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それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第6章 それでも君に笑いかけよう
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人ではないヒト

 そこは、真っ黒な光で包まれていた。とても不思議なことに、何がどこにあるのかはわかる。しかし、城の中を支配する光には温かみなんてものは感じられなかった。

 ロキはそんな光が支配する通路を進む。人の姿が描かれた絵画を目にやりながら歩いていると、一つの大きな空間へ辿り着く。


「ようこそ、私の城へ」


 奥に存在する王座。そこに一人の少年が座っていた。

 ロキは一瞬だけ顔をしかめさせてしまう。だが、すぐにそれが何なのか気づいた。


「お前がクロードか」


 そう呼ばれた少年は嬉しそうに、だが冷たく微笑んだ。

 ゆっくりと立ち上がるクロード。一度ロキに目を合わせてから「その通りですよ」と答える。


「一体誰から聞いたのですかな? まあ、大体予想はつきますがね」

「リディア、そしてアルアを返してもらう」

「ふふ、なるほど。何もかもお見通しですか。でも残念ですね。アルアはともかく、リディアは帰りたくないと言っていますよ」


 ロキは思わず睨みつけた。しかし、クロードはそんなロキの変化を楽しむように茶化す。


「だって彼女は、人ではないんですからね」


 言葉の意味がわからなかった。

 思わず考えようとしたその時、後ろから衝撃が走る。そのまま倒れてしまったロキは、起き上がろうと手に力を入れた。

 だが、おかしなことに力が入らない。


「クロード、これでいいのかな?」

「ええ、バッチリですよ」


 リディアの声が耳に入る。目を向けるとそこには、黒いまだら模様に覆われたリディアの姿があった。

 だが、それ以上に言葉を失う光景がある。それは、顕になっている胸元にある魔石だった。


「あら、どうしたのかしら? もしかして、興奮しているの? とんだ変態猫ね」


 リディアは笑う。楽しげに、禍々しく。

 その一度も見たことがない笑顔は、ロキの中で混乱を起こさせていた。


「何をした。リディアに何をした!」


 怒りと共に放たれる叫び。それを聞いたクロードは、あざ笑っていた。

 愉快に、とても愉快に。


「私の願いを叶えただけですよ」


 どういう意味なのか、ロキはわからなかった。だが、すぐにリディアの想いが踏みにじられたということだけはわかった。

 だからこそ、倒れている訳にはいかない。


「なら、その願いを食い荒らしてやる」


 ロキは、一つの言葉を口にした。

 媒体は自分。言葉は引き金。

 守りたい大切なもののために、封じてきたオリジナルを発動させる。


「〈全てを食い荒らす〉」


 トリガーが引かれた。直後に、ロキの身体が変色した。

 それは、白。まるで何も描かれていないキャンパスのような白さだ。


「え? 何これ?」


 その白は、リディアを支配する何かに飛びかかろうとしていた。

 だが、クロードが隔てるように割って入る。そのままリディアを後ろへと押し出し、白い何かの攻撃を受けた。


「これは――」


 クロードが身代わりになったその瞬間、ロキは起き上がる。

 ゆっくりとクロードを見下し、そして言葉を発した。


「そいつの魔法を食い荒らせ――ミスティック・イーター」


 何かがクロードの中へと入り込んだ。そして、一気に膨張し、弾ける。

 クロードは口から血を吐き出した。何が起きたのかわからないまま、床に膝をつく。


「なるほど、とても嫌な魔法ですね」


 吐血で身体が赤く染まっているクロード。

 それを見たロキは、ウンザリとするように眺めていた。


「伝説になるだけはあるか」


 ゆっくりとクロードへ近づいていくロキ。クロードもまた、ふらつきながらも立ち上がっていた。


「ふふ、これは久々に楽しい踊りができそうです」

「ぬかせ。これから始めるのは、貴様に対する蹂躙だ!」


 クロードは笑っていた。

 ロキは怒りのまま睨みつけていた。

 ぶつかり合おうとする二人。だが、それを邪魔する存在がいた。


「下がってて、クロード!」


 リディアがクロードの前に立ち、一つの詠唱を始める。

 ことさらにゆっくりと、紡がれていく言葉。しかし、それを聞いたロキは笑う。


「メチャクチャだな」


 その言葉に、リディアはつい睨んだ。だが、すぐに詠唱を終え、魔法を発動させる。


「デストラーデ!」


 それは、リディアが好まない魔法。人を殺すための魔法だ。

 だからこそ、本来の輝きと色合いが変化する。ロキはそれを確認した直後に、右手を前に突き出した。

 途端に放たれた魔法は、ロキの右手に吸い込まれていく。それを見たリディアは、驚いたように目を大きく見開いていた。


「何を迷っている? それとも、わざとか?」


 リディアはその言葉に、一歩だけ後ずさりをした。しかし、すぐに怒りが顔を支配し始める。


「私は、私の名前は――レイティだ!」


 もはやその少女は、クロードのことなんてどうでもよかった。

 頭にあるのは、眼の前にいる強敵を殺すこと。


「お前、殺してやる。殺してやるよ!」


 そして、その後にある楽しい光景だけだった。


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