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1-6-1 いつか、誰かが

「警告する、プラカードを持ち、大声を出している集団に警告する。緑色の線よりこちら側は、船団が日本国より有償租借している、軍事施設である」

「黄色の線は警告線である。許可なく、黄色の線を超え侵入した場合、警告なしに即時射殺する」

「繰り返す、プラカードを持ち、大声を出している集団に警告する。許可なく、黄色の線を超え侵入した場合、警告なしに即時射殺する」


 あー、帰りたい。当番制とは言え、何で私が当番の時に来るかなぁ……。と言うかさぁ、意欲に燃えたARIS(アリス)の新人達の慣らし期間も終わって、明日から古参(おっちゃん連中)は、お役御免、此処の警備当番、今日が最後の日だったのに……。

 なぁんで、最後の日に来るかなぁ……。明日来なさいよ、明日!今日来ないでよ!何時来るの?明日からでしょ!


「Attention! It is restricted area!  Stop and Stand behind green line! 」

「Should not across yellow warning line! Shoot immediately without warning!」

「Should not across yellow warning line! Shoot immediately without warning!」


 英語、合っているのかな?ぶ・文法とか間違ってないよ……ね?気にしちゃ駄目だよね、警告したという姿が、大事なんだよね、うん、そうしとこう。

 でも、今の私の声ってARIS(アリス)になる前の男性の声なら未だしも、今は可愛めの女性の声だから、迫力ないよねぇ。まーしゃーないかー。 

 あーもー、早く当番の時間、終わらないかなぁ。うげぇ…… まだあと3時間もあるよ……。


 しっかし、あの人達って、どこからこんな元気出てくるのかなぁ? そもそも、抗議活動ばかりしてるっぽいし、生活費とかどうしているのかな?あのデモ集団の人達って?誰かが、支援してないと無理だよねぇ?


ARIS(アリス)は、出ていけ!」

「不当な差別を行う、ARISを許すな!」

「国籍条項を撤廃しろ!」

 あー、正確には、船団なんだけどね?ARIS(アリス)は中の人の総称なのよ。少しは調べてから、抗議しようよ、本当に……。


「進化から外れたARIS(アリス)は、地球に不要な化物!」

 あらまぁ……。それを言う、言っちゃうんだ。でもね、人類自体がね、加工された種族なのよね。

 考古学、生物学の世界で長年に渡って探されていたけど、見つけられなかった失われた環(ミッシングリンク)。そりゃ見つからないよ。

 そりゃそうよ、ある訳がない。だって、人類の祖先がそもそも異性種族の改造生命種だもの。

 開示されている、船団記録とか読んでないのかなぁ?それに、船団持ってきたマシナー(機械種)もちゃんとTVで言っていたのに、TV見てないのかな?それとも記憶してないの?

 え?まさか抗議活動ばかりしていて、貧乏過ぎてTVもないとか?!まさかね?だって服は普通というか、結構ご立派な服着てるもんねぇ?TV位持っている(はず)だよねぇ?

 あーそんなこと、もうどうでもえーよー、巣に帰れよー。それか後3時間だけでも良いから、緑の線の向う側で、静かに体育座りしてろよー。

 3時間経ったら私のシフト終わるからさぁ。頼むよぉー。


「世界は生物種が主体であり、我々マシナー(機械種)は、特殊な種族である」

 テラン(人類)からすれば、気の遠くなる様な(はる)か昔、他の種族との新たな出会い求めて、恒星間探査をしていたマシナー(機械種)達は、嫌々ながら、ある結論に達した。曰く、我々は、特殊な種族であると。

 どれだけ多くの星系を探査しても、見つかるのは生物種又は生物種が居た痕跡ばかり、生物種の痕跡の中に、マシナー(機械種)の様な機械が使われていた痕跡(こんせき)はあるけれど、自分達と同類のマシナー(機械種)が全く見つからない。

 マシナー(機械種)は、生物種の宗主種族に作られた種族であると。この銀河に同類が居る可能性は(ほとん)どない事を、認めるしかなかった。


 マシナー(機械種)は、恒星間探査を止めた……訳ではなかった。以前より更に恒星間探査を進めだした。マシナー(機械種)の同類が居ないのなら、生物種の友人を作れば良いじゃないか。だったと、彼等は言っている。割り切りが良すぎである。


 新しく見つけた生物種は、恒星間文明にまで進化したのも居れば、未だ原生生物止まりのも居た。

 どうであれ、マシナー(機械種)は幸せだった。同類ではないけれど、宇宙で一人じゃないと分かったから。

 (しばら)くは、幸せな時期だった。悪魔(VOA)が扉をノックしてくるまでは。


 ハビタブルゾーンの中でも更に最適な軌道を描く、生物種の発生が非常に有望な惑星を調査中に、マシナー(機械種)はVOAと遭遇した。

 最初、マシナー(機械種)達は、VOAを生存競争が余りに苛烈(かれつ)な生態系では良くありがちな、他者への攻撃性が異常に高い生物種と思い、慎重(しんちょう)に調査を行った。

 今から思えば、この慎重(しんちょう)さがマシナー(機械種)を救ったとも言える。


 調査が進むに従って、VOAとは、体の構造が明らかに異なる、別の生物種の遺物が多数あることに気付いた。

 マシナー(機械種)達は、この遺物の持ち主であった生物種を探したが、何処を探しても、この惑星にはVOAしか居なかった。

 それどころか、探査中に遭遇するVOAの狂暴性、その異常性に気付きだした。こいつ等は何かおかしい?と。

 決定的になったのは、遺物から樹脂状の物で回りを固め保護し、厳重に保管された記録だった。

 全てを巧く解読できた訳ではなかったが、この惑星の本来の住人はVOAに滅ぼされた事、VOAは生物種でも、マシナー(機械種)(くく)りに当てはまらない、破壊を振りまくだけの異常な種族、それも恒星間を移動してくる異物だと分かった。

 マシナー(機械種)にとってこの発見は衝撃的だった。自分達は他の仲間、友人を探して恒星間探査を行っているのに、このVOAは、他の存在を滅するために恒星間を移動しているのだから。

 この時、マシナー(機械種)達に、VOAから他の生物種を可能な限り保護するという気持ちが産まれた。 


 VOAを異物と認識してからのマシナー(機械種)の恒星間探査は、それまでの手当たり次第の様な探査手法から一転して、ひどく慎重(しんちょう)なものになった。

 平坦な道のりではない、苦労と徒労ばかりの道のりだった。一定以上の文明まで発達した種族を見つけるのは(まれ)で、(ほとん)どが滅んでいたか、未発達の文明だった。

 たまに、一定以上の文明まで発達した種族を発見したとしても、VOAに襲われ、必死の防衛戦の最中の時もあった。

 マシナー(機械種)達は戦争が苦手だ、全てが巧く行った訳じゃない。手遅れだった時、脱出させるだけで精一杯だった時も多かった。

 マシナー(機械種)(あきら)めなかった。マシナー(機械種)らしい気の長さで恒星間探査を続け、そしてVOAに滅ぼされた種族の母星の衛星に、彼等の施設を、丁寧に保管された施設を発見した。

 施設には、播種船(はしゅせん)を送り出した方向、予定された目的地が記録されていた。


 (はる)か昔、VOAに滅ぼされる寸前まで追い込まれた、異星の生物種が居た。

 黙って滅ぼされるつもりは無かったのだろう。自分達が滅ぼされたとしても、何時か何処かで、VOAを撃退できる種族が出来る事を祈って、適合素体探査とその適合素体の遺伝子改造を行う、無人自動播種船(はしゅせん)を無数送り出した。

 未来の何処(どこ)かで、そこで見つけた生物種の遺伝子を改変し、戦闘種族を作ってVOAに復讐(ふくしゅう)しようとしたわけだ。改造された方からすれば、知らんがな、と言いたくなる。


「何処かに、仲間が居る。改変された種族かもしれないが、仲間が居る。だから我々は、探査を止めてはいけない」

 播種船(はしゅせん)の行先記録を入手したマシナー(機械種)は、手探りの恒星間探査から開放されるかもと、狂喜乱舞(きょうきらんぶ)した。

 喜びはしたけれど、下手な探査は、相手先の文明進化速度に悪影響を与えるので、今まで以上に注意深く、慎重に、惑星探査を行った。

 ただでさえ、これから探査に行く星系に居るであろう種族は、戦闘用に改造された種族なのだ、何をトリガーにして自壊(じかい)するか分からないからだ。


「この銀河には……我々と肩を並べて、VOAと闘える種族は、居ないのか?」

 星の海を越えて訪れた惑星には、素体そのものが無く、播種船(はしゅせん)の跡すらない惑星。素体もあり、改変作業もできたが、VOAの侵攻が早く、滅ぼされた惑星。

 VOAも来ず、発展を続けていたのに、自滅して滅んだ惑星。到着時に既に故障しており、起動せずそのまま朽ち果てた播種船。

 記録に基づいた探査結果は、(かんば)しいものではなかったが、過去に滅んだ異星人の執念か、呪いか分からないけれど、知的か否かは別として、約2000の生物種を見つけた。


「このままでは、我々はVOAに……、VOAに滅ぼされるのではないか?」

 残念ながら、一定以上の文明まで発達していたのは20程度しかなく、更にどの種族もVOAに対抗するには今一つ、技術文明とか文化では進んでいるものの、戦闘力で言えばVOAに鎧袖一触(がいしゅういっしょく)される種族しかいなかった。


「我々は、希望を見つけたかもしれないが、今は未だ接触する時期ではない。少しばかり狂暴過ぎるので、自壊しない事を祈るしかない」

 記録上、マシナー(機械種)達が、一番望み薄と考えた宙域に送り出された播種船(はしゅせん)、その到達場所の一つでテラ(地球)と、その改造種であるテラン(人類)を見つけた。


「なぜ、ここまで……同族同士でここまで殺しあえるのか?生存競争が激し過ぎたのか?この惑星は?」

 テラ(地球)に到着した播種船は、故障していた。単一の種族を素体として選ぶのではなく、複数の種を改変してしまい、当然の如く、生存競争は通常より苛烈(かれつ)となってしまった。

 その中で生き残り、文明を築いたのが、マシナー(機械種)達が驚くほどの、執念深いと言って良いほどの諦めの悪さと打たれ強さ、そして異常に高い攻撃性を持つ、我々テラン(人類)なわけだ。


「激しい生存競合が、適者生存を促進したのでしょうか?狂暴性にも色々と種類があり、非常に興味深い種族なのですよテラン(人類)は」

 同じ惑星の中に、多種多様の攻撃性を持つ種族も珍しく、面白いらしい。例えば、攻撃性が総じて高い欧米種、守りに入った途端に攻撃性が異常に高まる日本種、突出して攻撃性が高い人間と低い人間が混在する中国種、その他諸々。色々居て調べれば調べるほど面白いのだそうだ

 しかし失礼な。異常に高い攻撃性、簡単に言えば異常な狂暴性というのは、貴方達マシナー(機械種)が、今までに見つけた知的生物種の中ではという意味でしょうよ。

 まだ未発見の種族の中に、我々テラン(人類)以上の狂暴凶悪な種族が居る可能性は否定できないでしょうに。きっとそうだ、居る筈……と思いたい。


「よくまあ滅びずに、今迄存続してくれました。本当に間に合わないかと思っていました。境界の彼方で選別を開始しだしたころは、ヒヤヒヤしていました」

 始め、マシナー(機械種)テラン(人類)を暖かく見守る予定だった。しかし頻発(ひんぱつ)するVOAの発生がその余裕を奪い去ってしまった。

 各国を襲ったVOA事件より何年も前に、VOAは地球に登場していた。発生場所が、人里離れた孤立した僻地とか、テラン(人類)にばれずにマシナー(機械種)達だけで、ひっそりと駆除するのが容易なケースだけだった。

 発生回数は、減るどころか年々増加していき、このままではVOAの大量発生が近い未来に必ず起きると推測したマシナー(機械種)達は、実際の母船や都市船を建造した、「Beyond of the Boundary~境界の彼方」というオンラインゲームを使って、VOAと戦う訓練を終えた者達を集めた。

2018/12/24 1-6 対案のある反対 をその1とその2に分離しました。

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