1-6-2 対案のある反対
「なぜ日本のゲーム、境界の彼方を利用したのか、ですか?ふふっ……貴女の国は、面白い国なのですよ、他の国と少し違うのです。貴女の国は、マシナーに対する忌避感が凄く低いので、ファーストコンタクト時に揉める可能性が低いと分っていましたから」
まぁねぇ。日本人の感覚では、マシナーは友であり傍に居る者だけど、欧米とかではマシナーは、自分に使える従僕だからねぇ。そりゃ、従僕の言うことなんて、マトモに聞かないから揉めるよねぇ。
「改造人間のARIS!地球に不要な化物は、出ていけ!」
誰でも閲覧出来る情報を、見ようともしない。自分に都合の良い情報だけを、精査もせずに鵜吞みにして、間違った内容をさも正義の様に主張する。
自分の周りは、狂ったような主張に賛同する仲間で固め、反論されても、自分の主義主張と異なれば、フェイクだ、ヘイトだと、差別主義者呼ばわり。
その癖、自分達は平気で人を誹謗する。「進化から外れたARISは地球に不要な化物!」なぁんて事を平気で大声で叫ぶ。
彼等曰く、誹謗ではなく、主張だそうだ。まぁ、どうでも良いけどね。だいたい、開示情報を読む頭があれば、こんな抗議活動してないよね。乗船拒否リストに乗るだけなのにね。
しかし、今日はいつも以上に煩いし、人も多いな……
「各員通達、在日外国人を主体とした新宿のデモ参加者が、暴徒となり略奪暴行を働いている模様。本基地のデモ隊も暴徒となる可能性あり、各員注意せよ」
うーん、何か携帯で話しをしている奴等……何か変な目つきのが多いなぁ?
「射撃許可ラインを変更する。射撃許可ラインを本部からの放送後に、黄色から緑に変更する。繰り返す、射撃許可ラインは本部からの放送後に、黄色から緑に変更する」
あら……。一寸やばいかな?
「本部より各員、許可ラインを黄色から緑とせよ。繰り返す、許可ラインを黄色から緑とせよ」
あららら、まぁまぁ。これは大変だわ。新人が暴発しない様に注意しないと。
「こちらは、基地本部です。デモを行っている皆さんに、通達します。緑色の線を許可なく跨いだ場合は、無警告で即時射殺となります。」
これで、いう事を聞くような頭を持っていれば、デモなんてしてないよねー。
「繰り返します。緑色の線を許可なく跨いだ場合は、無警告で、即時射殺となります。現在、緑色の線を跨いでこちら側に居る方は、今より1分以内に退去しなさい。退去しない場合は、無警告で射殺します」
おー煽るわぁ……。殺る気、満々だわぁ。
「警備の警察官の方々は、至急、基地内に退避下さい。警備の警察官の方々は、至急、基地内に退避下さい」
あー、これは相当ヤバイなぁ。
新人は対人発砲したことないから、後ろに下げようか?
いや、こういうことを経験させておかないと、これからずっと後ろに下げる訳にもいかないし……。
かと言って、一発目からこれはキツイし、やっぱり後ろに下げるべきか?
「ふざけるな!この差別主義者!」
「撃てるものなら、撃ってみろ」
「我々には、差別を撤回させる権利がある!」
「差別で苦しんだ我々に賠償をしろ」
なぁんか、服を破って抗議している人いるけど……超人〇ルク?
ちょーっと、準備するかねぇ
「小隊各員、射撃準備。安全装置解除、但し、引き金に指はかけるな。引き金には指をかけるな。新人は撃てないなら、地面を撃て。無理に撃とうとするな。地面を撃つだけで良い」
さてと、
「警告する、プラカードを持ち大声を出している集団に警告する。緑色の線よりこちら側は船団が日本国より有償租借している軍事施設である。許可なく、緑色の線を超え侵入した場合、警告なしに即時射殺する。
繰り返す、プラカードを持ち大声を出している集団に警告する。許可なく、緑色の線を超え侵入した場合、警告なしに即時射殺する。
Attention! Stop and Stand behind green line! Do not across green line! Shoot immediately without warning! Do not across green line! Shoot immediately without warning!」
うーん、このインチキ英語通じていると良いなぁ。
「日本に居てやっている我々に何を言うか!」
「兄の国の我々を敬わないとは何事か!」
「英語を話すな!日本語で話せ!」
「お前!俺の彼女にしてやる!だから乗船させろ!」
「兄の国の我々をお前らは撃てない、撃てるなら撃ってみろ!」
あー、緑の線の向こう側だけど、もう撃っていいかな?
~ある講義~
「前回のレポートは、出し忘れ、遅れの人が居ないという素晴らしい結果でした。 レポートは来週添削の上返却する予定です。 さて通達によって国内でも、例えば、基地の前や、主要ターミナル駅で乗船区別に対する抗議デモが繰り返されていました。」
「抗議活動への参加者は、どのような階層だったのでしょうか?」
デモ参加者は、非同盟国の在日外国人と、市民グループの支援者達でした。一般の日本人や同盟国民がこのデモに加わる事は稀で、反対に彼等デモ隊に冷ややかな視線を浴びせていたと、当時の記録にあります。
「抗議活動は、最初から暴力的だったのでしょうか?」
初めは、暴言はあるにしても、暴力を伴わないデモでした。それも川崎のデモが暴徒に変化し、略奪暴行を起こした川崎事件を契機に、各地のデモ隊の行動は粗暴化、凶悪化していきました。
「ARISが、デモ隊を煽って暴徒化させたと聞きますが、なぜでしょうか?」
それは、間違えですね。ARISは、どちらかと言えば巻き込まれた方ですね。
当初、日本国政府は機動隊の投入等で暴徒化の防止、暴徒となった場合はその鎮圧を図っていました。
「火炎瓶等も使われたと聞きますが?」
そうです、火炎瓶も使われましたが、この映像を見ればわかる様に、粘着性のない炎があがる、お約束の火炎瓶でした。
粘着性のない、引火性液体を極限まで少なくした火炎瓶を投げるのが、デモ隊、警察の間での暗黙のお約束でした。
しかし、暴徒化による粘着性火炎瓶の登場、騒乱状態の街中で銃を使った強盗や、暴行事件が起きるにあたり、治安出動発動が検討されました。
衆議院での検討は野党の反対により、何時検討結果がでるか分からない状況になっていました。いたずらに時間が経過すれば、暴徒による被害が拡大、深刻化していくことは容易に予想された未来でした。
その状況下で、新宿デモ暴徒事件が発生。但しこのデモは機動隊による事前警戒が功を奏し、直ぐに鎮圧されました。
この新宿事件と連動していた(と思われる)ARISお台場空港事件が発生しました。着陸していた揚陸艇を奪い、母船への乗船を画策した事件の事です。暴徒のうち、約30人が射殺されました。
「揚陸艇を奪うという事は、暴徒の中にARISが居たという事でしょうか?」
いえ、暴徒の中にARISは居ませんでした。それなのに、操縦方法が分からないのに、どうやって操縦して母船に行く気だったのか?
色々疑問はありますが、何とかなると思ったのか、乗ってしまえば連れて行ってくれると思ったのか、その部分は分かりません。
この事件の翌日には大久保、大阪、名古屋で分散実施されたデモで暴徒化した人間の排除にもARISが出動し、鎮圧にあたりました。
「批判は無かったのでしょうか?」
当然批判はありました。いささか主義主張が偏った内容でしたが、TV報道で「虐殺」「人権蹂躙」との批判が繰り返されました。
これについては、その報道も否定できないものがあります。傍から見れば、問答無用で射殺で対応した、船団の行動はイカレテいるとも言えますからね。
「暴徒と同じ様に、ARISの退去論を述べた報道もあったと聞きますが?」
ええ、その様な報道スタンスを取る局もありましたが、船団は黙ってはいませんでした。「〇〇TV経由なら、乗船チケットを貰える」という、カウンターインフォメーションを実行したのです。
ええ、悪辣です、悪辣すぎる方法です。〇〇TVは通常業務遂行に支障をきたす程に、非同盟在日外国人の集団に、ロビーどころか事務所スペースにまで入り込まれ、大混乱に陥りました。
「警察は、何をしていたのでしょうか?」
不思議な事に、〇〇TVは暴徒の排除を、警察に通報せず、ARISに要求しました。なぜ自分達が、大々的に批判キャンペーンを行っているARISに依頼したのかは、記録を見ても未だに分かりません。
この要請に対し船団は、「貴局の報道の通り、人権を守り、虐殺をしないためにも、射殺を基本ドクトリンとしているARISの出動は不可能である」と報道発表を通じて回答しました。
報道発表で、自分達は射殺されない、そう知った暴徒は増長し、局建屋内での混乱は拡大していきました。
その日の夜には、報道番組放映中の画面越しに、ARISに出動要請が出されましたが、ARISは出動しませんでした。
「暴徒は、解散したのでしょうか?」
いえ、占拠し続けましたが、四日目に急速に終息方向に進みます。四日目にARISが出動し、鎮圧したのではありません。
三日目の夜の暴徒の放火によって、局建屋が焼け落ちたために、占拠している施設が無くなったからです。
「それでは、暴徒が局から拡散してしまったのでは、ないでしょうか?」
TV局に暴徒が乱入してから時を置かず、その周囲、在日外国人暴徒が居る地域は、ARISによって封鎖されていました。
袋のネズミになっていたのに気づかなかった暴徒は、TV局炎上とともに、周辺への略奪暴行、放火等を行おうとしましたが、周囲に展開していたARISに鎮圧されました。
「全て射殺されたのでしょうか?」
いえ、全てではありません。生存者も居ます。もっともその生存者も、国籍国に即日強制送還されました。
受け取りを拒否する国家では、その空港に叩き下ろし、送還を完了させたとあります。
さて、今日の講義で判った事は何でしょうか?暴徒の鎮圧方法?いえ違います。では、即日の強制送還?それも、違います。
乗船対象国が限定されたときに、単純に「差別主義者」等の非難だけで、対案を提示しなかったことです。こういう理由で、こうすれば改善されるのだと提案しなかった事です。
対案のない反対するだけの非難は回りの賛同を得られない自己満足です。対案のある反論はその論拠を正しく積み上げないと、だれも賛同しません。
反対の為にする、単なる反対では、誰も付いて来ないのです。
対案のある反論を行わなければ、耳触りは良いが中身は最悪、そんな施策ばかりが通ってしまいます。これは民主主義の自殺と同じです。
議論の時に、自分の意見と違う事がでてきたら反対したくなる、反対するのは間違った行動ではありません、ただ少し足りないだけです。対案のある反論を行う事で議論は活性化していくのです。
では、来週までのレポートは、この対案のある反論についてです。
「収容人数及び収容対象者、非対象者に対する通知」に対して、対案のある反論を最低ふたつ作り、その対案を元に、如何に相手を説得するか、その対案のウィークポイントは何かをまとめて下さい。
では本日の講義は以上です。
2018/12/24 1-6 対案のある反対 をその1とその2に分離しました。




