1-21-4 スレクラ(自分の常識は他人の非常識)
「戦列艦というのは要するに戦艦空母と同じでしょう?そんな色物が常識?ほんっとうにっ!真面目に戦争する気があるの?連合って?」
圧倒的に優位な状態ならまだしも、激戦状態になると戦艦空母は役立たずのお荷物になる。同族同士の血で血を洗う戦争で、それが嫌と言うほど身に染みているテランは、戦列艦の空母機能を直ぐに外した。
「ふむふむ。小型攻撃機が戦列艦を攻撃する場合、なになに……反復攻撃をする。へーほー。そのために1会戦で15%が未帰還となり?!はぁ?!10%が損傷大破で使用不能になるぅ?!使えるかぁ!こんな物!」
「まぁまぁ、ちょっとその資料見せて。操縦訓練も必要な小型攻撃機をそんな馬鹿な事で損耗させる筈ないでしょう?えーと……小型攻撃機の操縦は極限まで簡略化されている。5時間程度の訓練で操縦可能となる。従って搭乗員の補充は容易であるって、おいおいおい……」
「この戦術を考えた奴って馬鹿でしょ?こんなアホ兵器使える訳がないじゃないか……、というより戦争を何だと思っているわけ?」
降ろした小型攻撃機を空母機動艦隊化で対応しようという話もあったが、調べれば調べるほどにその異様な運用方法が際立ち、小型攻撃機を活用する話しは立ち消え、採用されることなく忘れ去られた。
「それはわかりますが、小型攻撃機を本当に降ろすのですか?小型攻撃機は必要ではないですか?」
「シールドも張れない、死亡率の高い小型機なんて無駄。そんな小型機に搭乗員を割かれるのだったら、艦船に回す方が何倍もマシ」
「確かに死亡率は高いですが、圧倒的な戦力の場合、その死亡率も低下するので、有用な戦力と思うのですけれど?」
「圧倒的戦力ぅ?そんなもの最初だけよ。連戦になると死亡率の高さから補充が追い付かなくなって、送られてくる補充は素人だけになって一気に戦力崩壊するの。私達はね、同族同士の戦いで経験済なのよ」
同様に、連合で常識とされていた回転砲塔も採用しなかった。
「そりゃ、砲塔を回転させて同航戦。シールドに散らされる敵味方双方の砲撃。どちらかの船に時おり煌めく着弾の光と、飛び散る破片。映画会社が泣くほど喜ぶ絵面なのは認めるよ。でも無駄」
「だよね、砲塔にエンジンと操縦席付けて飛ばした方が百万倍マシ。あれ?これ良い考えかも??」
砲塔を削減どころか無くしたことで、砲塔用ジェネレーターとシールド発生器も削減され、艦形は更に絞られていった。
「保守AI機を導入すると、搭乗員はここまで減るものなのですか?!」
「そりゃ、不要な物を外して、無駄な空間を無くし、そして最後に保守用AIロボットを導入すれば、搭乗員数は減るよ」
「だよ。なんで連合は保守用AIロボット入れないんだろうね?」
「それは……我々マシナーに似ているからではないでしょうか?我々に監視されている様な気持ちになりますから、機密の塊の軍艦には載せたくなかったのではないでしょうか?」
連合各種族の戦列艦は、保守要員すら人、生物種で賄っていた。AIを搭載した保守用ロボットを載せている戦列艦は皆無だった。
「馬鹿だよねぇ~。どの戦列艦も基は貴方達マシナーが提供した船でしょう?船内監視システムだっけ?再設計しないでそのまま複製したものを使っているんでしょう?マシナーに監視されるもへったくれもないでしょうに」
「相手が馬鹿のお陰で私達は助かっているんだから、良しとしようよ。馬鹿の大型船が1隻沈めば2000人以上、こっちは馬鹿から見たら吹けば飛ぶ様な小型船が1隻で20~30人。この差は大きいよぉ?失う資源の量も段違いだからね」
なりふり構わない省力化を望んでも、テランの力だけでは良い結果を得る事ができなかったろう。我々と付き合う様になってから感情の起伏が豊になり、まぁ、若干暴走気味に感情が豊になったマシナーが、スレクラの様な列強に対して堪忍袋の緒が切れたマシナー達の協力があればこそ出来た事だ。
とりあえず手が付けられる部分の省力化の目途が立ったころ、副次的な部分にも省力化の手を伸ばした。例えば、連合の船の色は総じて派手だった。軍艦に維持管理費が高額になる鮮やかな色を採用できる。それだけのコストを負担できるのだと、種族の力を誇示する目的だった。
色鮮やかで視認性の良い戦列艦というものは、テランからすれば常軌を逸していた。費用削減うんぬん以前の問題だった。
「あいつらは、孔雀か何かか?真面目に戦争をする気があるのか?戦争を舐めているのか?それとも我々テランが異端なのか?」
対外的には色鮮やか塗装を調合する時間すら無く、金もないからと公表され、商業船は除いて、軍艦や軍機は船体色を視認性の悪い黒灰の塗装で統一された。軍艦の鮮やかな船体色は、戦争への冒涜であり、如何にそれが今までの銀河世界での常識であったとしても、とても付き合いきれるものではなかった。
「戦列艦というものは、鮮やかな色なのが普通と思うのですが?それよりも本当に、こんな暗くて目立たない色にするのですか?これでは軌道宇宙港を訪れたときに、目立たないのでは?」
「いや、暗いも何も、目だったら駄目でしょう?」
「手に入れにくい色や、維持に費用が掛かる配色にすることで、国力を誇示するのが普通だと思うのですが?それに他種族の軌道宇宙港に停泊した際に、示威するためにも戦列艦は目立つ色である必要があると思うのですが、テランは違うのですか?」
「はぁ?いやいやいや、戦闘艦は低視認性の色、例えば黒灰とかで塗装するのが当たり前でしょう?目立ったら駄目でしょう?あと示威行為が巧い軍隊は弱いんですよ?」
「でも、シールドもありますし、最後は視認距離でしょう?色なんか殆ど関係ないのではないですか?」
「戦闘は最後の一瞬に戸惑った方が負けるの。だから低視認性にするのは意味があるの。それに黒灰の塗装は本気で安い早い直ぐ作れる」
省力化の波は船以外の部分にも及び、例えば、連合各種族の軍隊では階級が上がるにつれてその制服は装飾が華美になっていく。
「なんでこうも金ピカが好きなんだ……」
「目がぁ!目がぁ!ちかちかするぅ~」
「船にしろ、服にせよ、派手にしないと死ぬ病気なの?それとも全種族祖先が金ピカ集めるのが好きな烏とか?それとも孔雀?」
「おぉ~あれ見て、あの種族の士官服!肩パッドだよ、肩パッド!絶滅危惧種だよ!」
「肩パッドがどうした、あっちにはマントを羽織った奴も居れば、トーガみたいのを巻いているのも居るぞ……」
他の種族と異なりテラン兵と士官は階級章で区別するだけで、統一でデザインの黒灰の制服にした。
「なぜ階級が上がっても制服が一緒なのですか?」
「なぜって、それは被服生産設備が統一できるだろう?兵と士官別々の被服生産設備を作る無駄なスペースはないよ。そんなスペースがあるなら、兵器生産ラインか、食糧生産ラインを作るよ」
「服装が一緒だと他の連合の軍に馬鹿にされると思うのですが?」
「馬鹿にされるっていうけどね、なんなのあの装飾品でゴテゴテした士官服。戦争を真面目にする気あるの?
根本的な考え方の違いもあった。テランの常識では、戦闘時は気密服を着用するのが当然で、制服は作業服の様なものだった。仮に何かセレモニーに出席する必要があるなら、ジャケットを羽織れば良いと考えていた。
他の種族は、戦闘時に気密服を着用する事すらしなかった。それが常識だった。だからだろう、これらの削減はやり過ぎではないのかと、マシナー達でさえ口を挟んできた。
「戦闘時に気密服を着ないのが常識ならば、少しでも気密を破れば兵士の艦内移動すら困難になる?そういえば……戦列艦ってやたらと非常ハッチが多かったよね?」
「ん?ああ、基が客船だからね、それにシールドに頼った戦術だから、非常ハッチの数が多かろうが少なかろうが……ちょっとまて、ハッチの部分は他の部分より装甲が薄くて狙い目。それが沢山あって……気密が破れれば艦内移動が困難。これは、使えるね」
列強種族は貧乏な新興種族と馬鹿にしてきたが、本気の戦争をする船を作る気のテランは気にも留めなかった。
「テランの船と士官を見またことがあるかい?」
「ああ見たとも、何だろうね、あの貧乏くさい船は。装飾をする金もないのか、テランは?」
「新興種族だからな、金が無いのかもしれん。兵も士官も飾りのほとんどない同じ服だそうだぞ?」
「ああ、それは聞いたことがあるな。肩と襟の部分の模様だけで区別している、だったかな?誰か実物を見た事ある奴はいるかい?」
「商船護衛でテラ星系の外縁軌道港に行ったときに、見たことがあります。色は黒灰と灰色を組み合わせた制服で、襟と肩の模様は黒色でしたけど、物凄く見え辛い階級章でしたね」
「何だそれは?色のある布や糸を買う金もないのかテランは?」
「まぁ新興種族ですからね、何も分かっちゃいないのでしょう。そういえばその時、テランの輸送船の中を歩く機会に恵まれたのですが、艦内通路は殆ど金属のむき出しで絨毯などはなく、照明も埋め込み式でした」
「むき出し?!艦内生活の潤いというのを考えないのかテランは?兵達の士気もそれでは最低だろう」
「ええ、士気は絶対に低いと思います。何しろ通路は狭く、天井も低い、挙句に異様に窓が少なくて、何か小さなトンネルの中に居る様な感じを受ける船でした。あの船に私は乗りたくありませんね」
「それはまた……士気が最悪の船だろうな。しかし、士気が最低の軍など恐れるには当たらない。向うが自滅してくれているとは、ありがたいことだ」
「その通り。相手の士気が低いのは、此方にとっては好都合ではないか。もとより戦列艦すら無いテランの軍など、鎧袖一触。更に士気が最低で簡単に崩壊してくれるのだ。馬鹿なテランには、軍備が整ったとでも思わせておけば良いさ」
連合各種族がまともな艦隊戦を行ったのは、下手をすれば数百年前。最近の戦争と言えば、列強種族が弱小星系に侵攻する事が殆どで、圧倒的戦力差で勝敗が決定してしまう。そのため殆ど被害らしい被害を受けない勝利者側、列強種族には艦隊戦での被害のノウハウが蓄積されなかった。
「この前、列強の何処だっけ?えーと……まぁいいや、列強の女性士官がこの船に来た時に、なぜこんなにも窓が少ないのですか?って聞かれて、窓がなんでそんなに必要なんですかって答えたら、微妙な顔をされてさ~」
「あの輸送船って、初期省力化検討型だからやたら豪華だったような?」
宇宙戦争の経験は無いものの、同族同士の激闘のノウハウが未だ薄れていないテランと、演習に毛が生えた程度の戦争しかしたことが無い連合各種族との認識の差は大きかった。




