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閑話 2-2 多種族混住植民星(軌道降下猟兵)

「……おねーちゃん。目があった」

「急に動いちゃ駄目よ……。ゆっくり、ゆっくり動いて」

「あーっ!逃げちゃった!ルトラ逃げちゃった!」

「あやぁ、逃げちゃったねぇ。 でももう1回来てくれるかもしれないから、あわてない様にね?あと今日は蒸気が多いから、おねーちゃんの手を絶対はなさいでね?」

「「わかった!」」

「あとね、ルトラ逃げちゃうから、もうちょっと静かな声にしようね?」

「「   (わかった)」」

 今日は、蒸気の量は何時もより多いわね。私だけなら何とでもなるけど、この子達と居るから、帰ろうかな?でもルトラ見ちゃったからなぁ……帰りたがらないだろうし、どうしようかな。


「だーっ!外した!」

「お前ぇ、外すの何回目だよ!」

「うるせぇ!あいつ等がすばしこいだけだ!」

「大声だすなよ、街の奴等に見つかったら面倒だろうが」

「あぁ?そん時は、()っちまえばいいだろうが!」

「あほか、お前は!こんな場所でやったら、目立つだろうが!()るなら森の中にしな!」

「ったくよぉ!面倒臭ぇったらありゃしねぇ!」

 密猟者達が火薬式実体弾を発射する銃を使うのは、稀だった。火薬式の場合、どうしても発射音が鳴り響いてしまうからだ。大気圏内の場合、レーザーは減衰してしまうので論外であり、基本的に彼等は小口径レールガンを多用していた。


「――か?判った。小隊長、西の森の手前で、励起反応を検知しました。小型レールガンかと思われます」

「密猟者か?」

「そうかと。あと、降下中のセンサーチェックで偶然感知したため、不確実情報ですが、民間人が西の森の方に歩いていた模様です」

「聞いたなお前ら?1分隊ついてこい、2分隊は2小隊の御守りだ。曹長は貰う。ドローン?」

「ドローン投擲済です。出発まで2分!お子様達は、2分隊に従い、ここで待機」

 この惑星では、訓練であろうと軌道降下猟兵が、フル装備の実戦装備を怠らないのは常識だった。対象はVOAではなく密猟者ではあったが。


「おねーちゃん、居ないねぇー」

「焦っても駄目なの。ゆーっくり待っていたら、向うから来てくれるかもしれないの。でも来てくれない時もあるからがっかりしちゃ駄目よ?」

「「ほうぅ」」

「… ちょっと静かにして、何か聞こえるから。あと手は絶対離さないで」

 何かしら?声が聞こえた気がする……。何か変な感じね。あの窪みに隠れておいた方が良いわね。


「だぁ!居ねぇ!獲物も居ねぇ、()っちまう女も居ねぇ!」

「煩ぇよっ!そんなに騒いだら、獲物も女も逃げちまうだろうが!このボケ!」

「大体なんだよ、この森はよぉっ!霧で良く見えねぇわ、変に吹き出す音はするわ、地面はフニャフニャだわ、やってらんねぇ!」


「(()っちまう女?!密猟者?!私達?この子達が危ない!?)ねぇ今から言うことをちゃんと聞いてね。密猟者が来てるの。だから絶対に声を出したらだめ。泣いてもだめ、泣き声が聞こえちゃうから。絶対に手を離さい。お姉ちゃんの言うことを絶対聞いて。そして返事で声を出してもだめ。分かった?」

「「(コクコク)」」

「ゆっくり、ゆっくり、あっちにいくからね?手を離さないでね。ゆっくりよ?」


「よぉ?帰んねぇか?これ以上ここに居ても出てこないしよ?」

「あぁ?!ふざけんな。せめて後1匹捌いてからじゃねぇと、気が収まんんねぇんだよ、俺はよ!」

「んじゃ、あっちの方向行かねぇか?」


「(駄目!!こっち来ないで!ああ……どうしよう、どうしよう。そこを曲がって、こっちに来たら丸み見えになっちゃう。お願い来ないで!)」


「ああ?こっちだろうよ、そっちじゃなくてよ」

「俺りゃぁこっちだと思うけどよ?」

「あん?ここ曲がった向うかよ?何にも居やしねぇよ……って、おいおい良いのが居るじゃんよぉ」

「あー、まぁ良いのは居るけどよ?3人の内2人はちーとばかり小さくねぇか?」

「馬鹿野郎、それも面白いんだろうがよ。やあ、お嬢さんちょっと道を教えて欲しいだけどよ?こっち来てくれないか?」


「(行ったら最後!行ったら最後。この子達を何とか逃がさないと)知らない人には近づくなって言われているので、道ならそのまま反対方向に歩けば森から出られますよ?」

「ああ?ごちゃごちゃ言ってないで、こっち来いこの野郎、来ねぇなら、そのちっこいのをどっちか撃ち殺すぞ、てめぇ。あ?」

「(嘘!行ったら3人とも犯されて殺される!)い・いやっ!」

「んだと!この野郎!まだ自分の立場が分かってねぇみたいだな!」

「(お姉ちゃんが合図したら、向うに走って、2人で手をつないで走るの)た・立場ってなんですか?!」

「あ?そりゃお前ぇよぉ。ちょっと楽しい事やるんだよ?いいから降りてこいや?」

「(楽しい事?!それは貴方がでしょ!)た・楽しいことってどんなことですか?(あれ?ルトラ?)」

「ごちゃごちゃうるせぇ!降りてこいったら!降りてこい!」

「おい、獲物だ!そっちに!」

「(ルトラが体当たり?)」

「ってぇ、なんだっこの野郎!って、おい、ルキオール入れた袋?!ってこいつこの野郎、その咥えている袋返しやがれ!」

「(!!今だ)手を離さないで!2人とも走るよ!」

「おいばか!あのねーちゃん達が逃げたぞ!」

「は? って馬鹿野郎!袋咥えた獲物追いかけるの先だろうが!」

「馬鹿かお前は!俺達は姉ちゃん達に顔を見られているんだよ!()っちまわないと、身バレしてこっちがヤバイだろうが!先にあの姉ちゃん達を()るぞ!」


 見つからない。奴等に私は絶対に見つけられない、ここなら大丈夫。

 ここは思い出したように吹き出す低温蒸気の音が、あちらこちらから聞える場所。霧の様な蒸気が木々の間を漂う、地衣類と低灌木の楽園。

 私の出す音は蒸気の音に紛れ込み、歩く音は地衣類に吸い込まれる。私の体温は暖かな蒸気に溶け込み、吐き出す空気は蒸気と混じり木々の間を漂い消える。

 ドローンで上から見られたら最後だけど、奴等はそんな物を飛ばせない。だから大丈夫、絶対に大丈夫。私達は家に帰れる。私は絶対に、絶対に、姪っ子達を家に連れて帰る。


「お嬢さ~ん、何もしないからよぉ。出て来いよぉ。逃げ切れないんだからよぉ。今のうちに出てきたら優しくしてやるからよぉ(優しいからよ。()った後は、直ぐに()って、そのまま掘りだしておかないで埋めてやるからよ!)」

「でてこねぇなぁ おい、本当にこっちかぁ?」


「!!!!!!!(口をふさが!」

「動くな、声を出すと奴等にばれる、我々は軌道降下猟兵だ。もう大丈夫だ。安心しなさい」

「小隊長……その体制で安心しろは無理なような?なお、対象は捕縛しました」

「殺してないな?」

「それは勿論、これから全部白状させて、スポンサーをゲロさせないといけないですからね。ところで小隊長。そろそろ手を離さないと不審者になりますよ?」

「おおっとぉっ!済まない。大丈夫か?」

「あ・あ・あ」

「小さい子達は大丈夫だ。あっちを見て……。お前らどこにそんなにお菓子を隠していたんだ?」

「あ……よがっだ…もうだべがとおぼっでー」

「あー、大丈夫。もう大丈夫だから」

「曹長?小隊長の姿が、どう見ても挙動不審の不審者が、泣いている女の子を抱きしめている様にしか見えんのですが?」

「伍長……少尉は女性慣れしとらん……」

「ありゃぁ……」

「お前ら……ところで、その小さな子達の上に乗っかている2匹のルトラは何だ?あとその袋なんだ?」

「野生のルトラに気に入られたみたいですね、この子達は。袋の中身は……ルキオールですね。13個入っています。畜生13匹()られたか……この密猟者どもが!」

「落ちつけ曹長!お前が取り乱してどうする。 伍長、曹長はなぜそこまで怒るんだ?」

「曹長は、あの見かけに反してルトラ3匹飼っていますから。ルトラほいほいとも言われているんですよ、曹長は」

「ところで、小隊長。何時まで抱きしめておるのですか?」

「おねーちゃん、このひとおねーちゃんの こいびとー?」

「「ち・ちがいます!」」



「曹長、この前森で助けた女の子いるじゃないですか?最近よくここに来ますよね?」

「少尉の所にな……」

「……今なんと?」

「少尉の所にな。連絡先も交換済みたいだな。あの種族は女性から押しかけるのが当たり前の文化らしいからな。陥落したみたいだな少尉が」

「あらまぁ。ところで、そうなると、前からちょくちょく来ていた同じ種族の別の女の子が、頻繁に来るようになっていますけど、その子は誰に押しかけて来ているんでしょうかね?」

「……」

「曹長……?」

「……」

「まじか……」


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