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主人公になれなかった人生日記(ライフログ)  作者: 日向誠
中等部/人魔機聖杯祭
4/7

人魔機(ヒューマタクト)聖杯祭 挑戦編

――人魔機(ヒューマタクト)聖杯祭 準々決勝――

 

俺は、もちろん知っていたさ。

あいつだってもちろん知っていたように思う。

お互い自分の進む先を見据えていて、お互いその信念の強さを知っているから。


「只今より、人魔機(ヒューマタクト)聖杯祭準決勝第一試合 ユナト・アラミス 第五団 序列十六位 対するエルザ=キルシュタイン 第四団 序列十七位の試合を開始します」

 

俺は、全力で、倒す。


「さあ、始めようか」

「てめーとこんなに早く当たるとはな。もう決勝かと錯覚しちまう」

 先に動いたのは、驚くことにアラミスだった。

「顕現せよ《氷神:闘鶏稲置(つげいなぎ)》 行くぞエルザ! 《氷彩(ひょうさい)》!!」

 舞い踊るようなアラミスのステップ。美しいが、その太刀筋には素人目にも明らかなほど殺気が漂っていた。

「出でよ《炎帝龍(えんていりゅう):イフリート・マグナ》!! 《龍装束(しょうぞく)硬化(こうか)龍鱗(りゅうりん)》!!」

 正直、アラミスが放つ殺気なんか比べ物にならないほど、ソレは威圧的で、何より大きかった。

 炎帝龍。この世の生物の頂点を象徴する召喚獣(キメラニア)

その圧倒的なパワーとオーラは、伝説の名を冠するほどである。

エルザは炎帝龍を召喚すると、自身の皮膚も炎帝龍と同化し、完全武装した。

「やるじゃんか、ここまでできるようになっていたとはな」

 アラミスはステップを止め、後方へ大きく跳んで間を開け、日本刀を消失させた。

「俺だって日々訓練してんだからよ。それに普通科最強だぞ?」

「失礼した。ここからは全力で行かせてもらうぞ! 《氷撃(フロスト)》《氷哭(ひょうこく)》」

 巨大な氷の塊を炎帝龍に打ち込むと同時に、巨大な氷のハンマーを生成し、エルザめがけ振り下ろした。

「相変わらずやべえな……。こっちは全力しかない! 《我が名エルザ=キルシュタインをもって、(なんじ)イフリート・マグナの(かせ)を開放する》! 好きにしろ、炎帝龍!! 《龍双(ツヴィーゼル)(えん)(けん)》!!」

 エルザはすぐさま炎帝龍の枷を解き放った。炎帝龍が暴走したり反逆する可能性もあるわけで、ものすごい信頼関係が見て取れる。

 エルザは炎帝龍を開放すると、眼前に迫るハンマーに自身の炎で(たぎ)る正拳を撃ち込んだ。

 エルザに応えるように、炎帝龍も(ほのお)宿りし(りゅう)(そう)で氷塊を打ち砕いた。

「《氷撃(フロスト)》《氷撃(フロスト)二連(デュレイ)》《氷撃(フロスト)三連(トレア)》《氷哭(ひょうこく)》」

 アラミスは、さらに炎帝龍に向けて巨氷塊を六発放ち、エルザにはまたも巨大な氷のハンマーを振り下ろした。

「一回一回のスケールが半端ねえんだよ」

 エルザの言う通り、闘技場はもはや氷の惑星といえるほど、飛び散って粉々になった小氷塊と炎で溶け出た水で埋め尽くされていた。

「ただ、全て砕いてやる! 《龍双(ツヴィーゼル)炎斗連(えんとれん)(けん)》!!」

 エルザは目の前のハンマーを砕くと、炎帝龍に襲い掛かる巨氷塊の半数までも撃ち砕いた。

「これならばどうだ!《氷撃(フロスト)無双(インフ)》!!」

 アラミスは、フィールド全ての氷塊をエルザにマシンガンの如く撃ち込んだ。

 だが、炎帝龍の激烈なブレスを前に、一瞬で溶けてしまった。

「《氷撃(フロスト)無双(インフ)》」

 それでもアラミスは間髪入れずエルザたちに氷塊を撃ち込んだ。

 エルザたちは強烈なアラミスの攻撃をひたすら捌くしかなかった。

「つまんねぇな、そんなもんかエルザは」

 アラミスの呟いた一言に、エルザの眼の色が変わった。

「悪い、緊張してたみたいだ。こっからは俺のターンだ、気ぃ張れよ!」

「それでこそお前だ!!《氷蓮華(ひょうれんげ)》!」

 アラミスはフィールドに向けて放った。

 たちまち、フィールドは氷で覆われてしまった。

「ふっ、手加減のつもりか!?」

 エルザはそう叫ぶと、炎帝龍を引き連れアランに向かって駆けだした。

「《氷撃(フロスト)無双(インフ)》!!」

 アラミスはフィールドに生成した氷塊をエルザめがけて撃ちまくった。

 

 だが。

 全身に氷塊を受けながらも。

 全身から血が噴き出していても。

魂燃やして走るエルザには何の障害にもならなかった。

「歯ァ食いしばれ! 《伴炎帝龍:龍双(ツヴィーゼル)炎魂闘拳(えんこんとうけん)》!!」

 アラミスは、捨て身のエルザ&炎帝龍が放ったコンビネーションパンチを喰らい、燃え盛る焔とともにふっ飛ばされ、すさまじい音を立てながら壁に激突した。

「……いってぇな、やるじゃねぇか」

「やられてばかりも(しゃく)だからな! もういっちょ行くぞ!!」

 アラミスが吹き飛ばされた、第五団が派手にやられてる姿に、会場は盛り上がりを見せ始めていた。

 エルザは炎帝龍に(またが)ると、アラミスの頭上へと昇り、上から炎帝龍のブレスとともにアラミスめがけ一直線に滑空(かっくう)してきた。

「《龍双(ツヴィーゼル)煉闘拳獄(れんとうけんごく)》!!」

「《破:氷神:闘鶏稲置(つげいなぎ)》《氷犀(ひょうせい)》」

 炎帝龍のブレスを、日本刀を〈具現(インパラート)〉させた衝撃で打ち消すと、美しく鋭い突きの連撃で、上から降るエルザの猛攻を躱した。

それどころか、エルザを炎帝龍の背から地面にたたき落とした。

「《空:氷彩(ひょうさい)》!!」

 エルザと入れ替わりに空中へと飛び出したアラミスは、炎帝龍に対し、空中を蹴る驚異的なステップから圧倒的な剣撃を放った。スピードで劣る炎帝龍はすぐさま剣に捕まり、一瞬にして地に墜とされてしまった。

「炎帝龍!!」

 エネルギーの突発的消滅によって構造バランスの崩れた炎帝龍は、エルザの横で消滅してしまった。

「てめぇ、やってくれんじゃねぇか!! 《龍双(ツヴィーゼル)煉闘拳獄(れんとうけんごく)》!!」

「《氷彩(ひょうさい)》」

 先程とは真逆の、上空のアラミスに対し下から迎え撃つエルザという構図になった。

 しかし、先程とは違い、空まで制するアラミスが押し切ったのだった。

「はぁ…、はぁっ……。相変わらずやばい奴だな、お前はよ」

「そりゃどうも」

「だが、勝つのは俺だ!」

 叫ぶや否や、エルザはアラミスの懐へ一直線に飛び込んでいった。

「《龍双(ツヴィーゼル)煉闘拳獄(れんとうけんごく)》!!」

「《氷彩(ひょうさい)》」

 待ち構えていたとばかりに、アラミスは会心のカウンターで返した。

「ぐふぁッッ……!!」

 一時盛り上がっていた会場は完全に死んでいた。

 炎帝龍もいない。

 アラミスの一撃に立ち向かってはふっ飛ばされ、ボロボロになっていくエルザに、それでもアラミスは容赦なく全力を撃ち込んでいた。

 また、エルザがふっ飛ばされた。

 

 まただ。


「「もう、いいじゃねーかよ」」

 観客のだれかが呟いた。隣の奴に聞こえるぐらいの声で。

 もちろんアラミスには聞こえてなどいなかった。

 ただ、エルザには届いてしまっていた。

 会場が半ば諦めムードだったからかもしれない。


「なあ、お前ら。なんで第一高校目指したんだと思う?」

 会場は、唐突に語りだしたエルザに対し、注目を向けた。

「俺さ、本当は高校通えねぇんだよ」

 中等部三年になると全員、成人の儀を受ける。

 初等部、中等部は義務教育の為全員が受けているが、成人の儀を終えた人々は大人として扱われ、高等部、専門部への進学は任意となっている。高等部への進学は、高い入学金を支払う一般受験コースと、今大会を利用した能力推薦入学の二種類がある。

「うちの家は、親父が死んでから、頼る相手もいない中母さんが一人で頑張ってきたんだ。だけど、こんな話はザラだろ? だいたい軍人だった父親の家はみんなこんなもんだよな。同じような奴ならさ、分かると思うんだけど、欲がなくなっちまったんだよ。欲にかまける時間がなかっただけなのかもしれねぇ。ただ、そっからは誰に見向きもされないつまんねぇ人生送ってたと思う。だがよ、ある時、目の前に立つコイツに出会ったときにさ、もっと自分の力を知りてぇって思っちまったんだよ。仕方ねぇじゃん、こんなすげー、自分に持っていないもんばっか持っててさ。そしたらさ、無性に勝ちたくなったんだ。だから、強くなりてぇ。そのために高校に行きたいって思うようになったんだ」

 会場は静まり返っていた。

 アラミスは、ただただ黙っていた。

「母さんにばれないように、短期労働増やしたんだよ。でもな、ばれてたみたいでさ、この前のランキング戦の前に、『ごめんね、母さん頑張ったけどこれしか貯められなかったよ』って通帳くれたんだよ。もちろん、母さんが毎日いるかわからないぐらい外で働いてんのは知ってた。でも家の為だとずっと思ってたからさ、涙が自然と出ちまってさ。全然顔合わせないのに、全部わかってくれてんだって思うとさ、しゃーないだろ? ……けど俺が貯めた分合わせても足りなかった。んで、母さんに相談したんだ、はじめてな。そしたら、親父の形見の時計でも売れば金になるとかいうんだよ。俺のわがままなんかにだぜ」


 エルザは、誰よりも己を理解していた。だから、己が人生を賭して第一高校を目指したその過去が、無意味に散ったことを誰よりも痛切に理解していた。しかし、だからこそ、エルザは諦めなかった。立ち上がることしかできないなら、そこに全力を注ぎこむ。死ぬ気で立ち上がる。それが、エルザ=キルシュタインという男の全てであった。

「俺はお前らに感謝してんだ。だってこんなボロボロの試合見てるぐらいなら、ほかの試合見たっていいじゃねーか。隣なんかランキング一位の雛の試合だぜ。けどさ、みんな残って見てくれてるじゃん。俺はな、たとえ諦められてても、勝てないのがわかっててもさ、お前らがいてくれるだけで頑張れるんだよ!だってさ、こんなにたくさんの人に一度でも応援されたのは初めてなんだよッ……!! それに、ここで俺から倒れてしまったら、一生、母さんに、俺を支えてきてくれた人たちに、今見てるお前らに、そして何よりアランに向き合えなくなっちまう。だからお前ら、もう少し付き合ってくれねぇか。最後まで、俺は、諦めねぇから!!」

 ガラッと変わった会場の雰囲気は、それはそれは熱気に溢れた、とてつもなく大きな一つのエネルギーと化していた。

「「俺は諦めてねーぞ、絶対に負けんな!!」」

「「ここからだ! 頑張れよ! 負けんじゃねーぞ!!」」

 ベタだけれども、とてつもない魂の入った声援は、様々な言葉で、それぞれの声で、エルザの中に流れ込んでいた。

 アラミスは、分かっていた。観客は今全員敵(アウェー)なのだと。今までのような余裕をもってエルザは倒すことができないことを。いや、もしかしたら負けるかもしれないことを。

 だから、声の限り叫んだ。

「挑戦者ユナト・アラミスは、我が全力をもってしてエルザ=キルシュタインをねじ伏せる!!」

「それは、ボクの願いに反するからね」

 一瞬、アランの中に聞きなれた声が聞こえた、気がした。

「《氷s》…! やってくれんじゃねえか。《雷掌(らいしょう)》」

「変えてきたか!《龍双(ツヴィーゼル)煉闘拳獄(れんとうけんごく)》!」

 唐突にアラミスは剣を消失させると、両腕に雷を纏ってエルザに向かって近接(きんせつ)拳闘戦(けんとうせん)を仕掛けた。

 エルザは一瞬面くらったものの、すぐさま拳を返して応戦した。

「《雷掌(らいしょう)》!」

「《龍双(ツヴィーゼル)煉闘拳獄(れんとうけんごく)》!」

「《(らい)(せい)》!」

「《龍双(ツヴィーゼル)煉闘拳獄(れんとうけんごく)》!」

 アラミスは手技足技を多彩に操り仕掛ける一方、エルザは焔纏わせた隻腕(せきわん)(しの)ぎ続けた。

「終わりだ! 《雷絶(らいぜつ)》!!」

 アラミスが放った、雷を纏った右足が、凄まじい衝撃波とともにエルザの鳩尾(みぞおち)に叩き込まれた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 エルザのあげた断末魔の叫び声は、エルザが歩んできた努力の軌跡に幕を下ろした。

 はずだった。

「はぁぁぁぁッッ!! 《龍双(ツヴィーゼル)煉闘拳獄(れんとうけんごく)》!!」

 決死の形相で立ち上がったエルザは、すでに折れているであろう右腕をふるい続けた。

 

 まだ立つか。

 右腕だってあと一発で吹っ飛んで使い物にならなくなるぞ、ここでくたばるつもりかこいつは。

「《雷掌(らいしょう)》!」

 アラミスは、あえてエルザの右腕めがけて掌底(しょうてい)を放った。

「《龍双(ツヴィーゼル)(えん)(けん)無双(むそう)》!!!」

 エルザは一歩引いてアラミスの掌底を躱すと、ガトリングのように両腕をふるった。

「《連雷華(りらいか)》」

 躱されたことに一瞬戸惑ったが、アラミスも負けじと両腕をふるった。

「はぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!」

「死ね、エルザ!!」

「くたばれ、アランッッ!!」




――ピピィィィッッ――

「ルイス=ヘイザーを戦闘不能とみなす。よって、ユナト・アラミスの勝利とする!!」


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