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それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第4章 静かなる攻防
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星達のささやかな祝福

 リディアは、突然現れたジェシカとなぜか勝負をすることになった。ロキはそれに呆れつつも、一緒に騎士団寮へと帰っていた。


「あんな約束をしてよかったのか?」

「構わない。それに、なんかムカついた」


 リディアにしては珍しく感情を剥き出しにしている。だが、その表情はどこか楽しげにも見えた。


「まあいいが」


 リディアがそれでいいのなら、余計な口出しだろう。そう考えてロキは視線を外した。

 すっかり暗くなった空。本日は月が出てこないようで、星の輝きがとても眩しく感じられた。


「あっ」


 ふと、リディアが声を上げて立ち止まった。ロキも少し遅れて立ち止まり、リディアが向けている視線に合わせる。

 するとそこには、ニールの姿があった。


「何をしているんだろ?」


 ニールはとても疲れたような顔をして、ベンチに腰を下ろしている。ロキはリディアに顔を合わせ、頭を傾けた。

 そんなロキを見たリディアは、少し気になるのかニールのほうへと歩みだした。ロキはそんなリディアを追うようについていく。


「隊長」

「ん? ああ、リディアちゃんか。こんな時間に何をしているんだい?」

「これから帰るところ。隊長こそ何をしているの?」

「え? えっと、それはその……」


 歯切れが悪いニール。何か悪いことをしたかのように見えてしまう。

 リディアはそんなバツの悪い顔をするニールに、思わず頭を傾けてしまった。


「あー! 見つけましたよ!」


 聞き覚えのある声が、怒声として耳に入ってくる。振り返るとそこには、カンカンに怒っているフィローネの姿があった。

 ニールは思わず「ゲッ!」と声を上げる。すぐに逃げ出そうとするが、その寸前にフィローネが駆けた。


「今日という今日は食べてもらいますからね!」


 フィローネはそう叫ぶと、どこから出したかわからないかぎ縄を投げ放つ。遅れて動き出すニールだが、足にかぎ縄が絡みついてすっ転んでしまった。


「さあ、観念するのです!」

「い、嫌だ! あんなの食べたくない!」


 ズルズルと引き寄せられていくニール。状況を飲み込めていないリディアに「助けてっ」と情けなく叫んでいた。


「ああ、なるほどな」


 しかし、ロキだけは何となく察しがついていた。

 だからこそ、ニールに哀れみを送る。


「さあ、今日こそ私が作った極上で極楽になれるパスタを食べるのです!」

「やめてくれ! 自分で食事は作るから、もうやめてくれ!」

「嫌です! それじゃあ私が何のために、ニール様に仕えているかわからなくなります! さあ、食べて極楽浄土へ旅立つのです!」

「お前、やっぱり俺を殺す気か! 嫌だ、助けて! リディアちゃん助けてぇぇ!」


 連れて行かれたニール。リディアはキョトンとしながら、その姿を静かに見送った。


「まあ、あれだ。フィローネは料理が下手だと言っておこう」

「ふーん」


 いまいちピンと来ていないリディア。それは、ある意味幸せだと感じながらも、ロキは空を見上げた。

 懐かしい出来事。料理を作りたがるフィローネを、必死に止めるのにどれほど苦労したか覚えている。ライドや他の仲間達も、一緒になって止めてくれたこともあった。

 だが、それはもうない。ライドも、他の仲間達も死んでしまった。


「どうしたの?」

「どうもしてないさ」


 今までは目の前のことをこなすのに必死だった。だが、落ち着いた今、誰がライド達を襲ったのかとても気になる。

 一体何の目的で、どうしてあんなことをしたのか。その真相を知りたい。

 そして、できるならば――


「ロキ」


 リディアが声をかけた。目を向けると、そこには街灯の下に立って、ロキを見つめている。

 その姿は、どこか神々しさがあった。闇に包まれた世界で、一人ぼっちになってしまったロキを、その光はずっと見つめている。


「ホントに大丈夫?」


 ロキは、ほとんどを失った。残ったものはないと言える。

 だが、代わりに手に入れたものもあった。だからこそロキは、前を見る。


「ああ、大丈夫だ」


 後ろを見ても仕方がない。

 失ったものを数えても仕方がない。

 だからこそ前を見る。今あるものを数える。

 それが、ロキの大切なもので生きる意味にもなってくる。


「リディア」

「何?」

「貴様は、生きてくれよ」


 リディアはその言葉に、一瞬だけ何かを口に仕掛けた。だが、一度それを飲み込み、ニッコリと微笑んで答えた。


「死なないよ」


 どういう意味で放たれたのかはわからない。だが、ロキはその言葉に安心する。

 ゆっくりと歩んでいく一人と一匹。その姿を、星達が優しく照らしていた。


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