人魔機(ヒューマタクト)聖杯祭 前編
――人魔機聖杯祭一回戦――
今日、この国最大規模で開催されている祭典、人魔機聖杯祭のルールについて見ていく。
そもそも、この大会は何か。簡潔に言うならば入試である。国内各地の学校がそれぞれ大会を開き、そこに高等部のスカウトマンが偵察しに行くというわけだ。
とりわけ注目されているのが、高等部序列一位、第一高校付属第一中等である。
唯一推薦を認められている、エリート中のエリートである。
さて、この大会はトーナメント方式で参加人数は176人。中等部三年の第一団から第五団までが参加するが、第五団はその強さゆえに全員シード権を獲得している。この大会で優勝するためには、最低五勝、最高七勝しなければならない、過酷な長期戦となっている。
アラミスは最強と呼ばれる第五団に所属しており、シード権を獲得している。
戦闘において、基本的に反則はないが、致死量のダメージは無効化され、即座に敗退が決まる仕組みとなっている。
今大会はベスト16に第五団全員が入れるようなトーナメントに仕組まれているため、ベスト8を狙うエルザは、二度第五団のメンバーを倒さなければならないことになる。
また、第五団のメンバーは最強かつ最大数という最も難しい大会となっているため、大衆は第五団による第五団のための大会と見なしていた。
第四団にして〈精鋭騎兵団〉隊長のエルザも注目株だが、あくまで一般生としてであった。
〖一回戦:シードにより無し〗
――人魔機聖杯祭二回戦――
先に言っておくが、何も特筆することがないのは、アラミスが友人そっちのけで引きこもっていたからである。
決して書きたくないとか書きたくないとか((作者退場により記録なし
ちなみに、エルザは勝ち残っている。((作者再退場
〖二回戦:シードにより無し〗
――人魔機聖杯祭三回戦――
「ここにて、ようやく第五団の方々の登場だァァァッッ!!!」
「「「うぉぉぉおおおおッッっ!!!」」」
三回戦から登場するアラミスたち第五団に対して、会場は異様なほどに熱狂し、すさまじい盛り上がりを見せていた。
それもそのはず、この代の第五団は、昨年の人魔機聖杯祭において飛び級での出場権を与えるべきではないかという話もあったほどずば抜けて強いと話題で、その注目株が初登場なのだ。観客が興奮しないわけがない。
それだけ、生徒からも教師陣からも、何より観客からの期待は大きかった。
そんな第五団に所属するというのが、注目を浴びるというのが、アラミスには苦痛でしかなかった。
「よう有名人」
「エルザか。嬉しくないのは知っているだろうに」
「ははっ! そんなこと滅多にないんだから楽しめばいいのに」
「死ぬわ!! 俺はもともとこんな世界望んじゃいないんだよ!! 俺は引きこもってられればそれでいいの!!!」
「さすが引きこもり序列一位、黄色い歓声浴びてこの発言とは、年季が入ってるねぇ~」
「伊達に引きこもってないから」
「引きこもってるといえば、お前の『がんばれ、エルザ~!!』が聞こえなかったんだけど」
「部屋にこもっていたからな、第一外に出てもお前は見に行かんわ」
「そんな引きこもりは相手の情報についてはよく知らないんじゃないのか?」
エルザにとっては嫌味の一つでも言ったつもりだったのだろう。
ただ、アラミスは違った。
「必要ない。戦えばすべてわかること。そこに固執してたら勝てないし、何より引きこもっていられないからな」
「俺にはまだそれが足りないと?」
「エルザ、お前に足りていないわけじゃないんだ。決定的に欠落していて、どうしようもないほどに俺たちとの差ができてしまっている。ただね、それを身に着けることの恐ろしさに比べれば、その存在すら知らないことは幸運なことだと、俺は思うんだ」
これから俺にとっての一回戦だから、そう言い残して去ったアラミスの背中には、なぜか悲しそうな雰囲気が漂っていた。
「これより、三回戦Dブロック第一試合 ユナト・アラミス 第五団 序列十六位 対するはルイス=ヘイザー 第三団 序列七十五位 それでは試合を開始します」
――ピィィィィッッ
ホイッスルで試合が開始した。
と同時に動いたのはルイスだった。
「《符加:炎虎》《聖者の鉄鎚》!!」
ルイスは炎に包まれた虎を召喚し、自身のハンマーを〈符加〉、さらにそのハンマーで襲い掛かってきた。
〈符加〉使いで属性は炎、使用武器は鉄鎚。動きが遅い分、体を強靭化させ補っている。 正直、アラミスの足元に遠く及ばない。
「《氷蓮華》」
たった一言でアラミスを中心に幾重にも連なる無数の氷柱が〈具現〉され、アラミスには遅い、いや遅すぎるルイスの全身は一瞬にして貫かれていた。
「ぐはぁッ…… こんなに差があるわけじゃねぇ!! 諦めんぞ!!《いでよ炎虎/その咆哮をもっ……」
無駄だ。
会場のだれもがそう思ったが、彼は諦めていなかった。
彼はすぐさま反撃の詠唱を開始したが、
「すまん、疲れた。《氷帝の名をもって/氷塊に自由を与えよ》」
アラミスの特異詠唱の一つ、〝氷塊の自由自在〟が発動された。あまりの高速詠唱にルイスの唱えていた〈符加〉は〈創造消失(ディ:レス)〉を起こし、キャンセルされた。そうとも知らずに振るった無防備な鉄鎚は最初の一発は防いだものの、残り全ての氷塊を鉄鎚もろとも喰らってしまった。
――ピピィィィッッ――
「ルイス=ヘイザーを戦闘不能とみなす。よって、ユナト・アラミスの勝利とする!!」
「「「うぉぉぉぉッッッ!!」」」
アラミスはこの歓声に応えるわけもなく、むしろ逃げるようにしてその場を後にした。
「圧倒的な力を見せつけたアラミス選手! 第五団末席とはいえ〈氷帝〉の称号は伊達じゃない! わずか一分で、対戦相手を叩きのめした!!」
「「〈創造消失(ディ:レス)〉を生で見れるとは、正直ビビったぜ」」
観客も驚いているが、そもそも〈創造消失(ディ:レス)〉とは、強大な人魔エネルギーが微弱な人魔エネルギーをかき消し、微弱な人魔エネルギーを用いて構築されていた術式が強制終了することである。よほどの差がなければこの現象は起きないため、この大会でも過去に数回しか確認されていない。
会場はその余りある強大な力を前に、自身の無力さやユナト家のことなど忘れ、ただただ美しく恐ろしい力に魅き込まれ酔狂していた。
まるで逃げ帰ったアラミスが場違いであるかのように。
試合を速攻で終えたアラミスは、観客に背を向け第五団専用個人控室に向かった。
控室の前には自身の試合を終えたエルザが立っていた。
「お疲れ様、アラン。なんつーか、化け物じみてるっつう感想しか言えねーような試合だったな」
「見てたのか、ってか化け物とは失礼な。中入るか?」
「元からそのつもりだ。さ、入れてくれ」
網膜認証システムを解除すると、さっそく控室へと足を踏み入れた。
控室は個人用な為か手狭で、二人にちょうどいいくらいのサイズだった。入り口で靴を脱いで部屋に上がるなり、どこからか出てきたお菓子が部屋に散乱した。
アラミスはお菓子の袋を一つ拾って椅子に腰かけ、エルザはお菓子の山の中で埋もれるようにして寝転がっていた。
エルザは落ちてる菓子の封を開けると、アラミスに向けてこう切り出した。
「なぜ二回も術式を構築したんだ? 一回で仕留められたんじゃねーの?」
「周囲には〈具現〉したように見えたかもしれないけど、実際は〈拡想〉でしかない。そのため威力が落ちたんだ。故に二発必要だったんだよ。一応一発耐えた相手はよく頑張ったと思う。ただ、〈具現〉したと思っている人々にはいいデバフになっているかもね」
「マジか!? あの威力で〈拡想〉って言いたいのかよ!?」
「まあな。相手は所詮〈符加〉しか鍛えていないようだったし、相手の弱さが高威力なように見せてただけだよ」
「ナチュラルに嫌味言ってくれるね~。 そして、あの試合で布石を打ってくるあたり、さすがだとしか言えねーわ。それで、少し質問があるんだけど、いいか?」
「なんだ? 次の対戦相手のことか?」
「おっ、よくわかったな!」
どうせその話題になると思って調べてあったからな。
引きこもり対人戦闘術①:相手についてよく調べる が功を奏したようだ。
「で、何が気になるんだ?」
分かっててこの質問するのは、なんか会話を作っているみたいで嫌なもんだな。
「次の相手のセナ・シルヴァバレト、序列三十九位、疾水の女騎士とか呼ばれてんだよ。めっちゃ早いし、周囲の水を使う〈誇張〉が凄まじいと聞くし、炎龍と相性悪いし、どうすりゃいいか、まったくわからん!!」
「そう慌てるなよ。相手は掌から水を〈具現〉させ、それを周囲の風やら水分やらで〈誇張〉しているだけだ。正直、完全な〈具現〉とは言い難い。一方、初期装備の細剣はそのしなりで周囲に微細な水をばら撒き、いわばまきびしの様にしてじわじわダメージを与える方式をとっているようだね」
「つまりは水鉄砲と散弾銃剣か?」
そういうと雑魚キャラ感が出てしまうだろうが油断してしまうだろうが。
「……まあそんなとこだね。対策として、水鉄砲は基本自分の皮膚を《龍鱗》、つまりは〈誇張〉させて強化するといい。そこまで威力は出ていないみたいだし、炎龍の鱗で十分耐えきれると思うよ。次に散弾銃剣だけど、剣技のみに注目したほうがいい。あの飛沫は纏った炎龍の鱗が打ち消してくれるから、細剣のしなやかで鋭い剣技にどう対抗するかが勝負だと思う。鱗の重さに慣れれば十分戦えると思うよ」
「なるほど、要するに皮膚硬くして剣術勝負、ってことだな!! 得意分野だ!! 急に余裕が出てきたぜ!!」
阿保だ、馬鹿だ、単細胞だ……
「ま、まぁ、そんなとこだね」
「さんきゅー!! 助かったぜ!!」
――コンコン
「アラン、お前が客を呼ぶとは思えないんだが」
「天変地異が全世界で同時多発するよりあり得ないね」
「アラン、結論は」
「引きこもり対人戦闘術②:居留守 を発動する」
――バァァァァン
タイミングよく、発動直後に入り口が爆破された。あまりの威力に、部屋の中にいた二人は入り口反対側にふっ飛ばされた。
「いってぇな、誰だよおい」
「僕の不可侵領域に不法侵入するとはいい度胸だね、そして器物損壊だぞ?」
二人は、煙幕でおおわれてシルエットしか見えない敵に口々に文句を言った。
「まさかいない訳ないとは思うんだけど……。思わず爆破しちゃったよ」
――この声は
「相変わらず器物損壊だけが取り柄のようだな」
「俺はお前のその度胸に驚いてるぞ」
「これしきでビビってたら何もできないぞ、エルザ君よ」
「ただ、相手は首席じゃん、しゃーなくね」
そう、爆破魔は、このシルエットは、まさしく雛のものだった。
「なんだ、いるじゃん。やっぱり居留守使ったんだね!? 雛寂しいよ~!」
「すみません、一生かけて築き上げる予定の秘技でして」
「な、な、なによ、一生とか急に言われても」
「そういう展開結構です」
「アラン、ひゅーひゅー」
「君たちのノリの低さは致命的だよ? そんなんじゃモテないよ?」
「引きこもりにとってソレは必要なさすぎるので。結構です」
「さすがアラン! どんな相手でもぶれないねぇ~」
「そんなことないよー、引きこもりたいだけ~」
「アラン、いい加減その性格を直したらどうなの」
――エルザ=キルシュタインは至急本部まで来てください。繰り返します……
エルザは自身を呼ぶアナウンスにすぐさま反応し、
「わりい、呼ばれたからちょっと行ってくるわ」
爆破された扉(跡地)を抜けて颯爽と消えてしまった。
逃げたな。
「おうよ」
「はいはーい」
「んじゃ、俺は部屋の修復をするのでご退去ください」
「……ん? なんでそうなる!? アランちょっと私の存在に対して否定的すぎない!?」
「どうした? 何か問題でも?」
「大ありよッッ!! 来客者に対して失礼じゃない!?」
さすがに突っ込みどころだらけじゃないか!?
「いや、人の部屋を爆破して入ってきて来客者とか、テロリストじゃあるまいし」
「なっ……。ば、馬鹿ね!! これがレディのあいさつよ!!」
「世の中のレディを敵に回したね、キミは。そしてガールじゃないの?」
「そ、そんなこと言わずにさ! 手伝ってあげるから!」
「相変わらず上から目線なこと」
「も~~っっ!! 雛が手伝うって言ってるんだから素直になりなさいよ!!」
「はいはい。お願いしますよ、テロリストさん」
「がんばる! ……ってテロリストじゃないわよっッッ!!」
――そんなこんなで。あっという間に。ものの数分で。破壊の限りを尽くされた部屋が。
「ホント綺麗に片付いたな」
まあ人魔機使いまくって、しかも扱いに長けすぎている人たち、だから
「当然よっッッ! 誰が手伝ってると思ってるのよ」
確かに優秀すぎる面々なのだが。
「誰が壊したとオモッテルノ」
ソコなんです。原点回帰。
「う、相変わらずアランはキビシイね」
「ま、そういわず帰ったらどうだ?」
「何故そうなる!? 普通は綺麗に片付いた部屋でお茶でもどうぞ、とかなんとかあるでしょうが!」
「……じゃあ茶でも勝手に淹れれば?」
「分かりましたよっ、勝手にしますっ」
「俺のもよろしく」
「そんなこんなで。いつも通りの穏やかな時間が二人の間をゆったりと過ぎ去っていった。あと、お茶は三人分お願いします」
「今のナレに突っ込みたいところだらけだが、何だったんだ、さっきの呼び出しは」
「はっはー! 明日不戦勝だってよ!」
なっ、せっかく対策考えたというのに……
「「おめでとう」」
「いやー、心込めるものでもないけどさ、いささか無機質すぎて辛いなー、泣いちゃうなー」
「すまん、これが平常運転だ。いや、先のアドバイスの労力を考えて多少の負の要素が入っても致し方ないと見た」
「確かに」
「なぜ雛が答えるかな? 雛も入ってるからね? アラン、えーとだな…… 確かに」
「語彙力欠乏症が発症しているぞ、エルザ」
「私が矯正してあげようか? 生きづらいでしょ?」
「俺は社会不適合なことより息ぴったりなこの二人が怖いです……」
そんなこんなで、腐れ(くされ)縁な、けども割とうまくいってる三人組の一日が過ぎていった。
……まあ、アラミスにとってはただただ迷惑なだけでしかないのだが。
いや、迷惑としてとらえる必要性を感じているだけなのかもしれないが。
〖三回戦:一分で勝利〗