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1-21-5 スレクラ(デッドマンスイッチ)

「標準配置を変える必要があるのでしょうか?」


 連合の標準設計で、ジェネレーターで高出力を得るためには、低出力、中出力、高出力と3つのジェネレーターを必要としていた。またその配置は個別に分散配置するのが当然だとされていた。


 あの手この手で削減可能な部分を探していたテラン(地球人)は、この常識を疑った。そして、ジェネレーターの配置の無意味さと、ジェネレーターの構造に無駄が在ることを見つけた。真面目に考えれば誰でも思いつくようなことだったが、今まで連合各種族は誰もそれを言い出していなかった。


「なぜジェネレーターの配置間隔を狭くするのですか?」

「いや、反対になぜ間隔を(せば)めないのか、不思議なのだが?」

「何故って、そんなことをしなくても設置スペースは十分ありますし、そもそも標準設計でそうなっているから、そうすべきでは?」

「いや、その標準設計がおかしいってなぜ疑わないの?それにこの部分重複しているよね、一緒にしたらジェネレーターを統合できるでしょう?」

「そんな事をしないでもジェネレーターは直ぐに作れるし、余剰の空間も多くあるのだから意味ないでしょう?」

「そうじゃないだろう……思い出して欲しいのだが、我々はジェネレーターを小さく出来ないか検討しているんだ。ジェネレーターの大きさが変わらなかったら意味がないだろう?」

「船を大きくすれば……」

「そこだ!そこが君達の問題点だ。大型化で全て解決してしまった。今我々はスリム化、小型化で対応しようとしているのに、大型化が前提の話は無意味なんだよ。可能性があるなら試すんだ。試してから駄目だったら、別の手段を考えるんだ。我々に余裕はないんだ」


 高中低の3つのブロックに分割されていたジェネレーターを、殆ど直結する程度まで近づけて設置した。

 マシナー(機械種)は、問題発生の可能性を指摘してきたが、テラン(地球人)は実験を強行した。何も問題は起きなかった。

 次に隣接ブロックの共用化を検討した。マシナー(機械種)達は、少しだけ問題の可能性を指摘してきた。マシナー(機械種)達が言う通り、最初は上手くいかなかったがテラン(地球人)は諦めず改造を繰り返し、隣接ブロックをひとつのブロックにまとめる事に成功した。重大な問題は何も起きなかった。

 次にジェネレーターの構造で無駄であるという部分を改造する事にした。マシナー(機械種)テラン(地球人)に混じって改造作業を行った。何回かの試行錯誤の結果、新型ジェネレーターの製造に成功した。何度検証しても、実験しても問題は生じなかった。占有スペースと言う意味で連合標準設計の100分の1程度になってしまった。


「列強に対しては機密事項にする。仮にマシナー(機械種)がこれを列強に報告するというのであれば、テラン(地球人)との戦争を覚悟して欲しい」

「列強に報告する気は欠片もない。こんな事を彼等に教えれば、更に専横が激しくなるだけだ。それだけは我慢ならない」


 列強種族に教えるということは、強盗に拳銃を渡すのと同じと考えていたテラン(地球人)マシナー(機械種)は、この小型化成功の成果、特にノウハウの部分をスレクラ等の列強種族に対して秘匿した。仮に実物を手に入れられてもノウハウが判らなければ、デッドコピーですら不可能だからだ。


 あらゆる部分での小型化、省スペース化の成功により、他種族と全く異なる運用ドクトリンを持つテラン(地球人)の軍艦、列強種族の回転砲塔を多数装備した鈍重な船とは異なり、連合の常識からすれば異様に高機動で、艦の大きさの数十倍以上の出力をもつ艦首固定主砲を主装備にした、黒灰のスリムな軍艦が産みだされていった。


 他の種族から恐れられるテラン(地球人)の襲撃機も、この過程で生み出された。


「やはり小型機は必要なのでは?」

「要らない!損耗前提の兵器に搭乗員を割く余裕なんてない。自前のシールドが張れるならまだしも。敵機の銃撃を少しだけ削減できるだけの何の役にも立たないシールドしかない小型機なんて資源の無駄ぁ!」

「いや、有りかもしれない。小型化されたジェネレーターで武装もシールドも賄える?ちょっと待ってね。で剛性とかをかんがえると……。あ、駄目だこりゃ、大きさが突撃艇並になっちゃうよ。使えねぇ~」

「何が駄目なの?その大きさでいいじゃない。考えてもみてよ――


 テラン(地球人)の襲撃機は、機と言っているが実体は小型突撃艇並の大きさを持っている。マシナー(機械種)達の人工脳を流用した艦載型AI、AIであってマシナー(機械種)達の様に自我が有る訳ではない、を搭載し、搭乗員数1~2名の襲撃機ながら180日間の連続航行が可能で、ワープジェネレーターまで持っている。短期間ならフル装備の軌道降下猟兵2分隊を運ぶ事も出来る。


 連合の常識に当てはめると、機体の大きさから判断される数十倍以上の出力を持ち、圧倒的な機動力と攻撃力を誇り、自前の戦列艦並のシールドを展開しながら、更に戦列艦の主砲並みの機首連装砲を乱射しながら敵に襲い掛かる。


 通常は襲撃機母艦(HIVE)に載せられ、星系近傍までやってくる。ところがHIVEの動向だけを監視していると、自前で神出鬼没の様に現れて暴れまわった後に消えていく、通り魔の様な機体だった。それでいてテラン(地球人)の他の船同様に厳重な機密管理がされた機体だった。

「このデッドマンスイッチとは何ですか?」

「ああ、バイタルやら何やらが停止したら、要するに搭乗員全員が死亡したか、手順以外の方法で船外に連れ出されたら、一定時間後にジェネレーターを爆発させるようにしてあるのよ」

「はぁ?!何を考えているのですか?!テラン(地球人)は?!」

「何って?他の種族にジェネレーターの秘密を知られたら駄目でしょう?機密保持の為に必須の装備。言いたいことは分るけど、搭乗員1人の命と、種族の存亡なら、搭乗員1人を犠牲にする。いつかは小型化のノウハウも気づかれるだろうけど、その時まではこの装備が外される事はないよ。ああ、他の船にも全てついているからね?だから私達テラン(地球人)は港に着いても、マシナー(機械種)テラン(地球人)以外居ない港以外は、誰かが船に、艦橋に必ず最低2人が残っているでしょ?」


 襲撃機で艦隊戦の前に穴だらけにされ、仮に無事であったとしても異様に機動力のあるテラン(地球人)の戦闘艦が突入してくる。テラン(地球人)からすれば、列強の戦列艦は時代遅れも(はなは)だしい、鈍重な標的でしかなかった。

「標的の戦列艦は自動操縦とはいえ、スレクラの最新型に近いものですよ?!それがここまで……ここまで簡単に沈むなんて!」

「いや、あれ1隻だけだからね。実際はもっと沢山居るだろうから、こうは上手くいかないよ。それに、どんくさいというか、モッサリとしか動かない船だからね、攻撃外さないからね~」

「生産も進んでいるみたいだし、それと強襲機動母艦HIVEも良好な成績らしいし、肩の荷がやっと下りたよ……でもこれからだよな」

「うん……後は配備が終わるまで我慢。配備が終わったら……復讐するのはそれからだよ」

「将来、列強の慌てる顔が見られると思うと、楽しみで仕方ありません。しかし最初、テラン(地球人)の貴方達が、目立たない色にすると言い出したときはどうかと思いましたが、艶消しの黒灰色の襲撃機が並ぶ姿は壮観でした」

「襲撃機もそうだけど、戦闘艦もなかなか良いでしょ?」

「ええ、テラン(地球人)の戦闘艦を見慣れると、列強の戦列艦の無駄な大きさと、あの鈍重さを哀れに思います。そしてあの色!今ではあの鮮やかな色が、標的にしか見えなくなりました」

「あれ?でもマシナー(機械種)の戦闘艦の色って?」

「ええ、今は変えません。テラン(地球人)の配備が終わる頃、一気にテラン(地球人)と同じ黒灰に塗り替える予定です。列強は馬鹿にしてくるでしょうが、暫く経てば……ふふっ 楽しみです」


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