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それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第5章 終わりへと続く始まり
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扉の先に進んだ者達

「お前、一体何を!」


 赤く燃え上がる部屋。その真ん中に一人の男が立っていた。

 男はただ静かに右手を振り下ろす。すると途端に、部屋を飲み込んでいた炎が消えた。


「失せろ」


 圧倒的な力と、圧倒する言葉。それに襲撃者達は、足を竦ませていた。

 ロキはそんな襲撃者達を睨む。すると襲撃者達は、うめきながら後ろへと下がっていた。


「怯むな。怯むな! 相手は一人だ!」


 一人の襲撃者が叫んだ。しかし、その叫び声に誰も同調しない。

 ロキをずっと睨みつけている集団。それが何を意味するのか、全員が理解していた。


「あいつを殺せば、俺達は自由なんだ!」


 それでも、叫び声を上げた一人が突撃する。剣を振りかぶり、床を蹴って襲いかかった。

 ロキはその攻撃を避けない。避ける素振りすらしない。

 ただ一度、呆れたように目を瞑り、そして大きく開いて睨んだ。


「うあっ?」


 ロキに飛びかかった襲撃者は、空中で動きを止めていた。

 手を、足を、口を、指を。

 何もかもを動かそうとしているのに、何一つ動かない。襲撃者はそれに、心が震えていた。


「言ったはずだ。失せろと」


 これは、見せしめである。ロキを、ロキの大切なものを襲った者達へ対しての。

 だから、容赦などしない。


「――――」


 飛びかかった襲撃者の胸。それをロキは貫いた。

 だが、同時に大きな違和感を覚える。人とは違う感触がその手にはあった。


「あ、がっ」


 男はロキの腕を掴んだ。必死に生きようと抗っているその姿は、とても醜い。

 だからこそ、ロキは悲しい目を向ける。


「もう休め」


 その言葉が合図となった。一気に燃え上がる襲撃者の身体は、青く染まっていた。

 放たれる悲鳴はあまりにも耳障りで、心を締め付ける。次第にその声は弱っていき、そして静かに消えていった。


「あ、あぁ……」


 襲撃者の仲間は、あまりの悲惨な最後に振るわざるを得なかった。

 ロキは、燃えカスとなった襲撃者の身体を払い投げる。悲しみと怒りが混じったその瞳を襲撃者達に向け、もう一度言葉を放つ。


「失せろ!」


 襲撃者の一人は、悲鳴に似た声を上げた。そのままロキに背を向けて、逃げ出していく。

 それに続けと、襲撃者達の仲間が逃げ出した。どれも無様で、転びながら生きる本能にしがみついていた。


「リディア――」


 襲撃者を撃退したロキは、すぐに外へ顔を向けた。しかし、どこにもリディアの姿がない。

 もしかすると誰かに連れ去られたかもしれない。そう考え始めた時、大きな地響きと閃光が弾けた。


「あれは……」


 舞い上がる砂煙。それを見たロキは、誰がそこにいるのか気づく。


「頼るしかないか」


 ロキは疲れたように言葉を吐き出す。

 ゆっくりと空を見上げるロキ。一度だけカカトで床と叩き、その音と共に舞い上がった。

 清々しい空。それが少しだけ、赤黒く染まっていた。


◆◆◆◆◆


「参りましたね」


 ベネイスは思わず弱音を吐いていた。

 いつもと変わらない朝。いつもと変わることがない光景。

 それが突然崩れ去った。大通りを歩いていたマギカドールが暴走したのだ。さらに、その近くにいた一般人も襲いかかってきた。

 突然のことにベネイスは、咄嗟に防御魔法を発動させた。しかし、その意識の逸れが大きな隙を生んだ。


「片腕で、全員を相手にするのは、少しキツイですね」


 ベネイスの左腕は、無残に千切れ落ちていた。溢れてくる汗と、歪んでいる笑顔はあまりにも痛々しい。


「さて、どうしましょうか?」


 流れ落ちる血。痛みを堪えながら静かに、ベネイスは静かに周りを鋭く睨んでいた。

 しかし、ベネイスににじり寄るマギカドールと人々は、怯まない。ゆっくりと、確実に仕留められる瞬間を全員が狙っていた。


「ベネイス!」


 放たれる怒声。ベネイスはそれに顔を向けることはない。

 だからこそ、ロキは遠慮なんてものはしなかった。


「このバカ野郎が!」


 薙ぎ払われるマギカドールと人形。バラバラになっていった身体は、ベネイスの周りへ飛び散っていく。


「全く、困ったものです」


 足元に散らばったもの。それを見たベネイスは、ついため息を吐いた。

 その瞬間に様子を伺っていた敵が飛びかかる。


「すっかり騙されました」


 顔を上げた瞬間、ベネイスは指を鳴らした。途端にその場にいた全ての敵が、一瞬にして薙ぎ払われる。


「バケモノだな」


 飛び散っていく敵。顔へと飛んできた身体の一部を掴み、ロキはそれを眺めた。

 作り物の腕。それが何を意味しているのか、ロキは知っている。


「ロキ、一体何があったんですか?」


 見上げているベネイスに、ロキは顔を向ける。ロキは少し面倒に感じながら、舌打ちをしてベネイスの傍へ寄った。


「わかっていれば、お前のところには来ない」

「それもそうですね。それよりも、また開いたのですか? 言っておきますが――」

「今はそんなこと、どうでもいい。応急処置をするぞ」


 ロキはベネイスの左腕に目をやった。しかし、その千切れた腕を見た瞬間、ロキは思わず目を見張った。

 徐々に、徐々にだが骨が伸びている。肉づいていき、次第に腕と手を構成していた。


「これは――」


 思わず言葉を失うロキ。ベネイスはそんな顔をするロキに、後ろめたいような顔をして笑った。


「少し特別なものでしてね。まあ、基本的に死ぬことはありませんよ」


 どういう真意があるのか。ロキはわからなかった。

 だが、今はそんなことどうでもいい。


「ベネイス、リディアが誰かにさらわれた。それに、アルアも帰ってきてない」

「嫌な情報ですね。ですが、おかげでヒントは掴めました」

「ヒント?」

「ええ、そうです。まあ、こんなことをするバカは一人しか知りませんが」


 ベネイスは顔を上げる。同じようにロキも視線を合わせると、そこにはロキ達を睨みつけているニールの姿があった。


「おそらくあれも、作り物。そう、考えたいですね」


 ニールは怪しげに顔を綻ばせる。見たことがない恐ろしい笑顔に、ロキは思わず睨みつけた。

 だが、そんなロキをベネイスは制止する。ゆっくりと前に立ち、ニールに目を向けた。


「ここは任せなさい」

「だが――」

「大丈夫ですよ。私は死にません。それに、あなたのほうが相性いいですからね」


 ベネイスは指を鳴らす。すると途端に、青い円陣が地面に広がった。

 その円陣を形作っていた光が弾け飛ぶと、同時に一匹のハトが現れる。それはとても青々しい羽を持っていた。


「懐かしいですか?」


 その言葉に、ロキは頷きかけた。だが、すぐに首を横に振る。

 それを見たベネイスは、呆れたように笑った。


「そいつを頼ってください。目的地も、あなたが欲しい情報も教えてくれるはずです」


 ベネイスはそう言ってニールと対峙する。

 ロキはそんな背中を見て、無事に戦い終えることを祈った。

 それぞれが赴く戦場は違う。だが、それでもロキは言い放った。


「死ぬな、師匠」


 その言葉は、あまりにも意外だった。だからなのか、ベネイスは少しだけ嬉しそうに頬を緩めていた。


「自分の心配をしなさい」


 その言葉をロキは、しっかりと受け止める。そして、その場を任せてロキは駆けた。


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