閑話 星の記憶1 収穫の秋
一部の修正と話数順の並べかえです。
はぁ……、段々と寒くなってきたな。朝晩の冷え込みが少し強くなってきた。秋も終わりか……。そろそろ寒い時期がやってくる。そういえば、女達が木の実や、茸を天日干していたな。
村の近くの山では、獲物を見つけるのが辛くなる時期がくる。まぁ、山が駄目でも海の近くでは年中獲物が取れるが、オオトカゲが居る森を通らないといけないのでうちの組では、行くのは無理な場所だ。
腕あったとしても海辺は、大口や、大腕とかの大きな魔物が居て危ないからな、余程の用事がない限り縁のない場所だ。それに、海にいかなくても下の台地で十分狩りが出来る。
朝晩の冷え込みが厳しいこの時期でも、下の台地では少し肌寒い程度の春の様な暖かさですむ。下の台地のそこかしこに開いている穴から暖かな風が流れてくるからだと、村の爺さん婆さん連中が教えてくれたな。
下の台地は暖かいからか、大ネズミに、駆け鳥、槍角鹿など色々な獲物が狩れる良い場所だ。少し群に気を付けないといけないが、小狼も獲れる。陽が沈むと、八脚と腕長出てくるので、気を付けないと駄目だが、普通に回りをよく見て気を付ければ、此処は獲物の多い良い狩場だ。
人より少し小さい程度の八脚は、特に危険な獲物だ。必ず群で動くから、油断して目の前の1匹だけに気が向いていると、他の八脚に引きずり倒され齧り殺されてしまう。けれど、倒せれば肉は美味いし、殻は武器や防具や道具になる。旨みの有る獲物だ。
腕長は、夜に油断していると狩った獲物を盗むので注意しないといけない。
腕長と言えば、この前イーサンが腕長の若い雌を持って連れて帰ってきた。 腕長は、毛が無くて腕が長く、青白い肌を除けば俺達に近い姿をしている。生意気にも俺達と同じ言葉をしゃべるし、簡単な服も着ている。けれど、腕長と俺達との間には子供が出来ない。
姿形を少し我慢すれば、雌はお楽しみに使える。 娼館に売れば、値段は安いが小遣い程度にはなる。
そういえば、どうせ与太話だろうけど、下の台地の大森林に近い側にある谷の向こう側の台地には、腕長に似ているけど腕は長くない腕長モドキが居て、その雌は高く売れるけど、直ぐに壊れるから注意しなければ駄目らしいが、俺は見た事がない。
若い腕長の雌は一寸教育して、お楽しみを覚えさせると従順なペットになるから暫く使うのも良い。余りやりすぎると壊れてしまって無反応になるときもあるが、その時は捨ててしまえば終わりだ。
余りお楽しみが過ぎ後に、自分の女を孕ませると腕長が生まれる場合もあるらしいけど、そんな奴は余程運の悪い奴だから、気にしても仕方ない。
街でも、村でもないこんな場所で、お楽しみが出来るのだ、贅沢は言えない。ただし、誰が腕長の餌を負担するのかが問題になる。食べ物が豊富にある時期だって、余裕があるわけじゃない。 今はただでさえ冬に向けて食べ物を溜め込まないといけなくて、腕長なんかより肉と毛皮が優先される時期だ。
イーサンが腕長を連れ帰ってから暫くしてから、女達がざわついて剣呑な空気が漂っている。少し、女達に理由を聞いた方が良いかもしれない。
狩りの帰り、下の台地との境目の近くで、何時も見かけない八脚の死体を見つけた。肉は腐っていたが、殻は持ち帰って使うなり街で売るなりできる。肉があればもっと良かったが、殻がタダでてにはいったんだ。文句を言うのは贅沢ってもんだ。
腕長の槍先が何個か刺さってしたし、何時は見かけない場所にある死体だったのが少し気になったが、腕長が村を襲う訳もないので儲けたと思う事だけにした。俺は頭がそんなに良くないから、難しい事は良く分からないしな。
街は、不思議な場所だ。塔の廃墟、たくさんの塔の廃墟の近くにある。
塔の廃墟は運が良ければ過去の遺物が手に入る場所だ。綺麗なものだと高く売れるらしいけど、塔の廃墟は命がけの場所だ。何時、廃墟の塔が崩れるかもしれないし、夜には八脚が瓦礫の隙間から突然現れる休む暇もない場所、それが塔の廃墟だ。余程腕に自信がないと行ける場所じゃない。
爺さんや婆さんが教えてくれた昔ばなしでは、あの場所に俺たちの遠い祖先が住んでいた場所らしい。
大帝国を羨んだノム帝国とミ帝国が突如攻め込んできて、攻め滅ぼされた大帝国の街のひとつだったらしい。爺さんや婆さん曰く、夜でも、昼の様に灯が燈った街だったらしいけど、想像がつかない。多分、耄碌して、夢物語が混じってしまったんだろうな。
遺物を見た事があるけど、あんな物が作れる国だったら、今の暮らしはもっとマシな筈だ。ま、どちらにせよ、そこまでの腕がない俺が、塔の廃墟に行くことはないから、縁のない場所だ。
腕長の若い雌を偶然捕まえた。もう一匹若いのが居たけど、逃げられた。まぁ、一匹捕まえただけでも儲けものだ。
村には持って帰らない。イーサンが持って帰った腕長の雌が未だいるから、これ以上増やすのは良くない。連れて帰れば、餌をうちの組の食い扶持を削って捻出しないといけない。それなら、娼館に売ったその金で、街で岩塩か何かを買って、女達に媚びを売っておいた方が後々得だ。
街で娼館に売り払う前に、若い奴等が楽しむのは目をつぶる事にする。但し、楽しんだ後に雌を綺麗に洗って見栄え良くするのを忘れない様に言いつけておいた。その方が高くうれるからな。
売る前に遊んだ事を知ったら、村の女どもは煩く言うかもしれないけど、村じゃ練習なんて出来ない、「じゃぁお前らが練習台になるのか?」って言えば大抵黙る。とはいえ、後家がやる気になって誰かと一緒になるのを、止める気はない。
イーサンの組がバカをやっていたのが判った。腕長の餌を自分達の食い扶持から出していたのではなく、後家の、それも子供の小さい後家を脅して食い扶持を削らせて奪っていたらしい。様子がおかしいのを他の女達が気づいてわかった。あいつ等は馬鹿だ、村の仲間より腕長を優先するなんて。
今日は、イーサンの組が狩りに出る日だ。携帯する食糧は無しにされていた。当然だ、その無しにした分を食い扶持を奪われていた後家の家に回すのだから。
イーサン達は不満を露にして大声で文句も言っていたが、俺達や別の組の人間に睨まれると、不満気な顔のまま黙って狩りに出かけた。
7日後にイーサン達が帰ってきたが、余り獲物を持って帰ってきていなかった。街で売るか交換してきたかと思えば、そうでもなかった。その割には、イーサン達がにやけた顔をしていたのが気になる。
イーサンの後で狩りに出た組が帰ってきた。イーサン達と違い、獲物も持ち帰ってきたし街で薬も手に入れて帰ってきた。街で、イーサン達が、街で売った獲物を元手に娼館で豪遊していたとの話も持って帰ってきた。
それ以外は、腕長達を村の近くで、見かけたとも言っていた。ま、腕長が何をするわけでもないから、気にすることもないだろう。
長老たちがイーサン達の追放を考えているみたいだ。馬鹿な奴等だ、自分が強いから大丈夫だと思って、無茶苦茶するからだ。
村があるから無茶が出来る、こんな単純な事を理解していない。賢くない俺でも分かる事が、分からない。だから馬鹿なんだ、イーサン達は。
それよりも、朝出かけた女達の組のひとつが帰ってこない。どうせ、道に迷ったかなにかで夜明かししているだけだとは思うが、明日は朝から探しに出る事になりそうだ。
今日は、森が静かだ。小鳥の鳴き声すらしない。何か居る。
森の広場で、昨日帰って来なかった女達の服の一部が見つかった。喰われたか、攫われたかは分からないけど何か居る。
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地球から遥か彼方130万光年主系列K型恒星を主星とする岩石惑星3にガス惑星2の合計5つ惑星を従える星系No.ES3247
そのハビタブルゾーン内縁側を公転する第二惑星ES3247-2は、傍目には連星系に見える。薄い橙色に輝く衛星が、惑星の半分近くあるからだ。実際、重心点がとりあえず主星の地殻部分にあるていどなので、連星とも言えなくもない。
その惑星、陸と海の比率は4対6、大気主成分、植生共に地球に近く、生物種は海洋の一部大型生物種を除いて陸上には小型の物しか確認されなかった惑星を見つけた時、その星系方面の植民権を持つ植民団は喜びに沸いた。
ほぼテラフォーム不要で即時植民可能な惑星。更には、第3惑星も若干寒冷ではあるが、居住可能だったのだ。テラフォームの必要がない惑星などという有り得ない幸運付で、探査3番目の星域で当たりを引いたのだから、喜びに沸くのは当然だ。
詳細調査の結果、第2惑星は衛星の大きさか、それとも重心点の位置関係を原因か、数十年に1回の頻度で大地震を伴う様な活発な地殻活動があるとされたが、リスクは低いとされて植民は実行された。
地震の恐ろしさを知らないではないが、母国の自然環境を自ら破壊してしまい、可及的速やかに代替地を必要としている母国政府の命令により不問とされ、植民が進められる事になった。目先の利益に目が眩んだのだ。
自動建設機械を用い、インフラ施設や居住区域を建設するにしても、植民スピードは他星系と比較しても早かった。
植民団の母国はVOAにより居住地域が狭められ、スラム街で押し込まれる様にして生活している低所得層の不満がいつ爆発しても不思議ではない状況だったからか、億単位の植民者が、この惑星に流れる様に送り込まれた。
植民団の母国政府は、早急に自国から植民星に、ガス抜きの意味でも、植民者を大量且つ迅速に送り込む必要があったからだ。
送り込まれた植民者は、不幸であったのかと問えば、そうではなかった。確かに、植民船に乗せられるときは自主的な応募という名前の強制だったし、将来に悲観し、家族共々半ば諦観した気持ちで渡ってきた。
ところがいざ植民星に来てみれば、環境破壊が進み過ぎた母国では味わえなかった綺麗な空気、水そしてなりよりも、広い我が家と土地が得られたのだ、余りの事に何の裏があるのか疑ったくらいだった。
先行建設し、一気に大量の受け入れが可能な状態にしてから植民を実施する等、非常に速いペースで植民が進められた。建設中から小規模な地殻変動はあったし、その後も毎年の様に小規模な地殻変動は起きていたが、許容範囲とされ植民星の開発は続行されていた。
順調に発展していく植民星に変化が現れたのは、植民開始から四半世紀程経過したときだった。小規模な地震の頻度が増加し始めたのだ。
元々地震の多い惑星であったので、誰も気にはしなかったが、流石に植民地歴37年目、43年目、47年目と大規模地殻変動が連続に発生するに至って、遂に植民星からの撤退が検討された。検討されたのだが、避難船団を送ってくれる筈の母国政府は既に存在していなかった。
連合が気づいた時には時すでに遅く、救助されたのは1万人程度であった。
植民者救助後、第2惑星は植民不適合惑星とされた。誰も訪れない、記録の中だけの惑星となった。
その頃、地球にあるあの封鎖地域は、極小のAbyss Coreが未だに点在する地域だった。Abyss Coreは、
ARISによって破壊され続けていた。とはいえ、封鎖地域の住民に襲撃されながらのAbyss Coreの破壊作業は遅々として進んでいなかった。
封鎖地域に送られたと言え、医療検査はサンプリングで実施されていた。その医療検査で遺伝子変異が見つけられたのは、その破壊完了までに未だ10年単位で時間が必要だとされていた頃だった。
人類種との交配が非常に困難なレベルにまで遺伝子乖離が発生していた。封鎖地域は極小のAbyss Coreが点在する地域でもあるため、その影響だと判断された。
当初は放置しておく意見もあったが、このまま遺伝子乖離が進むと何時VOAの様なものに大規模変異する可能性も否定できず、移送が必要とされた。
移送先の決定は、紛糾した。どの母船、どの植民星、誰も受け入れないのである。勝手な言い草、自分達で勝手に封鎖地域にし、送り込み、遺伝子変異を発生させておいて、何処も自分の領域に過去の負の遺産を纏った爆弾を抱え込むのを拒否した。
対応に苦慮した連合が見つけたのが、記録だけになり忘れ去られた130万光年彼方のES3247-2だった。 既に変異が完了してしまい別種族同様となったゴブリナのみを残し、封鎖地域の住人は、全員がES3247-2に移送され、封鎖地域は封鎖保護地域となった。
地球から遥か彼方130万光年主系列K型恒星を主星とする星系No.ES3247は立入制限星域とされ、厳重管理区域となった。
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Enclosed Star zone(閉鎖星域)No.ES3247
K型恒星を主星とする星系
当初つけられた星系の名前も、惑星の名前も今は無い
2足歩行型の生物種が3種類生息し、文明レベルは、2種類が中世前半前期、もう1種類が中世前半前記程度と推測される。
現在、2種の生物種の間で騒乱が起きている模様。
3種の始祖は、テラの封鎖地域であるという説もあるが、その様な記録はなく、都市伝説である。立ち入り制限区域であり、遺伝子調査が実施できないため、確実ではないが、3種とも、ES3247-2の原生種と推測される。




