トビラの前に立つ答え
真っ黒な世界。味気がないその世界の中心に、ロキは立っていた。
何気なく目の前にある真っ白なトビラに目を向ける。するとそれは、なぜか開いていた。
『やぁ、また来たみたいだね』
声をかけてくるノワールがいた。ロキは鬱陶しく感じながら、ノワールに目をやる。
すると少年は、思いもしない言葉をかけてきた。
『お疲れ様』
一瞬、言葉の意味がわからなかった。それを察知したのか、ノワールは笑いながら真実を伝える。
『君は死んだ。もう何をやっても復活しないさ』
「我輩が、死んだ?」
『ああ、そうだ。死んだんだよ』
ロキは黙り込んだ。
結局、何も守れなかった。リディアもアルアも、何もかも。
もう諦めるしかない状況。それにロキは、肩を落とした。
『でも、望みはあるよ』
ノワールはそんなことを言って、怪しく笑った。
ロキはつい顔を上げてしまう。あまりにも唐突で、不確かな言葉。しかし、それでもすがりつくには十分なものだった。
「方法はなんだ?」
『それは自分で考えなよ。ま、幸いにして外から大きな力が働いているからね』
大きな力。それはどういうことなのか、理解ができなかった。
だが、そんなことはどうでもいい。この世界から脱出するために、そして復活を果たすために何かをしなくてはならない。
『時間はないよ。だから早く見つけな』
ロキは考えた。考えながら周辺を見渡した。
だが、何もかも黒く染まっていてヒントらしいものはない。唯一存在するトビラも、ただ真っ白に輝いているだけだ。
「待て」
ふと、あることを思い出す。
以前、ロキはアカシック・アンサーを発動させてこの世界にやってきた。そもそも、アカシック・アンサーはトビラを開くための魔法だとベネイスは教えてくれた。
つまり、この世界にやってくる方法ではない。では、一体どうやってこの世界にやってきただろうか。
「あの時は――」
そう、あの時は死にかけていた。どうにかトビラを開いたから、どうにかなったのだ。
トビラを開いた後、この世界にやってきた。つまり、この世界から出ていく方法は――
『ふふ、君は頭がいいね』
ロキがトビラに目を向けた瞬間だった。ノワールは満足げに笑ったのだ。
ゆっくりと振り返るロキ。そして、ノワールに一つの質問をぶつけた。
「このトビラを閉じる方法を教えろ」
ノワールは楽しげに、嬉しそうにして笑う。
頭を抑えて、腹を抱えて、笑っていた。
『待っていたかいがある』
ノワールは指を鳴らした。すると途端に、世界の色は反転した。
真っ白な世界。真っ黒なトビラ。ロキは、変化した世界の中で、ノワールを見つめた。
『簡単さ。この反転した世界でトビラをくぐればいいだけだよ。でも、くぐれば最後。君は何かを失う。それは魔法かもしれないし、もしかすると身体の機能かもしれない。それでも、行く覚悟はあるかい?』
ロキは何も答えない。
ただ一度だけ、ノワールに一瞥する。そして、真っ黒に染まったトビラの前に立った。
「ありがとう。これで我輩は、また戦える」
その言葉が、答えだった。ノワールはやれやれと頭を振る。
だが、その顔はどこか嬉しそうだった。
『行ってきな。君なら、またトビラを開くことはできるだろうしね』
ロキは歩む。
何かを失うかもしれない恐れに打ち勝ち、進んでいく。
守るべきもののために、倒すべき存在を倒すために。
そのトビラをくぐる。
『また来るのを待っているよ』
大きな音と共に閉じられるトビラ。もう見えないロキの姿を見つめながら、ノワールは言葉を送った。
その、届くはずのない言葉を。




