人魔機聖杯祭 閉会式
「表彰式です。まず、第一高校校長、紫桜ヶ崎龍璽より、挨拶をいただきます」
「えー、今回の人魔機聖杯祭は例年以上に高い実力の持ち主が多数現れ、我々高校サイドとして、ある意味で非常に悩ましい大会となった。どの選手も輝く個性があり、一概に今回の順位で選抜するのは厳しい状況である。もちろん、わが娘の雛をはじめ、上位にはそれなりの顔触れがそろっており、今ここで言いたいのは、例年以上により多くの生徒にチャンスがあったということだ」
娘大好きかよ、知ってるけどさ。
「ここで、わが第一高校選抜メンバー、かつ、わが校の守護団〈桜華〉新学年編成を発表する!」
これだ、これが最初の合格発表だ。どうなるのだろうか。
「団長、紫桜ヶ崎雛! 副団長、エレノア=ウロボロス! メンバーに、神鳴一夜、フィーゼ・シュトレイン、最後に、エルザ=キルシュタイン! 以上五名を選抜する!!」
拍手が一斉に響く中。
「おい、アラン、どういうことだよ、なぜ俺が選ばれて、テメェが入らねぇんだ」
「…………仕方ねえよ」
「その割に、そう思ってる顔じゃねぇ! テメェが優勝してやりたかったことは本当にこれなのか!? 俺は、こんなん聞いてねぇぞ!!」
俺には、この大会で優勝する理由があった。
何かわかるか? それはな、エルザと同じで、第一高校に入るためだ。
俺の家がラグナバアル家の血を引いていることは、実は結構噂されていた。なぜなら、俺が単純に強かったからだ。ちなみに、俺は祖先のことなど大して気にしていない。起きてしまったことは仕方ないと考えているからな。
ただ、ある日、俺の両親は死んだ。いや、殺されたんだ。
犯人は分かっている。だが、検挙はできないだろう。なぜなら、犯人はかの高名な〈三僧〉で、彼らによる集団的犯罪であるからだ。そして、殺される理由が思い浮かばないわけではないこともそれを助長しているように感じる。まあ、殺される理由があるってのは大層おかしいことなんだろうが。
ところで、なぜ俺は第一高校に入りたいかわかるか? それは、第一高校が国内唯一の私立校だからだ。
私立校は、国とは無縁でありながら国に認められた、いわば矛盾が成立している典型例ともいえる存在である。俺はその一員として存在することで〈三僧〉直属になることを避けるだけでなく、誇り高き一員としてこの国に存在価値が発生する。〈世界の真理〉の行動理念にも則していることも理由に挙げられるだろう。
だが、当代一の実力者となったところで、所詮俺は犯罪者に過ぎないということか。
だが、一つ聞きたい。ただの子孫である俺が、この血を、遺伝子を受け継いでいるだけで犯罪ならば、なぜ先祖の代で絶やさなかったのだろうか。そしたら、こんなくだらない努力なんかしなくて済んだのにな。
……なんてな。俺が入れないわけあるか? 人魔機聖杯祭チャンピオンだぞ?
「エルザ、雛のお父さんの話は終わってねえんじゃねえのか?」
「は? 何が言いたいんだ?」
これはすべて決定事項。なぜならボクは〈世界の真理〉だから。
拍手が静まると、龍璽は話をつづけた。
「今回選抜された〈桜華〉新学年編成は、卓越した実力を評価し、ユナト・アラミスを総帥に据えた、特別編成〈紫櫻〉を創設し、総員配属とする!!」
な、俺が選ばれないわけないだろ。
「アラン総帥! かっけぇな!! よろしく頼むぞ!!」
驚くよりも先にそれか、すげえなエルザは。やっぱ、そういうところがお前のいいとこなんだろうな。
「ああ、よろしくな、これからも」
集まった人々が衝撃的な展開に動揺する中、群衆よりも上で観ていた三人が同時に舌打ちを鳴らした。
「さて、今回の総評だが、やはり第五団の圧倒的実力と、そこに立ち向かっていく一般生の熱い戦いが多く見られたように思う。特に、エルザ=キルシュタインの戦いぶりは、今は亡きカイゼム=キルシュタイン大将を彷彿とさせる、凄まじいものであった! 彼だけでなく、今大会に参加したすべての者は、今後の学生生活において、自己を知り、このような強大な敵に対して仲間全員で立ち向かう、一致団結できる強さを身に着け、各々が胸張って自分を誇れる人間に成長していってもらいたい!! 以上」
「ありがとうございます。それでは、各校の推薦者発表に参ります……」
これから、俺の本当の、長く厳しい戦いが始まる。そんなことはわかっているが、仲間とともに進めたからだからだろうか。なんとなく先行きに光を見出そうとしている自分がいる。正直、こんな感覚は初めてだ。初体験というものはやはり身構えてしまう。所見の恐ろしさに慣れすぎているからだろう。
ですが、今回はそれで正しかったのかもしれません。なぜなら、ボクに楽観などありえませんから。
さて、ネタバレと行こうか。
閉会式終了後、俺は〈紫櫻〉のメンバーを集めた。
一応総帥だからな。
「集まってくれてありがとう、俺はユナト・アラミス。今回総帥に任命されることは、実はお前らよりも早くから知っていた。そのことについて話をしようと思うが、まず先に自己紹介をしてもらいたい」
アラミスから時計回りということで、最初はエルザから。
「俺はエルザ=キルシュタイン! エルザって呼んでくれ! 一応精鋭騎兵団の隊長だった、あとは特にいうことはないな!」
「紫桜ヶ崎雛、学園長の娘です。雛は、まあみんな知ってると思うけど、〈三帝〉です」
やけに硬いな、緊張してんじゃん。
「……アラン」
やべえ、ニヤついてたら睨まれましたわ。
「えっと、神鳴一夜です。僕は周りからは一夜と呼ばれていますね。特段言うこともありませんので、とりあえずよろしくお願いします」
彼は、神飼い師が唯一所有していない、大国主命を所有している。
彼が選ばれたのは、実力だけでなく、まるで大国主命のような知性、創造力が買われてのことである。
また、彼は雛と同じこの土地の純系先住民で、この国において彼の家は紫桜ヶ崎家に並ぶ表三名家の一つ神鳴家の嫡男である
「フィーゼ・シュトレインです。転国制を利用してこの国に帰化しました、なのでほかの方たちとはスタイルが違うと思いますが、よろしくお願いします」
彼女は、第二帝国からの転国者である。
転国制について説明するには、現この国、この世界のことを理解してもらう必要がある。
今、この世界には六つの国が存在している。なぜ六つなのか。それは、大帝国[インペル・パトリクス]が成立する前にさかのぼる。およそ三千年前、世界は大小さまざまな国で成立しており、特に先進国である七つの国が世界経済を主導していた。そのうちの一つが異常な成長と同時に世界を統一、[インペル・パトリクス]を誕生させたのだ。その時の残りの六つの国は大臣として最上級幹部の扱いで取り込まれた。その幹部が、クーデターを起こし今に至るというわけだ。ちなみに、わが第三帝国は、大帝国以前は、日本という伊弉諾尊を中心とした神話が中心におかれていた国だったそうだ。
六つに分かれた国は、全ての国同士で国交が断絶されている一方、転国制による移住が認められている。転国制とは、かの大賢師が進言して成立した国際法の一つで、一度だけほかの国へ転住することができる権利である。これによって、人々はやり直す権利を手に入れたことになる。
彼女は、何らかの理由もしくは動機があってこの国に来たのだ。しかしそれを詮索することができないところが、この制度のミソである。
そんなことより特筆すべきなのは、彼女の戦闘スタイルは召喚士のようで、剣士のような、独特なものだということだ。召喚士といえばエルザの炎帝龍も同じだが、彼女の場合は多様な生物を連続召喚し、それぞれの特性で多様に攻めるというもので、そんな多彩な戦いぶりから、パラレルクリエイターの異名を持つ。
「え、えっと、エレノア=ウロボロスです。 ……よろしくなのです」
一夜とフィーゼは驚いているようだが、その後のくだりはいいだろう、俺らとそう変わらんからな。
これで終わったな。さて、本題だ。
「では、先ほど言った事前に分かっていたことについて、お前らが思っているよりもかなり深いことになっているので、説明する」
「アラン、楽にしゃべっていいぞ」
「すまん、そうするわ。俺が総帥になるのは、実は大会前に雛のお父さんと話して決めていたんだ。俺が一位になったら、俺が率いる特別チームを作ってほしいってな。もちろん、すぐに了承は得られた。雛のお父さんとは旧知であったし、特別チームがあった方が今後楽になると考えたんだろうな」
「すみません、アラミス君がそうすることで得られる利益があまり分からないのですが」
「一夜、俺の家系は知っているだろう。そして、俺の両親は、おそらく〈三僧〉によって殺されている」
「なるほど、だから国とは独立したうえで存在してありたかったと」
「すべてを語らずして納得してもらえたなら助かる」
「アラミスさんが〈世界の真理〉であることも関係ありますよね」
「わからない。俺は未来は見ないことにしているし、そもそもそんなに見えないからな。ただ、フィーゼの言うとおり、今後関係してくることは十二分に考えられる。だからそれはすでに考慮されていると考えてほしい」
「わかりました」
「とりあえずこの隊がなぜ作られたかは理解できたんじゃないか。次に、今後の展望だが、第一高校入学後は、第五団のように特別扱いとしてすべての時間が自由となる。俺が受理した任務をこなす以外は、各自勝手気ままにしてくれて構わない」
「分かった、そんなに先輩方の選抜チームと変わんねぇんだな! 思ったより楽そうだぜ」
「そりゃよかった。何か質問はあるか?」
「雛はないよ」
「「同じくです」」
「よし、とりあえず第一回ミーティングは終了だ。ここから入学式までは一切活動はないから、春休みを満喫してくれな。じゃ、解散だ」
解散後、雛が話しかけてきた。
「アランの真意は、もっと飛躍してるんだよね」
「相変わらずだな、雛は」
「長い付き合いだからね! アランが何考えてるかまではわからないけど、まずはチームとして信頼関係を築いていかないとね!」
「団長、ぜひ頑張ってくれ」
「アーラーンッッ!! 最初からそんなんじゃだめでしょうが!」
「まあ、そういうな。こればっかりは治んねーからな」
「ホント、仕方ないんだからっ」
「おう、ありがとうな」
「うん! どういたしましてっ!!」
「じー」
「っ! どうしたエレノア!?」
「何いちゃついてるですか」
あー、この展開はまずいぞー。
「ふっふん、雛に嫉妬した!? ごめんなさいねー!!」
「ややこしくするな!!」
「ふふっ」
「な、なんだよフィーゼ」
「いや、典型的な三角関係だなと思いまして。ところでどっち派ですか??」
「それを聞くな!! 最悪の事態に直結するじゃねーか!!」
「ふふふっ」
「さてはフィーゼ、お前こういうのが餌なタイプだな!?」
「はい、大好物ですよっ」
なんか、大変なメンバーのようだな……。
「一夜、特訓しようぜ!!」
「エルザ君、ずいぶんと急だね……」
「いいじゃねーか!! ほら、行こうぜ!!」
「わ、分かりましたから引っ張らないで」
一夜の奴、エルザに捕まっちまったな。ははっ、傍から見たら面白れぇや。
「アラン、お前も行くぞ!!」
前言撤回。最悪じゃねえか。
実は、このメンバーは初見ではない。だからこそ、チームとしての完成は難しくないだろうし、今後俺とともに進んでいく最高最強のメンバーとなるんだろうな。
だって、チーム初日から仲いいじゃねえか、俺はそれで十分だ。