表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第5章 終わりへと続く始まり
26/37

それが絶望へと変わる時

 そこは、一切の光がなかった。

 ゆっくりと開かれる瞼。アルアはおもむろに頭を抑えようとしたが、手が動かないことに気づく。感覚からして、両手が縛られている。しかも、何もできないように両方の親指までガッチリとされていた。


「お気づきですか?」


 聞き覚えのある声が鼓膜を揺らした。同時に、まばゆい光が点灯する。

 アルアは思わず目を瞑ってしまう。ゆっくりと、ゆっくりと視界がハッキリしてくると、アルアはその声の主を睨んだ。


「お前っ!」


 マウロは楽しげにしながら見下ろしていた。

 一度だけニッコリと笑いかける。それはひどく憎たらしい柔和な笑顔だった。


「そう怒らないでくださいよ。丁寧に扱いたいんですから」

「黙れっ。一体何のためにこんなことを――」

「人を生き返らせるためですよ」


 アルアは思わず言葉を詰まらせた。マウロはそんなアルアを見て、ゆっくりと近寄っていく。

 抱いていた希望を、叶えられなかった願いを語りながら。


「先ほども言いましたが、私の本当の名はクロードと言います。そうですね、わかりやすく説明するなら、生物には魔導器官があることを発見した男ですよ」

「原点の魔法使い〈クロード〉か。そいつは大昔に死んだ存在だ。それがお前だと?」

「ええ。そうですよ。と言っても、引き継いでいるのは記憶とこの魔石だけですがね」


「信じられるか。大体そんなこと、どうすれば――」

「説明はできますよ? でも、そんな説明をして、あなたは納得しない。だから敢えて言いましょう――これは、私の執念だ!」


 その言葉は、力強かった。アルアはそれに気圧されてしまう。

 マウロは黙り込んだアルアに笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと顔を覗き込んだ。


「魔法は、万能のようでそうではない。特に〈癒やし〉においては全くだ。もし、擦り傷を魔法で回復させようとしても、そのリスクが大きい。下手をすると、人が一人死んでしまうでしょうね」


 その恐ろしい笑顔は、何もかもを知っているかのような雰囲気が感じ取れた。

 だが、同時に大きな違和感も抱いてしまう。

 アルアはそれが何なのか探ろうとした。しかし、それを行う前にマウロは言葉を言い放つ。


「では、人一人を蘇生させるには、どれほどの犠牲が出るでしょう? 考えただけで、心も身体も震えてきますよ。下手をしたら国一つじゃ済まないかもしれません。だからこそ、あなたが開発したものはすばらしい!」


 マウロはゆっくりと背中を向ける。そのまま一歩、二歩と踏み出すと、少しだけ振り返ってアルアに微笑んだ。

 それは、確信に近づく問いかけだ。


「だからこそ知りたい。あなたが生み出した〈特別なマギカドール〉の構造を」


 アルアの顔から血の気が引く。

 眼の前にいる少年は、アルアが持つ秘密を知っている。だからこそ、反発しなければならない。


「そんなものは知らない」


 絶対に守り通さなければいけないもの。

 知っていても話してはいけない存在。

 だが、マウロはその答えを待っていたかのように口元を歪めていた。


「そうですか。なら、この方に死んでもらいましょう」


 パチン、と指がなる。直後に、闇で包まれていた隣が光で満たされた。

 振り向くとそこには、アルアと同じように椅子に縛られているギルバートの姿がある。


「なっ」


 アルアの思考が一瞬だけ、止まった。

 そんなアルアの顔を見て、マウロは楽しげに微笑んでいた。


「言い忘れていました。この国は、もう私のものですよ」


 全てが理解できないアルア。ただ、確実に言えることが一つだけあった。

 それは、国王は敵だということだった。


「さて、アルアさん。これからご主人様を楽しみながら殺しますが、異論はありますか?」


 アルアは、何を口にすればいいかわからなかった。

 もし、下手なことを言い放てばそこを付け狙われてしまう。だが、何かを言わなければギルバートは無残な殺され方をする。しかし、簡単に求めている答えを教えてしまえば、アルア達は簡単に処理されてしまう。

 僅かな時間と大きな動揺。混乱する頭の中をどうにか落ち着かせながら、アルアは何かを言い放った。


「ま、待て!」


 その言葉を聞いたマウロは、勝ち誇ったかのように微笑む。ゆっくりと振り返り、そしてアルアへと問いかけた。


「何を待てばいいでしょうか?」


 アルアは歯を食い縛る。

 わかっている。わかってはいるが、打開策がない。

 だからこそ、せめてという思いで賭けに出た。


「やるよ。お前が欲しがっているものを」


 灯る炎。それは大きな賭けをしたアルアの覚悟。

 だが、同時に計り知れない絶望が、そこにはあった。


「ふふっ、とてもいい目ですね。とても憎たらしくて、苛つく目です」


 マウロはアルアに勝機ほぼないことを知っていた。だからこそ、その挑戦を受けて立つ。

 アルアの顎に人差し指を添える。そして、ゆっくりと上げさせ、その挑戦的な顔を嘲笑った。


「ではいただきましょう。あなたの大切なものを」


 アルアは笑う。圧倒的な力を前にして身体を震わせながら。

 乱れる呼吸は、何を示しているのか知っている。今には流しそうな涙だが、懸命に我慢した。

 もはやアルアには、できることはない。だからこそ、託した。


 ロキという、一匹の黒猫に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ