1-5-2 生きるだけで精一杯
「タンゴリーダーより各機、後5分の間に到着連絡がなければ、強襲を開始する」
「2了解、何時でもOK」
「3了解、医療カプセルの正常稼働を確認。いつでも降着可能」
「4了解、予備医療カプセルの正常稼働を確認」
30分程度前だろうか、日本政府側より治安部隊の到着が、経路上での妨害活動により遅れると連絡があったのは。
今までからは考えられない速度で、日本政府は治安部隊へ派遣命令を出した。ところが、治安部隊がいざ出動しようとすると、門前の市民団体と野党の集団の抗議活動により出発が遅延。更に経路上での駐車違反、進路妨害等で遅々として到着出来ていなかった。
抗議活動をしている者達が言うには、差別主義者の我々の制圧ならまだしも、差別の被害者である在日大使館側をするのは人権侵害だ、謝罪と賠償だ、彼等の要求を受けれいてこそ大人の対応だ云々。
現在進行形で、拉致事件を起こしている加害者達を、何処をどうすれば被害者言い募るつもりなのだろうか?私は彼等の精神構造が全く理解出来ない。
「なぜ、時代が変わったことを理解出来ないのだろう」
個人的な意見を言えば、今、抗議活動を行っている者は、自分は無知蒙昧な人々に真実を教える崇高な活動をしている人間だと自分自身の姿に酔い痴れている歪んだ優越感を持った者達だ。
成人前の若者ならば、その一途な思いからの活動だと考えられなくもないが、老齢に差し掛かっても意味不明な活動を出来るのは、そんな歪んだ精神構造が在ればこそなのだろうか。
余り表に出てこない中枢の者達は、金で転んだか、ハニートラップで骨抜きにされたか、何れにせよ碌なものじゃない。
そんな奴等の巧みな言葉に酔い痴れて頑張って活動したところで、何かあれば、末端の者なんて、簡単に使い捨てされるのに哀れとしか思えない。
末端の奴等は、今までなら、甘い対応を行う様に圧力を直ぐに掛けてくれていた政治家が、急になりを潜めてた事に気づいていない。
甘い罠に絡め取られた屑達、売国奴達が急激に表舞台から消えていっている事に気づいていない。
母船への乗船許可が貰えるのだと意気揚々と訪れて来た奴等に、悪行の証を突き付け、即時引退のお願いをしただけだ。
国が国なら、足先からゆっくりと溶鉱炉に入れられている。引退だけで済んでいるのだ、感謝して欲しいものだ。
裏切者達が大人しいお陰で、相手を子供に見立て、自分は大人だから鷹揚に応対するという愚かな行いをしないで良いのは、なんと素晴らしいことか。
「舐めれられているんだろうな」
眼下の大使館と大使館周辺にはあの国の人間達がバリケードを築き、立て籠っている。お前等、人の国で何を勝手な事をやっているんだ?
まぁ、それもあと僅かだ。制圧チームが到着したら、此方は揚陸艇からラペリングでもパラシュート降下でもなく、重力制御を使って飛び降りる様な形で直接降下して、制圧チームを補助する。
場合によっては、我々も制圧行動を取る可能性もあるとの事だが、まず出番はないだろう。もし我々が対応したら、君達は驚くだろう。少しでも抵抗すれば制圧され、反撃などしようものなら、問答無用で射殺される。
しかし、遅いな制圧チームは。こっちは、もう大使館の近隣上空に到着して、重力制御起動させて待機しているってのに。
「緊急!緊急!緊急!対象のバイタルサインに急激な変動!急激な変動!」
「変動?!おい!制圧チーム何処だ?!未だ、かかるだぁ?!」
「バイタル低下!バイタル低下!」
「糞ったれ!強襲降下するぞ!早く移動させろ!ゲート開けろ!安全手順なんぞ知るか!そんなもん素っ飛ばせ!」
「1班、2班同時降下準備!1班、2班同時降下準備!」
「バイタル危険値!」
「あの娘を確保するのに邪魔なら、何もかも吹き飛ばせ!邪魔する奴は殺せ!」
「降下準備!降下準備!降下準備!」
「制圧射撃開始!」
光の束が、大使館周辺の道路にバリケードを築いていた暴徒達に降り注ぐ。
薙ぎ倒されるもの、逃げ惑う者。呆然と此方を見上げる者。
今までの大人の対応では、決してみられる事の無かった光景が眼下に見える。後世の人達は、これを虐殺と言うかもしれないが、我々は警告はしたのだ。投降しなかった彼等が悪い。
「安全装置解除!安全装置解除!安全装置解除!」
「降下!降下!降下!」
さぁ、あの娘を家に連れ帰ってやらないと。絶対に連れて帰るんだ。約束したんだ、また一緒にゲームしようって。慣れてない私を買い物に連れて行ってって。
「ひとりも逃すな。外交特権なんざぁ知った事か。どんな手段を用いても、拉致と暴行の実行犯を吐かせろ」
結局の所、我々は間に合わなかった。医療カプセルは、万能じゃない。命の灯火が消えてしまったものや、消えかけているものは戻せない。
病人を拉致した上に、暴行して殺すのか?それも同国人を?未だ未成年だぞあの娘は?人なのか奴等は?
「妬み僻みは怖いと言うが、此処までするか?人のやる事じゃない……」
治療のためにわざわざ来日して、後3カ月で完治の予定だった彼女は、母国の在日大使館の中で、欲望の捌け口の果てに殺された。彼女の国籍の場合、本来なら受けられない医療カプセルで治療を受けていた事で、我々にコネがあると邪推されたのだろうか?
全くコネがなかったとは言わない、我々の仲間のネトゲ友人という、在って無い様な、か細いコネはあった。それだけだ。我々だって、鬼じゃない。目を閉じている時もある。所謂、弾力運用、裁量範囲というやつだ。
もうそれも終わりだ。些細な事で邪推され、利用されかねない事が判明した以上、今後は厳格運用しかなくなる。恨むなら奴等を恨んでくれ。
「治療途中でも、治療を停止し、以後の治療を拒否するのは非人道的では?!」
「我々は、船団通達に準じているだけです。調査から漏れていた事象があったため、それを是正したに過ぎません。人道的云々の話ではないと理解しております」
いい加減に諦めれば良いものを、なぜこうも諦めが悪いのか。君達、報道機関というものは、何故こうも本当の世論に疎いのか。
何処の報道機関だったろうか、世論は我々が作る物だとと豪語していたのが居たっけ。自分達を何様と思っているのだろう。ひと昔前よりも更に進んだネットワーク社会において、自分達の歪んだ心情が望む方向に世論を誘導できると思っているのだろうか?
何年も指摘されているのに、自省という言葉を知らないのだろうか。自分達の余りにも偏った内容が、販売部数や聴視聴率を低下させ続けている原因だと、何故気付けない?例えば、音楽番組で偏った政治信条を聞きたい?私は御免被る。
まぁお陰で船団の搬送波を用いた、政治色の殆どない、新しいTVやラジオ局が出来て嬉しい限りではあるんだけどね。最近はこの新しい放送局に視聴者や聴取者を奪われて、所謂既存の放送局は大変らしい。そうか、それも彼等が発狂した様に必死になる理由なのか。
頑張って私達を鬼畜だ、悪魔だと罵れば良い。君達に説明する義理はないけれど、その実、コネ付は快癒させてから退去させているけどね。何時もなら実施される快癒後の経過観察期間が少し短くなっただけ。一種の治療中断なんだから嘘は言ってない。だって君達に、この事を一言も説明していないんだから。
「即刻停止について、各国から非難声明が相次いでいますが、それについてどう思われますか?」
「別に何も思いませんが?我々は船団通達を遵守しているだけです」
今までなら、相次ぐ批判声明に根負けして、条件が緩和されたのだろうが、我々が今迄と違うことにいい加減に彼等も気づいて欲しいものだ。
どれだけ我々を君達、非対象諸国の意向を組んだ報道機関を用いて、差別主義者、人でなしと罵っても、何も変わらない事に気づくべきだ。
「批判する国家、地域に対しての医療設備提供を即時中止するのは、余りに非人道的では?!」
だから、いい加減に気づかないのか君達は?君達が非難すればするほど、我々は閉じていた目を開けざるを得ない。厳格運用せざるを得なくなる。
自分で、自分の首を絞めている事になぜ気づかないのだろう?非難すれば日和ってくれる相手はもう居ない事になぜ気づかないのだろうか?
「抗議を継続する国家、地域は医療カプセル提供の中止ではなく、撤収する。また乗船拒否国家、地域として永久固定とする」
連日の非難報道に、思うところが無かった訳では無いが、我々は意に介さず厳格運用は開始した。いや開始したというのは語弊がある。厳格運用を本当に厳格に実施し始めたが正しい。
非対象国家国籍の場合は治療の即時停止、国外退去等を実施し、相手国側が送還者の受け取りを拒否した場合は、空港等に放置した。
相手国側での抗議活動は当然の如く増加した。本より我々に批判的である報道機関による、その抗議活動の映像に扇情的なBGM、非理論的発言を繰り返すコメンテータを用いた国内での非難報道も増加した。
彼等は非難すれば、言うことを聴いて貰えるとでも思っているとしか思えなかった。まるで我儘な子供の様な彼等に対して、我々が大人として厳しく躾け直すために、強い態度で応じるのは当然だろう。何故それが分からないのか。
「抗議活動の指揮援助等を行っている者、団体が対象国籍である場合、当該支援者、団体の名前を公表し、その家族を含めて医療カプセルの利用禁止及び乗船禁止とする」
受け取る金額と比較して、将来の安全、母船への乗船権の方が大きいと判断したのだろう、この通達の後、国内での非難報道は急激に鎮静化した。
何が公正な報道機関だ、公正な報道機関なら、なぜ黙るのだ?どれだけ君達は賄賂塗れなのだ。
本当に調査能力の無い人達だ。入国者と出国者の数が合わない事に未だ気づいていない。厳格実施の通達の前に入国者数が増加した事に未だ気づいていない。
我々を鬼畜だと、あなた達は言う。その通り、我々は鬼だ。けれど、鬼だって友を見捨てない、仇も討つ。我々が人に在らざる存在であるのは認める。独りよがりな偏った正義を振りかざす存在なのも認める。でも我々は自分達が偏っている事を知っているし、それが導く結果も覚悟している。
君達が蛇蝎の如く罵る我々でも、人の心を少しは持っている。本当に疑問に思う。君達には人の心があるのだろうか。
少なくとも、我々は君達とは違う。金や権力、己の偏った正義を声高に主張するけれど、君達が自省した言葉を聞いた事がない。保身のためには、直ぐに日和り、仲間を見捨てる君達とは違う。
君達は黙ったから助かったと思っている。何とおめでたい。君達が乗れるのは96番船以降だ。95番船より前には乗れない。船団通達をよく読むべきだ。君達は11項にある反社会的勢力の一派とみなされているんだ。
「件名:収容人数及び収容対象者、非対象者に対する通知
母船収容可能人数の制限に伴い、第七船団は以下を規定する。
各船団長においては、船団全体の整合性を取る上でも、弊船団の規定に準じることを強く要望する。
規定に準じる義務はないが、規定に準じない場合、当船団は規定に準じない船団との人的交流の一部を制限する。
尚、本通達作成においては、船団が本邦及び、諸外国から受けている要望への対処も考慮したものである。よろしくご留意されたい。
1.収容人数
収容人数は各船団で原則1億人を上限とし、合計15億人とする。
2.各船収容人数
・船団母船:1,000万人
・都市船1~90番:各100万人
・都市船91~95:予備船舶とする。
・都市船96~100:項参照の事
3.収容対象者
以下の者を船団母船及び都市船1~95(予備船の91~95番船含む)の収容対象者とする。
・日本国籍者(二重国籍者はこれ含まない但し、第4項記載の同盟国に類する国家の国籍を二重国籍として持つ者は、日本国籍の単独保持者と同様に扱う)
4.同盟国に類する国家
以下の国家を同盟国に類する国家とする。
・アメリカ、英連邦及びその加盟国、NATO加盟国、ヨルダン、シリア、インド、スリランカ、ネパール、アセアン加盟国、台湾及び南洋諸島、ペルー、ブラジル、アルゼンチン
上記国家の国籍を所有するとの詐称が、当該国単一の詐称累計10件を超過した時点で、当該国のみ厳格審査に移行する。
5.同盟国に類する国家の例外事項
同盟国に類する国家と非同盟国の国家の二重国籍者において、当該二重国籍者が、各年度2回、単発で1か月以内の観光旅行による断続期間を居住日数として含み、同盟国に類する国家に累計ではなく、連続した居住日数が2年未満の者は、同盟国に類する国家の国籍を持つものと認めない。
6.収容対象外の国家
前第4項記載国家以外の国籍を保有する二重国籍者は、日本国籍者又は前第4項に規定される同盟国に類推国家の国籍者として扱わない。
7.乗船に伴う例外措置(同盟国に類する国家)
日本に合法的に入国し且つ、公序良俗を乱さず合法的な生活を営む前第4項記載の国家の単独国籍者については、都市船96~98番への乗船を許可する。
但し、本通達日を含みそれ以前に、日本国籍者を配偶者として、事実婚ではなく、公的に婚姻が証明できるものは、都市船1~90番への乗船を許可する。但し、日本国籍を有する当該配偶者と離婚した場合は、即時退去又は96~98番へ即時移乗とする。
8.乗船に伴う例外措置(収容対象外の国家)
日本に合法的に入国し且つ、公序良俗を乱さず合法的な生活を営む第6項記載の国民であって且つ、各年度2回、単発で1か月以内の観光旅行による断続期間を居住日数として含め、累計ではなく、連続した日本での居住日数が二年以上の者は都市船99~100番への乗船資格を与える。但し乗船前または乗船中に公序良俗に反した場合、当該(とうがい)乗船資格を即日に剥奪する。
9.退去の取り扱い
乗船許可の取得又は乗船後であろうと、過去に遡及し、経緯が非合法であったと判明した場合、期限の権利を失い、即時退去及び国籍国又は国籍国が現時点で存在する地域又は国家に送還し、以後いかなる場合も乗船を拒否する。
この場合、乗船後に得た財産等は全て没収し返還しない。
10.例外措置における収容上限
都市船96~98番船への収容人数は、各船200万人迄とする
都市船99~100番船の収容人数は、各船500万人までとする。
11.その他
母船及び都市船1~95(予備船の91~95番船を含む)の収容対象者であっても、15船団のうち、過半数の船団長が著しく反社会的であると判断した場合は、即時退去とする。
尚、退去先はその政治主張に沿った国家への強制送致又は、各船団の99~100番船への送致とする。
この場合、母船及び都市船1~95(予備船の91~95番船を含む)にて獲得した財産は、金融資産に換算し当該人物の口座に送還又は送致確定後、5営業日以内に入金される。
12.施行
本日午前零時零分零秒に遡及し発動する。
以下通達と各船団の理解協力を要請する」
辛抱するという言葉の意味を理解出来ない君達や、君達の支持層の事だ、必ず問題を起こすと確信している。
さて、問題はなるべく早くに起こしてくれると非常に助かる。最初から96番船以降に乗船してもらえた方が何かと楽なので。
人の生活が羨ましくて、人を引き摺り降ろす、邪魔したいがために意味不明の嫌がらせを行い愉悦を覚える、そんな非生産的な反社会的気質の人間を養えるほどの余裕を我々は持っていない。この弱肉強食の銀河の中で、人類を生存させるだけで精一杯。生きるだけで精一杯。
君達は本来は、我々に不要な層。けれど我々は、君達が大好きな人道的な行為を君達に施す。同じ様な反社会的気質の仲間達と96番船以後で存分に政治議論に花を咲かせ、お互いを罵り合って楽しく生きて欲しい。これは隔離じゃない。乗船はさせてあげるのだから、人道的でしょう?だから感謝して欲しい。
これは復讐でも仇討ちでもない。復讐や仇討ちが、こんなにも簡単で優しく終わらせる訳がないでしょう?
あの日、君達が自分達の利権の為に我々を妨害をしなければ、彼女は私の横で笑っていたかもしれない。少しだけ、あなた達に返礼をしただけ。
生きるだけで精一杯になるかもしれないけれど、病気や怪我なんかで死なせはしない。必ず天寿を全うさせてあげる。




