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天使達の黙示録  作者: 織篠オルノ
プロローグ
1/2

#1 崩壊世界に飛ばされた二人は『悪魔』に拾われる

プロローグみたいなものです。

暖かい目で見ていただけると幸いです。


耳鳴りがしたかと思うと、気づけばそこは崩壊した世界だった。


瓦礫がそこら中に散乱し、空は分厚い雲に覆われていた。所々にあるビルの残骸以外に、地平線の彼方まで視界を遮るものは何も無い。


そんな世界に取り残されたように、青年は立ち尽くしていた。


茶髪の青年___綾月灯は、理解できない現状に対し、必死に頭を働かせていた。

ほんの少し前までは、いつも通りの時間を、いつも通りに過ごしていた。なのに、なんで、どうして。

突然東京に核爆弾でも落ちて一瞬で消し飛んだのか?それともただの夢?

___一緒にいた彼女はどうなった?

灯ははっと我に返ると、急いで周囲を見回した。

__彼女の事を、この暗く淀んだ世界の中で見つけることは容易だった。瓦礫の隙間から、白い、絹の糸のような髪の毛が、弱い光を受けて輝いているのが見えた。

「迅!」

灯は彼女の名を呼ぶと、急いで彼女の元へ駆け寄った。幸い、彼女__迅は倒れていただけで、瓦礫の下敷きになっているわけではなかった。

「おい、大丈夫か!?」

灯が迅を抱き起こすと、迅は眉間に皺を寄せ、そしてうっすらと目を開いた。

「…………灯?」

迅が混乱しながら辺りを見回す___途端、赤い瞳が見開かれた。

「え……なに? どうなってんの……?」

「分かんねぇ………。けど、多分、夢じゃない」

信じたくは無かったが、抱き起こした迅から伝わる体温は、紛れもない現実の暖かさだった。

加えて、迅の体から震えが伝わってくる。灯は答えるように抱きしめ返すも、それ以外にしてやれる事が特に思い浮かばなかった。

冷たい風が吹く。二人の理解を置き去りにして、刻一刻と時間は過ぎる。恐怖が支配し、口を開くことすら許されなかった。

灯は思う。ここでたった1人だったらどんなに虚しく寂しいだろうか。彼女がいるなら、せめて___



___その時だった。分厚く天を塞いでいた雲から、一筋の光が二人に降り注いだ。

それは、まるで二人を照らすスポットライトのようで。二人は、弾けるように頭を上げた。

よく見てみると、光の中に、何かが『居た』。それは鳥のように舞い、時折重力に逆らっているような素振りも見せた。

「…………綺麗」

ぽつり、と迅が呟いた。

確かに、それはとても神秘的なものだった。

徐々に近づいてくるに従い分かるシルエット。人間の形、長く波打つ髪、白い肌、細く長い四肢。

そして___大きな1対の翼。

「天使…………?」

今度は灯が呟く。

それは紛いもない、天使そのものだった。

光を我が物のように纏い、煌めき、天使は二人に向かい飛んで来る。

もしかすると、彼女は自分達を迎えに来たのかもしれない。この世界に迷い込んでしまった、自分たちを___。

灯と迅は、突如差し伸べられた手に、従う他無かった。それが、いきなり突きつけられた絶望に対する、唯一の希望だったのだから。



__突然、ぱんっ、と、聞きなれない音がした。

空気が弾けたような、そんな音。

二人は空を見上げたまま、ただ声も出せずに固まっていた。


___天使の頭が、一瞬にして吹き飛んだのだ。

残された身体は力を失い、錐揉みしながら地へ堕ちていく。ぐしゃりと嫌な音を立て、天使の身体は瓦礫の山へ消えていった。


二人の視線の先、天使の代わりにいたのは、1人の少年だった。見る限り、先ほどのような翼はない。

オレンジの髪で、一つ結びにした長い襟足が、マントと共に風に乗って揺れている。黒と青を基調とした軍服に身を包み、宙に浮いていることを除けば、ただの人間の少年に思えた。


その瞳に、捉えられるまでは。


「_____ッ!」

二人揃って息を呑む。 喉からは掠れた空気しか出てこない。目は瞬きを忘れ、手足は自分の意思関係なく震えた。

殺意を湛えた新緑の瞳。その瞳と視線を交差させた瞬間。


彼は、『目の前』にいた。

反応できるはずもない。二人は呆然としたまま、自分に向けられた槍の切っ先を見つめていた。

死の間際、物事がスローモーションに見えると言うが、それが本当らしいことを灯は他人事のように知った。

見えたのは、自分達を見る殺意を持った新緑と、血に濡れた赤い切っ先と、同じくらい赤く濡れた迅の瞳、そして。

___振り上げられた槍は、派手な金属音を立てて何かと交差した。

槍を持った少年は二、三歩下がると、忌々しそうに舌打ちした。

「ちょっと、何のつもり」

「落ち着いて翔夏。ふたりとも、れっきとした人間だよ」

優しく、柔らかい声。どうやら少年と知り合いのようだった。

二人の盾となり槍から守った青年は、振り返ると、人の良さそうな笑みを浮かべた。

「大丈夫? 二人共、怪我はない?」

彼は手を二人に差し伸べた。今度こそ、本当の救済。

だが、灯も迅も、その手を素直に受け取れなかった。


___彼の背から、1対の『黒い』翼が生えていたからだった。





2020年、3月5日。


突如崩壊した世界に投げ込まれた綾月灯と神代迅を助けたのは、『天使』を殺した__『悪魔』だった。



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