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幻現自在のダウナーリリー  作者: 式十
強さと信頼と前触れと
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ご注文は幼女ですか?

 パーカーにジャージのズボンという部屋着からフード付き多機能コートとストレッチパンツの完全外出仕様に着替えたボクは、依頼主がいる巨大農園に向かって歩いていた。

 西日本は今日も平和なモノで、雲ひとつない空を見上げると穏やかな太陽、そしてその周りを囲む様に浮かぶ無数の鉄の塊……東日本が見える。


 ボクが生まれる100年ほど前に「龍」がやってきてから、この世界はずいぶんと変わったらしい。軍事力に優れていたアメリカとロシア、そしてどこよりも早く異能者が生まれた西日本以外の国は彼らによって滅ぼされたし、人間も突然いなくなった。それは龍によって大勢の人間が死んだ、と言うのもあったが、最も大きな理由は「皆異能者になったから」だそうだ。

 危機的状況の中で進化を遂げ、力を手に入れた先人達は、龍を狩り続けた。勿論死者はたくさん出たけど、その数は異能者が生まれる前に比べればずっとマシな方だった。

 龍は彼らを見て何かを感じたのか、徐々に襲撃の数を少なくしていったそうだ。

 そして現在、唯一人間がいる国……東日本は龍によって支配され、侵略の最前線基地となっている。


 ……気分が悪くなるから、考えるのはこれぐらいにしておこう。せっかく天気もいいんだし。

 蝶々や鳥を眺めながらふらふらと歩いて商店街に差し掛かると、八百屋や武器屋にいた老若男女色んな人達がざわつき、スマートフォンやらリストフォーン、一眼レフを向けてきた。内心かなり嫌なのだが、世の中というのは面倒なモノで、「外面を良くしておかないと後々面倒な事になる」という風潮は何年経っても変わらない。嫌悪感は決して顔に出さず、前だけを見て歩いた。女の子達が黄色い悲鳴を挙げた後、倒れる音が聞こえてくる。

 ボクは一応女なんだけど、そういう所は分かってるんだろうか?


 存在感を消して人気の少ない路地裏を歩いていると、青いメッシュのかかった白髪の女の子がいかにも悪そうなおじさん達に囲まれて涙目になっている光景が目に入った。

「ほーらお嬢ちゃん、おじさん達と一緒にイイコトしようか……」

「今ならこのお手入れキットもついてきてお値段なんと1万8000円だよ……」

「送料も無料だよ……」

「ふえぇ、やめてよぉ……何言ってるのか分からないよぉ……ひっく」

 ボクにも何を言っているのかさっぱり理解出来ないが、今はとにかくこの怪しいおじさん達を退け、彼らが現行犯で警察のお世話になる事態を全力で避けなければならない。こちらにも「世間の目」という名のダメージがくるからだ。

 それにこの女の子というのは、ボクの仲間の一人である。助けない理由はない。

 すっとおじさん達に歩み寄ると、彼らの視線が一斉にボクに向けられた。

「やぁ。キクラゲがきのこの仲間って知ってた?」

「「「はい?」」」

 頭のおかしい質問で惑わされているうちに、ボクは彼らに首刀を打ち込み、気絶させた。

「……淋、怪我はない?」

「お兄ぃぃ!!怖かったよぉ!!」

 女の子は突然ボクに抱きつき、号泣し始めた。

 この子は淋(リン)。長い間一緒にいるのにボクを男だと思っている、ちょっとズレた泣き虫さんだ。ふわっふわの髪に小さい手、冬以外なら余裕でヘソ出し、周りへの恐怖で常に潤んだ瞳……などの要素が、まるでウサギの様な可愛さを生んでいるため、大きなお友達に度々狙われてしまう。

「……一人で帰れ……ない、よね」

「ぐすっ……うわあぁぁん!!」

 このまま泣いている彼女を一人で帰すのは少し無理がある……と判断したボクは、淋を肩車して一緒に連れていく事にした。

 農園にはだいたい10分もあれば着くから、そのうち落ち着いてくれるだろう。

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