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それでも我輩は君に笑いかけよう  作者: 小日向 ななつ
第4章 静かなる攻防
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微笑ましい激突

 下された命令。それは、アルアにとって頭の痛いものだった。


「ここ一ヶ月、いやそれ以前からマギカドールの暴走が起きている。初めは単なる故障かと考えていたが、その可能性が低くなった」

「テテラ様、それはどうしてですか?」


 ギルバートが顎に手を添えて、訝しげに答える。すると国王は、重々しく言葉を口にした。


「貴族、いや国政に関わる者の中に犯人がいるかもしれんのだ」


 その言葉に、ギルバートは目を大きくする。

 だが、すぐに冷静さを取り戻したように、鋭い視線を国王に向けた。


「なるほど。それで私か」


 どこか納得したかのように言葉を零すギルバート。アルアはそんなギルバートを気にかけることなく、国王に一つ問いかけた。


「そっちの事情は何となくわかった。しかし、私はその事情には口出しできないぞ?」

「そなたには暴走した原因を突き止めて欲しい」

「どうして?」

「犯人が捕まった。だからもう二度と起きない。これだけでは民は納得しない。ゆえに暴走の原因を究明した上で、対策方法を考案・実行をして欲しい」


 つまり、模倣犯が現れてもいいように対策をしてほしい、ということ。

 アルアはそれを聞き、少し面倒臭そうな顔をした。


「完璧だと思っていたが」


 不満げに呟くアルア。それを聞いたギルバートが、鼻を鳴らして笑った。


「完璧なら、どうしてあんな戦争が起きただろうな」


 笑みに込められた皮肉。それにアルアは、つまらなさそうに舌打ちをした。


「それぞれ思うところがあるだろう。だが、これは国の一大事。一丸となって望んでもらいたい。頼むぞ」


 ギルバートはその言葉に、頭を下げた。

 アルアはとても嫌な顔をして、国王を睨みつけていた。


「暴走か」


 国王との謁見を終え、ギルバートと共に通路を進むアルアは言葉を零した。

 今まで起きたことがない事態。だからこそ、つい顔が曇ってしまう。


「そんなに予想外か?」


 ギルバートは前を向いたまま、アルアに問いかけた。アルアは少し睨みながら、「まあな」と言葉を返す。


「今まで起きたことがない。それが、知らない間にたくさん起こっていた。認知していないのは恐ろしいものだよ」

「人は、何もかも知っているなんてことはできない。できるならば、神になっていよう」

「確かにそうだ。だが、知らないということは罪にもなる。だからそれを考えると、とても悔しいんだよ」


 ギルバートはつまらなさそうに鼻を鳴らす。笑うことなく、真剣な目つきをして振り返っていた。


「それで、これから貴様は何をする気だ?」

「現物を見に行く。原因究明しようが、対策を講じようが、ものを見なきゃできないからな」

「そうか。なら私も行こう。私もやることがある。それに、共に行動したほうが貴様も都合がいいだろ?」


 アルアはその言葉に憎々しく微笑んだ。

 食えない存在。腹の奥底では何を考えているかわからないギルバートだが、共通の目的を持つ今はとても頼りがいがあった。


「では、利用させてもらおうか」


 ギルバートは静かに微笑む。その邪悪な笑顔は、とても心地がよかった。


「では、初めに破損したマギカドールでも見に行こうか」

「それから現場だな」


 二人はどう経緯を通るか計画を立てる。

 だが、そんな話し合いをしている最中に、大きな声が響いた。


「ギルバート様ぁー!」


 その幼さが残る声は、とても中性的に思えた。

 何気なく振り向くと、そこには手を振って駆けてくる子供がいた。

 揺れる少し長めの赤い髪。綺麗な大きな金色の瞳と、整った顔立ち。黒いローブと赤いシャツ、青いパンツといった姿でなければ、女の子と勘違いしてしまいそうな少年だった。


「お前、まだ帰ってなかったのか?」

「帰ってなかったって、待っていろってギルバート様が言っていたじゃないですか!」

「先に帰れとは言ったが?」

「そんなことないです! 待っていろって言ってました!」


 ギルバートはとてもウンザリとした表情を浮かべていた。しかし、少年はそんなこと気にすることなく、感情をぶつける。


「全く、自分が言ったことを覚えてないんですか! その若さで物忘れって、いくらなんでもひどいですよ!」

「だから言った覚えがないと言っているだろ? お前、勘違いしてないか?」

「してません! とぼけないでください!」


 とても面倒臭そうな顔をするギルバート。アルアはそんな顔をするギルバートに、若干の同情を抱いた。


「あれ、あなたは?」

「どうも、少しの間だけギルバートと行動を共にする者だ。名前はアルアという」

「あ、もしかしてマギカドールの開発者さんですか!? お会い出来て光栄です!」


 ニッコリと微笑むアルア。そんな笑顔をしたアルアの右手を、少年はガッチリと掴んだ。

 思いもしない対応に、少し驚いてしまう。しかし、少年はそんなアルアのことを全く気にしない。


「まさかお目にかかれるなんて! ああ、なんて幸せな日なんだ。これもラーダ様のおかげです!」


 目を輝かせ、天に祈るようにアルアを見つめる少年。アルアはそんな反応に、思わず苦笑いをしてしまう。


「おい、マウロ。困っているぞ」

「これは失礼しました! 私の自己紹介が遅れましたね」


 ギルバートはため息を吐いていた。アルアはそんなギルバートを見て、何となく心境を察してしまう。

 しかし、少年は全然気にする様子を見せない。それどころか、ズカズカと入り込んでいった。


「私の名前はマウロ。ギルバート侯爵の身の回りを世話する〈奴隷〉であります。どうぞ、お見知りおきを」


 アルアは、ただただ苦笑いを浮かべる。

 しかし、マウロはとても満足そうに微笑んでいた。


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