表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/187

1-20-2-4 理不尽な世界)隠れ家

 侵略者たる深宇宙探査船、彼の親玉たる創造主は(おろ)かしい(ほど)独善的(どくぜんてき)で、絵に描いたような侵略者ではあるが、作りだした尖兵(せんぺい)歯向(はむ)かってくる可能性を見逃す(おろ)か者ではなく、侵略者として相応(そうおう)冷酷(れいこく)だった。

 反抗したら命は無い。言うは(やす)(おこな)うは(かた)し。武力行使というものは、それが例え小規模の鎮圧(ちんあつ)や、抑止(よくし)であってもコストが()かる。侵略で得られる利益より、侵略に(ともな)鎮圧(ちんあつ)抑止(よくし)のコストの方が大きくなってしまったら、それこそ本末転倒(ほんまつてんとう)、何の為に侵略したのか分からなくなる。


 星間航行種族で()ろうが無かろうが、コストの問題は()けて通れない。時には面子(めんつ)の問題とか、政権維持の為とか、橋頭堡(きょうとうほ)であるこの場所を失う訳にはいかない(など)のコストを度外視(どがいし)する理由で武力行使する場合もある。しかし、いずれの場合も最終的にはコストが(とど)めを刺してくる。

 世の中、何がどうあれ、お金が無ければ何も出来ない。(ゆえ)に問題の解決策は低コストが(とうと)ばれる。当然それは、尖兵(せんぺい)の反抗を(おさ)える方法にも適用される。


 植民星に必ず常設される尖兵(せんぺい)用の拠点設備とは別に、有るか無いか分からない反乱に備えて反乱鎮圧用拠点を常設するのは、単に運用コストを増加させるだけ。

 だからといって、尖兵(せんぺい)用の拠点ユニットに、単純に武装設備を追加するのも同じ結果しか産まない。調整体の大掛かりな保守を行える設備を、そのまま利用するのが最もコストが掛からない。

 手段は問わない。直接的であれ、間接的であれ、反抗した尖兵(せんぺい)の命を低コストで奪えれば良い。此方(こちら)から積極的に鎮圧(ちんあつ)(おもむ)かず、時が来れば、反乱者達が勝手に自滅してくれれば、尚更(なおさら)都合(つごう)が良い。


「クローン調整体への基本条件付与及び疑似脳髄(のうずい)への基本条件意識の刷り込み開始」

 逆らった調整体を始末しまつする方法として、内臓する保守維持機構の様な物が停止すれば調整体は活動を停止する様にする。ただ、保守維持機構を停止させるために、此方(こちら)から(おもむ)き破壊するのでは、手間(てま)も費用も掛かり意味がない。低コストな方法で、勝手に機能を停止してくれるのが望ましい。

 例えば、一定期間摂取(せっしゅ)しなければ保守維持機構が停止するある種の薬物を、調整体の定期的な保守の際にしか摂取(せっしゅ)出来ない様にする。その定期保守の時期になると、その薬物を渇望(かつぼう)する様にすれば(さら)に良い。

 反抗すれば定期保守を受けらす、全てが反乱を起こしたとしても、拠点設備を自爆させれば、薬物を摂取(せっしゅ)出来なくなった反乱者達は、一定期間を経れば薬物を渇望(かつぼう)しながら死亡する。

 生殺与奪(せいさつよだつ)の主導権を(にぎ)()つ、低コスト。そして死に(いた)るまで、渇望(かつぼう)しても手に入らぬ薬を求めて苦しみ抜く。まともにその条件が付与出来れば、これ(ほど)までに良い方法はない。


 残念ながら、物事(ものごと)が素直に進まないのが世の(つね)。そのために代替(だいたい)手段はあり、まさかの為のフェイルセーフがある。

「条件付与基本設計の一部に欠損。代替(だいたい)設計1を適用。エラー。再実行。エラー。代替(だいたい)設計2を適用。エラー。再実行。エラー。代替(だいたい)設計3を適用。エラー。再実行。エラー」

 血清(けっせい)も無しに、毒蛇(どくじゃ)を扱う馬鹿は居ない。基本設計条件として条件付与が絶対条件であり、それが(かな)わないのであればクローン調整体の生産を停止する。リスク管理として至極当然(しごくとうぜん)の考えと言える。

代替(だいたい)設計4を適用。エラー。再実行。エラー。代替(だいたい)設計5を適用。エラー。再実行。エラー」

 大概(たいがい)において人的ミスがリスク管理とフェイルセーフを無駄にしてしまう。何万年も前のプログラム設計者が、削除を忘れた冗談プログラムもそれにあたる。

 リスク管理システムを(にな)う彼の理論機構が、少し変調をきたしていたという運の悪さもあるかもしれないが、考え抜かれたリスク管理とフェイルセーフは、たったひとりの時を越えた冗談で破壊されてしまった。

代替(だいたい)設計6を適用。エラー。再実行。エラー。代替(だいたい)設計7を適用。適用成功。条件付与開始」

 ある種の薬物を摂取(せっしゅ)する()わりに、同胞(はらから)の血肉の(いず)れかを一定期間内に捕食(ほしょく)しなければ、保守維持機構が徐々に停止し、死亡する。

 プログラム設計者にとっては単なる冗談、条件を付与される方にすれば魔物の(のろ)い。リスク管理システムは、冗談を代替(だいたい)設計として認証し、生産は継続された。


「各調整体の拠点ユニットへの積込完了。拠点ユニット投下候補地全10号確定」

 そもそも侵略しようとしていること自体が正常ではないのだが、それはさておき、彼の状態を言い表すならば、満身創痍(まんしんそうい)だった。

「拠点ユニット準備完了。連絡船へのデータ転送完了。拠点ユニット投下開始」

 彼を構成するあちらこちらのシステムで、彼が機能停止しても不思議ではない(ほど)甚大(じんだい)な異常が発生しているにも(かか)わらず、彼が稼働(かどう)しているのは奇跡と言うべきなのだろう。

「拠点ユニット全10ユニット投下完了。母星への連絡船射出」

 彼の認識では、全ての拠点ユニットは無事に射出され降下中となっていたが、無事に射出されたのは2号ユニットと、10号ユニットだけ。そもそも、それ以外のユニットは投下云々(うんぬん)以前に、生産すらされていなかった。

 システム不調により保守維持から(はず)れてしまい、何千年前に保守不備で機能を停止していたため、連絡船も母星に向けて発進していなかった。


「惑星の衛星軌道より離脱、惑星系引力均衡点ラグランジュポイント遷移(せんい)

 日々悪化する経済環境に(あえ)ぎ、一日千秋(いちにちせんしゅう)の思いで搾取(さくしゅ)するべき何処(どこか)かを探していた母星にとって、連絡船に依って知らされた従属種族発見の情報は慈雨(じう)になる。

 彼がこの恒星系を出て何年か()つ頃には、この惑星軌道上には前線基地が(きず)かれてているに違いない。

 残念ながら、それが実現される未来は訪れない。彼の母星は、経済と環境悪化に耐えきられなかった下層民達の暴動を発端(ほったん)にした自滅戦争で、何万年も前に衰退(すいたい)、退化してしまっていた。

 (ゆえ)に、仮に連絡船が射出されていたとしても、その連絡を受け取り、有効活用出来る者達は居なかった。彼等には悲劇なのだろうが、尖兵(せんぺい)に改造される者達を除き、侵略されなかった大多数の人類は幸運だった。

「ユニット2号及び10号、群体群生地に上空で待機中。残ユニット失探(しったん)。ユニット損耗率80%。損耗率過大に伴い計画変更。半成体の排除命令廃棄。フェーズ廃棄。フェーズα(アルファ)、各拠点の半成体及び成体全数を捕獲(ほかく)確保に変更。2号群生地の対象数98、10号群生地の対象数67」


 今の状況を言葉にすれば、どちらもお(たが)いに何とも運が悪いとなる。(かた)や、太一(たいち)と居たら、突如としてあらわれた大蜘蛛(おおぐも)に捕まえられ、恐怖で文字通り心臓が破裂寸前の(とみ)(かた)や、捕獲(ほかく)した獲物(えもの)、対象48の気が弱過ぎて、生かしたまま連れて行く事が出来るのかを危惧(きぐ)する状況。

心拍数(しんぱくすう)異常増加。過呼吸。負荷増加危険レベル。鎮静剤(ちんせいざい)を追加投与」


 昨年の夏に吾作(ごさく)一家(いっか)(さら)っていった大蜘蛛(おおぐも)は、その後は姿を見せず、もう春も終わり、また夏が来ようとしている。

 動き回る私達に母ちゃん達は、大蜘蛛(おおぐも)が逃げて行った山には絶対に近づくなと言う。けれども、山間(やまあい)のうちの村で、山に近づかないのは無理な話なんだけどな。


心拍(しんぱく)不規則。心室細動(しんしつさいどう)。電気ショック実行……効果無し。電気ショック再実行……効果無し。電気ショック再実行……効果無し。心拍(しんぱく)完全停止。対象48の生命活動停止と認定。対象48を投棄(とうき)


 春の終わりに与一(よいち)夫婦(めおと)になった、ひとつ上のミツ(ねぇ)が、色々話してくれるので皆、興味津々(きょうみしんしん)。もう何人かは(しげ)みの中で(ため)してる。

 私は興味はあるけれど、まだ(ため)したい相手も居ないし、(ため)したいとも思わない。年は取っても、タキは未だねんねだから仕方がないかと、皆には(あきら)められている。

 母ちゃん達にも、もう少し興味を持ってくれた方が良いんだけどと言われる。何か馬鹿にされた気分なのは、気のせいに違いない。


「現地点から至近(しきん)の、捕獲(ほかく)対象探査開始」


 それにしても、今日は蒸し暑い。長雨(ながあめ)の後の晴れなので余計に蒸す。余りの暑さに道の向こう側が陽炎(かげろう)()らいで(ゆが)んで見える。そりゃ暑い(はず)、嫌になる。

 よく見ると、陽炎(かげろう)()らいでいる道の脇に、(とみ)が着物を(ほとん)(はだ)けさせ、脚を広げて何もかもが丸見え状態ので寝転(ねころ)がっている。何と言うか……するなとは言わないけれど、した後に道の脇で大っぴらに寝転(ねころ)がるのはどうかと思う。


至近(しきん)捕獲(ほかく)対象の探査完了。対象59を捕獲(ほかく)対象として登録。対象59を確認。対象59の捕獲(ほかく)実行」


 (とみ)が居るということは、近くで太一(たいち)も同じような格好で寝転(ねころ)がっているんだろうか。ミツ(ねぇ)が言うには、気持ちよすぎて何も考えられなくなるらしい。

 だからと言って、流石(さすが)にあんな丸見えの格好で寝転(ねころ)がっているのを、母ちゃん達に見つかったら、こっぴどくどやされると思うんだけどな。

 後先(あとさき)を考えないでヘタって寝転がっている(とみ)何時(いつ)までもも見ていても、この蒸し暑さが減る訳でもない。反対に暑さが増してくる。

 その証拠に陽炎(かげろう)此方(こちら)に近づいて来る。此方(こちら)に……来る?陽炎(かげろう)は逃げる物で、近づけない。なのに此方(こちら)に……来る?

 (あやかし)は姿を表す寸前まで、姿が見えなくて、陽炎(かげろう)みたいだって誰かが言っていたっけ。はは……気のせい!あれは陽炎(かげろう)っ!!(あやかし)じゃない!!!あ・脚が震えて身動きが取れないも気のせいだって!!!

「対象59捕獲(ほかく)完了。心拍数(しんぱくすう)上昇数は許容範囲内。肉体損傷無し。鎮静剤(ちんせいざい)投与。拠点ユニットに帰投」


 村から少し奥まった峰、その中腹の(いただき)土砂崩(どしゃくず)れでもあったのか、大岩が()き出しになった崖と、その大岩の前にちょっとした広場が出来上がっていた。

 タキを抱えた捕獲(ほかく)ユニットが大岩に近づくと、岩に偽装(ぎそう)されていた入口(いりぐち)が、ユニットが通れる隙間(すきま)だけ開き、捕獲(ほかく)ユニットはその中に入っていった。

 入口(いりぐち)(くぐ)ると、その先は人工的な白色光で照らされた何の飾りも無い平坦な壁、床、そして複数の何かの機械とセットになった45度程度に傾いた台が、捕獲(ほかく)ユニットがその間に入っても十分な間隔で3台設置されている、どこか食品工場を思わせる雰囲気の無機質な部屋になっていた。


 そこは、捕獲(ほかく)対象から転送意識を抽出(ちゅうしゅつ)する場所だった。其々(それぞれ)斜めの台には、頭部を転送意識を抽出(ちゅうしゅつ)する機械に(おお)われた、全裸(ぜんら)の男女達が拘束(こうそく)されていた。

 本来の医療目的(など)であれば、抽出(ちゅうしゅつ)元の精神崩壊を防止するために抽出(ちゅうしゅつ)時に過負荷を与える事はない。しかし今回は医療目的ではない。抽出(ちゅうしゅつ)元の安全性は考慮しなくて良い。過負荷で痙攣(けいれん)を起こし、汚物を垂れ流そうとも抽出(ちゅうしゅつ)作業は中断されない。とはいえ、曲がりなりにも医療設備の(はし)くれ、設備を清浄(せいじょう)に保つために、垂れ流ながされる汚物は、廃棄口(はいきこう)に流れ込む様になっていた。


「4次石意識抽出(ちゅうしゅつ)完了。抽出(ちゅうしゅつ)率84%。抽出(ちゅうしゅつ)率未到達。抽出(ちゅうしゅつ)(もと)精神破損率39%。5次抽出(ちゅうしゅつ)実行不可能。対象39を廃棄」

 頭部を(おお)う機械を外されても痙攣(けいれん)()まず、(よだれ)を流しながら焦点(しょうてん)の合わぬ目で虚空(こくう)を見つめる女性の拘束(こうそく)(はず)れると、女性は重力に従い、斜めの台の下側、台の足元にある、物質転換炉に(つな)がる廃棄口(はいきこう)(すべ)り落ちていった。


 女性を廃棄し、(から)になった台の洗浄(せんじょう)が終わると、鎮静剤(ちんせいざい)で意識が朦朧(もうろう)とし、体も弛緩(しかん)している、同じ様に服を(はぎ)ぎ取られ全裸のタキが台にセットされた。

「捕獲標本53体から転送意識抽出開始」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ