人魔機(ヒューマタクト)聖杯祭 対守り人(スート)編
――人魔機聖杯祭四回戦――
「これより、四回戦Dブロック第二試合 ユナト・アラミス 第五団 序列十六位 対するは セレベレスタ=オーディール 第四団 序列二十位 それでは試合を開始します」
「「いえぇぇぇーーーい!!」」
「「見せてくれぇ、《氷帝》の実力を!!」」
相変わらず会場は熱気と殺気と猛烈な第五団コールに包まれていた。
「やかましいな、これだから人前に出るのは嫌なんだ」
「こりゃあ、アウェーとか言ってられるほどの余裕もねぇぐらいアラミス寄りだなっ!」
「望んではいないんだがな。ていうか、俺は氷を操るのがあまり得意ではないんだけど」
「《氷帝》の名が泣くぞ!? お前の恐ろしさはその佇まいと発言から十分分かったが、俺は負けねぇぞ!!」
――この熱血×爽やか野郎は、セレベレスタ家次期頭首である。
セレベレスタ家は代々〈大地の守り人〉として、この第三帝国の大地と対話し、帝国民が住みやすく生きやすくなるよう大地のエネルギー調整をしてきた、由緒正しき一族である。
得意な術は、もちろん土を使った物理的遠隔攻撃であり、中でもオーディールの正確無比な射撃は、当代随一とも軍に勝るものなしとまでも評価されている。
「いでよ《氷神:闘鶏稲置》」
「《母なる大地(マザー:ガイア)》」
アラミスが日本刀を〈具現〉させる間に、オーディールは殺風景な鉄一色だったフィールド一帯を肥沃な土に満ちた豊かな大地へと変化させた。
「《氷蓮華》」
「さあ、狩りの時間だ! 《土龍:散弾銃(ドラク:ショット)》《土魂》!!」
空間全てを凍てつかせるような冷気を纏いながら、幾つも放たれた鋭利な氷塊がすべて、オーディールの放った散弾によってかき消された。
「さすが〈精鋭騎兵団〉だな。ただ、近接には弱いだろうに。《氷閃》」
アラミスは《氷蓮華》の直後に、《氷神:闘鶏稲置》をオーディールの首めがけ一閃、刹那の突きを放った。
「早い、さすがだ!! 《土壁》!」
アラミスの刺突すら遅いとばかりの余裕で、目の前に土の防御壁を展開し、眼前でアラミスの動きを止めた。
「ほう、面白いな。《氷精乱舞》」
アラミスは、《氷神:闘鶏稲置》を霧散させると、オーディールの至近距離で無数の氷を放った。
踊るように放たれた氷は、目の前の壁を乗り越えて、回り込んでオーディールに襲い掛かった。
「《連装土魂》ッッ!!」
それに釣られるかのように、オーディールは散弾を打ち鳴らした。
「《氷神:闘鶏稲置》《氷閃》!!」
全方位に向かって回転しながら散弾を放つオーディールの死角めがけ、日本刀による、一瞬を突く鋭い刺突を繰り出した。
「アラミス、君のその単刀直入な精神は好きだぞッ! 《土壁》ッッ!!」
先程と同じように、単純に高速で土の防護壁を展開した。
「いや、単刀直入とか上手くないから。単純だけど。」
ちなみにお前がな。
「なっ!?」
オーディールは、その身に走る激烈な痛覚に衝撃を受けた。
「「単純な日本刀の二連斬が、なぜあんなにクリティカルヒットするんだ!!??」」
確かに、今の一連の流れは単純だった。アラミスは《土壁》をあらかじめ予期して、展開と同時に横にスライドしもう一撃放っただけだ。
普通ならばオーディールもこんなミスはしない。だが、ミスを誘発されたのだ。
試合開始から、アラミスは細かい遠距離技こそ使いながらも、刺突による一撃離脱を主軸に置いた攻撃を繰り返した。
そうすることでオーディールにアラミスは一発技しかないと思わせ、優位に立っていると錯覚させ、判断ミスと油断を誘ったのだ。
だから単純な二連撃が鮮やかに刺さったのだ。
ただ、この試合はアラミスの計算された単純な攻撃一回で完全に決してしまった。
自身の安直な判断と慢心によって身を削られてしまったオーディールは、自我を失うなり急速に焦燥感を募らせはじめていた。
「《土龍:大地激震(ドラク:ウェイク)》」
焦るオーディールは、フィールドすべてに衝撃を与え、波状攻撃のように大地を突き動かしてアラミスに襲い掛かった。エネルギー消費の半端ない大技だ。
だが。
「《氷結界》」
アラミスは落ち着き払った様子で自身の周囲に氷の簡易結界を張りめぐらせた。
焦燥感で体内のエネルギーコントロールが失われつつある中で放ったため、不安定なオーディールの大技はいとも容易く無力化された。
この状況にさらに焦りを募らせて、オーディールは、力で押し切ろうとするかのようにひたすら大技を繰り出していった。
「《土龍:精剣練磨(ドラク:スウォード)》ッッ!!!!」
フィールドから美しく研ぎ澄まされた土製の短剣をいくつも生成すると
「俺は、必ずこの手に勝利を掴むッッ!! 《土龍:土天海冥(ドラク:フォーレノイズ)》ッッッッ!!!!」
それを天に打ち上げ、上空から一斉にアラミスめがけ撃ち落とした。
見た目からわかるが、自身の人魔エネルギーをとてつもなく消費する、いわば一撃必殺の奥義であった。
「《雪華刀狼》」
そんなオーディールを嘲笑うかのように、氷を纏った滑らかでしなやかな美しい一振りで、空から降り注ぐオーディールの渾身の連撃を打ち砕いてしまった。
「馬鹿なッッ!! 俺の連撃をこうもあっさりと止められるはずがない!!」
「一つ訂正、止めたのではなく打ち砕いた。完全にお前の連撃を無力化し土に帰したわけだ」
土だけにな。
「ふざけるな!! こんなものではまだまだ終わらんぞ!!」
「それ以上やるとエネルギー欠乏症で死ぬぞ」
まあ、エネルギーが少ないからこそ安心して撃ち合えるのだけれども。
「守り人を舐めるなよッッ!! 《土龍:土……
「《雪華刀狼》」
最後は美しく儚く呆気なく。
オーディールに術式を構築させる間も与えず、渾身の一振りによって終結させた。
――ピピィィィッッ――
「全エネルギーの消失により、セレベレスタ=オーディールは戦闘不能と判断し、よって勝者、ユナト・アラミス!!」
「「……なんだよ、これ」」
会場を支配したのは、熱狂的な興奮でも、圧倒的な尊敬でもなかった。
ただ、卓越した技量と判断能力、何より超人的なエネルギーをこれでもかとばかりに見せつけたアラミスに対する、畏怖の念だった。
――ピピィィィッッ――
「……を戦闘不能と見なし、ここにエルザ=キルシュタインの勝利を宣言する!!」
「「うううぉぉぉぉぉぉッッ!!」」
「「さすが隊長!! よくぞ跳ね返した!!」」
「「その調子で行け!! エルザ!!」」
第五団の圧倒的な殲滅を前に、超下克上に一縷の希望も持てなくなった観客は、不利な状況の中逆転していく参加者たちに大きな声援を送っていた。
「おめでとう、よく勝ったな」
「これはこれは、アランじゃねーか! 思った以上に苦しかったが、なんとかやれたぞ」
「それはよかった」
「とりあえず帰ろうぜ」
「お前にしては気が利くじゃないか、成長したな」
「……疲れただけだ」
珍しいな、相手は確かに苦手なタイプだったろうからな。それに不戦勝だのやっぱり試合だの、精神的にもきつかっただろう。
たまには茶でも出してやるか。
「雛がお茶を入れてあげるね」
なっ!? 気づかなかった、雛がいたとは。
「アラン、声に出てるぞ」
「もちろん、誉め言葉ですけど」
「どんな誉め言葉だよ!!」
「エルザ、思ったより元気じゃないか」
「そうね、雛の扱いについてはこの後みっちり聞くとして、エルザ、心配して損したよ」
「相変わらず二人は仲がよろしいことで」
「そうよ、嫉妬した?」
「俺はエルザの孤独感に嫉妬してます」
「相変わらずアラミスは孤独な引きこもりを追求するねぇ~」
「なによ、雛とのペアリングに不満でも?」
「そもそも人と組むのは嫌です」
「アラン、そんなんだからモテモテの癖に彼女出来ないんだぞ?」
「ま、ま、待ってよ、アランがモテモテってどういうことよ、kwsk」
雛が取り乱すとかいつ以来だろうか……
まあ、そんなことよりも、モテるとか正直嫌です。ほんとに。
「気が重くなるような話をするな、ほら入れ」
三人はいつものようにアラミスの控室へと入っていった。
……いつものように、か。できれば恒例化してほしくはないのだが。
「「おじゃましま~す」」
「ほんとにそう思ってるならお邪魔しないでほしいんだが」
「アランは相変わらず照れ屋さんね」
「俺らをお邪魔なんて言うなよ……!!」
「二人とも言ってることが真逆なんで、息合わせて反対してください」
〖準々決勝:順当に勝利〗