閑話 2-1 多種族混住植民星(密猟者)
大丈夫。私達は家に帰れる。私は絶対に、絶対に、姪っ子達を家に連れて帰れる――
VOAの攻勢に対抗するためというよりは、VOAの攻勢に負けたとしても誰かが生き残れるため。ただそれだけの理由でテラン達は、居住可能惑星への星間移民を、時には命を賭した護衛をもって推し進めている。
私の両親が居た惑星は、同族殺しすら厭わずVOAを自分達の星から駆逐したテランとは違って、VOAに浸食はされていなかった。
たまにニュース番組で、他の星系で輸送船や客船がVOAに遭遇し被害を出したというのを見る程度で、私達のほとんどは身近な脅威とは思っていなかった。積極的に星間移民に応じる者は少なかった。
ところが|テラン《地球人は、最近発見された新型VOAによるテラン滅亡を恐れて星間移民に狂奔している。そんな非公式情報の報道が繰り返されると、星間移民に応じる割合が急増していった。
祖父母や両親の思い出話では、少し前に異常な速度で自分達の惑星からVOAを駆除し、連合に参加したばかりの新しい種族テラン。連合随一の戦闘能力と闘争心、馬鹿みたいに諦めが悪くて、強靭、狂暴、冷酷、だけどお人よし、そんな彼等が滅亡に怯えている。あの時は、連合各種族は大騒ぎになったらしい。
テランは、他の種族へも星間移民参加の打診を精力的に行った。場合によっては、混住すら提案してきた。テランが滅亡するならば、我々はもっと簡単に滅亡すると怯えきりそして、種族数の増加が頭打ちになっていた我々が、星間移民に積極的に参加するまで時間は必要なかった。
後でちゃんとテランに聞くと、実際の所はテランらしい理由、最悪の事態を想定してやれることはやる。それだけだったのだが。
多種族が移民するこの惑星への移動には、当時最新のテランの長距離襲撃機と、長距離強襲偵察機が護衛としてついていたらしい。
今でも現役で飛んでいるけど、小型駆逐艦並の大きさで、武装は機首大型4連装砲のみ、長距離ワープ可能、180日間の連続作戦行動が可能で、22名乗機可能だが、通常搭乗員数1名とAIのみ……。ときどきテランが何を考えているのか分からなくなる。
それはどうかとして、新型機の護衛が付くらいに重要な移民船だったんだぞと、祖父がたまに自分の事の様に自慢することがある。おじいちゃん……船に乗っていただけでしょうに。
でも、重要な惑星というのは嘘ではないと思う。珍しい混住型の植民星でそして、この星独自の希少な小型生物も居る。そのためか、軌道上にテラの軌道降下猟兵が駐留している。賑わっている浜辺の沖合に、降着に失敗した訓練中の猟兵がたまに堕ちてくる。
先週も私と友人達が居た浜辺に堕ちてきた。怪我人も死人も出ていないので良いらしい……、テランの考える事は良くわからない。
いや……覗きかもしれない……。テランも我々も似たような形をしている。確か学校の先生が言っていたっけ……えーと、遠い昔にあちらこちらに送られた播種船が改造した結果生まれた種族だから、生殖方法も生殖器もほとんど同じ、確率論で言えば子供も可能、人工授精すれば確実に可能、なので異性としての対象も大丈夫なわけで……。今度、友達にも気を付ける様にいっておこうかな……。
今日は姪達と一緒に、浜辺じゃなくて西の森だから大丈夫かな。堕ちて……こないよね?
「第1小隊は、私が何時もの様に率いる。新兵達の第2小隊は、曹長が率いる。新兵共、曹長の言葉は神の言葉だ。忘れるな」
「よし!紳士淑女の新兵ども。降下準備だ。大丈夫死にはしない。喜べ!お前らのは特性のおしめつきだ。失敗してもおしめがしっかりと受け止めてくれる。ただし!おしめが動くような降着失敗したやつが1人でも居たら、お前ら全員、浜辺で10kmダッシュだ」
「小隊長、先週の娘たち可愛かったですよね~」
「お前ね……だから海に堕ちたのか……曹長にばれたら殺されるぞ?」
「伍長。あとで訓練追加だ。小隊長降下準備完了。降下扉開放します」
「?!?!」
「小隊長。いい加減慣れましょう。高所恐怖症ってありえないですからね?なんで軌道降下猟兵が高所恐怖症なんですか?」
「……人生を間違えたと思うんだっ!だろう?伍長?」
「あー、新兵ども安心しろ。小隊長が駄目なのは降りる直前だけだ。降りている最中や、降りた後は大丈夫だ。降りる直前までは曹長に従え。曹長願います」
「奴等を見つけた場合、迷わず殲滅せよ。小隊長、第1小隊降下まで 10、9 落下」
「?!8から先はどこーーーーーーーーっ!」
「「「いやーーーーーーっほぉっ!」」」
「第2小隊降下まで、5、4、3、2、降 下」
この惑星は、かつて植物が鬱蒼と生い茂り、大型・中型の捕食生物も闊歩する、普通に生存競争が存在する動植物豊な場所だったと推測されている。
残念ながら連合がこの星を見つけたとき大型生物は絶滅しており、中型以下の生物しか存在しなかった。また毒を持っている個体は動植物類に殆ど見られず、数えるほどしか確認されていない。動植物という意味では、面白みのない惑星と見えるのだが、惑星上で良く見かけるフルゴル・ルトラと呼ばれるカワウソに似た小型生物が、連合の中でこの惑星の名前を有名にしている。
「ねー、おねーちゃん。ここって野生のフルゴル・ルトラが一杯居るんだよね?おねーちゃんの所みたいに、私にも懐いてくれないかなぁ?」
「懐いてくれてたら、いいねぇ~。でも着いてくるか来ないかはフルゴル・ルトラ次第だから、追いかけたら駄目だよ?」
「「わかったっ!」」
フルゴル・ルトラ、直訳すれば輝くカワウソ。なにも個体自体が発光しているわけではなく、個体自体は本当にテラのカワウソに似た姿で、捕食、消化器官はあるが糞尿を排泄するという意味の排泄器官を持たず、摂取した物のほぼ全てを吸収蓄積する。そのためか、捕食環境が良いと、接触回数や量が激減する。
どうしても吸収できない鉱物類は蓄積され、七色に光り輝く宝石の様な球体ルキオールを排泄する。人為的に蓄積させることも可能だが、自然に蓄積したものと異なり、価値が無いほどに著しく小さくなる。
最初に発見したテランの学者は、姿かたちにメロメロになり、余りの人懐こさに陥落し、完全生物と分かって狂喜乱舞し、ルキオールの排泄を知って顔面蒼白になり連合に駆け込んだ。
フルゴル・ルトラからすれば安全かつ餌の心配がないからという意味かもしれないが、非常に慣れやすい生物のため、懐かれてしまってペットにしている者も多い。
規制し、保護しているが、野生のフルゴル・ルトラを殺して価値の高い大粒の自然のルキオールを取り出す密漁が絶えない。
懐かれて飼う場合は連合の専門機関でルキオールを摘出済としたタグをぶら下げる事が必須の生物である。
「おい居たか?」
「ああ、見ろよこれ、大量だぜ。笑いが止まらねぇ」
「あそこの森にも居そうだな、行かねぇか?」
「やめようぜ、あの森は街に近い。変なのが出てきても困るし、見られたら逃げられないぜ?」
「なぁに、見られたら殺っちまえば、大丈夫だろ?」
VOAと闘い続けているといっても、連合がそればかりをしている訳でも、生産品を全てVOAとの闘いに向けている訳でもない。宇宙を飛び交うのがARISだけの特権という訳でもない。
連合が民間に払い下げた古い輸送船を使った民間業者は、個人営業も含めれば星の数ほどいる。払い下げられる輸送船の大きさにもよるが、ちょっとしたトラック程度の価格で買える輸送船もある。
操縦方法は無料で焼き付けてくれるので、ちょっとした勇気があればそのチャンスに飛びつくのも悪くない。テランも、結構な者達が他種族の運び屋達と同じ様に星の海を航海している。
「本気で気づかれる前にこっちは、星系から脱出しているから、問題ないって」
「それも、そうだなぁ。見られたらとりあえず殺っちまって、埋めちまえば、ばれる前にこっちは星系外だしな。じゃ、あと一稼ぎと行くか」
「あ、でもよ。もしちょうどよかったら、殺る前によ、姦っちまうのは、ありだよな?」
「お前ぇも大概好きだな。俺は、遠慮しとくけど、好きにしな」
ただし、真っ当な者も居れば、碌でもない奴が居るのはどの世界、種族であっても同じで、この星系ではルキオールのせいで、惑星上や星系内で密漁者達の船を拿捕、撃破する姿は珍しいことではなかった。
「……おねーちゃん。目があった」




