表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/187

1-19 悪魔は微笑みと共にやって来る

 指導部が最初に考えた事は、VOAが溢れ出している街を救援する事でも、VOAを封じ込める事でもなく、自己保身のみだった。Abyss Coreを用いた自国兵器の開発失敗を無かった事にする。それしか考えなかった。

 この失敗は、VOAは日暮れから日の出の間だけ活動するという今までの常識もひっくり返し、四川省雅安(があん)市では、昼間からVOAが災厄を振りまいていた。

 Abyss Coreを変異させてしまったこの事実を諸外国が知る前に、意地でもコアを破壊しなければならなかった。


 だからなのか、戦闘管区からの核兵器使用許可は、異様な速さで許可された。そして直ぐさま、四川省雅安(があん)市の西部の研究施設に出来た地下洞窟群出入口と、市街北西部に出来たその出口に対して使用された。

 しかし、VOAが(うごめ)かなかったのは、たった一夜(ひとよ)だけだった。投下直後より逆回しの映像の様に、煤塵が洞窟群の出口に吸い込まれ、異様な速度で放射線量が低下した。それに反比例してVOAの数は増加し続けた。

 一向に減らないVOAに焦った軍管区は、指導部に対して再度核兵器の使用許可を求めた。この軍管区からの要請は、証拠隠滅が不発に終わり焦っていた指導部にとって渡りに船だった。

 この時点で諸外国が疑念を、Abyss Coreで何かして失敗したのでは、と疑い始めた事に気付くべきだったのだが、視野狭窄(しやきょうさ)に陥っていた指導部は、躊躇なく再びの使用許可を出した。

 結果は同じだった。核攻撃は、一夜(ひとよ)だけVOAを郊外の避難途上の人民共々焼き払い、瓦礫を増やしただけ。

 流石に連続使用には諸外国は抗議をしたが、核兵器を自国内で使用する事については、この国の特性を知っているどの国も驚かなかった。

 核が使用されたのは、外国人の立入制限区域。吹き飛ばされた被害者は他国民で自国民ではないのだ、知ったことではなかった。

 再び起きた放射線量の異常な速度での自然放射線量への回復、Abyss Coreが有るのではという諸外国疑念は確信に変わった。


「――れ以上、貴国が核兵器を用いることを許容出来ません」

『だから、何だというのだね?』

 指導部が主導した核兵器の断続使用は、上手くいっていない。理由は不明だが、どれだけ使おうが放射線量は半日も経たずして自然線量に戻っている。なので、何を言われても『内政干渉である』と突っぱね、有耶無耶に済ませられたかもしれない……今迄は。


 指導部は、世界の勢力図が変わった事を理解していないのか?その激変の理由ARIS達が、この国を拠点にしていることを理解していないのか?

 この国を無視するということは、ARISの逆鱗に触れるかもしれないということを理解出来ていないのか?

 だが……ふむ、何時ものこの国の役人ならば、立場上、私が言うこの言葉に押し黙るだろう。

『我々の国内問題だ。環境的にも、何の問題も出ていない。我が国への口出しは慎んで戴きたい』


「慎む?何を?更に核兵器を用いるなら、此方にも考えがあります。内政干渉だという戯言は、聞く気はありません。1発でも投下したら……そうですね、統合作戦指揮所でしたっけ?そこを潰します」

 今迄の我が国の役人であれば、彼のその言葉に対しなだめる発言で応じたろう。彼も、立場上の発言とはわかっているが、同情するつもりはない。

 内政に干渉するな?ああ全く以って同意する。日本が影響を受ける可能性がないのなら、君達の自由にするが良い。


 我が国よりも彼らに近い半島はどうなる?あそこは、日本ではないので知ったことではない。 100年少し前にあの国から独立させたが、今またあの国の属国に戻っている場所なぞ、知ったことではない。同盟国でもない国を助ける筋合いもない。


『何を!何を言っているのか分っているのか?!我が国を恫喝するなどと、後悔するぞ!』

 なぜ?なんだ?どうしてここまで強い態度で出てくる?いつものお花畑平和主義は何処にいった?


「誤解してもらっては困りますね。恫喝ではありませんよ?お願いでもありません。命令しているのです。逆らうのは別に構いません。が、それ相応の覚悟をして下さい」

 公務員の(ろく)()んでいた頃より、今の方が楽しいのは否定できないな。何しろ、どんなに強圧的に対処しても、その結果、どんなにマスコミに批判されても、今の仲間達は笑い飛ばし、そして必ず守ってくれる。


『なんだと!命令だと!何様だ!お前は!』

「おや、私としたことが、大事な事をお伝えするのを忘れていました。貴方の故郷の街を、親族一同共々に綺麗に消し去ってあげます。ああ、国内外のご親族は一足先に、次の投下予定地でしたっけ?南充(なんじゅう)市に、そろそろ到着しますから」

南充(なんじゅう)市?!親族?!きさまっ!何を!』

「ごちゃごちゃ言わず、言うことを聞けば良いのですよ。だいぶ前にどっかのばか国家がやったような、拉致事件モドキは止めて下さいよ?親族が減るのは嫌でしょう?ああ奥様とお嬢様を、半島に着の身着のままで降ろすのも良いですね?」


『お前っ!日本の小役人が我々を脅すか!教育してやろうか! ARISが日本に居るからと、大きな顔をしおって!』

 なんでこいつは、こんなにも冷静に言えるのだ?今までの小役人と違う?なんでだ?まさか?


「誤解されている様ですね。私は、日本政府の人間ではありませんよ?私はARISです。えーと……この姿は仮の姿ですから、容姿を記憶されても無駄ですよ?」

『ア……リスだと?何を!?』

「あんた達はねぇ、ARISに喧嘩を売ったんだよ。いう事を聞けよ?欧米主体の国連軍が展開するのは、決定事項だ。君達に反論する権利なんてないんだよ。聞かないならそれはそれで、私には願ったり叶ったりなんだけどね」

 お前の家族なんて、捕まえている訳がないだろうに。今まで恫喝することはあっても、恫喝された事もない人間は弱いねぇ。


『な…… なにを』

「分かったなら、返事くらいしたらどうです?」

 あぁ……早く激高して、手を出してくれないか?お願いだ、頼むから手を出してくれないか?それを理由に、合法的にお前の国を更地にしてやる。

 お前らが攻撃したあの街には、留学生の教え子が墓参りで帰省していたんだ。生きていれば、ちょうど私の娘と同じくらいの娘でね、ゲームにはまって日本語を覚え、両親の遺産を使って留学してきた困った娘なんだ。

 ゲームの中のチャットは、文字から相手の心理を読み解く心理戦、心理学のひとつだと言って、私をネットゲームに引きこんだ師匠でね。

 もし娘が大きくなったらこうなったって感じに容姿が似ていてね、妻も心配しているんだ。あの攻撃から通信途絶で連絡はとれないけど、あの娘は頭が良いからね、ちゃんとVOAからも、追加の核攻撃からも逃げ切っている筈なんだ。だからさ、なぁ?手を出してくれよ。頼むよ、あの娘を早く迎えに行ってあげないといけないんだ――


 結局のところ、各国駐在の大使の奮闘も(むな)しく、四川にはARISと欧米の軍主体の国連軍が投入されることになった。

 中央指導部の目論見では、国連軍が、内陸部奥地への展開に手間取っている間に、自軍を展開させ国連軍を不要にしようと考えていた。

 しかし、ARISが輸送手段として国連軍に提供した、今も頭上を進入降下してきている航宙輸送船が欧米軍を急速展開させ、その目論見を木端微塵に砕いてしまった。

 中央指導部は、それを苦々しく思うものの、日本人達に対しての様な横柄な態度が取れない欧米人達に対して、何も言えず、何が出来る訳でもなかった。


 まぁ、自業自得だ。東洋鬼(トンヤングイ)と蔑称した日本人より、洋鬼(ヤングイ)、欧米人達の方がより悪辣なのを知っていたが、政府に向けられた人民の不満を意図的に日本人達に向けさせていた。

『ここ……もか、ここも、立入禁止区域にされているのか。これではまるで、清朝末期の租界だ。我々は再び洋鬼(ヤングイ)に国土を荒らされ、食い物にされるだけなのか……』

 人民の洋鬼(ヤングイ)への警戒感が薄れていた結果が、あちらこちらに手書きで立てかけられた【Restricted Area (UN ARMY)-进入禁区(联合国军队)】という看板と、日を追うごとに拡張されていく、有刺鉄線の壁で覆われた、対VOA用の欧米各国の兵器試験場だ。


 洋鬼(ヤングイ)達は、我々から許可を取る素振りすら見せない。我が物顔で有刺鉄線を引き、至極当然の様に人民を追い出し、立入制限区域を拡張していく。 

 日本人は司令部に自由に出入りしているというのに、我々は誰であっても立ち入れない。情報を得る事が出来ない我々は、いつどこでどの兵器の実験が行われ、どこが新しく立入制限区域になるのかを知らない。

 ああ、あそこにも日本人……そして憎きARISが居る!


『開始時間まで後15分、開始時間まで後15分。各自装備の再点検を行え!小僧!小娘!ちゃっちゃと動かんかぁっ!』


「おおぉ……リアルハートマン軍曹だぁ……」

「リアルってさぁ~。そういや、この国の軍は、洞窟に入らないみたいね」

「そりゃ無理でしょうよ、見てよこの風景。悪魔は微笑みと共にやって来ると言うべきか、腐肉を漁るハゲタカの様な、利権目当ての欧米系国連軍しか居ないし。利権を削られない様にする、その防戦だけで手いっぱいでしょうよ」


『いいかぁっ!お前らっ!俺の許可無しに死んだら殺してやるっ!分かったか!分かったら返事せんかぁっ!』

『サー!イエッサー!許可なしに死にません サー!』


「なんで私は……こんな場所に居るのか」

「1回来ればお役御免なんだから、文句言わないの。その前に、私達ポンチョを羽織った方が良いかも。バッカニアのボンキュッボンのアーマは、若い米軍さんには目に毒だよ、うん」

「あぁ、たまにガン見してくるよねぇー。同僚の米軍女性兵士から殺されそうな目で見られるのに、良く私達をガン見できるよねぇ、感心するわぁ」

「若いのよ、若いの。ところであれって洞窟群に突入する部隊だよね?貴女は志願はしなかったの?ベテランは、今からでも組み込んでくれるみたいよ?」

「やだよ、志願なんてしないよ。私は、早く帰りたいの。それ以前に、危険手当目的で新人さん達は殺到しているし、劣化版ARIS兵装提供された国連軍は妙なやる気を出しているし、私達は、必要ないって」


「そう言えば、第1次派遣に先生が強引に入り込んでいたじゃない。教え子さんを見つけたらしいね」

「らしいね、今医療カプセル(タンク)にぶち込んでいるらしいよ?本国から奥さんまで来ちゃって、医療カプセル(タンク)にへばりついているって」

「そりゃ、先生ひと安心だねぇ。でもさ、最近生存者発見率が減るのに反比例して、VOAが増えてきているよね。新人が多いあっちの輸送船は、降着時に、もしVOAが来たら阿鼻叫喚になって大変だろうなぁ……」

「何を言うやら、こっちの船だって殆どが米軍さんだけだから、VOA来たら主戦力は私達だけでしょうに」


『第1グループ!前ぇぇぇっ!進めっ!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ