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それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第1章 悪い奴は何度でも
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赤く染まる奴隷人形

 ライドとの連絡が途切れてから約四十分後。余計な連中の邪魔を弾き返しながら、どうにかアジトとしている拠点地へと辿り着いた。

 闇が色濃く残っている森の中。来る者は拒み、出ようとする者を捕らえるそこには、美しい湖がある。場所にして森の中心だ。碧く澄んだ水は、泳いでいる魚が見えるほど美しく、それを飲みにやって来る動物も多い。その湖の傍らには、一つの古びた屋敷があった。

 いつ崩れてもおかしくないと言える外観。中も同様にボロボロだ。そんな屋敷に住み着いたロキは、とある存在達と暮らしていた。


「これは……」


 だが、それらは無残にもバラバラにされている。胸元にはめ込まれていた魔石も、粉々だ。


「こいつらをここまでやれるのは、熟練の騎士ぐらいだが――」


 転がっている人形だった者達のなれ果て。かつて起きたガルディラ戦争の決戦兵器だったマギカドールを見渡し、ロキは言葉を失っていた。


「まさか、騎士団が押し寄せてきたのか? しかし、そうだとしたならニールがあんなことを言うはずがないが」


 呟きながら進んでいくロキ。広がっているガラクタとなった人形達は、どれも静かに眠っていた。まるで人のようだ、と言葉を漏らす。しかし、それは人形達にとって皮肉としか言えない言葉だった。


「生きていればいいが」


 ライドの姿を思い浮かべながら屋敷の中へと入る。広い空間を見渡しながら、ライドがいつもいる書斎へと向かった。

 若干薄暗い廊下。ロキは目に入ってきた窓に目を向けた。そこには枝と葉が茂っている木々が並んでいる。


「少しは手入れをするように、命令しておけばよかったな」


 少しだけ、悲しげに呟くロキ。しかし、今思っても遅い。

 ロキは若干の寂しさを覚えながら、屋敷の奥へと足を踏み入れていった。


「しかし、誰がこんなことを。それよりもあの数のマギカドールを、どうやってあそこまでバラバラにできたんだ?」


 あまりにも信じがたい現実を、ロキはまだ受け入れきれてなかった。

 ロキに付き従うマギカドールは戦後、帝国から捨てられた者達だ。旧式とはいえ、その強さは現在市販されているマギカドールとは比べ物にならないほどのもの。それを短時間で、コアとなる魔石までも砕いたのだとしたら、相手はバケモノとしか言えない。


「嫌な予感しかしないな」


 ロキは書斎の扉の前に立つ。ゆっくりと柄を掴み、扉を引いて開いた。

 錆びついた音を響かせながら開かれる。するとその部屋の奥に、背中を壁に預けて目を閉じている少年らしい姿があった。

 ブロンド色に染まった髪に、優男と思わせる細身。しかし、左腕は千切れ落ちており、さらに顔の外装が若干剥げていた。


「おい、ライド」


 ロキは身体を揺らす。すると名前を呼ばれた人形は、静かに顔を上げた。


「ロキ、どうして……」

「何があった? 教えろ」


 ライドは、躊躇うように少し顔を逸らした。だが、ロキのことをよく知っているせいか、すぐにため息を吐いて口を開く。


「バケモノが、来ました」

「バケモノ?」

「ええ、そうとしか言えません。なぜならそれは、私達の――」


 ライドが何かを言いかけた瞬間だった。

 それは、ライドの中で蠢き出したのだ。


「う、あぁ……」

「ライド!?」

「に、にげ、あぁ!」


 ロキは、聞いたこともないような悲鳴を聞いた。思わずライドの肩を掴もうとする。しかし、ライドはそれを拒んだ。


「い、ヤ、だ。あ、アァあ、ああアぁアァあァァァッッ」


 ロキを突き飛ばしたライドは、胸を抑えていた。懸命に、抗うかのように、叫び声を上げていた。

 その姿は見たことがないもの。だからなのか、ロキは思わず息を吸うのを忘れてしまった。


「ロキ、にげ、て、くだ――」


 ライドは、泣いていた。ロキはその姿に、言い知れぬ何かを感じた。

 それは恐怖なのか、それとも単なる怒りなのか。何にしてもロキにとって嫌悪感を抱く感情だった。


「バカなことを言うな」


 ロキは知っている。この感情に従ってはいけないことを。

 ロキは経験している。この感情は自分を奮い立たせる起爆剤だということを。


「お前がいなくなったら、誰が名簿を管理する? 俺のために諦めるんじゃない、ライド!」


 ロキは立ち上がる。またあの悲しみを、あんな経験をしないために。


「お前は、家族だ! だから俺を置いていくな!」


 ロキは指を鳴らす。直後、ライドの足元にあった影が身体に絡みついた。しかし、その影は簡単に引き千切られてしまう。


「チッ」


 思った以上に効力がない魔法に、ロキは舌打ちをした。

 ライドはそんなロキを見て、右手を勢い良く向けた。数秒後、突き出された右手を中心に赤い光の円陣が展開する。


「ろぉおぉおぉぉおおおぉああぁぁぁ」


 言葉になっていない何かを叫ぶライド。直後に赤い魔法陣は弾け飛ぶ。

 砕けた魔法陣は、刃となって飛び散っていく。無造作に、無作為に、あまりある勢いのままに。


「〈我が盾は強固にして絶対〉〈我が鎧は強靭にして絶大〉〈ゆえに我は倒れん〉」


 ロキは、羽織っていたローブを掴み、投げ捨てて魔法を発動させた。広がったローブは、飛びかかってきた赤い刃を受け止める。


「やめろぉぉ!」


 だが、ライドは叫んだ。しかし、その顔は勝ち誇ったかのように笑っていた。

 ロキはその言葉と表情で、相手が何をしようとしているのか気づく。


「オソイ!」


 ライドから放たれる歪な声は、笑っていた。

 直後、赤い刃が光り輝く。それは一気に膨張し、そして破裂した。


「アァ、アァァ――アハハ、アハハハハ――」


 燃え上がる屋敷。その中心で、ライドは苦しそうにしていた。

 悲しいのか、楽しいのか、わからないような笑顔を浮かべていた。


「コロした、コロした! アハハハハ!」


 無邪気な笑い。そんな恐ろしい言葉を口にしながら、ライドの身体は崩れ落ちていく。

 現れた魔石は二つ。白い魔石と黒い魔石だ。その二つのうち、白い魔石は砕け散っていった。


「この身体もダメでしたか。まあ、目撃者を消したのでよしとしましょう」


 赤く燃え上がるその中心に、呟く存在がいた。それは転がっている黒い魔石をゆっくりと拾い上げる。


「かなりの数だったので期待したのですが、やはり思ったようにはいきませんね。さて、次はどうしますか」


 黒い魔石を胸ポケットに入れたそれは、軽く手を叩く。すると風が発生した。その不思議な風は、赤く燃えている炎を途端にかき消していく。


「ん?」


 炎が消え去った後、それは思いもしないものを見つけてしまう。

 闇が広がる四角形の穴。中には階段があり、人一人なら通れそうな大きさだった。


「案外、しぶといようですね」


 それは楽しげに笑う。そしてゆっくりと視線を上げた。

 その目に入ってきたのは、ほぼ無傷のマギカドール。見た目は幼くかわいげがあるものだった。


「この際、身体はどうでもいいですよね? ねぇ、ナルディ」


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