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主人公になれなかった人生日記(ライフログ)  作者: 日向誠
中等部/人魔機聖杯祭
6/7

人魔機聖杯祭 決勝編

 結局、二人は帰ることなく朝を迎えましたとさ。

 正直、対戦相手がぴんぴんしている中、割と体調ヤバ目な俺は、そもそも試合に出られるのか心配です。

 あ、体調悪いと言ってもストレス過多なだけだが。


「エレノア、今から行ってくるから昨日言ったことは守るんだぞ。エルザ、エレノアを頼む」

「任せろ、頑張って来いよ」

「行くわよアラン! さっさとアランをぶっ飛ばさないと気が済まないんだから!」

 いくら対戦相手とはいえ朝から物騒(ぶっそう)です。

……今昼前でした。寝すぎとか思わないでください、一睡もしてないので。

「アランさん、そこの紫桜ヶ崎雛をちゃっちゃと倒してきてくださいです。応援してるです!」

「おう、任せろ!」

 爽やかだったな、今の俺。

「何かっこつけてんの、今シめるよ?」

「ごめんなさい」

「んじゃ、エルザ、行ってくるね。ばいばい、猫かぶりさん」

「早く行けなのです!」

「では、決勝の舞台に行きますか」

「やっぱり、アランは約束を守ってくれたね」

 何のことだ?


「只今より、人魔機(ヒューマタクト)聖杯祭決勝戦 ユナト・アラミス 第五団 序列十六位 対する 紫桜ヶ崎雛 第五団 序列一位の試合を開始します」


「ボコボコにするって言ったから、全力で行くよ!! 《皇帝:アレクドロス》!!」

「《氷神:闘鶏稲置(つげいなぎ)》!!」

 両者自身の武器を取り出して対峙した。

 先手を取ったのは、アラミスだった。

「《氷犀(ひょうせい)》!!」

 アラミスは大地を深く蹴って雛めがけ一直線に飛び出すと、鋭い突きの連撃を繰り出した。

「《(モル)氷弾(ユミル)》」

 雛は後方へステップしながら、アラミスの突きに合わせて弾を撃ち込み、アラミスの勢いを相殺していった。

「《氷旋(ひょうせん)》!!」

 勢いを削られたアラミスは、体を回転させて勢いをつけ、一気に雛に迫った。

「《符加(エンチャント)爆散(プロメウス)》《炎弾(フレイ)》《炎弾(フレイ)》」

 雛は落ち着き払った様子で、弾丸に爆発属性を符加(エンチャント)すると、アラミスの足元に二発撃ち込んだ。

 足元を爆撃されて完全に軸を崩されたアラミスは、上体を滑らせながら崩れ落ちた。

「《(モル)雷弾(トール)》」

 雛は崩れるアラミスに容赦なく撃ち込んだ。

「《氷蓮華(ひょうれんげ)》」

 アラミスはとっさに地面に氷蓮華(ひょうれんげ)を放ち、さながらバリアのようなものを作って雛の連撃を凌いだ。

「《突》」

 雛が最強たる所以の一つに、紫桜流体術、が存在する。

 空間をいかに圧縮するか、というやや突飛な発想から生まれたこの流派は、超至近距離での攻撃を得意とするため、一対一かつ接近戦において無類の強さを放っていた。

「《氷鎧(ひょうがい)》」

 雛が地面を蹴ると同時に、アラミスは全身を氷で覆い、防御に徹した。

「ちっ」

「舌打ちすな」

「《符加(エンチャント)貫通(アトレッソ)》《炎弾(フレイ)》」

 雛はガードの硬いアラミスの直前で急停止すると貫通弾を放った。

「《氷閃(ひょうせん)》《氷彩(ひょうさい)》」

 アラミスは雛の放った弾丸を真っ二つに切り落とし、踏み込んだ勢いでさらに雛に切りかかった。

「はっ!! 《零距離砲(ゼロ・バースト)》!!」

 雛はアラミスの剣撃を銃身で受けると、そのまま砲撃した。

「《雪華刀狼(せっかとうろう)》!!」

 アラミスはすかさず離れると同時に、零距離砲(ゼロ・バースト)を切り流した。圧倒的動体視力と、本能に近い判断能力がなせる業である。

 二人は試合開始時と同じ距離に戻った。

「《(モル)氷弾(ユミル)》」

 雛はアラミスめがけてマシンガンのように撃ち込んだ。

「《氷旋(ひょうせん)》」

 アラミスは弾丸を避けるように体をねじり、ねじれを戻すときの回転を速さにのせて、荒れ狂う鉄雨の中雛との距離を一気に詰めた。

「甘いね! 《破》《零距離砲(ゼロ・バースト)》!!」

「がぁはっっっ!!!」

 アラミスが飛び出してきたのを見て、雛もアラミスに向けて一直線に飛び出し、アラミスが剣を振る前にアラミスの懐で紫桜流体術と零距離砲(ゼロ・バースト)を放った。

 完全にアラミスがつり出された形となってしまった。

「《符加(エンチャント)爆散(プロメウス)》《(モル)雷弾(トール)》」

 さらに吹き飛ぶアラミスに向けて雷弾(トール)の嵐を浴びせた。

「《雷掌(らいしょう)》!!」

 アラミスは刀を消失させると、右腕で受け身の体勢をとりながら、左手で雛のマシンガン攻撃を受けきった。

「ちょっ、タイム」

「はぁ!? 意味わかんないんですけど!!??」

「ほら、結局止まってんじゃん」

 アラミスはそういうなり地面を蹴り空中へ飛び出した。

「ずるいっ! ってか、空中は雛のお気に入りなの、知ってるよね?」

「《空:氷閃(ひょうせん)》!!」

「《二爆三貫(デュプロトリアトレ)雷弾(トール)》」

 空中から滑空してくるアラミスに対し、雛は名の通り最初の二発に爆散(プロメウス)、残りの三発に貫通(アトレッソ)符加(エンチャント)、計五発を撃ち込んだ。

「《空:氷蓮華(ひょうれんげ)》《空:氷旋(ひょうせん)》」

 アラミスは弾丸の寸前で氷蓮華(ひょうれんげ)を放ちながら旋回し、全てのエネルギーを受け流しながらさらに加速して雛に突っ込んだ。

「《突》」

 雛は上空のアラミスに対して垂直後方に飛び出して緊急回避をとった。

勢いあまってアラミスは地面に深く突き刺さってしまった。

「《連装:雷炎弾(アレス)自動追従連射(モルオートチェイス)》!!」

 雛は体勢を立て直すと、追従型の雷炎弾(アレス)を何発もアラミスに放った。

「《氷精乱舞(アイスワルツ)》!!」

 アラミスは地面から脱出すると、眼前に迫る弾丸を処理するため、後方にステップしながら氷を幾つも放ち、何とか掻き消していった。

「「なんつう試合だ」」

「「第五団最下位のくせして、なんつう実力持ってんだ」」

「「ランキング戦に一回しか出ていないからな、しかもそこでは優勝だぞ」」

「「そりゃ強ぇわ」」

 アラミスと雛の攻防は、やや雛が勝るといえども、周囲から見ればほぼ互角の、熾烈(しれつ)な一進一退を繰り返していた。

「さて、今度はこっちのターンだ! 氷塊の自由自在(フリー・ズ)!!」

「「詠唱を省略だと!!??」」

 詠唱が必要となる理由に、多大なエネルギーの使用が不可欠であるがその制御が困難、というのがある。

「詠省とはやるわね」

 わかりにくいわ、あとうまいこと言った的などや顔はやめろ。

「《氷閃(ひょうせん)》!!」

 周囲に氷塊を纏ったまま、アラミスは一直線に雛に突っ込んだ。

「《符加(エンチャント)爆散(プロメウス)》《(モル)雷炎弾(アレス)》」

 すかさず雛は二属性の弾丸をアラミスに集中砲火した。

「なっ!?《武装:破》!!」

 微塵も避ける動作を見せないアラミスを見て、氷塊の自由自在(フリー・ズ)を発動した真意を理解した雛は、右手をエネルギーで武装すると、突っ込んでくるアラミスの先端、闘鶏稲置(つげいなぎ)の切っ先に合わせて撃ち込んだ。

 そう、氷塊の自由自在(フリー・ズ)とは、たんに氷塊を操るのではなく、氷塊に意思を持たせることで、意のままに操るということ。これにより、雛の放つ弾丸は全て相殺されていたのだ。

 アラミスの闘鶏稲置(つげいなぎ)と紫桜流体術がぶつかり合うと、お互いは一瞬にして壁までふっ飛ばされた。

「《氷閃(ひょうせん)》!!!!」

 アラミスは壁を蹴ると、再び雛に突っ込んだ。

「《奥義:穿(せん)》!!」

 雛はゆったりと立ち上がると、さっきと同じように、アラミスの切っ先に合わせて、より強靭(きょうじん)な一撃を放った。

「ここだ! 《雪華刀狼(せっかとうろう)》!!」

「ぐぁぁッッ!!??」

 アラミスの完璧なカウンターだった。相手の放ったエネルギーまでも利用する雪華刀狼(せっかとうろう)は、奥義を繰り出した雛に凄まじいダメージを与えた。

 それでも、きつそうなのはアラミスの方であった。

「やべぇ……、限界まであと一分か、短けぇな……。これで最後だ!! 《我の心理よ/審理を乗り越え/この世界の真理となりて/偽神暗鬼を討ち倒せ》!!!!」

「なら、雛も最大火力で迎え撃つ!!《皇帝(アレクドロス)をもって発動する/怒れし神の咆哮(ほうこう)よ/天変地異となりて/()の地を駆け巡れ》!!」

 アラミスの奥義と雛の奥義が、闘鶏稲置(つげいなぎ)とアレクドロスが、フィールドには収まりきらないほどのエネルギーでぶつかり合った。

 それは、全ての視界を(さえぎ)(まばゆ)い閃光を伴って。

「「どっちが立っているんだ!!??」」

 色を取り戻した視界に飛び込んできたのは、悠然と立つ雛の姿だった。

 それと、決死の形相で、刀一本で立つアラミスの姿だった。

「立ってるのもやっとのようね」

「まだ、終わってねぇけどな」

「これを避けるか捌くエネルギーが残ってるかな!?《奥義:穿》!!」

「《雪華刀狼(せっかとうろう)》!!!!」

「なっ」

 同じことの繰り返し。だが、極限までアラミスを追い詰めた雛に、カウンターを恐れて持久戦に持ち込むという、言ってみれば逃げの発想など、微塵(みじん)もなかった。

 会場に響き渡るすさまじい衝撃と、耳をつんざくような激しい音が、雛の敗北を指し示していた。

――ピピィィィッッ――

「第500回人魔機(ヒューマタクト)聖杯祭、優勝者はユナト・アラミス選手です!!!!!!!」

「「うぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」」

「この後表彰式がありますので、入賞者は全員、本部に集合してください。繰り返します……」

 やっと、終わった。

長かったな、ここまで。


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