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1-21-7 スレクラ(テランの蒼い悪魔)

 (もてあそ)び過ぎて傷みが酷いときは、医療カプセル(タンク)に入れられる。変な言い方だが、奴隷は大事にするのがスレクラの常識だった。過去には奴隷は奴隷らしい扱いを受け、傷めば捨てられるのが当たり前だったが、流石に数百年以上前に本星系列の30億近い人口の植民星を奴隷の反乱でひとつ失えば、態度も変わり、習慣も変わる。


 元々嗜虐的(しぎゃくてき)傾向の強いスレクラ達にすれば、何度も医療カプセル(タンク)で修復した方が(もてあそ)ぶ時間が増え、何度も怯える奴隷を見られることに気づいたのもあるのかもしれないが。


 医療カプセルから出された直後で濡れた裸の私は、何時もの様にタオルを(わざ)と直ぐに手渡さない医療員の顔が、サイレンの音を聞いて喜びの顔に変わっていくのを震えながら見つめていた。

 今日は、ここで医療員たちの相手をさせられるんだなって思っていた。


「おっ!?今日はついてるなぁ~」

「だな~。避難だからな。ここで動けないからな~、仕方ないよな~」

「で、お前どれにする?」


 親の顔は殆ど覚えていない、スラムに置いていかれてからは生きるのに精一杯だった。ある日小銭稼ぎのゴミ拾いをしていたら、スレクラの奴隷狩りに捕まり、そして今此処に居る。ここに来て何年だろう?5年?6年? 誰を何回相手にしたか覚えてない。

 いつもより、大きな爆発音や発砲音が聞こえていたけれど、この前は酷いのにあたって、医療カプセルに入る羽目になった、今日の医療員は何をしてくるんだろう、どんな事をさせられるんだろうか、また医療カプセル(タンク)は嫌だなとか、そんな事ばかりを考えていた。


「おいお前ら!避難するぞ? ってお前ら何を品定めしてんだよ!」

「いや、だっていつものサイレンだろう?じゃぁ避難で動けないからな~、仕方ないよなぁ~へっへっへ」

「馬鹿野郎、今日は何時もと違うっていうテラン(地球人)の放送聞いてないのかよ?宙港で「VOAに破壊された輸送船の密輸品が暴発して危ないから、奥への避難しろってよ!」

「はぁ?!何処の馬鹿野郎だよ!畜生!せっかくここでお楽しみが出来ると思ったのによぉっ!」

「きゃぁっ!」

「うるせぇっ!爆音程度で悲鳴なんてあげてんじゃねぇよっ!」

「ぐがっ!」

「おいおい、あんまり強く蹴るなよ、殺しちまったら弁償もんだぞ?」


 くぐもったズンッ!という音がする(たび)に揺れが大きくなってくる。だけど、悲鳴は上げない。悲鳴をあげれば、さっきの娘みたいに蹴られるのが判っているから。お腹の下の方を押さえて脂汗だしているけど、大丈夫かな、あのこ?


「ちょっと外が(うるさ)くないか?」

「あ~?しかたねぇなぁ~。おい?お前ちょっと廊下見てみろ」

「はい。別になにもーー


 ドッ!と言う音が聞こえたと思ったら、扉を開けて半身を乗り出した医療員が、何かに(はた)かれる様に外に転んでいった。

 次に見えたのは、何かが部屋にほり込まれ……その後は大きな音で耳が殆ど聞こえなくなって、頭がクラクラして立っていられなくなり座り込んだ。

 ユラユラ揺れる視界の向うで、さっきまで私達を品定めしていた医療員が、不思議なダンスを踊り、床に倒れていった。


「いたぞ!」

「やめっ」


 座り込んだ私達の周りを蒼い骸骨が滑る様に歩くと、部屋の何処かで医療員が倒れていった。ふと気づくと新しく倒れる医療員は居なくなっていて、銃を構えた蒼い骸骨が私達を取り囲んでいた。

 蒼い骸骨に見つめられ、泣きだしそうになっている一番年下の()の手をギュっと握りながら蒼い骸骨を見つめた私は、ああ……ここで死ぬんだって思った。

 本音を言えば、私はその時ほっとしていた。これで地獄から開放される、もう生きなくても良い、もう無理矢理生かされることもないのだと、そう思って少しだけホッとした。

 せめて、せめて下の()達は苦しむ間もなく一瞬で逝かせてやって欲しいと思っていた。


「???」


 蒼い骸骨がタオルで私達を拭きだしたとき、ああ……スレクラの変わりに今日から、蒼い骸骨の相手をさせられる日々が始まるだけだったのかと落胆した。でも抵抗はしなかった。抵抗しても無駄だと思ったから。

 タオルで体を巻かれて、抱き抱えられた時。別の場所で相手をするのだと思った。少しきつめに抱えられたけど、大人しくした。どうぜ相手をさせられて最後は殺されるのだからと諦めていた。


「!」


 施設の外に出て船が見えた時、別の氏族の私掠(しりゃく)船が襲ってきたのだと思い、ああ……未だ生きなければならないのだと絶望した。

 蒼い骸骨に抱えられたまま近づく開いた扉から光が漏れる船の入り口が、新しい牢獄の入口に見えた。だけど暴れなかった、逃げようとしなかった。希望なんて持っても無駄だって知っていたから。

 中に入ると、顔は蒼い骸骨で見えないけど、体つきからみて女の人の蒼い骸骨が居た。


「?!」

「ごめんね?びっくりするよね?でも、もう大丈夫だからね。ほら、ちょっとこの台の上に寝てね?」


 船に入って、タオルを()ぎ取られて台に寝かされたとき、今日は男の人じゃなくて、この女の人と、この台の上でするんだって思った。


「……」


 台の上に仰向けに寝て膝を立てて足を開いたら、女の人がこちらを暫くずっと見ていた。暫くすると手が伸びて来て脚に触ると、膝を延ばさせられて足をそろえて寝る様にされた。不思議に思っていたら、いきなり台の周りを変な機械がグルグル回って、それが止まるともう一度身体を丁寧に拭かれた。やたらと綺麗好きなんだなって思った。どうせすれば汚れるのに、する前は綺麗なのが好きな人達だなって思った。


「……着方分からないかな?じゃぁほら、右足あげて」


 薄い小さな布を渡された時、何か分からなかった。遠い昔に使ったことがあるような気がしたけど、思い出しちゃいけないと思ったから。

 言われるままに身体を動かしてそれを着た時、下着だって思い出した。あそこでは、奴隷には下着は不要だって言われて付けてなかった。


「もう大丈夫……もう大丈夫だから」


 私に下着を着せたとは別の人、今度は男の人が来て、抱えられて隣の窓際が通路になっている船に移動した。なぁんだ、こっちでする為の準備だったのかって思ったら、そのまま椅子のひとつに座らせると、私を連れてきた男の人は船から一度出て行きそして、コップ持って戻ってきた。


「熱いから気を付けて飲めよ?」


 熱いってなんだっけ?って、その時思った。ああそうだスラムに置いていかれる前に飲んだ事があるような記憶がある。スラムでは食べられるだけで幸運だった。できたてなんて食べられない。スレクラの施設では、良く分からない温いのを食べていた。


「うあぁぁ!ちがう、ちがう。ゆっくり、ゆ~っくり飲め」


 一気に飲もうとしたら、私の椅子の横に膝をついていた、男の人にコップを押さえられた。ゆっくり飲んだスープは暖かくて美味しくて、あっという間になくなってしまった。


「ほらよ、あんまり飲むとお腹壊すから、これで最後な?」


 空のコップを見ていたら男の人にコップを取り上げられた。ああ、やっぱり終わりかって思っていたら、暫くすると新しいスープを入れて戻ってきた。


「じゃなぁ、仕事あるからでていくけど、お前はここで座っていろ」


 スープを渡すと男の人は出て行った。

 男の人が出て行った後、窓の外を見たら、仲間達が蒼い骸骨に、時に抱えられ、時には何か布のベッドみたいな物に乗せられて、次々とこちらに連れてこられていた。

 サイレンは未だ鳴りやんでいない。爆発の音や、発砲音も鳴り止まない。いつもビクビクしながら聞いていた音が、今は何故か音楽の様に聞こえる。


 外から中に視線を戻すと、女の人?の骸骨が歩き回り、私と同じ様に椅子に座らされ、スープを飲みだした仲間達や、年下の()達を世話していた。それを見て、初めて助かったんだと思った。

 助かったと思った途端に、なぜかすごく視界がぼやけて、周りが良く見えなくなった。


「悪いことすると、テラン(地球人)の蒼い悪魔に連れていかれるよ!」

 いつの頃からだろう?言うことを聞かない子供達への脅し文句として、悪いことをすると空から蒼い骸骨が現れて、悪い子達を死者の国に連れ去ってしまうって、そんな風にあちらこちらの種族の母親が子供に言う様になったのは。

 私は子供達にそんな事は言わない。他のお母さんと違って、蒼い骸骨は悪い人達から助け出してくれる守護者だと教えている。


「過去は変えられないが、その過去を知っているのは私一人で十分だろう?あえて教える必要なんてないさ」


 主人にもそう言われ、子供達は私の過去を知らない。子供達は主人が蒼い骸骨なのを知っているけど、知らないふりをしている。主人は蒼い骸骨って知られて娘達に嫌われたらどうしよう!って時々狼狽しているけれど、面白いから暫くほっておこう。


 蒼白く光る骸骨、テラン(地球人)ARISやテラン(地球人)兵士の標準装備。見る者の立場によって見え方が変わる。死の使者、死の案内人。

 私には救世主。私をあの地獄から助け出し、家族を与えてくれて守り通してくれている守護者の印。


 スレクラ14氏族テラ(地球)商業施設

 テラ(地球)本星に、唯一所有が認められたスレクラ14氏族の商業施設。商業施設と言いつつ、その実態はテラン(地球人)で奴隷を密輸出するための施設であった。


 テラ(地球)では奴隷の売買、その所持は禁止されている。特に他種族がそれに違反した場合、死刑とされる重罪であるが、封鎖地域は無法地帯であったため、その密輸出は後を絶たなかった。

 テラン(地球人)の協力者、輸出される者の殆どは封鎖地域の者であった。そのため、輸送途上での変異等で事故も多発していたが、希少価値のあるテラン(地球人)奴隷の密輸は利幅が非常に大きい商品であり、一攫千金を狙う密輸業者で活況を呈していた。


 VOA出現地域の施設であるため、幾度となくVOAの襲撃を受けていたが、テラン(地球人)の防衛協力によって、ごく稀に施設外縁が被害を受ける程度であったが、最終的にはVOAの大規模発生によって壊滅した。


 襲撃によりジェネレーターが爆発した結果、クレーター状の跡地しか残らず、生存者は居ない。施設を壊滅させたVOAを産みだしたAbyss Coreは翌日にテラン(地球人)によって発見され、破壊されている。


 同時期に発生した外交船団行方不明事件や、その後のスレクラ戦役等から、テラン(地球人)による襲撃ではないかとの説もある。

 テラ(地球)は公式発表のVOA襲撃の以外の一切を否定している。


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