難する際にあちらこちらに置いたカメラ、公共衛星からの画像を見て、報道関係者は奇妙な興奮状態になっていた。
「すごっ!あの突撃艇を見たか?巡航艦を掠めて戦列艦に肉薄してるぞ!」
「巡航艦、1隻沈んでいる……」
「掠めたんじゃない?!攻撃した挙句に巡航艦を盾として利用した?」
「何だよあれは…。巡航艦が一瞬で穴だらけにされているじゃないか……」
巡航艦や駆逐艦クラスだと、テランの突撃艇から放たれた砲撃を防げていなかった。突撃艇の砲撃が複数着弾した煌めきが消えると、そこにあるのは船であった物の残骸か、爆散の跡だけだった。後日、テランがあれを機関砲と呼んでいると知り、思わず乾いた笑いがでてしまった。
「護衛の巡航艦や駆逐艦があれだけ減ると……。そろそろ、戦列艦も危ないな。戦列艦に注目!カメラアングルを変更して!」
護衛の巡航艦や駆逐艦を飛び越え戦列艦に突進するテランの突撃艇は、艦載機からの無数の着弾がシールドに煌めいても意にも介さず、立ちはだかる艦載機を船首砲で一瞬のうちに消滅させ、時には文字通りシールドで跳ね飛ばし肉薄していく。
突撃艇の連続した砲撃がスレクラの戦列艦の船体に大穴を穿ち、砲塔を吹き飛ばし、戦列艦を掠める様に飛び越えていく。一艇の突撃艇が飛び越えて行ったと思えば、飛び越えて行った方向から別の突撃艇が同じ様に肉薄してくる。
余りにも大きな船体によって攻撃に耐えていた戦列艦だが、鯱の群に襲われた鯨が出血多量で動きが鈍る様に、反撃も散発的になり、回避運動も緩慢になっていき、宇宙空間を漂うズタボロの何かに変わっていった。
画面に映るのは、力なく宇宙空間を漂うズタボロにされた船か、その残骸。信じられなかった。列強種族のスレクラの戦列艦が沈黙していた。
「戦列艦の抵抗も殆どなくなったな。そろそろ降伏勧告が出されるかもしれないな。傍受失敗するなよ?」
「よく見ろ……テランの突撃艇は攻撃を止めてない」
「はぁ?!攻撃を止めてない?」
テランは攻撃を一切やめなかった。漂うだけの戦列艦や巡航艦等だった物が、単なる残骸になるまで攻撃を止めなかった。
「……捕虜を取るつもりが無いんじゃないか、テランは?」
「まさか、そんなこと……『攻撃対象にはスレクラの施設も含む』!?軌道港映して、早く!」
急いで変えた画面に、我々の合同支局があった軍民共用の第4軌道港が、テランに一方的に蹂躙される姿が映っていた。
軍事用、軍民共用とスレクラは軌道上に複数の軌道港を持っている。彼等の民族特性上、純粋な民間軌道港はない。画面を変えて他の軌道港を見てみれば、第4軌道港と同じ様に攻撃されていた。
反撃してくるスレクラの戦闘艦艇が居なくなった事で戦闘は終了すると思ったが、テランは最後まで手を抜く気がない様だ。そう言えばずいぶん前にテランの記者が言っていたっけ、補給が途絶えた軍隊や国家は、悲惨な事になるんだと。
成る程、テランは、スレクラの他の星域からの援軍や救助も妨害する気なのか。だから、軌道港や軌道工廠等を墜としにかかっているのか。そう言えば、あの記者はこんな事も言っていたな。テランは戦争をするとなったら、真面目にそして、徹底的に戦争をするって。
あの様子では第4軌道港はもう持たない。堕ちるな……あれは。何てことだ。そうか、そうだよな。「戦闘星域はスレクラの施設がある場所を含む」テランは、宣言通りに軌道港を攻撃していた。
「録画よし? じゃぁ行くよ、3,2,1」
「見えるでしょうか!目の前で軌道港が!軌道港が惑星に堕ちていきます!」
1隻の中型船、貨客船だろうか?が格納扉の残骸をシールドで押し退け、軌道港からもがく様に出航しようとしていた。
「あ!軌道港から船が脱出しようとしています!ああっ!穴だらけに!テランの突撃艇が、船を撃沈しました。テランは……テランは1隻も逃す気が無い模様です」
良かった……本当に良かった。軌道港から退避していて本当に良かった。もし、あのまま連絡艦からの警告を無視して、軌道港の支局で取材を続けていたらどうなっていたか。画面の中の船の様に撃沈されて、放り出された骸を宇宙に漂わせていただろうか。それとも、今目の前で堕ちていく軌道施設の中で成すすべもなく、助けてくれと泣き叫んでいただろうか。
軌道港から、無数の脱出ポッドが惑星にめがけて落ちている。駄目だ、あれは制御されていない。単に落ちているだけだ。あれでは途中で燃え尽きる。
軌道港の中は、阿鼻叫喚になっていた。列強種族である自分達の艦隊、それも精鋭の本星艦隊が全滅するなんて欠片も想像していなかった。戦闘開始前に脱出した者達をせせら笑い、馬鹿にしていた彼等は、脱出した者達に笑われる立場に入れ替わっていた。
「乗った?!安全バー下したね?いいよ!射出ボタン押して!」
冷静に脱出ポッドに避難し、惑星上に降下した者達は幸運だった。大多数は脱出ポッドの事を忘れ、軌道港の中を闇雲に逃げ惑っていた。
輸送船や貨客船桟橋の搭乗口は、乗せてもらえるかもしれないと一縷の望みに賭けて来た避難民で溢れかえっていた。自分の前に居るのが女子供であっても、押し退け、割り込んで我先に脱出しようする者達は後を絶たず。出航のために搭乗口を閉鎖するのに邪魔になるそんな彼等を、船員が射殺する。自己中心的な者しか生き残れない場所と化していた。ただそれも、無駄な足掻きでしかなかった。
「1隻、軌道港から離脱しました。これは……多分輸送船ですね。あと少しで、残骸の多い場所から抜けられそうです」
誰かが言っていたな、テランは自分達の生存を邪魔する存在には容赦しないと。画面に映るこの船もあと少しで……。
「ああっ!爆発が!何か、小さな物を撒き散らしながら折れていきます!」
燃えながら堕ちていく軌道港の中で、脱出ポッドにも乗れず、輸送船での脱出も出来ず、存在しない安全な場所を探して彼等は逃げ惑っているのだろう。
上層大気から中層大気に入れば、断熱圧縮が始まる。軌道港の外部表面は高温にり、それに伴い室温は急激に上昇する。燃え盛る軌道港の中で、哀れで愚かな彼等は何を想っているのだろう。理不尽な理由で彼等に侵略され奴隷とされた者達の無念を、燃え盛る巨大な棺桶の中で少しは理解できただろうか。
あなた達の戦争は生温い。今ならテランの記者に言われたこの言葉の意味が分かる。何万人ものスレクラが軌道港と共に燃えていくのを見て、君達の戦争が私達の戦争と異なる事を知った。そして思う、君達は悪魔だ。そして、君達は狂ってる。
艦隊のイメージはこんな感じです。
1艦隊当たりの地球艦隊編成(総数約28,000人、398隻、400機)
機動母艦 8隻x500人=5,600人(陸戦1,600)、襲撃機400機(単座)
母艦直掩巡航艦 4隻x8母艦x180人=5,760人、32隻
巡航艦 4隻x8母艦x108人=3,456人、32隻
駆逐艦 8隻x32巡航艦x36=9,216人、256隻
電子戦闘艦 2隻x8母艦x72人=1,152人、16隻
電子戦闘艦直掩駆逐艦 4隻x16電子戦x36=1,944人、54隻
※直接戦闘艦288隻+襲撃機400機=688
1艦隊当たりのスレクラ艦隊編成(総数485,000人、777隻)
戦列艦3隻x5,000人=16,500人、3隻
重巡6隻x3x2,000人=36,000人、18隻
巡航艦6隻x6x3x1,000人=108,000人、108隻
駆逐艦6隻x6x6x3x500人=324,000人、648隻
※直接戦闘艦777隻+小型攻撃機1,500機
120億のうち、スレクラ伝統の通過儀礼の従軍を含む従軍数は艦隊、陸上部隊を併せて全人口の1%、1.2億人に及ぶ




