表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/187

1-21-8 スレクラ(蒼き復讐の神)

 対列強種族への軍備をある程度揃えたテラ(地球)政府とテラン(地球人)ARISは、テラ(地球)勢力内における奴隷保有は、いかなる場合でも禁じると連合内に宣言した。


 ただし、完全施行は1年後とし、激変緩和期間を設けた。建前的には、あるなどとは欠片も思っていないが、奴隷保有者からの自発的返納を考慮したものとされた。結局は1人も返納されなかったが。

 本音的には、艦隊の慣熟と、五月雨式にスレクラの領域近くに艦隊を終結させるために、最低でも1年程度の時間が必要だった。


連絡通路(コリドー)に入った後は、テラ(地球)の法律が適用されます。持ち込み禁止品を携帯している方は没収又は罰せられます。連絡通路(コリドー)に入っ――」

「閣下、奴隷は置いて行った方が良いと思われますが?」

「何を馬鹿なこと言っているのだ?私の奴隷を何処に連れて行こうが、私の勝手だろう?こんな弱小新興種族のテラ(地球)が私に何もできまいよ」


 激変緩和期間も後1ヵ月で終わるというその時期に、スレクラ14氏族の有力氏族であるインジェム第9氏族の皇太子ムジェイが、公船に奴隷達を乗せテラ(地球)を訪れた。

 公船の中に留められている限りは、その公船の母国の法が適用される。どのような酷い扱いを目の前で受けていようとも、奉仕をさせられていたとしても、テラン(地球人)が何もできない事をわかった上での、嫌がらせだった。


 ムジェイの認識では、列強種族スレクラ14氏族に逆らえない存在であることを、新興種族のテラ(地球)に再認識させてやったというものだった。実体は公船から奴隷達を一人も連れ出す事なく、外縁軌道上の機動衛星に立ち寄り、テラ(地球)領域最遠の機動衛星に向かって旅立っていった。


 テラン(地球人)側から見れば、ただでさえ印象が最悪のスレクラが火に油を注ぐ様な現れ方、それも既に五月雨(さみだれ)的にスレクラ星域に向けて出航が開始され、緊張が高まりつつある所に現れた馬鹿でしかなかった。

 ムジェイは何をしたかったのだ?というのが正直なところであったが、テラ(地球)領域最遠の機動衛星に向かってくれるのは、テラン(地球人)にとっても儲けの幸いだった。


「スカイアイ、星域に入った。ボギー1が、追跡に気付いた形跡はない」

「タンゴ1、こちらのデータでもボギー1は追跡に気付いている形跡はない。護衛のボギー2、3も同様に気付いていない模様」

「スカイアイ、次回報告まで連絡封鎖を継続する。タンゴ1、アウト」

「スカイアイ、アウト」


 弱小新興種族のテラ(地球)などは、列強種族である自分達スレクラの言うことに従う筈。列強種族の傲慢さを染み付けた皇太子は、テラ(地球)施政下の場所であろうと威圧できると思っていたのに、テラ(地球)本星域では何もできず不満が溜まっていた。

 何人かの奴隷を殴り殺したが、鬱憤(うっぷん)は晴れなかった。そこで、帰国途上で少し寄り道をすれば、訪問出来るテラ(地球)施政域最遠の巨大ガス惑星の軌道を周回する工廠併設の機動衛星に寄り、テラン(地球人)に威張り散らすことを選んだ。

 テラ(地球)本星域では、出来なかったが工廠併設の機動衛星程度なら、存分に平身低頭したテラン(地球人)の姿がみられるかもしれないと考えたのだ。見事な程のキング・オブ・小物だった。


 装甲服の頭部の一部を触りながら、起動コマンドを音声入力すると、安全装置が解除され、蒼白い骸骨がフェイスプレート部分に浮かび上がる。

 普通の骸骨、アイパッチを付けたもの、角の付いたもの、各々が趣向を凝らした蒼白い骸骨が、暗闇の待機場所に浮かび上がる。


「本当にこのオレンジ野郎は、こちらを見下してくれているな」

 スレクラのオレンジ野郎共の見た目は、一昔前にはやったゲームとかで見るエルフそっくりの美形だらけだ。真実の姿は、一重(ひとえ)の薄目でつり目だわ、エラは張ってるわで完璧な別物。そして、その性根は腐りきっている。リアルエルフ?と喜んだ私のときめきを返して欲しい。

「ムジェイ皇太子、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?後ろに居る方々は何でしょうか?」

「何だテラン(地球人)?奴隷も知らんのか?後ろの奴隷に気に入ったのでも居たか?どうだ良いだろう?良い奴隷だからな、やらんぞ?」

 ゲートが開いた時に、扉の向こうの光景に眩暈(めまい)がした。ムジェイ皇太子の前と横には護衛が居た。ここまではまあ普通にある話だ。後ろ側に居る奴隷、それも一糸まとわぬあらゆる年代層の他種族の女性奴隷を除けばだが。


「ところでお前達テラン(地球人)は、機動衛星の中でも装甲服しか着ないのか?これだから弱小新興種族は嫌なのだ」

「弱小新興種族は、服も買えぬとみえる。こんな弱小新興種族の機動衛星に栄えあるムジェイ様が来たというのに、この対応……本当に弱小種族は駄目ですな」

「この連絡通路(コリドー)からは、テラ(地球)の施政下となります。先ほどから流れている放送でご理解戴いていると思いますが、禁制品は没収となりますが、理解しておりますか?」

テラン(地球人)?何をいっているのだ?どこに私が禁制品を持ち込んでいるというのか?」

「後ろの……奴隷でしょうか?奴隷はテラ(地球)では禁止されています。そのまま連れて歩く場合は、没収対象になりますが?」

 ああ、こいつは我々が折れると思っているんだろうな。だけどね、そこの馬鹿。この連絡通路(コリドー)がやたらと太いのに気づいていないだろう?壁の向こうは猟兵で満杯なんだよ。まぁいい、お前ら全員が、連絡通路(コリドー)に入るまで待ってやるよ。


「これだから新興種族は困る。我々スレクラの奴隷を没収するとでもいうのか?お前達が?この列強の我々の?はぁっ?!没収出来るものならしてみるが良い。なぁお前らもそう思うだろう?」

「はっ!閣下の言う通りです、これだから世界を知らぬ弱小新興種族は困るのです」

「止まって下さい。それ以上こちら側にくると没収する事になります」

「あ~(うるさ)い!何も出来ないのに口だけは立派だなテラン(地球人)!」

「ですから、これ以上こち――」

(うるさ)い!退け!閣下の邪魔をするな!テラン(地球人)風情(ふぜい)が!」

「いや……ですから……」

 よし、もっとこっちだ、こっちに来い。もう少しで全員が連絡通路(コリドー)の半分を超える。早く来い……。


「イムジェム第9皇太子ムジェイ閣下。数度の警告にも関わらず、その警告を無視した事により、意図的に違法行為を行おうとしていると判断しました。今より貴方が連れている奴隷を没収致します」

「なにを――」

 馬鹿(ムジェイ)が何かを言い終わる前に、側面通路の壁が瞬時にせり上がると、連絡通路(コリドー)内に軌道降下猟兵が雪崩込んだ。

 彼と同じ様な傲慢な態度を取っていた随行員の内、素早く反応して護衛の本分を尽くそうとした者は撃ち倒され、反応が遅れた者は、驚愕の表情を浮かべたまま同じように撃ち倒された。


 連絡通路(コリドー)の向こう側、スレクラの船からも振動とくぐもった音が断続的に伝わってきていた。

「敵護衛艦2隻沈黙、漂流中。完全破壊せよ。破壊後はシールドで惑星に叩き込め」

「外交船、艦橋沈黙。完全破壊を確認。推進機構への直撃確認。船内戦闘拡大中、各員同士討ちに気を付けろ」

「第11階層B23ブロック、減圧拡大中。隔壁閉鎖を行う」

 ふむ……仲間達は着々とスレクラの外交船の中を鎮圧していっているようだ。何しろひとりも生かして帰す訳にはいかない。死人に口無しだ。


「貴様!テラン(地球人)が何をするかっ!離せ!離さんかっ!」

(うるさ)いよ、このオレンジエルフ。ん?ああ了解した。おいそこのオレンジの馬鹿、お前の船な、艦橋が吹っ飛んだそうだぞ?あと護衛船、2隻とも撃沈だそうだ。良かったな」

「な?!何を言っているのだ!貴様我々スレクラに手を出してただで済むと思っているのか?!本国に帰った後、必ずこの件は報復してやる!」

「え?!本国に帰る?」

 このオレンジ色は、この状況下ですら自分が本国に無事に帰れると思っている。どれだけ列強種族ということに胡坐(あぐら)をかいていたのかね、この種族は?


「何か言いたい事はあるか?」

テラン(地球人)!お前達、私を何だと思っている。私はイムジェム第9皇太子ムジェイだぞ?!私に手を出せばどうなるか理解しているのか?!」

 最終的に23名の奴隷の死亡が確認された。外交船に乗っていた約4分の1が死んだ事になる。襲撃の巻き添えで死んだのは20名、ムジェイの憂さ晴らしで暴行を受け、死亡したのが3名。

「そこのお前!そうだ!お前テラン(地球人)ではないだろう?ドゥガの民か?!我を助けよ!我を保護すれば、本星がドゥガから、毎年奴隷を献上させるのを止めさせると約束しよう!」


 領事館長としてこの軌道衛星に居た私の所に、テラン(地球人)の古い友人から連絡が入った。拘束しているムジェイを、機動衛星が周回している赤いガス惑星に堕とすから見に来ないかと。

 目の前で喚いているスレクラは気づいていないのかもしれないが、ここに居るテラン(地球人)の兵士は、彼等が封鎖地域と呼ばれる場所で任務に就いていた者が多い。

 彼等は何度、物言わぬ(なきがら)を連れて帰ったのだろう。

 多分、口に出していることも気づいていないだろう。直ぐには殺さない。死の恐怖を存分に味あわせてやる。恐怖で満たされた心に、更に絶望が染み渡らせてやる。ゆっくり、ゆっくりとあの世に送ってやる。そうテラン(地球人)の知り合いが呟いていた。


「おい!そこのドゥガの!なぜ装甲服の頭部を被るのだ!?」

 私には彼等テラン(地球人)の気持ちがわかる、何故なら私自身も復讐をしたいからだ。古い知り合いのテラン(地球人)と伴に、何度悔しさに震えながら、物言わぬ同胞を連れて帰る者を見送ったのだろう。

 スカルフェイス起動手順は……先ずは第1安全装置の顎の部分のこの2つを押しながら、起動パスワードを音声入力だったな。


「おいテラン(地球人)!これは何だ?おい!出せ!出さんか!」

「ムジェイ皇太子、これは脱出ポッドです。眼下の赤いガス惑星に堕ちる様にセットしてあります。堕ちるまでは2時間程度、今まで自分が為されてきたことを反省しながら、死ね」

「何を?!おい!蓋を閉めるな!蓋をし――」


「スカルフェイス起動」

 私のフェイスプレートに浮かび上がる骸骨は、テラン(地球人)の骸骨とは少し形が違う。我々の種族、私の頭蓋骨を模した蒼白い骸骨が光りだす。テラン(地球人)の知人が用意してくれた特別製だ。

 ムジェイ皇太子、お前が脱出ポッドのキャノピー越しに見るのは、この蒼き復讐の神の顔だけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ