小さく、ささやかな世界
初めて読まれる方、超駄文でごめんなさい
ウルトラスーパエクストリーム文才無しですが、頑張っています。
少しでもScFiの世界に浸っていただければ幸いです。(R15なのでご注意を)
ゲームパッドは他の人には単なる電子機器。でも、私には魔法の箒。非現実世界へ、細やかな息抜きの場所、オンラインゲームの世界に私を誘う魔法の箒。
オンラインゲーム「Beyond of the Boundary~境界の彼方」。
機械の身体を得て、または生体であれば、人為的に強化調整処理を施された肉体を得たARIS(Artificially Reinforced and Integrated Species)となり、地球で、異星で、宇宙空間で闘う。
時に傲慢な、銀河列強種族の妨害を跳ね除けつつ、異形の敵VOA(Variant of Abyss)と、ありとあらゆる場所で種族の生存を賭けて闘う。
と言いながら、VOAと闘わなくても、そこそこ未来的な世界観を楽しめる。無課金でもそれなりに装備やアイテム等が充実していてるからか、それなりのユーザ数を誇る。ちょっとした息抜きには最適で、そしてお気楽なオンラインゲーム。
その細やかな息抜きの場所で私は大人しめのファッションの女性アバター使っている。「なぜ、女性アバターを?」と言われると、そちらの方が気に入っているから。それ以外の理由は無い。
一般的に納得されるだろう理由を言えば、ゲーム内で野郎アバターを見ていても楽しくないから。それに、このゲームで女性アバター使いの男性ユーザなんてのは、掃いて捨てる程、それこそ星の数程居る。それを言い訳にするわけではないけれど、私もその中のひとりにすぎない。
「オフ会で会いませんか?」
ゲームのアバターからその様な物が出ているとは思えないのだけど、ゲーム内の友人曰く、纏うオーラが、他人に私を女性ユーザと誤解させるらしい。
ふんわりとした雰囲気で纏められている私のゲーム内の部屋と、男性ユーザの女性アバター使いが好みそうな、露出過多、フェロモンバリバリのコスチュームを好まない行動、変声ボイスチャットの話し方が更に誤解を産むのだと言う。
この話し方が止めを刺していると友人たちは言う。このゲームは個人情報の特定を避けるため、使用するアバターに併せた変声ボイスチャットでしか話せない。だから、その事を理由に挙げられても困る。
友人達は言う、妖艶なコスチュームの女性アバターの大多数は男性ユーザである。真理だと思う。けれど、他人の好みをとやかく言うつもりはないが、アバターといえ、良くもあんな布の切れ端の様コスチュームだけで恥ずかしくないものだ。
中にはその心理を逆に突き、社会経験の薄い男性が抱いている女性像の様な行動、衣装で、初心な男性に貢がせる姫プレイを行う詐欺師も居るらしい。
詐欺は行っていないけれど、そのままお前の行動と同じだなと言われる。何て失礼な奴等だろう。お前等、今度フィールドで行動不能になっても、セーフポイントまで引き摺って戻ってやらんぞ?
「ですから、何度も言っている様に、私は男です」
勝手な誤解に基づき、文句を言われるのは納得は出来ない。とは言え、そのまま放置して後々問題になるのも面倒。なので私は、ああこの人は誤解しているなと思えば、早めに訂正する様にしている。
そうであっても、信じてくれない人は居る。大人しめの女性ユーザが嘘を言っているのだと勝手に思い込み、私に纏わり付く人が時々出てくる。そううなると友人達は大盛り上がりだ、今回はどんな捨て台詞を吐かれるのかと賭けを始めだす。お前等、本当にフィールドで行動不能になっても放置すんぞ?!
嗚呼……、こんな幸せな世界に居た筈なのになぁ……。
「陽が落ちれば綺麗な場所だよここは、本当に」
彼等の国軍や国連軍だけではどうにもならなくなったこの国に、私達が降下してから、随分と経つ。毎日、私達《ARIS》の誰かがVOA駆逐するために彼等の街に降下する。夕焼けの薄暮の中、編隊を組み進撃する揚陸艇は、本当に綺麗だ。
最近、良く考える。いったい何時まで闘い続けるのだろう。何時になったらVOAは居なくなるのだろう。あと何回、楊陸艇から地獄に降下するのだろう。この場所に来なくて良くなるのは何時だろう。
この異国の街に命を賭して降下しても、感謝の言葉は返ってこない。この場所で返ってくるのは、身勝手な要求か、暴力だけ。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
「はい?私ですか?はぁ、何でしょう?」
「今回の降下に同行させていただくTOKIOテレビの須藤と申します。よろしければ、インタビューをさせて戴きたいのですが?」
「今回の降下に同行……ああ!聞いていますよ、TOKIOテレビの記者さん達ですよね。インタビュー良いですよ、今は未だ時間がありますから。面白くはないと思すが、それでも良いならですが」
「いえ、同行させてもらえるだけで、視聴率が結構凄いんですよ?」
女性アナウンサーが同行現地ロケとは、特集番組のためとは言え大変だ。ああ、だから1班に降下数が少ない者を集中させて、うちの2班は古参だけなのか。
『VOAが跋扈する異国の街に降下するのは怖くないのですか?』
流石プロだ、カメラが回ると先程までの不安混じりの顔じから、堂々とした顔になった。それに比べて、お前等さぁ、顔が引きつってるぞ。
「この見かけですけど、子供が居ます。子供のためなら何だって耐えられます」
「おれ長男なので。年の離れた弟が居るんですよ。弟は船で安全に生活し続けて欲しいからね。頑張んないとね」
「わたしは……お姉ちゃんなので。妹達には、普通に生きてほしいから。ただそれだけ、それだけです」
「地獄を味わうのは私達だけで十分。格好良く言うと、こうかな?あはは」
「私は、初めての降下で不安なのですが、死に戻りは怖くないものでしょうか?」
「そりゃぁ、最初は怖かったかな?でもね、慣れるものなんですよ。人っていうのは、ええ……慣れるんですよ」
「耐えるしかないかなぁ?」
「私が耐えれば、妹達は知らないで済むから。妹達には知って欲しくない。だから……怖がってなんていられない。後は……うん、何でもありません」
もうちょっと格好が良い理由でもあると思ったかい?そんなもの誰も持ってないよ。みんなこの場所から、皆で無事に還る事だけを考えているのだから。
「死に戻りする時の痛みとは、どれくらいなのでしょうか?」
「そりゃ勿論、人……。うーん、自分達は未だ人と言って良い存在だと思いますけど、そりゃ怪我して死ぬ訳ですから痛いですよ、物凄く痛いです」
「ゲームの時は単なる画面の中だけの話でしたけど、実際に痛みが伴うとなるとねぇ……。怪我をしているんだから、当たり前と言えば当たり前ですけれど、流石に辛いです。けれどまぁ、慣れるしかないですよ」
「死に戻りが多すぎて、現地が死屍累々の時は堪えます。けれど嫌でも生き返らせられて再出撃なので、諦めと言うか、悟りと言うか。もう笑うしかないですね」
「死んだら、死に戻って再び降下して闘い続ける。何度も経験したくないですけど、まぁ……うん、慣れですよ慣れ」
ランプが点滅したということは、そろそろ降下か。おっと、落ち着いて、大丈夫。緊急事態ではなく、降下準備を知らせる点滅だから。
「そろそろ降下……という事ですよね?」
「はい、そろそろ降下の時間です。準備して下さい。降下前に赤ライトだけになりますが、驚かないで下さい」
「――けど、大丈夫ですか?」
「え?ごめんね!聞こえなかった。もう一度言ってくれるかな?」
「手が震えていませんか?それに、真っ白です」
「え?嫌だなぁ、気のせいですよ、気のせい。強襲降下で機体が揺れているので、しっかり握っているだけですよ」
ああ畜生、今日は降りた瞬間に対人戦闘だな。理由は想像が付くけれど、誰だ、篝火が散見される場所に強襲降下する事を考えた奴は。
「降下5分前!降下5分前!装備最終確認!装備最終確認!」
先に降下した別部隊が野盗と対人戦闘を既に始めている。観測映像には、野盗の原形を留めない死体だらけ。それを見ている女性アナウンサーの顔が蒼白だけど大丈夫かな。降下しないで揚陸艇の中で待っている事を勧めるべきかな。
「大丈夫です。私達全員、生義体です。本体は調整槽の中です」
差別は良くないと言いながら、その実は差別は無くならない。言い方は悪いけれど、容姿もその販売戦略の一部である報道の世界もそれは同じ。実力は在れど、花や特技が在る訳でも無い独身のアラフォーアナウンサー。片やアナウンス力は無いのに、芸達者な若手が台頭してくる。
夜討ち朝駆けの仕事に真面目に取り組んできた結果、体形が崩れた独身の中年。裏方と言え、その事をネタに弄られるのは本当は辛かった。
若化も含む容姿端麗の調整体ともなれば、その問題も解決できる。些か短絡的だとは思うが、彼等が起死回生に打って出た気持ちは分からないでもない。
それに此処はそんな奴等ばかりだ。ようこそ!ARISの不思議な世界に。
「放送に堪えないと思われる部分は削除をお勧めする?!検閲ですか?!報道の自由があるのではっ?!」
私達は善意で此の国に来ている訳じゃない。国外退去がひと段落する迄は、此処の現状が世間に知られてはいけない。国外退去先が無くなるのは困る。
さて、彼女達は我々か向こう側か、どちら側に付くのだろう。此方側に付くなら問題ない。向こう側に付くなら戦闘中行方不明。アナウンサーとADのひとりは女性であの容姿だ、それが嬉しいかどうかは別として、暫くは生きられるだろう。他のスタッフは……直ぐに死に戻りかな。何故か蘇生失敗となるだろうけど。初めの1時間で彼女達が賢明な判断をする事を祈るのみだ。
政治的云々を除いても、此の場所の事をまともに放映できる訳がない。此処は人権団体が聞けば発狂しそうな、男尊女卑で、強者生存の場所。此の場所に統治機構も、治安機構は既に存在せず、居るのは略奪者と商品だけ。
どのグループにも属していない容姿端麗な女性等は、即座に捕縛され商品となる。身寄りのない子供や、体力が劣る老人も商品にされる。
街に降りれば、流通機構が崩壊しているのに、肉の焼ける匂がするだろう。何の肉かは、明るくなれば嫌でも目に入るから分かる。
夜が明けてVOAが消えた後、陽の光に照らされた街中に、何度見ても慣れる事のない風景が広がる。こんな世界を映しても誰も喜ばないと、誰もが理解してしまう。此処はもう人の世界じゃない。野生の世界だ。いや野生動物の方が、もう少し自分の仲間や家族には優しい。
ああ……赤ライトだけになった。そろそろ降下だ。
「ゲートロック解除、赤、確認。赤、確認。降下シークエンス開始、降下シークエンス開始」
どんな化物よりも人の方が恐ろしい。この降下で彼女達は、誰かが言ったこの言葉の意味を噛み締めるだろう。如何に自分達が幸せな世界に生きていたかを実感するだろう。でも、それで良い、生きて還れば良いのだから。
そうだ、誰かVOAに襲われて最後の時が来ても、目を閉じたら駄目だと教えたのだろうか。最後の時に目を閉じると、恐怖が植え付けられる。そうすると死に戻った後に、恐怖に耐えられなくて壊れてしまう。
「ゲート開放、ゲート開放、ゲート解放」
此の場所では、心が壊れた方が楽なのではないか、ふとそう思う時がある。何故此の場所に居るんだろう、そう思う時がある。
「降下ポイント障害物無し、障害物無し。降下準備、降下準備、降下準備」
誰だ、新人が一番初めに降りて撃ちまくる等と言う与太話を彼女達に吹き込んだのは。古参が新人を守るのがルールだろうが。おい、彼女達の武器に安全装置がかかっているのを確認したよな?解除されてたら大惨事だぞ?
「第1班、降下用意、用意、用意」
「紳士淑女の馬鹿野郎共。今日は新人さんが、第2班に居る!良い所を見せろ!第1班!降下!降下!降下!」
「1班の降下が終われば、次が私達です」
降下後も彼女達の武器の安全装置は解除させるな。今日は場所が場所だ。確実にパニックになる。狼狽して乱射されたら大騒ぎになる。
野盗の奴等の嗅覚は凄い。誰が新人かを直ぐに嗅ぎつける。新人は私達と違い、女子供に躊躇する。それを知ってるので、女子供を使って近づこうとする。
近寄られて、囲まれたら終わりだ。囲まれる前に左のレッグポーチのレーションを投げて、レーション!ウンシッ!と叫んで逃げる。脅されて使われていようと、飢えた者達が食料を目の前にすれば、そちらに群がる。この事は彼女達に何度も説明したが、覚えていてくれているだろうか。
闇の中から曳光弾が空に延びていく。ねぇ君達、何を撃っているんだい。VOAに飛行種は居ないし、私達の揚陸艇はVOAではないのだけどね。私達だって毎夜此処に好きで来ている訳じゃないんだ。でもね、私達はVOAを此処で押し留めないといけないんだ。だから諦めてくれ。
君達が私達を、恨みすら覚える程に嫌いなのは知っている。私達も、禄でもない場所で、禄でもない事をしている。君達に恨まれて当然なのは分かっているよ。
雲ひとつない晴天のあの日、見上げた空に母船が微かに見えた時、私の細やかな世界は消え去った。オンラインゲーム境界の彼方は、人類がVOAに滅ぼされない為の尖兵を選別し、訓練する場所。そんな信じたくもない現実を突きつけられた。
あの日が来るまで、現実世界では決して会う事もないと思っていた友人達と、ゲーム内のキャラを模した生義体のARISの姿で出会い、数えるのも嫌になるほど死に戻り、折れそうになる心を友人達を支え合って乗り切り、死に物狂いに家族を、知人を守り続けるなんて、ひと欠片も想像していなかった。
私の世界は、身の程に合った小さな世界だった。伸ばした手の距離、誰かを抱きしめられる小さな世界。半径60cmの細やかな平穏な世界だった。これ程広大で、こんなにも暴力が支配している世界じゃなかった。天国に行く資格を永劫に失い、無限の時の牢獄に囚われる等と思ってもいなかった。
私は、何時までこんな場違いな場所に居なければいけないのだろう。
「第2班!降下!降下!降下!」
助言に従って体裁を変えたら読みやすくなった… 助言すごい