1-21 廃墟の月夜 その2(スレクラ14氏族)
真実が少しだけ混じるから、噂は広まると思うのよね。今回の場合は必ず送り返されるから、少しも真実が混じってない筈。なのに、なぜ広まるの?
「ねぇねぇ、話を元に戻すけどさ。なんで全て送り返しているのに、助けてくれるっていう噂でも出回っているの?」
「それがさ、噂だよ?噂だけどね、他星種の施設に保護された人数と、送り返された人数が合わないって話が出ているの」
「それってさぁ……スレクラ14氏族……の施設のこと?」
「びーんご。でも噂だからね?でもさ、火のない所に煙は立たぬって言うし、どうなのかな……」
スレクラ14氏族、遥か昔から連合の軍事部分の一翼を担っている古参の種族。世襲制で成り立つ氏族の集合体による連邦制の様な政体をもっている。
氏族の中にも厳格な階級制度を持ち、階級は固定されている。固定された階級であっても、2等市民扱いとされている氏族以外の者達に比べれば、天国の様なものだと思う。
他星種族と決定的に異なるのが、星間航行時代になっても未だに奴隷制を維持していること。彼等は奴隷じゃない、6等市民だと言っているが、奴隷以外の何物でもない。
彼等に消耗品として扱われている奴隷が、スレクラ14氏族系の星系以外で彼等の船から逃亡を図るのは日常茶飯事。私達テランも何度か逃亡奴隷を保護している。
奴隷が乗っていた船は私企業であったり、公船だったり。流石に軍船には乗せてはいないが、例えば外交船には必ず乗せている。外交船が大型になればなるほど、乗せている奴隷の数も多くなる。
他星種であろうがお構いなしで、用途は推して知るべし、男女それぞれの乗員用の異性の性奴隷。
軌道上であれ、惑星上であれ、宇宙港で保護した事が公式にばれた場合は、連合の条約に従って返却するしかない。
それ以外の場所や、非公式で済ませられる場合は、他の連合種族同様に我々テランも逃亡奴隷を逃がしてきた。何人かは母星に戻るか、それも困難な場合はテラン国籍を取得させ保護している。
「なるほど、この封鎖地域に商業施設持っていたよね、スレクラ14氏族は。なるほど……商業施設ね。何の商業施設なのかな?というところね」
「わざわざこの封鎖地域に施設作ったからね、スレクラ14氏族は。まぁ他の本土とかに彼等の施設の建設要請あっても拒否しただろうけど」
「そりゃそうでしょうよ。あいつら騙して攫って本国に持ち帰るからね。奴隷商人というか、人さらいを家に入れる馬鹿は居ないでしょう?大使館だって合同庁舎の一室だけにさせているくらいだもの」
「そうだけどね。まぁ、売る馬鹿も多そうだしねぇ、この封鎖地域近辺だと」
初めのころ、我々テランは我々より優勢な軍備を備えたスレクラ14氏族に怯えていた。何しろ人攫いの方が、自分達より優勢な軍備を保有しているのだ、怯えない方がおかしい。
つい最近、我々テラン主導の軍備は、スレクラ14氏族を含む連合各列強種族を何世代も時代遅れに出来る装備内容、配備数になった。
自慢するべきか、哀しむべきかは難しいけど、日々同族と争っていた我々テランの軍備に対する発想は、連合各種族と一線を画している。
確かに、連合各種族は進んだ技術で軍備を整えていた。だが、その発想は停滞し、時代遅れになっていた。けれど全ての種族が同じく時代遅れだったので、だれもそれに誰も気づかなかった。
軍備が整った今、我々テランの、スレクラ14氏族に対する忍耐は、限界に達しようとしている。
「どうもさ、東南アジア各国に潜伏している封鎖地域国籍者が手を引いて、その地域から国籍関係なく、スレクラ14氏族に誘拐した人間を売っているという話も出ているみたい。
何人かの行方不明者はそれじゃないかっていう話もあるの。スレクラ14氏族にばれると対策取られるから、内密に封鎖地域国籍者の捕獲と記憶抽出しているみたいよ?」
「うわちゃぁ……。今度はスレクラ星系侵攻とかありそうな。今度はそっちに呼ばれるとかないよね?確か……私達おもしろがって長距離襲撃機とか長距離強襲艦とか、軌道降下猟兵の資格取っていたよね?」
「うわぁお。今度はそっちに呼ばれそうな……」
「やめろぉー、その発言はフラグだからやめろぉー」
「まぁ、やるとなったら容赦する気はないけど、VOAと闘いながら連合内部で紛争が絶えないって、私達は何をしているのかな?」
予定の最深部まできたから、後は引き返すだけ。
良いことなのか、悪いことなのか、今日は1体もVOAを見ていないし、あいつ等すらも今日は見ていない。新人達にはVOAよりも、VOAを利用した衣服を着ているあいつ等の姿の方が、刺激が強いだろうな。VOAとドンパチ始めた瞬間に、斃したVOAから剥ぎ取りをしようと群がって来るあいつ等の姿は強烈。。
「10分休止、5分交代で周囲警戒。音を立てるな」
「5分だけ?短くないですか?」
「ここはね、奴等が多いの。音を立てたら最後よ?ひとつ言っておくとね、私達は出発地点から3kmも歩いてないからね」
「え?!だって……時間凄く使って?!」
「それだけ、注意深く、ゆっくりと見つからない様に歩いたからなの。物凄く疲れた感じがするでしょ?それはそれだけ緊張して歩いたからなの。ここからはVOAと奴等が混住している場所。本当に危ないから気を付けて。」
「混住?!VOAとどうやって?」
「言い方が悪かったかな。混住というよりはVOAを利用して生活しているつもりの奴等が居る場所。お陰で小さなAbyss Coreがあちらこちらにあるので、もぐら叩きよりたちの悪い場所なのよ」
Abyss Coreは、自身の周辺温度を上げる。体感的に40℃程度の空間温度を保とうとする。なぜ周辺空間をその温度で保とうとするのかは分からない。
Abyss Coreまで到達したら、先ず破壊が優先される。一瞬で新たなVOA、それも強力なVOAを産みだすかもしれない。だから発見即破壊が鉄則なので、誰も調査なんてしていない。
周辺温度との温度差があれば、暖かい空気は対流し上昇する。VOAを産みだす事を除いて考えれば、厳冬にもなるこの封鎖地域でこれほどありがたい熱源はない。
この場所の愚か者たちは、VOAが出て行く穴と空気穴を別に作れば、自分達の熱源として使えると思って、どこで見つけてくるのか分からないけど、小さなAbyss Coreを見つけては持ち帰る。
利用できている者も居れば、持ってきたAbyss Coreが成長した頃に、お役御免とばかりにVOAに蹂躙され果てる者も居る。
どちらの場合であっても、Abyss Coreをあちらこちらにばら撒いている事に変わりはない。お陰でいつまで経ってもVOAを産みだすAbyss Coreをこの地域から駆除できない。Abyss Coreが在るお陰で、変異してしまう人間の数も減らない。
自分達で悪循環を作り出しているのに、やれ、そうしなければ自分達は生きていけないとか、そうさせた奴等が悪いのであって自分達は悪くないとか、全てを人のせいにする奴等しか居ない。
最近、この封鎖地域の人間、変異種を全て他の惑星に隔離移住させた方が、Abyss Coreの駆除が簡単に済むのでは?という意見が主流になってきている。
今の私達には関係のない話。この闇夜の中、基地まで無事に帰れることを祈るだけ。おねがい、帰路もどうにか会わずに済みますように。
「あら?雲が出てきたね。増感装置が無かったら闇夜ね、これは」
「済みません、これ何ですかね?」
「ん~?ちょっと検索してみるね? えーと……スレクラ14氏族の上腕部アーマー?なんでそんなもんがこんな場所に?」




