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それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第6章 それでも君に笑いかけよう
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人として抗うココロ

 白き光は、大切なもののために食い荒らす。

 黒き光は、叶えた願いを守るために殴りかかる。

 二つの光がぶつかり合う中、アルアは立ち尽くしていた。どうすればリディア救うことができるのか。どうすればロキの邪魔にならずに立ち回れるか。

 しかし、考えてもそんな隙間はない。


「私の力だけでは……」


 勝利条件があまりにも厳しい。

 時間がなければ、その第一歩が踏み出せない状況に、アルアは奥歯を噛んだ。

 ぶつかり合い、音が響くと同時に城が揺れる。このまま戦わせ続けてしまったら、いずれこの城は壊れてしまうかもしれない。

 時間がない中、アルアは考えた。だが、一人でできることは限られている。

 せめて身体が、もっとたくさんあれば。

 そう考えた瞬間に、とあるガラクタが目に入ってきた。


「これだっ」


 城にいる人々を守ろうとして、壊れてしまったマギカドール。手足は千切れ、挙句の果てに外装が剥がれ落ちている人形だ。

 再起不能と言ってもいい存在に、アルアは駆け寄った。


「おい、生きているか?」


 鎧を身にまとったマギカドールは僅かに頭を縦に振った。アルアはそれを見て、力強い眼差しを向ける。


「頼みを聞いて欲しい。もし飲んでくれるなら、今よりいい身体を与えてやる。いいか?」


 マギカドールはアルアを見つめた。

 それがどういう意味なのか、アルアは汲み取る。


「ありがとう」


 口を開くアルア。その言葉を聞いたマギカドールは、ゆっくりと頷いた。

 少しでも時間が稼げればいい。それをするには、多くの仲間がいる。だからこそアルアは、自分が作った存在にすがりつく。

 それが例え、許されないことだとしても。


◆◆◆◆◆


 圧倒的な黒が、ロキに牙を剥く。だが、ロキもまた絶対的な白を手に弾き返していた。


「死ね、死んじゃえ!」


 リディアは笑いながら飛びかかる。その後ろからクロードがロキへ攻撃を放つ。

 飛んでくる火球に雷撃、氷弾は、ぶつかり合うと大きな爆発を起こした。空間が燃え、痺れ、凍てつき、破壊される。崩れようとする空間だが、ロキが一度でも白い光を解き放つとそれは止まった。

 しかし、徐々にだがロキがまとっている白い光は薄まっていた。それと同時に、ロキの顔に若干の疲労が浮かんでいた。


「厄介ですね。ですが――」


 ロキはクロードへ突撃した。しかし、その突撃を遮るようにリディアが立ち塞がる。

 笑いながら、楽しそうにしながら、「殺してやる」と叫びながら。

 大きな舌打ちをしながら、ロキは床を踏みつける。途端に床はせり上がり、リディアはその勢いで後ろへと飛ばされた。


「その優しさが命取りですよ」


 歪んだ口元が目に入ってくる。放たれる斬撃は、容赦なくロキの身体を切り刻んだ。しかし、その斬撃すらもなかったことにする。

 睨みつけるロキ。少しずつだが、その顔には余裕がなくなっていた。


「どうやら、防御には向いてないようですね」


 クロードはそれを見て、勝ち誇ったかのように笑っていた。

 ロキは静かに自分の右手を見る。真っ白だったそれは、いつの間にか元の色に変化しつつある。身体に襲いかかってくる気だるさが、時間切れに近づいてきていることを知らせていた。

 とても参った状況だ。もし、あと数回攻撃を受けてしまえば〈ミスティック・イーター〉の効果が切れてしまう。

 それよりも、時間のほうが問題だった。


「あと五分。持ってそのくらいでしょう?」


 クロードはゆっくりと、見下ろしていた。ロキはその言葉に、思わず顔を強張らせてしまう。

 わかっている。些細な変化でも、情報を与えてしまうことなど。だが、わかっていてもどうしようもないことがある。


「捕まえた」


 僅かな動揺。僅かな隙。

 それは、相手に絶好の機会を与えてしまう。


「リディア!」

「いい顔しているね、変態猫さん」


 ロキの身体を拘束するその力は、とても弱々しい。そして、白い光がリディアへ襲いかかっていく。

 徐々に、徐々にリディアの何かがロキの中へ入ってくる。様々な光景が頭の中へ映り込んでいく中、ロキは叫んだ。


「離せ! 我輩は、貴様を壊したくない!」


 振りほどくことが、できなかった。

 弱い力なのに、躊躇ってしまう。


「いやだ。私は、あなたを殺すんだから」


 しかし、リディアは笑っていた。儚げに、ただ笑っていた。

 それは何を意味しているのか、その時はわからなかった。


「あなたを、殺すんだから。殺してやるんだから」


 溢れてくる涙。リディアはそれに気づいていない。

 ただ弱々しく抱きしめて、泣いているだけだ。


「貴様……」

「わた、しは、あなたを――ころ、したくない、よ……」


 それは、本当のリディアの言葉。それに気づいたロキは、抵抗するのをやめた。

 泣いているのは、リディアだけなのか。それとも、違う何かも泣いているのか。

 わからないまま、静かに前を見た。


「茶番はそこまでですよ」


 だが、何も気づいていないバカがそこにいた。

 黒く染まる光。それを解き放ちながら、薄気味悪く微笑んで詠唱する。


「〈赤黒く染まりし炎よ〉〈全てを飲み込みし黒炎よ〉」


 燃え上がるのは黒い何か。徐々に赤を帯び、唸り声を上げる。

 それはクロードの何を示すのか。誰かが答えなくても、ロキはわかっていた。


「〈己がのために喰らいつけ〉〈彼のために食い荒らせ〉」


 全ては、己の願いのために。

 全ては、何かの望みのために。

 だがそれは、本当に叶えるべきことだったのか。


「〈さすれば永久に消え去らん〉――ヴァーラ・グラトニー!」


 永遠に消え去らない欲望を満たすために、魔法は暴れ食らう。


「貴様はバカだ」


 何もかもが飲み込まれようとした時、ロキは冷めた視線を送った。

 泣いているのは、リディアだけじゃない。

 わかっているのか、わかっていないのか、問い質したい気分だった。しかし、そんなことはどうでもよくなる。

 今はただ、感情に従って、迫る脅威を喰らい尽くすのみだ。


「大切なものが泣いていることに、気づかない愚か者だ!」


 僅かに残っていた力。それは、リディア達を守るために使われる。

 例えこれが計算されていたことだとしても、ロキは黙っていられない。


「守るべきもののために、食い尽くせ――ミスティック・イーター!」


 ぶつかり合う白と黒。

 互いの信念に基づいて喰らい合った二つは、大きな爆風を生み出した。

 それは、城を包んでいた黒い光が、吹き飛ばされるほどのすさまじいものだった。


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