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1-20-2-12 理不尽な世界)亡霊

「要するに、ほむらは、大昔に異星人に改造された訳ね?ところでさ、服ある?」

 半年ほど前のあの日、ポッドの中で目覚めざめたけいなだめるのは大変だった。そりゃそうだろう。刺されて重症を負い、気を失い、目覚めたと思えば、痛みが無いどころか、傷すら無い。そしてSciFiのセットの様な部屋の中で、全裸で目が覚める。動転しない方がどうかしている。

 刺された貴女あなたを私の拠点の医療ポッドで治療した事、ついでに刺し傷以外のありとあらゆる部位も治しておいたこと。

 そして私とこの拠点についても話した。流石さすがに血のかての事は言えなかったが、その他の事はある程度話した。彼等(ARIS)とは異なる異星の生物に改造され、何百年も歳を経ること無く生きている事、これからもそうである事。

 彼等(ARIS)に見つかれば討伐とうばつされる対象である事、だからここから出たら私の事を忘れる事、それが貴女あなたの身の為だという事。

 思っていたより冷静な彼女の反応が、少し怖く感じるのは気のせいだろうか?


「そこに、正座」

 ほむらの部屋に移動し、彼女の服をもらう前にベッドに腰かけた私は、私の前に彼女を正座させ、そして、ものすごく怒っている。

 別に服を切りきざまれた結果、全裸だったとか、あのSciFiのセットの様な部屋から、リフト、通路を通る長い道のりを経て、彼女の部屋まで全裸で歩いてきたとかに怒っている訳じゃない。道すがら、彼女は自分の事を忘れてくれと言う、その言い草に腹が立っているだけ。

 刺されて、目が覚めたら知らない天井てんじょうじゃなくて、良く分からない透明なふたのポッドの中にいて、ふたが開いて周りを見まわせば、泣き笑いの顔をしてポッドの横に立っていた貴女あなたの事を忘れろと?

 なぁにが、今までひとりで生きてきたから気にするな、私を忘れて生きていけ?ふざけてる?微笑ほほえみならが泣きそうな目で言われても、信用力の欠片かけらも無いわっ!

 この良い所のお嬢さんはっ!いや、良い所の異星人のお嬢さん?そんな事はどうでも良い、さぁ!説教タイムだ。覚悟しなさい、ほむら


「分かった?だから私は今まで通り貴女あなたと友達付き合いをする。そうね、こんな素敵すてきな場所なら、度々(たびたび)此処ここにも遊びにくるから。聞いてるの!ほむらっ!」

 私を忘れて生きろと言った事に対して怒られている。期待していなかったと言えば嘘になる。怒られる事が、こんなに嬉しいとは思いもしなかった。でも……かれこれ2時間は長いと思うんだ、けい

 でも、彼女も狩の事を知れば豹変ひょうへんするだろう。だから、狩の事だけは彼女にばれない様にしないと……。ごめんねけい貴女あなたに嘘をつき続けるね。

 でも、言わねばならない事もある。いや、言わざるを得ないが正しい。

「あのね、けい……、言いたくないんだけどね……、だけどね、先ずは服を着た方が良いかなって思うんだ」

「!?」


「あげるから、気にしないで良いよ」

 普通の家のひと部屋より大きなウォーキングクローゼットにあるほむらの服と下着(下着は新品だよ!)をもらった。私は特殊な性癖せいへきを持つ女性から、常識ある一般女性に戻った。言っておくけれど、私にその特殊な趣味は無い。

 ところで、もらったは良いけれど、これってさぁ……貴女あなたさぁ……、さっきの話しは嘘で、本当は良い所のお嬢さんなんじゃない?

 あぁぁぁ!でも!もっと早く言ってよ!私は全裸でベッドに腰かけ、組んだ脚の膝に手を置きながら、正座させた貴女あなたを説教してた訳?!どんなシュールな光景なのよ……。

 でも、丸1日寝てたのかぁ。バイト先にはほむらがボイスチェンジャーを使って、休むと連絡してくれていたので問題なし。大学も休みの時期だし、どうせ私はひとり暮らしだから、これも問題ない。

 彼女(いわ)く、授業があったとしても、その場合は光学迷彩が何とかで私に化けて代理出席できたから問題ない?!もうやだ、異星の科学技術。


「うん、そのあかね色、やっぱり綺麗だ」

 あかの眼について聞かれたので、黒く擬態していた眼の色があか色に変わっていくさまをけいに見せた。彼女が怖がるのであれば、極力彼女に見せない様にしようと思いながら見せたけど、彼女の返事は拍子抜ひょうしぬけする内容だった。

 彼女は私の眼を、血の色の眼じゃない、濃い夕陽のあかね色の眼だと言う。綺麗だと言ってくれる。もう、あんな思いは嫌だ。神様なんて居ないこの世界で、私は、彼女と彼女の未来の家族を命をして守り抜いてみせる。彼女に害をす者は、私が力づくで排除する。

 そんな気持ちが漏れ出してしまったのか、彼女は私に危ない事はせずに、大人しく普通に生きようと言う。人に心配されるのは、なんて心地良ここちよいのだろう。分かったよと相槌あいづちを打つのが嬉しい。


「畜生!驚かせやがって、あの女っ!」

 あの夜、その場にも居たさとしの兄貴、俺達の女遊び仲間のARISの首都警邏しゅとけいら利彦としひこ兄貴が、あの女達の事件情報を入手しようとしたが何も出てこなかった。

 翌日の朝から、酔いもめて自分の行動を思い出し、顔を青褪あおざめさせた誠二せいじも含め3人全員でニュースやSNSをチェックしたが、あの夜、あの場所で若い女性が刺されたという話しは欠片かけらも無かった。

 また同じく翌日の夜、俺達が何か証拠を残していた場合は、その隠滅いんめつと、あの女達の個人特定の為、利彦としひこ兄貴がARISの技術で残留血液からDNA採取をこころみたが、あの夜から降り続く雨のお陰で全て流れ去ってしまい、採取出来なかった。

 手詰まりになった俺達は、探偵事務所を用いてあの女の動きをチェックしてみた。しかし何の事は無い、怪我けがの痛みを隠して動いている風もなく、普通にライブハウスにあの連れの女と一緒に出勤していた。

 ここしばらくは生きた心地ここちがしなかったが、俺達は誠二せいじが女を刺したと思っていたが、刺していなかった。その結果に、話しは落ち着いた。

 しかし……利彦としひこ兄貴に処分してもらった、あのナイフと誠二せいじや、止めに入った俺達の服には血が付いていた。あの血は何だったんだ?それと、探偵事務所が撮影した連れの女の顔が、全てピンボケ状態なのは何故なぜなんだ?


「普段、下半身だけでしか物を考えていないのに、保身の為の悪知恵わるぢえは働くのね」

 しばらくは大人しくしていたものの、けいが無傷だと知ると奴等は、またりもせず遊び始めた。流石さすがに彼女に再び言い寄る事もライブハウスに来ることも無くなったが、別のライブハウスやクラブには居るらしい。運の良い奴等だ、仮に奴等を目の前に見かけたら、自分をおさえられなかったろう。

 但し、奴等やつらが遊び始めてくれたことで、奴等やつらたむろしている場所が、いとも簡単に分かった。豪胆ごうたんなのか、馬鹿なのか。恐らく馬鹿なのだろう。あの事件の後でも転居もせずにそのまま住み続けている。

 おかげで、奴等がライブハウスで見かけていた3人組みではなく、4人だという事が分かったのだ、馬鹿に感謝しないといけない。


 この4人目が厄介。彼等(ARIS)首都警邏しゅとけいらとはねぇ。下手にこいつを殺すと、彼等(ARIS)が本気で私の捜索そうさくを始めてしまう。

 今は、アングラとアングラが殺し合っているだけなので、お目こぼししてもらっているだけ。彼等(ARIS)を本気にさせる事だけは避けたい。彼等(ARIS)を本気にさせたら、例え認識阻害をかけていたとしても、大手を振って街を歩く事は困難になる。けいと遊びに行くことも出来なくなるのは、ちょっと勘弁かんべんかな。


 少し考えれば分る、もう私の人生は先細さきぼそり。この星で彼等(ARIS)が珍しい存在であった頃ならまだしも、今では居るのが当たり前。彼等(ARIS)の技術もこの星、特にこの国では広まってきている。いつ彼等(ARIS)に見つかってもおかしくない。

 見つけられ、追い詰められるより、此方こちらから姿を表した方が立場が強くなる。今を逃してしまえば、売り時は二度とやって来ない。敵対するより、彼等(ARIS)の仲間になるの方が最善さいぜん

 仲間になったとしても、ろくな使い方をされないのかもしれない。けれど、それでけいの横を堂々(どうどう)と歩ける様になるのなら、そんな事は些細ささいでしかない。

 問題は、彼等(ARIS)が私を仲間になんかしたくないだろうこと。そこは、どうやら私を改造した異星人は、失われた超古代文明らしいので、機械種マシナー探究欲たんきゅうよくくすぐり、何とかするしかないかな。


「本当に録画出来ない……」

 我々(ARIS)は他者に厳しいが、我々(ARIS)仲間内なかまうちの犯罪行為にはさらに厳しい。当たり前だ、自身に厳しくない武力組織をうやま者等ものなど居ない。

 我々(ARIS)を嫌う者は多い。我々(ARIS)に対する嫌がらせ、誹謗中傷ひぼうちゅうしょうを正義の行いと信じている者、自身の愚かな行動の結果を棚に上げて逆恨さかうらみをつのらせる者も多い。

 捏造ねつぞう動画の告発は、日常茶飯事にちじょうさはんじ。珍しくも何とも無い。例えば、人を刺している様に見えるが少し不明瞭ふめいりょうなカーナビの映像とか、薬を使った乱交パーティの画質の悪い隠し撮り等は、数えたらキリがない。

 そんな我々(ARIS)が、例えのたぐいの動画を重要視し、送り主と接触したのには理由がある。送り主が、亡霊ぼうれいだったからだ。亡霊ぼうれいといっても、本当の心霊現象しんれいげんしょう亡霊ぼうれいじゃない、裏の世界で都市伝説の女だったからだ。

 いわく、写真に写らない女。いわ血塗ちまみれの殺人鬼、エトセトラ、エトセトラ。まさか、本当に存在するとは思わなかった。

 今目の前にいる彼女に、試しに録画してみろと言われたので録画したが、彼女は映っていなかった。


「大丈夫ですか?」

「だ・だ・大丈夫です」

 はたから見れば、彼女と机をはさんだ向かい側の、俺の横で涙ぐんでいる女性ARISをなぐさめる少女に見える。実体はそんなにうるわしい状況じゃない。

 俺だってARISの古参こさんだ、色々見てきた。でもこいつは違う、レベルが違う。可愛い顔にだまされては駄目だ。こいつは……本来なら触れては駄目な存在だ。 

 何が俺達(ARIS)に有利な様に交渉しろ、高圧的に行っても構わないだ!出来るか、そんな事!やれと言うなら、お前がやれ。俺達には無理だ。

 情けない事に手が震える。顔が引きつっているのも分かる。あかまなこのアイツが俺達に微笑ほほえむのを見て、身体が震える。畜生ちくしょう……まだ死にたくない。


「では、後日、改めて詳細を打ち合わせましょう」

 交渉はあっけなく終わった。なにやら高圧的に隷属れいぞくしろとでも言われるかと思っていたので、少し拍子抜ひょうしぬけ。でも平和裏へいわりに終わるのは良い事。何の事はない、案ずるより産むがやすしだったな。だったら、もっと早く彼等(ARIS)に接触するんだった。優しい人達で良かった。

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